変転
恵の幼馴染のお名前は?
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老若男女、貧富の差を問わず、誰にでも平等なものー時間。過去に戻りたい。今この時を止めたい。早く過ぎ去って欲しい。どれだけ強く願っても、時間にだけは誰ひとりとして干渉する事は出来ない。
伏黒と芙蓉もその例外ではなく、2人の間に流れる時間は無情にも過ぎていく。その貴重な時間を無駄にする事のないように日々を過ごしていた。
そして卒業式まであと1週間と迫ったこの日、芙蓉は放課後に伏黒のアパートを訪れた。
「すごい…、だいぶ片付けたんだね…」
ここ最近は部屋の片付けをしているという伏黒の邪魔にならないようにと、アパートを訪れるのを控えていた芙蓉だったが、この日の訪問は伏黒から少し手を貸して欲しいと請われての事だった。
高専では寮生活になるという事で、伏黒が持ち出す物としては主に衣類、日用品の類、趣味の本程度ではあるが、物を減らしておきたいという事で部屋全体を片付けている。元々シンプルであまり物は多くないのだが、輪をかけて物が減り、普段より広く感じる。
「まぁ…、元々たいした物もなかったけどな」
「…この部屋はどうするの?」
「このままにしとくつもりだ。高専で管理しといてくれるって話だからな。…津美紀の物もあるし、勝手に荷物纏めて引越すワケにもいかねぇだろ」
伏黒が高専へ進学してしまえばこのアパートを訪れる機会も無くなるが、芙蓉は思い出の詰まった場所が残る事に安心した様子を見せた。
早速2人は手分けして部屋の片付けを始めた。高専へ持って行くもの、部屋に残しておくもの、処分するものーそれぞれ仕分けしてまとめていく。芙蓉は主に津美紀の物を整頓するように頼まれた。
「引越すのはいつ?」
「卒業式の翌日。朝9時に高専の人が来る予定だ」
「そっかぁ…結構忙しいね」
「まぁ…仕方ねぇよな」
それきり互いに口を噤み、それぞれ何かを思いながら黙々とダンボールに物を詰める、ガムテープで封をする、という作業をしていく。と、何個目かのダンボールを閉じた芙蓉は何かを思い付いたように口を開く。
「ねぇ恵。卒業式終わったらさ、津美紀ちゃんのお見舞いに行かない?」
「奇遇だな、俺もそう考えてた」
顔を見合わせて2人は笑った。津美紀が倒れてからもうすぐ1年が経とうとしている。折を見て2人で見舞いに行っているが、良くも悪くも変化はない。津美紀と同時期に倒れたという人達の中で、意識が回復したとか、原因がわかったという話は聞こえてこない。彼女もその例外ではなく、未だ回復の兆しはなかった。
「少し休憩するか」
伏黒は台所へ行き、冷蔵庫からペットボトルを2本抱えてリビングに戻ってきた。
「悪いな、最近はこんなのばっかりだ」
「ううん全然、ありがとう」
すっかり片付いたリビングにはテーブル、テレビ、細々とした物を収納しているラックがある程度。敷いてあったラグマットは処分するらしく片付けられ、代わりにクッションが座布団代わりになっていた。が、基本1人で生活している為、クッションはひとつだけ。伏黒はそれをテーブルを挟んで向かいに座る芙蓉に差し出した。
「え、大丈夫だよ、恵が使いなよ」
「俺はいい。芙蓉使えよ」
女は身体冷やさねぇ方が良いって言うだろと、引く気配のない伏黒に芙蓉は苦笑いし、クッションを受け取る。
「ありがとう」
芙蓉はクッションの上に座り直し、伏黒が冷蔵庫から出したカフェオレのボトルの封を切る。
カフェオレを飲みながら、数え切れない程に訪れたこの部屋を改めて見回す。津美紀が入院してしまってからも、伏黒はいつもと変わらない態度で居てくれて。多少の気持ちの行き違いはあったものの、それを乗り越える事が出来て、よりお互いを理解出来るようになり、誰よりも一番近い存在になって。
「…恵、ありがとう」
「何だよ急に?」
「ん…、恵と出会えた事」
「…そうだな。呪霊にビビって半泣きで家に帰れないでいた頃の芙蓉が懐かしいな」
「もぅ、言い方。…けど、恵が声かけてくれなかったら、あの頃の私はどうしてたんだろうって思うよ」
出会った時は小学生、それがもう間もなく高校生。
「恵はどうしてあの時声かけてくれたの?」
ふと思った疑問を口にする。
「…なんだろうな。確かにあの時、呪霊は見えてたわけだが…、芙蓉が呪霊を見えるなんて知らなかったのにな。…無意識に呪力を感じてたのかもな」
「小学生の頃の事がキッカケで、こんな風になるなんて想像もつかなかった。…恵は呪術師、だもんね」
芙蓉はカフェオレをひと口飲む。
「あの時は助けてくれてありがとう。…今もずっと助けてもらってばかりだけど…、恵が一番最初に助けたのは私って事になるのかな」
呪術師としての原点になるかな、と笑う芙蓉。
「…芙蓉が居てくれて本当に良かった」
伏黒は自身と芙蓉を隔てるテーブルを横へ押し遣ると、軽く両手を広げて見せる。
「…もう」
照れくさそうに、それでいて嬉しそうに芙蓉は伏黒の腕の中へ飛び込んだ。しっかりとした逞しい腕が彼女を抱きとめ、そのまま抱き締める。
「芙蓉、ありがとう」
「…どういたしまして」
芙蓉は伏黒の背に腕を回した。その腕に、言葉では表現しきれないくらいの感謝の想いを込めて。
伏黒と芙蓉もその例外ではなく、2人の間に流れる時間は無情にも過ぎていく。その貴重な時間を無駄にする事のないように日々を過ごしていた。
そして卒業式まであと1週間と迫ったこの日、芙蓉は放課後に伏黒のアパートを訪れた。
「すごい…、だいぶ片付けたんだね…」
ここ最近は部屋の片付けをしているという伏黒の邪魔にならないようにと、アパートを訪れるのを控えていた芙蓉だったが、この日の訪問は伏黒から少し手を貸して欲しいと請われての事だった。
高専では寮生活になるという事で、伏黒が持ち出す物としては主に衣類、日用品の類、趣味の本程度ではあるが、物を減らしておきたいという事で部屋全体を片付けている。元々シンプルであまり物は多くないのだが、輪をかけて物が減り、普段より広く感じる。
「まぁ…、元々たいした物もなかったけどな」
「…この部屋はどうするの?」
「このままにしとくつもりだ。高専で管理しといてくれるって話だからな。…津美紀の物もあるし、勝手に荷物纏めて引越すワケにもいかねぇだろ」
伏黒が高専へ進学してしまえばこのアパートを訪れる機会も無くなるが、芙蓉は思い出の詰まった場所が残る事に安心した様子を見せた。
早速2人は手分けして部屋の片付けを始めた。高専へ持って行くもの、部屋に残しておくもの、処分するものーそれぞれ仕分けしてまとめていく。芙蓉は主に津美紀の物を整頓するように頼まれた。
「引越すのはいつ?」
「卒業式の翌日。朝9時に高専の人が来る予定だ」
「そっかぁ…結構忙しいね」
「まぁ…仕方ねぇよな」
それきり互いに口を噤み、それぞれ何かを思いながら黙々とダンボールに物を詰める、ガムテープで封をする、という作業をしていく。と、何個目かのダンボールを閉じた芙蓉は何かを思い付いたように口を開く。
「ねぇ恵。卒業式終わったらさ、津美紀ちゃんのお見舞いに行かない?」
「奇遇だな、俺もそう考えてた」
顔を見合わせて2人は笑った。津美紀が倒れてからもうすぐ1年が経とうとしている。折を見て2人で見舞いに行っているが、良くも悪くも変化はない。津美紀と同時期に倒れたという人達の中で、意識が回復したとか、原因がわかったという話は聞こえてこない。彼女もその例外ではなく、未だ回復の兆しはなかった。
「少し休憩するか」
伏黒は台所へ行き、冷蔵庫からペットボトルを2本抱えてリビングに戻ってきた。
「悪いな、最近はこんなのばっかりだ」
「ううん全然、ありがとう」
すっかり片付いたリビングにはテーブル、テレビ、細々とした物を収納しているラックがある程度。敷いてあったラグマットは処分するらしく片付けられ、代わりにクッションが座布団代わりになっていた。が、基本1人で生活している為、クッションはひとつだけ。伏黒はそれをテーブルを挟んで向かいに座る芙蓉に差し出した。
「え、大丈夫だよ、恵が使いなよ」
「俺はいい。芙蓉使えよ」
女は身体冷やさねぇ方が良いって言うだろと、引く気配のない伏黒に芙蓉は苦笑いし、クッションを受け取る。
「ありがとう」
芙蓉はクッションの上に座り直し、伏黒が冷蔵庫から出したカフェオレのボトルの封を切る。
カフェオレを飲みながら、数え切れない程に訪れたこの部屋を改めて見回す。津美紀が入院してしまってからも、伏黒はいつもと変わらない態度で居てくれて。多少の気持ちの行き違いはあったものの、それを乗り越える事が出来て、よりお互いを理解出来るようになり、誰よりも一番近い存在になって。
「…恵、ありがとう」
「何だよ急に?」
「ん…、恵と出会えた事」
「…そうだな。呪霊にビビって半泣きで家に帰れないでいた頃の芙蓉が懐かしいな」
「もぅ、言い方。…けど、恵が声かけてくれなかったら、あの頃の私はどうしてたんだろうって思うよ」
出会った時は小学生、それがもう間もなく高校生。
「恵はどうしてあの時声かけてくれたの?」
ふと思った疑問を口にする。
「…なんだろうな。確かにあの時、呪霊は見えてたわけだが…、芙蓉が呪霊を見えるなんて知らなかったのにな。…無意識に呪力を感じてたのかもな」
「小学生の頃の事がキッカケで、こんな風になるなんて想像もつかなかった。…恵は呪術師、だもんね」
芙蓉はカフェオレをひと口飲む。
「あの時は助けてくれてありがとう。…今もずっと助けてもらってばかりだけど…、恵が一番最初に助けたのは私って事になるのかな」
呪術師としての原点になるかな、と笑う芙蓉。
「…芙蓉が居てくれて本当に良かった」
伏黒は自身と芙蓉を隔てるテーブルを横へ押し遣ると、軽く両手を広げて見せる。
「…もう」
照れくさそうに、それでいて嬉しそうに芙蓉は伏黒の腕の中へ飛び込んだ。しっかりとした逞しい腕が彼女を抱きとめ、そのまま抱き締める。
「芙蓉、ありがとう」
「…どういたしまして」
芙蓉は伏黒の背に腕を回した。その腕に、言葉では表現しきれないくらいの感謝の想いを込めて。