進境
恵の幼馴染のお名前は?
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ネックレスを撫でては眺める芙蓉を見て、伏黒は喜んでもらえて良かったと、そしてペアの物など初めてだったが、これも買って良かったと思った。アクセサリーをつける習慣などなかったが、せめて芙蓉と出かける時は必ずつけるようにしようと決めた。
「恵、…あの、ね」
ネックレスを撫でていた手を止め、芙蓉は意を決したように隣に座る伏黒を見上げて口を開く。
「…私、ね。…高専に入る前、…呪霊に襲われたの。…先月末に、埼玉の駅前でガスの爆発事故があった、ってニュース…、知らない?」
「…まさか、」
地元の近くで起きたそのニュースは新聞で見たのを記憶している。ケガ人が多く出たらしいが、死者はいなかったのは不幸中の幸いだと思った事も。
「…あれは表向きの話ね、って悟くんが教えてくれたの。…あの時、高校で新しく出来た友達と買い物に行ってて…、そろそろ帰ろうかって、駅に向かってた時に」
芙蓉は自身の肩をかき抱いた。あの時呪霊から感じられた禍々しい気配が、恐怖が、再び身体の芯からじわじわと侵食してくるようだった。
「…芙蓉が無事で本当に良かった」
伏黒は芙蓉の肩を抱くようにして自身の方へを彼女を引き寄せた。公園とはいえ人の往来のある公共の場所で、手を繋ぐ事はあっても抱き寄せるような事をするなんてー思いがけない伏黒の行動に芙蓉は酷く慌て、ここ外、と言いかけたその口は一瞬、伏黒の口で塞がれた。
「……」
伏黒の行動に対して本当に何も言えなくなった芙蓉は、文句や抗議のひとつくらい言ってやりたい気分だったが、中学を卒業してから今までずっと自身の身を案じてくれていたのだろう伏黒の気持ちが伝わってきて、ひとまず自身の気持ちを飲み込む事にした。
「恵…、ちょっと、恥ずかしい、かな」
自身を包み支えるように身体に回ったままの、逞しい腕。決して嫌では無いのだが、やはり周りの目が気になるー見ている人が本当にいるかは別として。
「…悪ぃ」
芙蓉の言葉に従って彼女を解放するも、今度は彼女の手を握る伏黒。子供みたい、と微笑ましく思えた。
「大丈夫だよ」
芙蓉は伏黒の手を握り返す。懐かしい体温に、鼓動が少し早まった気がした。
「…私は呪いが見えるから、なんとか身を守る事は出来たんだけど、友達が…、ケガしちゃって。…それで…呪いに襲われそうになった時に、呪いを祓ってくれた術師がいて、助けられたの」
「誰かわかるか?」
「ううん…、名前聞くとか、そこまで頭回らなくて」
「そうか、…そうだよな」
手を繋いだまま、2人は暫く黙っていた。
「…いろいろ、心配かけちゃうと思うけど…、私も、術師になろうって。私を助けてくれた術師さんに対しての、恩返しになるかもしれないし」
そう言う芙蓉の顔からは凛とした美しさが感じられた。一度は入学しないと決めていた高専に転入してきた芙蓉。強い覚悟を持って決めたのだろう事は伏黒にもひしと感じられた。
「…そうは言っても、やっていけるか不安はいっぱいあるけど、ね」
伏黒と違い、芙蓉が自分の持つ術式を認識したのはここ1年程度の話であるに加え、術式をコントロールするような鍛錬も受けていない。高専に来てやっと鍛錬を始める彼女が伏黒と肩を並べて呪術師としてやっていくのは相当の努力が必要なのは至極当然の事と言えた。
「…無理だけはしないでくれ」
伏黒はそれだけを言うに留めた。本当は言いたい事が山ほどあるが、今の自分では感情的になってしまいそうな気がしていた。少なくとも今の自分は久しぶりに芙蓉と過ごす事が出来て、感情優位になっている自覚があるからだーたった3カ月会えなかっただけじゃないかと言われるかもしれないが。
「…出来る事なら、芙蓉には呪術師なんて危険な事はして欲しくない。…芙蓉に術式が無ければ良かったのにと思う事もある。…まぁ、それを言ったら芙蓉と出会う事もなかったかもしれねぇから…、もう何が正しいかわかんねぇけど」
伏黒はもう自分で何を言っているのか、感情が勝手に口を動かしているような感覚だった。少しずつ芙蓉の表情が曇っていく。そんな事を言いたいんじゃない、芙蓉を否定するような事は絶対に駄目だー頭の奥の方へ追いやられかけている理性が騒ぎ立てている。
「…恵、」
今までに聞いた事はなかったんじゃないかというくらいに哀しげで切ない、自分を呼ぶ声。頭の奥が冷える感覚がして、伏黒の口は止まった。芙蓉を見れば、目元に光る雫が浮かんでいるのがわかった。伏黒は自身に悪態をついて芙蓉の涙を拭った。
「…悪ぃ。そんな顔をさせるつもりはなかった。…ただ、心配なんだ。芙蓉に何かあったらって思うと、」
伏黒の脳裏に津美紀の顔が浮かぶ。自分にとっての大切な人をどれだけ守りたいと強く願っていても、その願いが叶わない事は嫌という程に思い知らされた。
「…だから、私は呪術師になるの」
少しだけ潤んだ目が伏黒を見つめていた。
「恵が津美紀ちゃんの事で辛い思いをしたのはわかってる。だから私も呪術師になって、恵を支えたい」
伏黒が僅かに驚いた様子を見せれば、そんな伏黒を見た芙蓉は照れたように笑った。
「…まだまだ術式もまともに扱えないけど…、きっと、私にしか出来ない事があると思うから。そう信じたいの。…ほら、一応私は反転術式だって出来るし…、他の術師さんを助けられるかもしれない」
もう、呪霊に怯えて泣くだけの女の子じゃないと言う事かー伏黒はそう思った。
「恵、…あの、ね」
ネックレスを撫でていた手を止め、芙蓉は意を決したように隣に座る伏黒を見上げて口を開く。
「…私、ね。…高専に入る前、…呪霊に襲われたの。…先月末に、埼玉の駅前でガスの爆発事故があった、ってニュース…、知らない?」
「…まさか、」
地元の近くで起きたそのニュースは新聞で見たのを記憶している。ケガ人が多く出たらしいが、死者はいなかったのは不幸中の幸いだと思った事も。
「…あれは表向きの話ね、って悟くんが教えてくれたの。…あの時、高校で新しく出来た友達と買い物に行ってて…、そろそろ帰ろうかって、駅に向かってた時に」
芙蓉は自身の肩をかき抱いた。あの時呪霊から感じられた禍々しい気配が、恐怖が、再び身体の芯からじわじわと侵食してくるようだった。
「…芙蓉が無事で本当に良かった」
伏黒は芙蓉の肩を抱くようにして自身の方へを彼女を引き寄せた。公園とはいえ人の往来のある公共の場所で、手を繋ぐ事はあっても抱き寄せるような事をするなんてー思いがけない伏黒の行動に芙蓉は酷く慌て、ここ外、と言いかけたその口は一瞬、伏黒の口で塞がれた。
「……」
伏黒の行動に対して本当に何も言えなくなった芙蓉は、文句や抗議のひとつくらい言ってやりたい気分だったが、中学を卒業してから今までずっと自身の身を案じてくれていたのだろう伏黒の気持ちが伝わってきて、ひとまず自身の気持ちを飲み込む事にした。
「恵…、ちょっと、恥ずかしい、かな」
自身を包み支えるように身体に回ったままの、逞しい腕。決して嫌では無いのだが、やはり周りの目が気になるー見ている人が本当にいるかは別として。
「…悪ぃ」
芙蓉の言葉に従って彼女を解放するも、今度は彼女の手を握る伏黒。子供みたい、と微笑ましく思えた。
「大丈夫だよ」
芙蓉は伏黒の手を握り返す。懐かしい体温に、鼓動が少し早まった気がした。
「…私は呪いが見えるから、なんとか身を守る事は出来たんだけど、友達が…、ケガしちゃって。…それで…呪いに襲われそうになった時に、呪いを祓ってくれた術師がいて、助けられたの」
「誰かわかるか?」
「ううん…、名前聞くとか、そこまで頭回らなくて」
「そうか、…そうだよな」
手を繋いだまま、2人は暫く黙っていた。
「…いろいろ、心配かけちゃうと思うけど…、私も、術師になろうって。私を助けてくれた術師さんに対しての、恩返しになるかもしれないし」
そう言う芙蓉の顔からは凛とした美しさが感じられた。一度は入学しないと決めていた高専に転入してきた芙蓉。強い覚悟を持って決めたのだろう事は伏黒にもひしと感じられた。
「…そうは言っても、やっていけるか不安はいっぱいあるけど、ね」
伏黒と違い、芙蓉が自分の持つ術式を認識したのはここ1年程度の話であるに加え、術式をコントロールするような鍛錬も受けていない。高専に来てやっと鍛錬を始める彼女が伏黒と肩を並べて呪術師としてやっていくのは相当の努力が必要なのは至極当然の事と言えた。
「…無理だけはしないでくれ」
伏黒はそれだけを言うに留めた。本当は言いたい事が山ほどあるが、今の自分では感情的になってしまいそうな気がしていた。少なくとも今の自分は久しぶりに芙蓉と過ごす事が出来て、感情優位になっている自覚があるからだーたった3カ月会えなかっただけじゃないかと言われるかもしれないが。
「…出来る事なら、芙蓉には呪術師なんて危険な事はして欲しくない。…芙蓉に術式が無ければ良かったのにと思う事もある。…まぁ、それを言ったら芙蓉と出会う事もなかったかもしれねぇから…、もう何が正しいかわかんねぇけど」
伏黒はもう自分で何を言っているのか、感情が勝手に口を動かしているような感覚だった。少しずつ芙蓉の表情が曇っていく。そんな事を言いたいんじゃない、芙蓉を否定するような事は絶対に駄目だー頭の奥の方へ追いやられかけている理性が騒ぎ立てている。
「…恵、」
今までに聞いた事はなかったんじゃないかというくらいに哀しげで切ない、自分を呼ぶ声。頭の奥が冷える感覚がして、伏黒の口は止まった。芙蓉を見れば、目元に光る雫が浮かんでいるのがわかった。伏黒は自身に悪態をついて芙蓉の涙を拭った。
「…悪ぃ。そんな顔をさせるつもりはなかった。…ただ、心配なんだ。芙蓉に何かあったらって思うと、」
伏黒の脳裏に津美紀の顔が浮かぶ。自分にとっての大切な人をどれだけ守りたいと強く願っていても、その願いが叶わない事は嫌という程に思い知らされた。
「…だから、私は呪術師になるの」
少しだけ潤んだ目が伏黒を見つめていた。
「恵が津美紀ちゃんの事で辛い思いをしたのはわかってる。だから私も呪術師になって、恵を支えたい」
伏黒が僅かに驚いた様子を見せれば、そんな伏黒を見た芙蓉は照れたように笑った。
「…まだまだ術式もまともに扱えないけど…、きっと、私にしか出来ない事があると思うから。そう信じたいの。…ほら、一応私は反転術式だって出来るし…、他の術師さんを助けられるかもしれない」
もう、呪霊に怯えて泣くだけの女の子じゃないと言う事かー伏黒はそう思った。