進境
恵の幼馴染のお名前は?
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芙蓉の高校生活はもう2カ月が過ぎようとしていた。
5月も末となり、梅雨の気配が近づいてくる中でのよく晴れた土曜日、芙蓉と佐山は駅で待ち合わせをし、近くの商業施設をブラブラと見て歩いていた。互いに好きなアパレルショップを覗いては服を選び合ったり、雑貨屋では小物を揃いで買ってみたりしていれば、あっという間に昼時となる。2人は最近オープンしたばかりというカフェで昼食をとる事にした。
「ね、芙蓉は彼氏とかいないの?」
サバけているというか、歯に衣着せぬ性格の佐山が興味深げに口を開く。親交も深まり、2人はプライベートな事まで話せる仲になっていた。
「え…、どうして?」
「芙蓉は優しいし気遣いとか出来るタイプだと思うから。って言うか、その言い方だと絶対彼氏いるでしょ」
「えっ…と、…はい」
別に隠す事でもないのかもしれないが、どうしても気恥ずかしさが先立ってしまう。しかし佐山はそんな芙蓉に構わず、写真とかないの、と楽しそうに笑っている。
「あ、無理にとは言わないからね。…ちなみに私はいないからね、先言っとくけど」
わりとドライな、大人びた考えを持っている佐山だが、意外にも無邪気な一面もあるのだという事に芙蓉は気が付いた。それも彼女の魅力だなと思いながら、スマホの写真フォルダから伏黒の写真を選択する。
「やば、超カッコいいじゃん!」
伏黒と2人で海に行った時の写真だった。海辺を散策していた時に何気なく撮った1枚。
「はぁ〜、私も芙蓉見習って人に優しくしよ〜。…てか彼と高校、別なんだ?」
「あ、うん…、いろいろあって、東京の高専に」
「高専とか凄いじゃん。あ〜良いな〜ハイスペ彼氏」
2人は伏黒の話の他、佐山の好みのタイプだとかアレコレ話をしながら食事をした。食事を済ませると再びあちこち見ながらブラついて過ごした。
なんだかんだと歩き通し、時刻は夕暮れ、日中から混雑していた街がまた少し賑わってきた。芙蓉と佐山は暗くなる前に街を離れようかと駅に向かって歩き出した。
「…?」
駅まであと少しというところで、2人は人集りに行き当たった。よく見ると、小さなテナントビルの前に集まった人はビルを見上げて何かしら口々に騒ぎ立てている。耳を傾けると、要領は得ないが、何かしらトラブルのようなものがあったらしい。とりあえず余計な事には首を突っ込まない方が良さそうという事で、2人は人集りを避けて行こうと頷き合ったその時。
「爆発だ!」
物騒な言葉が先か、耳を劈く大きな爆発音が先か、ビルの壁面が吹き飛び、ビルの壁や窓だったものが大小の破片となり人集りに降り注ぐ。芙蓉と佐山はビルから離れていたが、吹き飛んできた小さな瓦礫が皮膚を叩く感覚に咄嗟に顔を腕で防いだ。辺り一面はパニックとなり、人々は悲鳴や怒号を上げながら逃げ惑っている。芙蓉は佐山の手を引いて近くの街路樹に張り付くように立ち、人の波をやり過ごそうとその場に留まった。
「っ、ありがと芙蓉」
「ケガはない?」
「うん、とりあえず大丈夫」
その場を離れるにも動けない状況で、どうしようかと辺りの様子を窺っていると、芙蓉はぞくりと身体に入り込んできた気配に戦慄した。サッと血の気が引くのが感じられ、思わず両肩を抱いた。
「…芙蓉?…やだ、顔真っ青だよ⁉︎」
佐山は芙蓉を支えるように寄り添った。早くこの場を離れなくては、そう思うのに恐怖で身体が動かない。恐る恐る芙蓉が顔を上げると、崩れたビルの穴からアレが、呪いが姿を見せー目が合った。こちらに向かって来る。
「あ…梓…、逃げ、て」
「…え⁉︎何言っ…」
呪いは目にも止まらぬ速さで襲いかかって来た。状況を理解出来ない佐山は呪いの衝撃をまともに受けてしまった。が、辛うじて芙蓉が佐山の身体を自身に引き寄せて佐山を守るような体勢を取った。大きなケガは無いように見えるが佐山は気を失っていた。鳥のような蝙蝠のような、身体の大きさとは不釣り合いな巨大な翼を持ったその呪いは、翼の部分で蠢く無数の目を忙しなく動かして辺りを窺っている。再び芙蓉の姿を捉えると、その呪いは翼を翻して急上昇する。芙蓉は佐山の身体を守るように抱き寄せ、覚悟を決めたように固く目を閉じる。
が、不思議な事に何も起こらない。ゆっくりと目を開けてみると、呪いの姿は見当たらない。そこで初めて、呪いの気配が消えている事にも気が付いた。
「ね、君、大丈夫?」
その声の方へ顔を向けると、黒のニット帽を被った、人懐っこそうな男がいた。この混乱の中でとても不釣り合いな落ち着いた様子ーこの人は呪術師なのかもしれないと思い至る。そんな彼の、少し離れた後ろには薄茶色のスーツに身を包んだブロンドヘアの男が見え、芙蓉は直感的にブロンドの男が呪いを祓ったのだろうと思った。
「…ホント大丈夫?」
「…っは、い」
上手く言葉にならなかったが、ニット帽は人懐っこい笑みを見せると、芙蓉に背を向けてブロンドの男を追いかけるように行ってしまった。呆然と2人の後ろ姿を見送っていると、パトカーや救急車などのサイレンの音が聞こえて芙蓉は我に返った。辺りを見回せばケガをしたらしい人が数人倒れていたり、泣き叫ぶ人がいたり、呆然とその場に佇む人がいたり。芙蓉は佐山の身体を支えたまま、救急隊員が担架を携えて慌ただしくトリアージを行い始めたのをぼんやりと眺めていた。
5月も末となり、梅雨の気配が近づいてくる中でのよく晴れた土曜日、芙蓉と佐山は駅で待ち合わせをし、近くの商業施設をブラブラと見て歩いていた。互いに好きなアパレルショップを覗いては服を選び合ったり、雑貨屋では小物を揃いで買ってみたりしていれば、あっという間に昼時となる。2人は最近オープンしたばかりというカフェで昼食をとる事にした。
「ね、芙蓉は彼氏とかいないの?」
サバけているというか、歯に衣着せぬ性格の佐山が興味深げに口を開く。親交も深まり、2人はプライベートな事まで話せる仲になっていた。
「え…、どうして?」
「芙蓉は優しいし気遣いとか出来るタイプだと思うから。って言うか、その言い方だと絶対彼氏いるでしょ」
「えっ…と、…はい」
別に隠す事でもないのかもしれないが、どうしても気恥ずかしさが先立ってしまう。しかし佐山はそんな芙蓉に構わず、写真とかないの、と楽しそうに笑っている。
「あ、無理にとは言わないからね。…ちなみに私はいないからね、先言っとくけど」
わりとドライな、大人びた考えを持っている佐山だが、意外にも無邪気な一面もあるのだという事に芙蓉は気が付いた。それも彼女の魅力だなと思いながら、スマホの写真フォルダから伏黒の写真を選択する。
「やば、超カッコいいじゃん!」
伏黒と2人で海に行った時の写真だった。海辺を散策していた時に何気なく撮った1枚。
「はぁ〜、私も芙蓉見習って人に優しくしよ〜。…てか彼と高校、別なんだ?」
「あ、うん…、いろいろあって、東京の高専に」
「高専とか凄いじゃん。あ〜良いな〜ハイスペ彼氏」
2人は伏黒の話の他、佐山の好みのタイプだとかアレコレ話をしながら食事をした。食事を済ませると再びあちこち見ながらブラついて過ごした。
なんだかんだと歩き通し、時刻は夕暮れ、日中から混雑していた街がまた少し賑わってきた。芙蓉と佐山は暗くなる前に街を離れようかと駅に向かって歩き出した。
「…?」
駅まであと少しというところで、2人は人集りに行き当たった。よく見ると、小さなテナントビルの前に集まった人はビルを見上げて何かしら口々に騒ぎ立てている。耳を傾けると、要領は得ないが、何かしらトラブルのようなものがあったらしい。とりあえず余計な事には首を突っ込まない方が良さそうという事で、2人は人集りを避けて行こうと頷き合ったその時。
「爆発だ!」
物騒な言葉が先か、耳を劈く大きな爆発音が先か、ビルの壁面が吹き飛び、ビルの壁や窓だったものが大小の破片となり人集りに降り注ぐ。芙蓉と佐山はビルから離れていたが、吹き飛んできた小さな瓦礫が皮膚を叩く感覚に咄嗟に顔を腕で防いだ。辺り一面はパニックとなり、人々は悲鳴や怒号を上げながら逃げ惑っている。芙蓉は佐山の手を引いて近くの街路樹に張り付くように立ち、人の波をやり過ごそうとその場に留まった。
「っ、ありがと芙蓉」
「ケガはない?」
「うん、とりあえず大丈夫」
その場を離れるにも動けない状況で、どうしようかと辺りの様子を窺っていると、芙蓉はぞくりと身体に入り込んできた気配に戦慄した。サッと血の気が引くのが感じられ、思わず両肩を抱いた。
「…芙蓉?…やだ、顔真っ青だよ⁉︎」
佐山は芙蓉を支えるように寄り添った。早くこの場を離れなくては、そう思うのに恐怖で身体が動かない。恐る恐る芙蓉が顔を上げると、崩れたビルの穴からアレが、呪いが姿を見せー目が合った。こちらに向かって来る。
「あ…梓…、逃げ、て」
「…え⁉︎何言っ…」
呪いは目にも止まらぬ速さで襲いかかって来た。状況を理解出来ない佐山は呪いの衝撃をまともに受けてしまった。が、辛うじて芙蓉が佐山の身体を自身に引き寄せて佐山を守るような体勢を取った。大きなケガは無いように見えるが佐山は気を失っていた。鳥のような蝙蝠のような、身体の大きさとは不釣り合いな巨大な翼を持ったその呪いは、翼の部分で蠢く無数の目を忙しなく動かして辺りを窺っている。再び芙蓉の姿を捉えると、その呪いは翼を翻して急上昇する。芙蓉は佐山の身体を守るように抱き寄せ、覚悟を決めたように固く目を閉じる。
が、不思議な事に何も起こらない。ゆっくりと目を開けてみると、呪いの姿は見当たらない。そこで初めて、呪いの気配が消えている事にも気が付いた。
「ね、君、大丈夫?」
その声の方へ顔を向けると、黒のニット帽を被った、人懐っこそうな男がいた。この混乱の中でとても不釣り合いな落ち着いた様子ーこの人は呪術師なのかもしれないと思い至る。そんな彼の、少し離れた後ろには薄茶色のスーツに身を包んだブロンドヘアの男が見え、芙蓉は直感的にブロンドの男が呪いを祓ったのだろうと思った。
「…ホント大丈夫?」
「…っは、い」
上手く言葉にならなかったが、ニット帽は人懐っこい笑みを見せると、芙蓉に背を向けてブロンドの男を追いかけるように行ってしまった。呆然と2人の後ろ姿を見送っていると、パトカーや救急車などのサイレンの音が聞こえて芙蓉は我に返った。辺りを見回せばケガをしたらしい人が数人倒れていたり、泣き叫ぶ人がいたり、呆然とその場に佇む人がいたり。芙蓉は佐山の身体を支えたまま、救急隊員が担架を携えて慌ただしくトリアージを行い始めたのをぼんやりと眺めていた。