進境
恵の幼馴染のお名前は?
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「…疲れた…」
薄暗い部屋でこぼされた、か細い声。高専の寮の一室、荷解きされるのを待っているダンボール達は部屋の隅に積み上げられ、まだラグも敷かれていない、フローリングの空いたスペースに倒れ込んだ芙蓉が呟いたものだ。
高専へ入学した初日からこんなにも疲労困憊で、翌日からやって行けるのだろうかと、冷たいフローリングに頬を押し付けたままぼんやりと考えていた。
担任となる五条に従い、教室でクラスメイトへの挨拶の後、外での実技に参加した。自信があるわけではないが、中学で3年間バスケをやってきたし、体力・運動能力は人並みより少しくらいは上回っているだろうと思っていたが、見事にその気持ちはへし折られた。
持っている術式を安定して思い通りに発動出来るようにしようね、という五条の指示で、芙蓉は高専の学長の術式で動く人形ー呪骸、というらしいーを相手に鍛錬をする事になった。五条から渡された呪骸に向けて術式を発動させるのだが、芙蓉はまだ自身の意思で思い通りに術式を扱えるに至っていない。それを伝えてみても、五条はとりあえずやってみてよの一点張り。仕方なく芙蓉が呪骸を相手に向き合ったところ、この呪骸は攻撃してくるという事が判明した。マーキングした呪力の増幅を察知すると、そのマーキングした呪力の持ち主ーここでは芙蓉ーを攻撃するようにプログラムされているようで、芙蓉が術式を意識して呪力を高めると殴り掛かってくる、という仕組みになっている。
術式を使うには集中力が必要で、術式で対応出来ない、或いは術式を使う事に集中し過ぎていると殴られる確率が跳ね上がるという事だ。術式が使いこなせていない芙蓉にとっては理不尽極まりない鍛錬。術式発動の為の呪力と、呪骸の攻撃から逃げる為の体力をすり減らされ、顔や身体にはあちこち打撲という結果の1日だった。
暫くフローリングで横たわっていたが、せめて汚れや汗は洗い流しておこうと思い、残った力を振り絞ってゆっくりと起き上がった。
部屋の灯りも点けず、のろのろと部屋の隅に置いた旅行バッグから着替え一式を引っ張り出して室内のシャワールームへ向かった。動くのは億劫だったが、シャワーを浴びれば疲労感はあるものの、気分はとてもスッキリした。そしてそのまま、また少し休もうとベッドへ倒れ込めば、心地良い眠気に引き込まれそうになっていく。そのまま身を任せてしまおうかというところで、枕元に放ってあったスマホが鳴った。微睡みを邪魔され、些か不機嫌のままスマホを手に取れば、メッセージアプリに1件の通知。アプリを開けば伏黒からだった。
『飯食ったか?』
彼らしい、端的で無駄のない文章。それを見て初めて時刻に目を向けるー19時を過ぎていた。授業が全部終わったのは15時半を過ぎていたと思う。その後みんなで共有スペースで少し話をして、疲れたから休みたい、と部屋に戻ったのは何時だったか。外が暗くなってきている事はわかっていたが、こんなにも時間が経っていた事に驚きつつ、芙蓉はメッセージを返す。
『食べてない。ていうか食欲ない』
倒れ込むウサギのキャラクターを文章に併せて送れば、すぐに既読がつく。何かしらリアクションがあるのだろうと暫く待ってみるも、何も反応がない。
「…何よもぅ」
芙蓉はそのままスマホを放り出し、ブランケットを手繰り寄せて包まり、眠気に誘われるまま眠りについた。
伏黒は翌朝早くに任務に出る予定があり、高専最寄りのコンビニに買い物に来ていた。朝食にとサンドイッチや飲み物をカゴに放り込む。と、そこで今日高専に来たばかりの幼馴染の顔が浮かんだー恐らく食事に関して何も準備していない、食堂の利用についての説明も受けていないような気がした。買い物に来ているついでだとメッセージアプリを開き、食事を済ませたか連絡をすればすぐに返信が来た。
『食べてない。ていうか食欲ない』
やっぱり。さてどうしたものかー。伏黒は改めて惣菜の並ぶコーナーを見回した。弁当、パスタ、うどん、蕎麦、ラーメン。更に隣の棚にはおにぎりやサラダ、サンドイッチ。その奥には酒のツマミのような物が並ぶ。
食欲がないという人間に食べさせるものは何が良いだろうかーアレコレ考えていて、先程のメッセージに返信する事はすっかり伏黒の頭から抜け落ちていた。
何かいい物はないかと店内を回る。レトルト食品のコーナーにはお粥や雑炊のパウチが並んでいるが、病人というわけではないし、温めないといけない。再び惣菜の並ぶコーナーに戻ってきて考える。先程見たコーナーの反対側には惣菜パン、ドーナツ、食パンが並んでいる。これも違う。そのまま視線をスライドさせれば、栄養機能の充実したクッキーやゼリーが目に入るーこれだ、これなら手早く簡単に食べられる。伏黒は手近なものから引っ掴んでポイポイカゴに放り込む。パウチゼリーからデザートを連想した伏黒はスイーツコーナーへ向かう。自分にはあまり縁がないと思っていた売り場で、色彩豊かなスイーツが行儀良く並んでいるのを見つめる。芙蓉がこうした甘い物が好きなのは知っているが、種類があって決めかねる。伏黒は重みを増したカゴを一瞥し、これで良いかとレジへ向かおうとすると、アイスクリームの並んだ冷凍庫が目に入った。
薄暗い部屋でこぼされた、か細い声。高専の寮の一室、荷解きされるのを待っているダンボール達は部屋の隅に積み上げられ、まだラグも敷かれていない、フローリングの空いたスペースに倒れ込んだ芙蓉が呟いたものだ。
高専へ入学した初日からこんなにも疲労困憊で、翌日からやって行けるのだろうかと、冷たいフローリングに頬を押し付けたままぼんやりと考えていた。
担任となる五条に従い、教室でクラスメイトへの挨拶の後、外での実技に参加した。自信があるわけではないが、中学で3年間バスケをやってきたし、体力・運動能力は人並みより少しくらいは上回っているだろうと思っていたが、見事にその気持ちはへし折られた。
持っている術式を安定して思い通りに発動出来るようにしようね、という五条の指示で、芙蓉は高専の学長の術式で動く人形ー呪骸、というらしいーを相手に鍛錬をする事になった。五条から渡された呪骸に向けて術式を発動させるのだが、芙蓉はまだ自身の意思で思い通りに術式を扱えるに至っていない。それを伝えてみても、五条はとりあえずやってみてよの一点張り。仕方なく芙蓉が呪骸を相手に向き合ったところ、この呪骸は攻撃してくるという事が判明した。マーキングした呪力の増幅を察知すると、そのマーキングした呪力の持ち主ーここでは芙蓉ーを攻撃するようにプログラムされているようで、芙蓉が術式を意識して呪力を高めると殴り掛かってくる、という仕組みになっている。
術式を使うには集中力が必要で、術式で対応出来ない、或いは術式を使う事に集中し過ぎていると殴られる確率が跳ね上がるという事だ。術式が使いこなせていない芙蓉にとっては理不尽極まりない鍛錬。術式発動の為の呪力と、呪骸の攻撃から逃げる為の体力をすり減らされ、顔や身体にはあちこち打撲という結果の1日だった。
暫くフローリングで横たわっていたが、せめて汚れや汗は洗い流しておこうと思い、残った力を振り絞ってゆっくりと起き上がった。
部屋の灯りも点けず、のろのろと部屋の隅に置いた旅行バッグから着替え一式を引っ張り出して室内のシャワールームへ向かった。動くのは億劫だったが、シャワーを浴びれば疲労感はあるものの、気分はとてもスッキリした。そしてそのまま、また少し休もうとベッドへ倒れ込めば、心地良い眠気に引き込まれそうになっていく。そのまま身を任せてしまおうかというところで、枕元に放ってあったスマホが鳴った。微睡みを邪魔され、些か不機嫌のままスマホを手に取れば、メッセージアプリに1件の通知。アプリを開けば伏黒からだった。
『飯食ったか?』
彼らしい、端的で無駄のない文章。それを見て初めて時刻に目を向けるー19時を過ぎていた。授業が全部終わったのは15時半を過ぎていたと思う。その後みんなで共有スペースで少し話をして、疲れたから休みたい、と部屋に戻ったのは何時だったか。外が暗くなってきている事はわかっていたが、こんなにも時間が経っていた事に驚きつつ、芙蓉はメッセージを返す。
『食べてない。ていうか食欲ない』
倒れ込むウサギのキャラクターを文章に併せて送れば、すぐに既読がつく。何かしらリアクションがあるのだろうと暫く待ってみるも、何も反応がない。
「…何よもぅ」
芙蓉はそのままスマホを放り出し、ブランケットを手繰り寄せて包まり、眠気に誘われるまま眠りについた。
伏黒は翌朝早くに任務に出る予定があり、高専最寄りのコンビニに買い物に来ていた。朝食にとサンドイッチや飲み物をカゴに放り込む。と、そこで今日高専に来たばかりの幼馴染の顔が浮かんだー恐らく食事に関して何も準備していない、食堂の利用についての説明も受けていないような気がした。買い物に来ているついでだとメッセージアプリを開き、食事を済ませたか連絡をすればすぐに返信が来た。
『食べてない。ていうか食欲ない』
やっぱり。さてどうしたものかー。伏黒は改めて惣菜の並ぶコーナーを見回した。弁当、パスタ、うどん、蕎麦、ラーメン。更に隣の棚にはおにぎりやサラダ、サンドイッチ。その奥には酒のツマミのような物が並ぶ。
食欲がないという人間に食べさせるものは何が良いだろうかーアレコレ考えていて、先程のメッセージに返信する事はすっかり伏黒の頭から抜け落ちていた。
何かいい物はないかと店内を回る。レトルト食品のコーナーにはお粥や雑炊のパウチが並んでいるが、病人というわけではないし、温めないといけない。再び惣菜の並ぶコーナーに戻ってきて考える。先程見たコーナーの反対側には惣菜パン、ドーナツ、食パンが並んでいる。これも違う。そのまま視線をスライドさせれば、栄養機能の充実したクッキーやゼリーが目に入るーこれだ、これなら手早く簡単に食べられる。伏黒は手近なものから引っ掴んでポイポイカゴに放り込む。パウチゼリーからデザートを連想した伏黒はスイーツコーナーへ向かう。自分にはあまり縁がないと思っていた売り場で、色彩豊かなスイーツが行儀良く並んでいるのを見つめる。芙蓉がこうした甘い物が好きなのは知っているが、種類があって決めかねる。伏黒は重みを増したカゴを一瞥し、これで良いかとレジへ向かおうとすると、アイスクリームの並んだ冷凍庫が目に入った。