進境
恵の幼馴染のお名前は?
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ジュエリーショップでネックレスを選び、伏黒が会計を、と店員に声をかけたとほぼ同時に芙蓉は応対してくれた女性店員に声をかけられた。
何事かと思って返事をすると、その女性店員はレジから少し離れたところへ芙蓉を誘導していく。そして当たり障りの無い話を振られ、それに応えていると、その女性店員は不意に若いって良いわね、と笑った。
「え?」
「彼氏からのプレゼントなんでしょう?」
「え、えぇ、まぁ…」
「彼がお代を持ってくれると言う時は、金額を見ないようにするのもひとつの嗜みよ」
店員の誘導は伏黒への気遣いだったという事か、と理解した芙蓉は小さく頷いた。
「後でしっかりお礼を伝えるのを忘れないようにね。彼もきっと喜んでくれるはずよ」
店員のアドバイスに頷くと、伏黒から声がかかる。芙蓉は店員に丁寧に礼を述べ、伏黒と並んで店を出た。
「少し休むか」
コーヒーが飲みたいという伏黒に従い、駅近くのカフェでひと息つくことにした。
伏黒はコーヒーを、芙蓉はケーキセットをオーダーする。程なくして飲み物とケーキが運ばれてくる。
「…どうした?」
芙蓉はケーキに手を付けず、伏黒に高専入学の経緯をどう伝えようか、いつ伝えようかと考えていた。
「おい、芙蓉?大丈夫か?」
心配そうな顔で自身を見つめてくる伏黒に意識が向く。芙蓉は慌てて謝罪した。
「ごめんね、ちょっと…、考え事してて」
「…俺で良ければ話くらい聞くぞ」
曖昧に返事をして、少し考えて芙蓉は口を開く。
「…相談も連絡もしないで、いきなり高専に転入決めちゃって…、ごめんね」
少し驚いたような伏黒の表情に、芙蓉は少し唐突過ぎたかと後悔した。伏黒はコーヒーを飲んだ。
「…芙蓉にそうさせるくらいの出来事があったって事だろ?…気持ちの整理がついて、俺に話しても良いと思えた時にでも話してくれれば十分だ」
考えてる時に周りからなんだかんだ言われるのはウザいだろうからな、とも付け加える伏黒はしっかり芙蓉の気持ちを理解していたようで、芙蓉が今まで抱えていた不安とか心細さが全て溶けていくようだった。
「…恵さ、悟くんから何か聞いた?」
「いや。…必要ない事はペラペラ話してくるくせに、必要な事は何も言ってこない。こっちから聞いたところで揶揄われるのが目に見えてる」
あれはあれで結構ムカつくもんだと伏黒はまたコーヒーを飲んだ。必要な事は言わないー五条は芙蓉が高専に入る事を伏黒に伝えなかった。これは確かに困ったものだと、五条の悪癖を目の当たりにして、芙蓉は大事な事は自分の口で言わなくてはいけないと思った。ある程度の気持ちの整理はついている。
「…ねぇ恵、…少し、話しても、いい?」
芙蓉の中で、“自分の事を守れるのは自分しかいない”という言葉をくれた佐山の事がずっと頭から離れない。あの1件の後、芙蓉は登校する事なく高校を辞めてしまった。父方の家を尋ねていた事もあるが、どうしても佐山と顔を合わせる勇気が出なかったのだ。あの時、呪いに襲われたのは、自分が呪いと目を合わせてしまったからだと五条に伝えるも、芙蓉は何も悪くない、気に病む事はこれっぽっちもないと言われたが、五条の言葉は芙蓉の慰めにはならなかった。
「そうだな、俺も話がしたい。…場所を変えるか。少し人が多くなってきた」
伏黒の言葉に、芙蓉は半分くらい残っているケーキの片付けにペースを上げて取り掛かる。
「っあ、」
「…ケーキなんか久しぶりだな」
ケーキを突き刺したフォークを持った芙蓉の手を伏黒が捕まえ、彼はそのまま自身の口へと運ぶ。上品な甘さを十分に味わうとコーヒーをひと息に飲み干した。
「どうした?」
何でもない顔をしている伏黒に対し、芙蓉は首を振って赤らんだ顔を隠すように残ったケーキを頬張った。
カフェを出て、2人は駅近くの公園へ移動した。所々置いてあるベンチに座っている人は疎らだった。繁華街で何もない公園で過ごす理由がないという事だろう。近くに大きな神社があり、都心でありながら緑豊かなそこは喧騒から離れられる、落ち着いた場所。並んでベンチに座ると伏黒が改まったように口を開く。
「…高専に入学、おめでとう…って言うのも変だな。…進学おめでとう、の方が正しいか」
言葉と一緒に差し出された、ジュエリーショップのロゴが入った小さな紙袋。ありがとう、と笑顔で受け取る。
「…早速だけど、つけてみてもいい?」
伏黒が頷くのとほぼ同じタイミングで芙蓉は待ちきれない子供のように包みを解き、ジュエリーケースを開けて丁寧にネックレスを取り出す。
「…つけてやろうか」
嬉しいやら恥ずかしいやらーそれでも芙蓉は断る言葉を口にするはずもなく伏黒にネックレスを渡し、背を向け俯いた。伏黒の腕が背後から芙蓉を包み込むように伸びてきて、ネックレスを首元に回し、ややぎこちない手つきで留め具にプレートを通す。
「ありがとう恵。…このネックレスは一生大事にする」
「大袈裟だな」
そう笑うと伏黒も先程の芙蓉と同じように包みを解いてケースを開け、ネックレスを取り出す。
「今度は私がつけてあげる」
それぞれの胸元を飾る、お揃いのネックレスが2人の再会を祝うように輝いていた。
何事かと思って返事をすると、その女性店員はレジから少し離れたところへ芙蓉を誘導していく。そして当たり障りの無い話を振られ、それに応えていると、その女性店員は不意に若いって良いわね、と笑った。
「え?」
「彼氏からのプレゼントなんでしょう?」
「え、えぇ、まぁ…」
「彼がお代を持ってくれると言う時は、金額を見ないようにするのもひとつの嗜みよ」
店員の誘導は伏黒への気遣いだったという事か、と理解した芙蓉は小さく頷いた。
「後でしっかりお礼を伝えるのを忘れないようにね。彼もきっと喜んでくれるはずよ」
店員のアドバイスに頷くと、伏黒から声がかかる。芙蓉は店員に丁寧に礼を述べ、伏黒と並んで店を出た。
「少し休むか」
コーヒーが飲みたいという伏黒に従い、駅近くのカフェでひと息つくことにした。
伏黒はコーヒーを、芙蓉はケーキセットをオーダーする。程なくして飲み物とケーキが運ばれてくる。
「…どうした?」
芙蓉はケーキに手を付けず、伏黒に高専入学の経緯をどう伝えようか、いつ伝えようかと考えていた。
「おい、芙蓉?大丈夫か?」
心配そうな顔で自身を見つめてくる伏黒に意識が向く。芙蓉は慌てて謝罪した。
「ごめんね、ちょっと…、考え事してて」
「…俺で良ければ話くらい聞くぞ」
曖昧に返事をして、少し考えて芙蓉は口を開く。
「…相談も連絡もしないで、いきなり高専に転入決めちゃって…、ごめんね」
少し驚いたような伏黒の表情に、芙蓉は少し唐突過ぎたかと後悔した。伏黒はコーヒーを飲んだ。
「…芙蓉にそうさせるくらいの出来事があったって事だろ?…気持ちの整理がついて、俺に話しても良いと思えた時にでも話してくれれば十分だ」
考えてる時に周りからなんだかんだ言われるのはウザいだろうからな、とも付け加える伏黒はしっかり芙蓉の気持ちを理解していたようで、芙蓉が今まで抱えていた不安とか心細さが全て溶けていくようだった。
「…恵さ、悟くんから何か聞いた?」
「いや。…必要ない事はペラペラ話してくるくせに、必要な事は何も言ってこない。こっちから聞いたところで揶揄われるのが目に見えてる」
あれはあれで結構ムカつくもんだと伏黒はまたコーヒーを飲んだ。必要な事は言わないー五条は芙蓉が高専に入る事を伏黒に伝えなかった。これは確かに困ったものだと、五条の悪癖を目の当たりにして、芙蓉は大事な事は自分の口で言わなくてはいけないと思った。ある程度の気持ちの整理はついている。
「…ねぇ恵、…少し、話しても、いい?」
芙蓉の中で、“自分の事を守れるのは自分しかいない”という言葉をくれた佐山の事がずっと頭から離れない。あの1件の後、芙蓉は登校する事なく高校を辞めてしまった。父方の家を尋ねていた事もあるが、どうしても佐山と顔を合わせる勇気が出なかったのだ。あの時、呪いに襲われたのは、自分が呪いと目を合わせてしまったからだと五条に伝えるも、芙蓉は何も悪くない、気に病む事はこれっぽっちもないと言われたが、五条の言葉は芙蓉の慰めにはならなかった。
「そうだな、俺も話がしたい。…場所を変えるか。少し人が多くなってきた」
伏黒の言葉に、芙蓉は半分くらい残っているケーキの片付けにペースを上げて取り掛かる。
「っあ、」
「…ケーキなんか久しぶりだな」
ケーキを突き刺したフォークを持った芙蓉の手を伏黒が捕まえ、彼はそのまま自身の口へと運ぶ。上品な甘さを十分に味わうとコーヒーをひと息に飲み干した。
「どうした?」
何でもない顔をしている伏黒に対し、芙蓉は首を振って赤らんだ顔を隠すように残ったケーキを頬張った。
カフェを出て、2人は駅近くの公園へ移動した。所々置いてあるベンチに座っている人は疎らだった。繁華街で何もない公園で過ごす理由がないという事だろう。近くに大きな神社があり、都心でありながら緑豊かなそこは喧騒から離れられる、落ち着いた場所。並んでベンチに座ると伏黒が改まったように口を開く。
「…高専に入学、おめでとう…って言うのも変だな。…進学おめでとう、の方が正しいか」
言葉と一緒に差し出された、ジュエリーショップのロゴが入った小さな紙袋。ありがとう、と笑顔で受け取る。
「…早速だけど、つけてみてもいい?」
伏黒が頷くのとほぼ同じタイミングで芙蓉は待ちきれない子供のように包みを解き、ジュエリーケースを開けて丁寧にネックレスを取り出す。
「…つけてやろうか」
嬉しいやら恥ずかしいやらーそれでも芙蓉は断る言葉を口にするはずもなく伏黒にネックレスを渡し、背を向け俯いた。伏黒の腕が背後から芙蓉を包み込むように伸びてきて、ネックレスを首元に回し、ややぎこちない手つきで留め具にプレートを通す。
「ありがとう恵。…このネックレスは一生大事にする」
「大袈裟だな」
そう笑うと伏黒も先程の芙蓉と同じように包みを解いてケースを開け、ネックレスを取り出す。
「今度は私がつけてあげる」
それぞれの胸元を飾る、お揃いのネックレスが2人の再会を祝うように輝いていた。