進境
恵の幼馴染のお名前は?
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コンビニで買い物をして店を出た伏黒は渡されたレシートを何の気無しに眺めた。と、印字された時刻が目に入り、思っていたよりも随分と時間が経っていた事に気が付いた。手には自分の分と、芙蓉に差し入れる分と、袋が2つ。芙蓉の分にはアイスクリームが入っている。早く戻らないとアイスクリームが溶けてしまうーそんな事はわかりきっているのにアイスクリームを買った伏黒。喉越しが良く、栄養価も悪くない為、風邪を引いた時などに食べるのも良いと聞いた事があった。アイスクリームなら食欲が無くても食べられるだろうと、そして何より、芙蓉が喜ぶだろう顔を思い浮かべてつい買ってしまったのだ。それもちょっと高級なやつ。
早めに高専へ戻るにはタクシーを捕まえるのが手っ取り早いかと思うが、こんな繁華街から離れたところで流しているタクシーなどいるはずもない。
「…鵺」
伏黒は自分の持つ術式を祓除以外に使うなんてあり得ない、と思っていたのだが、背に腹は変えられぬー伏黒は文字通り、ひと息に飛んだ。高専近くで術式を解き、長い石段を登りながらスマホを取り出してメッセージアプリを開く。と、そこで先程の、芙蓉からのメッセージに返信していなかった事に気付くが、もうどうしようもない。とりあえず芙蓉へ、寮の共用スペースまで出てくるようにメッセージを送る。スマホをポケットに押し込み、足早に寮を目指す。歩きながら、さっきは返信が早かったのに、と反応のないスマホが気になって再びアプリを開く。メッセージを読んでいないー仕方なく今度は電話をかけ、無機質な呼び出し音を聞きながら歩いて行く。そのまま寮へ辿り着いていた。
高専の寮は1階が男子、2階が女子となっている。女子生徒へのセキュリティはどうなのかというところもあるが、学生の人数が少ない事もあって、万が一何かあればすぐに犯人が特定出来るし、女子生徒も鍛錬を積んでいるから大丈夫だろうという事らしい。入学した時にその説明を聞いた伏黒は本当にそんなんで良いのかと疑問を持ったが、先輩達の様子からとにかく信頼関係が半端ないという事に気が付いた。祓除の任務は学生とはいえ命懸けで挑まなくてはならない。互いに信頼していなければ命に関わる事は明白だし、そこに男だから女だからというのは何の意味も持たない。そんな信頼関係を自ら壊すような馬鹿は高専にいないということなのだろう。
伏黒は2階のフロアに足を踏み入れていた。奥へ続く通路を見ても、何かが動くような気配はない。
伏黒は一度電話を切り、ため息をついた。部屋の場所がわかれば直接尋ねるのだが、生憎芙蓉は越してきたばかりで部屋がわからない。釘崎に連絡して聞くのもアリかという考えが過るが、なんだか面倒になりそうで却下した。仕方ないーダメ元で伏黒はもう一度電話をかけた。
ふわふわと身体が浮くような感覚。感覚があるのに、身体が上手く動かない。ぼんやりとした意識を鷲掴みするように、耳障りな電子音が鳴り響いている。思い切って目を開けると、視界の端に暗闇を照らす光が見える。光の方へ顔を向ければ、スマホが騒がしく着信を知らせていた。反射的に芙蓉は勢いよく起き上がり、スマホを手に取って表示を見る。液晶から発せられる、目を刺すくらいの強い光に目を細めながら、画面に“恵”とだけ表示されているのを見て通話を繋いだ。
「…もしもし…?」
『悪いな、寝てたか?』
「…ん…」
徐々に覚醒していく頭で返事をする。今何時だろう、喉が渇いたなーそう思っていると、電話の向こうで伏黒が通路へ顔を出すように言っている。その言葉に従い、芙蓉はゆっくりとベッドから降りた。手櫛で髪を整え、スマホを耳に当てたままドアを開ける。通路を照らす光に目を細めながらも通路に顔を出し、左右を見るーと、伏黒の姿が目に入った。伏黒も芙蓉の姿を認め、安堵したようにふっと息を吐いた。通話を切り、小動物のように辺りを見回す彼女の元へ歩み寄る。
「…どうしたの?」
欠伸を噛み殺したのだろうか、芙蓉の目尻にうっすらと涙の粒が浮かんでいるのを見て伏黒は小さく笑った。彼女が今日1日、必死に実技に取り組んでいたのを見れば仕方ないと言えた。芙蓉の様子を見ていて、あんなメニューはやりたくないと思った程だった。
伏黒は2つ持っていた袋の1つを差し出した。袋を受け取った芙蓉は中を覗き、伏黒を見上げる。
「何かしら食わねぇと体力つかねぇぞ」
口元に笑みを浮かべる伏黒ー芙蓉は大好きなその表情を見て、胸がときめくのを感じた。
「お茶でも飲んでく?」
すっかり目が覚めた芙蓉はドアを大きく開け、身体を開いて奥へ促すような姿勢を見せる。
「芙蓉と顔を合わせるのも久しぶりだからな、そうしたいところだが、明日は早くから任務でそろそろ寝るつもりだ。…それより、部屋の片付けは大丈夫なのか?」
伏黒は部屋の奥に積み上げられたダンボールを示した。入り口からはよく見えないが、奥にも数がありそうだ。
「ん…、今度のお休みにでも始めようかなって」
この日は木曜日。授業は普通高校と同様に、基本的に土日は休み、任務が無ければ終日フリーだ。
「そうか。今のところ空いてるから手伝うぞ」
「え、いいの?」
「俺も十分手を借りたんだ、それくらいさせろ」
「ありがとう!じゃあ明後日お願いします」
あ、あと買い物にも行きたいの、と笑う芙蓉に伏黒は頷いてみせた。と、伏黒はそろそろ行くな、それ食ってから寝ろよと芙蓉に背を向ける。
「恵、ありがとう」
「あぁ」
おやすみ、という芙蓉に返事をして、伏黒は自室へ向かった。芙蓉は彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってからドアを閉めた。
部屋の照明を点け、芙蓉は上機嫌で袋の中をテーブルに広げるーゼリー飲料、栄養補助クッキー、スポーツドリンク、お茶、アイスクリーム。1回では食べ切れない量が入っていて、芙蓉は小さく笑った。
「…覚えててくれたんだ」
勉強や部活をがんばった時の、自分へのご褒美としていたアイスクリームのカップを手に、芙蓉は笑みを浮かべた。自然と頬が緩むのは、好物を目の前にしているからか、伏黒の気遣いを嬉しく思うからか。芙蓉はいただきます、と呟き、程よく溶けて食べ頃になっているアイスクリームへスプーンを滑らせた。
早めに高専へ戻るにはタクシーを捕まえるのが手っ取り早いかと思うが、こんな繁華街から離れたところで流しているタクシーなどいるはずもない。
「…鵺」
伏黒は自分の持つ術式を祓除以外に使うなんてあり得ない、と思っていたのだが、背に腹は変えられぬー伏黒は文字通り、ひと息に飛んだ。高専近くで術式を解き、長い石段を登りながらスマホを取り出してメッセージアプリを開く。と、そこで先程の、芙蓉からのメッセージに返信していなかった事に気付くが、もうどうしようもない。とりあえず芙蓉へ、寮の共用スペースまで出てくるようにメッセージを送る。スマホをポケットに押し込み、足早に寮を目指す。歩きながら、さっきは返信が早かったのに、と反応のないスマホが気になって再びアプリを開く。メッセージを読んでいないー仕方なく今度は電話をかけ、無機質な呼び出し音を聞きながら歩いて行く。そのまま寮へ辿り着いていた。
高専の寮は1階が男子、2階が女子となっている。女子生徒へのセキュリティはどうなのかというところもあるが、学生の人数が少ない事もあって、万が一何かあればすぐに犯人が特定出来るし、女子生徒も鍛錬を積んでいるから大丈夫だろうという事らしい。入学した時にその説明を聞いた伏黒は本当にそんなんで良いのかと疑問を持ったが、先輩達の様子からとにかく信頼関係が半端ないという事に気が付いた。祓除の任務は学生とはいえ命懸けで挑まなくてはならない。互いに信頼していなければ命に関わる事は明白だし、そこに男だから女だからというのは何の意味も持たない。そんな信頼関係を自ら壊すような馬鹿は高専にいないということなのだろう。
伏黒は2階のフロアに足を踏み入れていた。奥へ続く通路を見ても、何かが動くような気配はない。
伏黒は一度電話を切り、ため息をついた。部屋の場所がわかれば直接尋ねるのだが、生憎芙蓉は越してきたばかりで部屋がわからない。釘崎に連絡して聞くのもアリかという考えが過るが、なんだか面倒になりそうで却下した。仕方ないーダメ元で伏黒はもう一度電話をかけた。
ふわふわと身体が浮くような感覚。感覚があるのに、身体が上手く動かない。ぼんやりとした意識を鷲掴みするように、耳障りな電子音が鳴り響いている。思い切って目を開けると、視界の端に暗闇を照らす光が見える。光の方へ顔を向ければ、スマホが騒がしく着信を知らせていた。反射的に芙蓉は勢いよく起き上がり、スマホを手に取って表示を見る。液晶から発せられる、目を刺すくらいの強い光に目を細めながら、画面に“恵”とだけ表示されているのを見て通話を繋いだ。
「…もしもし…?」
『悪いな、寝てたか?』
「…ん…」
徐々に覚醒していく頭で返事をする。今何時だろう、喉が渇いたなーそう思っていると、電話の向こうで伏黒が通路へ顔を出すように言っている。その言葉に従い、芙蓉はゆっくりとベッドから降りた。手櫛で髪を整え、スマホを耳に当てたままドアを開ける。通路を照らす光に目を細めながらも通路に顔を出し、左右を見るーと、伏黒の姿が目に入った。伏黒も芙蓉の姿を認め、安堵したようにふっと息を吐いた。通話を切り、小動物のように辺りを見回す彼女の元へ歩み寄る。
「…どうしたの?」
欠伸を噛み殺したのだろうか、芙蓉の目尻にうっすらと涙の粒が浮かんでいるのを見て伏黒は小さく笑った。彼女が今日1日、必死に実技に取り組んでいたのを見れば仕方ないと言えた。芙蓉の様子を見ていて、あんなメニューはやりたくないと思った程だった。
伏黒は2つ持っていた袋の1つを差し出した。袋を受け取った芙蓉は中を覗き、伏黒を見上げる。
「何かしら食わねぇと体力つかねぇぞ」
口元に笑みを浮かべる伏黒ー芙蓉は大好きなその表情を見て、胸がときめくのを感じた。
「お茶でも飲んでく?」
すっかり目が覚めた芙蓉はドアを大きく開け、身体を開いて奥へ促すような姿勢を見せる。
「芙蓉と顔を合わせるのも久しぶりだからな、そうしたいところだが、明日は早くから任務でそろそろ寝るつもりだ。…それより、部屋の片付けは大丈夫なのか?」
伏黒は部屋の奥に積み上げられたダンボールを示した。入り口からはよく見えないが、奥にも数がありそうだ。
「ん…、今度のお休みにでも始めようかなって」
この日は木曜日。授業は普通高校と同様に、基本的に土日は休み、任務が無ければ終日フリーだ。
「そうか。今のところ空いてるから手伝うぞ」
「え、いいの?」
「俺も十分手を借りたんだ、それくらいさせろ」
「ありがとう!じゃあ明後日お願いします」
あ、あと買い物にも行きたいの、と笑う芙蓉に伏黒は頷いてみせた。と、伏黒はそろそろ行くな、それ食ってから寝ろよと芙蓉に背を向ける。
「恵、ありがとう」
「あぁ」
おやすみ、という芙蓉に返事をして、伏黒は自室へ向かった。芙蓉は彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってからドアを閉めた。
部屋の照明を点け、芙蓉は上機嫌で袋の中をテーブルに広げるーゼリー飲料、栄養補助クッキー、スポーツドリンク、お茶、アイスクリーム。1回では食べ切れない量が入っていて、芙蓉は小さく笑った。
「…覚えててくれたんだ」
勉強や部活をがんばった時の、自分へのご褒美としていたアイスクリームのカップを手に、芙蓉は笑みを浮かべた。自然と頬が緩むのは、好物を目の前にしているからか、伏黒の気遣いを嬉しく思うからか。芙蓉はいただきます、と呟き、程よく溶けて食べ頃になっているアイスクリームへスプーンを滑らせた。