変転
恵の幼馴染のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ついに訪れた中学生最後の日。幾分肌寒い陽気ながら、清々しく晴れ渡った卒業式。
「…なんでいるんスか」
無事に式が終わり、伏黒を含めた卒業生が外に出る。と、伏黒は正門近くでデジャヴと頭痛を覚えてため息をつき、無邪気に手を振っている白髪の彼に声をかけた。
「だぁって、今日は恵と芙蓉の卒業式だよ?そりゃ出席するに決まってるでしょ〜」
この3年、何も変わってねぇなこの人ーとため息をついていると、友人達と写真を撮っている芙蓉が目に入る。
「あっ、芙蓉〜!卒業おめでと〜!」
五条も芙蓉に気が付いたようで彼女に声をかける。と、五条を見た芙蓉の友人達の目の色が変わり、芙蓉の顔は引き攣った。背が高く整ったスタイル、綺麗な白い髪、ミステリアスなサングラスーそんな彼が人目を引くのは当然で。友人達にもみくちゃにされながら芙蓉は波に乗ったように五条の側へ流されていった。
芙蓉の友人達から黄色い悲鳴を浴び、質問攻めに合っている芙蓉と五条を伏黒が遠巻きに眺めていると。
「ふ、伏黒、くん…」
遠慮がちというか怯えているというか、身体を縮こまらせた男子生徒が数人集まっていて、その内の1人が伏黒に声をかけた。背が低く、眼鏡をかけたその生徒にはどこか見覚えがあった。
「…あ?」
愛想のない伏黒の返事に肩を揺らした彼らだったが、意を決したように伏黒を見つめて口を開く。
「あ…あの…、池澤、たちの事、シメてくれて、ありがとう…、ありがとう…?…なんて言えばいいかな…」
おどおどと落ち着きなく、視線を彷徨わせていて要領を得ない話ではあったが、なんとなく彼の言いたい事を理解した伏黒は、あぁ、と短く返事をした。
「…俺は感謝される事なんかしてねぇよ」
「あ…、で、でも、僕ら…、ふ、伏黒くんのおかげで、あいつらに、パシられなく、なった、から…」
「…。…良かったな」
「ご、ごめん、引き留めちゃって…」
「あ…、ありがとうございました」
眼鏡をかけた男子生徒ー相田、とか言った気がする。相田と共に居た生徒たちの感謝の言葉を背に聞きながら、伏黒はその場を離れた。
自分の行動の根底にある想いはなんだったかー他者の尊厳を踏みにじるような悪人が嫌いで、そんな連中を一掃してやりたかった。芙蓉には、そんな連中に抑圧されている奴らを助けていたのだろうと言われ、自身の行動が芙蓉に理解された気がしていた。不良連中と呪霊の相手をする、五条に祓除の任務へ連れ出される、そんな日常の中で、そこでハッキリと自分自身を認識した。
自分は正義の味方ではなく、呪術師だという事。
善い行いをした善人が必ずしも報われるとは限らない。悪い行いをした悪人が必ずしも罰せられるとは限らず、悪人が罰せられるのは法の下だけ。そんな不平等な現実が平等に与えられているーそれなら自分は、津美紀のような善人が幸せを享受出来るように力を使おう。現実が不平等なら、それを助けるのも不平等であろうと問題はないはずだ。どう思われてもどう言われても構わない。自身が信じた事を貫く、自身が決めた事を通すー自分の良心に従って人を助ける。それだけだ。
伏黒は相田たちを振り返った。彼とその取り巻きは輪になり、口々に相田の行動を讃えあっている。伏黒は晴れ渡った空を見上げた。漸く自身の軸がしっかりと決まった気がした。迷っているとか悩んでいるとかいう自覚はなかったが、空のように気持ちが澄むのを感じていた。
「恵」
名を呼ばれて振り返れば、息を切らせた芙蓉だった。どうにか友人達を振り切り五条から離れる事が出来たようだった。彼女の背後では女子生徒に囲まれ、共に写真を撮っている五条が見えた。
「…お祝いの気持ちは嬉しいけど、…正直迷惑だよね。もう何しに来たんだか」
芙蓉がここまではっきり五条の愚痴を言うのは珍しいと伏黒は笑った。
「ね、恵。写真撮ろ?」
彼女の手にはスマホが握られていて。写真を撮るのは構わないが、撮ってくれるような人は見当たらない。
さてどうするかと考える伏黒をよそに、芙蓉の中では自撮り一択だったようで、思い切り背を伸ばして伏黒と顔の高さを合わせようとしていて。不意に近付いた芙蓉との距離と彼女の大胆さに僅かに驚いた。
ほぼ爪先立ちで堪えている芙蓉がいじらしく伏黒の頬が緩む。伏黒は彼女の手からスマホを取り上げると何枚か撮影し、更に彼女に近付いてシャッターボタンを押す。
「…恵、大胆」
「誰も気にしねぇよ」
顔を見合わせて笑い合う。と、そんな2人の背後で、教員の怒鳴り声が聞こえてきた。何事かと振り返ると、その教員に声をかけられている五条の姿。どうやら周囲の混乱を引き起こしていると、五条に対して敷地からの退去を指示しているらしかった。
「…せっかく時間作って来てくれたのに、さすがにアレはかわいそうだね」
「身元引受人になった気分だな」
2人は敷地の外へ追いやられた五条と合流し、混乱を避けて正門の外で待っていた千浪の元へ向かった。
「…なんでいるんスか」
無事に式が終わり、伏黒を含めた卒業生が外に出る。と、伏黒は正門近くでデジャヴと頭痛を覚えてため息をつき、無邪気に手を振っている白髪の彼に声をかけた。
「だぁって、今日は恵と芙蓉の卒業式だよ?そりゃ出席するに決まってるでしょ〜」
この3年、何も変わってねぇなこの人ーとため息をついていると、友人達と写真を撮っている芙蓉が目に入る。
「あっ、芙蓉〜!卒業おめでと〜!」
五条も芙蓉に気が付いたようで彼女に声をかける。と、五条を見た芙蓉の友人達の目の色が変わり、芙蓉の顔は引き攣った。背が高く整ったスタイル、綺麗な白い髪、ミステリアスなサングラスーそんな彼が人目を引くのは当然で。友人達にもみくちゃにされながら芙蓉は波に乗ったように五条の側へ流されていった。
芙蓉の友人達から黄色い悲鳴を浴び、質問攻めに合っている芙蓉と五条を伏黒が遠巻きに眺めていると。
「ふ、伏黒、くん…」
遠慮がちというか怯えているというか、身体を縮こまらせた男子生徒が数人集まっていて、その内の1人が伏黒に声をかけた。背が低く、眼鏡をかけたその生徒にはどこか見覚えがあった。
「…あ?」
愛想のない伏黒の返事に肩を揺らした彼らだったが、意を決したように伏黒を見つめて口を開く。
「あ…あの…、池澤、たちの事、シメてくれて、ありがとう…、ありがとう…?…なんて言えばいいかな…」
おどおどと落ち着きなく、視線を彷徨わせていて要領を得ない話ではあったが、なんとなく彼の言いたい事を理解した伏黒は、あぁ、と短く返事をした。
「…俺は感謝される事なんかしてねぇよ」
「あ…、で、でも、僕ら…、ふ、伏黒くんのおかげで、あいつらに、パシられなく、なった、から…」
「…。…良かったな」
「ご、ごめん、引き留めちゃって…」
「あ…、ありがとうございました」
眼鏡をかけた男子生徒ー相田、とか言った気がする。相田と共に居た生徒たちの感謝の言葉を背に聞きながら、伏黒はその場を離れた。
自分の行動の根底にある想いはなんだったかー他者の尊厳を踏みにじるような悪人が嫌いで、そんな連中を一掃してやりたかった。芙蓉には、そんな連中に抑圧されている奴らを助けていたのだろうと言われ、自身の行動が芙蓉に理解された気がしていた。不良連中と呪霊の相手をする、五条に祓除の任務へ連れ出される、そんな日常の中で、そこでハッキリと自分自身を認識した。
自分は正義の味方ではなく、呪術師だという事。
善い行いをした善人が必ずしも報われるとは限らない。悪い行いをした悪人が必ずしも罰せられるとは限らず、悪人が罰せられるのは法の下だけ。そんな不平等な現実が平等に与えられているーそれなら自分は、津美紀のような善人が幸せを享受出来るように力を使おう。現実が不平等なら、それを助けるのも不平等であろうと問題はないはずだ。どう思われてもどう言われても構わない。自身が信じた事を貫く、自身が決めた事を通すー自分の良心に従って人を助ける。それだけだ。
伏黒は相田たちを振り返った。彼とその取り巻きは輪になり、口々に相田の行動を讃えあっている。伏黒は晴れ渡った空を見上げた。漸く自身の軸がしっかりと決まった気がした。迷っているとか悩んでいるとかいう自覚はなかったが、空のように気持ちが澄むのを感じていた。
「恵」
名を呼ばれて振り返れば、息を切らせた芙蓉だった。どうにか友人達を振り切り五条から離れる事が出来たようだった。彼女の背後では女子生徒に囲まれ、共に写真を撮っている五条が見えた。
「…お祝いの気持ちは嬉しいけど、…正直迷惑だよね。もう何しに来たんだか」
芙蓉がここまではっきり五条の愚痴を言うのは珍しいと伏黒は笑った。
「ね、恵。写真撮ろ?」
彼女の手にはスマホが握られていて。写真を撮るのは構わないが、撮ってくれるような人は見当たらない。
さてどうするかと考える伏黒をよそに、芙蓉の中では自撮り一択だったようで、思い切り背を伸ばして伏黒と顔の高さを合わせようとしていて。不意に近付いた芙蓉との距離と彼女の大胆さに僅かに驚いた。
ほぼ爪先立ちで堪えている芙蓉がいじらしく伏黒の頬が緩む。伏黒は彼女の手からスマホを取り上げると何枚か撮影し、更に彼女に近付いてシャッターボタンを押す。
「…恵、大胆」
「誰も気にしねぇよ」
顔を見合わせて笑い合う。と、そんな2人の背後で、教員の怒鳴り声が聞こえてきた。何事かと振り返ると、その教員に声をかけられている五条の姿。どうやら周囲の混乱を引き起こしていると、五条に対して敷地からの退去を指示しているらしかった。
「…せっかく時間作って来てくれたのに、さすがにアレはかわいそうだね」
「身元引受人になった気分だな」
2人は敷地の外へ追いやられた五条と合流し、混乱を避けて正門の外で待っていた千浪の元へ向かった。