変転
恵の幼馴染のお名前は?
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次はいつ会えるかわからないまま、その約束も出来ないまま、芙蓉を自宅まで送り届ける時間となった。
アパートを出て、2人で何度も通った芙蓉の家までの道のりを歩く。普段より遅い時間というのもあって、すれ違う人の数は少ない。
何か話したい、けど何を話そうー。
互いにそんな想いを抱えたまま歩き続ける。
もう人生の半分近くの時間を共にし、もう自分の身体の一部のようになっている互いの存在。それが、明日で離れ離れになってしまう。
それを理解した上で自分たちで決めた、それぞれの道。
それぞれの信念や望みを曲げ、それぞれが歩み寄り、同じ道を進む事を選べば良かったのだろうかー伏黒も芙蓉も、一度ならずと考えたが、それを是とするには至らなかった。伏黒は呪術師として、芙蓉は当面、非術師として歩いていく事を決めた。
芙蓉も呪術師としての能力を持っている以上、呪術師として歩いていく事は出来たかもしれないが、五条から術式に関して口止めされていたのもあり、芙蓉は自身の事について相談もできず、どうにもできずにここまで来てしまった。ただ、伏黒に心配をかけたくないという一心で高専へ進学するのを辞めた。この事が芙蓉にとってずっと、伏黒に本当の事を話せていないと負い目になって彼女の心にのしかかっている。
「…ね、恵」
芙蓉は小学生の頃に、反転術式を使えるようになった時の事を思い出した。あの時は“自分から”口外しないようにと言われていた事を忘れて口を滑らせ、引くに引けずに当時の状況を伏黒に話した。あの時は何ともなかったし、何も起こらなかった。それならきっと術式の事を話しても大丈夫なはずーそう思い口を開く。
「どうした?」
優しい伏黒の声に、芙蓉は今までずっと、黙っていてごめんなさいと前置いた。
「…夏休みに、高専の見学においでって悟くんに言われて、出かけた時の事なんだけどね。…その時に行った、祓除の場所で私…、…術式が、発現したみたいなの」
「…やっぱり、そうか」
伏黒の言葉に芙蓉は耳を疑い、思わず足を止めた。
「ずっと気になってたんだ。…あの時の状況には辻褄の合わない事があったし、あの一件以降、芙蓉の呪力の回り方が変わった気がしてたからな」
「…え…」
「あの現場でターゲットとなる呪いを祓ったのは俺じゃない。五条先生の呪力も感じられなかった。…となると消去法で芙蓉が、って事になるが、確証がなかった」
「それ、じゃ…恵は、ずっと、知ってて…?」
ショックを受けている様子の芙蓉を気遣い、伏黒は言葉を探すように夜空を見上げた。
「まぁ…、言おうにも、術式に関して芙蓉が自覚してるか確かめようがなかったから…、言えなかった。…もし自覚があれば、芙蓉から話してくれるかもしれないと思ってたからな。…俺から話す事で、変な不安とか…、マイナスの気持ちを煽るような事はしたくなかった」
伏黒の気遣いに満ちた言葉が、ずっと負い目を感じていた芙蓉に突き刺さる。伏黒への感謝と申し訳なさがじわじわと滲むように広がり、嗚咽となって溢れ出す。
「っごめ、なさい、…、悟くん、が、誰にも、言わない、ようにって」
「…芙蓉は悪くないだろ」
「…で、も」
「頼むから泣くな」
しゃくり上げて泣き続ける芙蓉を抱き締め、落ち着かせようと伏黒は優しく彼女の背中を撫でてやる。少し泣き声が小さくなったところで伏黒は芙蓉を上向かせ、自身の服の袖で芙蓉の涙を拭い取った。
「…芙蓉の泣き顔も嫌いじゃないが…、やっぱり笑った顔の方がいいからな」
その言葉に芙蓉が伏せていた目を上げれば、自身を見つめていた伏黒と目が合う。その目はとても優しく穏やかで、口元には柔らかな笑みを浮かべていた。
「…落ち着いたか?」
「…うん」
伏黒は芙蓉の手を取って繋ぎ合わせると、芙蓉を労わるようにゆっくりと歩き出す。
「…芙蓉、ごめんな」
「え、何…?なんで恵が謝るの…?」
伏黒は芙蓉と繋いだ手に、僅かに力を込める。
「…前に言ったよな、芙蓉には高専に進学しないで欲しいって。結局…、俺の勝手を芙蓉に押し付けるような事になっちまった」
「そんな事、」
「…実際、俺は俺の想いを芙蓉に伝える事で、芙蓉が高専に進学する可能性を潰した。芙蓉が俺を信頼してくれてるって事を利用したようなもんだ。…最低だな」
伏黒の言葉に芙蓉が何か言おうとしたが、サラリーマンが歩いてくるのが見えて芙蓉は口を噤んだ。口を引き結んだまま、2人は歩いて行く。
「…高専に行かないって決めたのは、私だよ」
静かに、それでいてキッパリとした口調で芙蓉が言った。先程まで泣いていたとは思えないくらいに毅然とした言葉だった。芙蓉は伏黒の手を握り返した。
「私にも術式があるみたいだし、これからどうなるかはわかんないけど…、恵の想いを受け取って、自分で決めたんだから。恵が謝るような事は何もないよ」
「…安心した」
芙蓉は伏黒を見上げた。
「ここ最近、淋しそうな顔ばっかりだったからな。それだけの強さがあれば、もう大丈夫だな」
言葉とは裏腹に、まさに愛別離苦とはこの事かと、伏黒はその想いをひたすらに噛み潰していた。
アパートを出て、2人で何度も通った芙蓉の家までの道のりを歩く。普段より遅い時間というのもあって、すれ違う人の数は少ない。
何か話したい、けど何を話そうー。
互いにそんな想いを抱えたまま歩き続ける。
もう人生の半分近くの時間を共にし、もう自分の身体の一部のようになっている互いの存在。それが、明日で離れ離れになってしまう。
それを理解した上で自分たちで決めた、それぞれの道。
それぞれの信念や望みを曲げ、それぞれが歩み寄り、同じ道を進む事を選べば良かったのだろうかー伏黒も芙蓉も、一度ならずと考えたが、それを是とするには至らなかった。伏黒は呪術師として、芙蓉は当面、非術師として歩いていく事を決めた。
芙蓉も呪術師としての能力を持っている以上、呪術師として歩いていく事は出来たかもしれないが、五条から術式に関して口止めされていたのもあり、芙蓉は自身の事について相談もできず、どうにもできずにここまで来てしまった。ただ、伏黒に心配をかけたくないという一心で高専へ進学するのを辞めた。この事が芙蓉にとってずっと、伏黒に本当の事を話せていないと負い目になって彼女の心にのしかかっている。
「…ね、恵」
芙蓉は小学生の頃に、反転術式を使えるようになった時の事を思い出した。あの時は“自分から”口外しないようにと言われていた事を忘れて口を滑らせ、引くに引けずに当時の状況を伏黒に話した。あの時は何ともなかったし、何も起こらなかった。それならきっと術式の事を話しても大丈夫なはずーそう思い口を開く。
「どうした?」
優しい伏黒の声に、芙蓉は今までずっと、黙っていてごめんなさいと前置いた。
「…夏休みに、高専の見学においでって悟くんに言われて、出かけた時の事なんだけどね。…その時に行った、祓除の場所で私…、…術式が、発現したみたいなの」
「…やっぱり、そうか」
伏黒の言葉に芙蓉は耳を疑い、思わず足を止めた。
「ずっと気になってたんだ。…あの時の状況には辻褄の合わない事があったし、あの一件以降、芙蓉の呪力の回り方が変わった気がしてたからな」
「…え…」
「あの現場でターゲットとなる呪いを祓ったのは俺じゃない。五条先生の呪力も感じられなかった。…となると消去法で芙蓉が、って事になるが、確証がなかった」
「それ、じゃ…恵は、ずっと、知ってて…?」
ショックを受けている様子の芙蓉を気遣い、伏黒は言葉を探すように夜空を見上げた。
「まぁ…、言おうにも、術式に関して芙蓉が自覚してるか確かめようがなかったから…、言えなかった。…もし自覚があれば、芙蓉から話してくれるかもしれないと思ってたからな。…俺から話す事で、変な不安とか…、マイナスの気持ちを煽るような事はしたくなかった」
伏黒の気遣いに満ちた言葉が、ずっと負い目を感じていた芙蓉に突き刺さる。伏黒への感謝と申し訳なさがじわじわと滲むように広がり、嗚咽となって溢れ出す。
「っごめ、なさい、…、悟くん、が、誰にも、言わない、ようにって」
「…芙蓉は悪くないだろ」
「…で、も」
「頼むから泣くな」
しゃくり上げて泣き続ける芙蓉を抱き締め、落ち着かせようと伏黒は優しく彼女の背中を撫でてやる。少し泣き声が小さくなったところで伏黒は芙蓉を上向かせ、自身の服の袖で芙蓉の涙を拭い取った。
「…芙蓉の泣き顔も嫌いじゃないが…、やっぱり笑った顔の方がいいからな」
その言葉に芙蓉が伏せていた目を上げれば、自身を見つめていた伏黒と目が合う。その目はとても優しく穏やかで、口元には柔らかな笑みを浮かべていた。
「…落ち着いたか?」
「…うん」
伏黒は芙蓉の手を取って繋ぎ合わせると、芙蓉を労わるようにゆっくりと歩き出す。
「…芙蓉、ごめんな」
「え、何…?なんで恵が謝るの…?」
伏黒は芙蓉と繋いだ手に、僅かに力を込める。
「…前に言ったよな、芙蓉には高専に進学しないで欲しいって。結局…、俺の勝手を芙蓉に押し付けるような事になっちまった」
「そんな事、」
「…実際、俺は俺の想いを芙蓉に伝える事で、芙蓉が高専に進学する可能性を潰した。芙蓉が俺を信頼してくれてるって事を利用したようなもんだ。…最低だな」
伏黒の言葉に芙蓉が何か言おうとしたが、サラリーマンが歩いてくるのが見えて芙蓉は口を噤んだ。口を引き結んだまま、2人は歩いて行く。
「…高専に行かないって決めたのは、私だよ」
静かに、それでいてキッパリとした口調で芙蓉が言った。先程まで泣いていたとは思えないくらいに毅然とした言葉だった。芙蓉は伏黒の手を握り返した。
「私にも術式があるみたいだし、これからどうなるかはわかんないけど…、恵の想いを受け取って、自分で決めたんだから。恵が謝るような事は何もないよ」
「…安心した」
芙蓉は伏黒を見上げた。
「ここ最近、淋しそうな顔ばっかりだったからな。それだけの強さがあれば、もう大丈夫だな」
言葉とは裏腹に、まさに愛別離苦とはこの事かと、伏黒はその想いをひたすらに噛み潰していた。