変転
恵の幼馴染のお名前は?
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「わ〜…寒っ」
「そりゃあ1年で一番寒い季節だからな」
前日の曇天が嘘のように晴れ渡った日曜日。伏黒と芙蓉は朝早くに家を出て、電車に揺られて海へやってきた。2人が住む埼玉は内陸、せっかく海を見るのなら砂浜のある海がいい、という事で、少し足を伸ばして観光地となっているところを楽しもうとなった。
「やっぱり人が多いね」
「観光地だからな」
駅からのんびり歩き、通り沿いに並ぶ土産物屋を眺めながら海を目指す。通りを抜けて海へ出ると、冷たい潮風が吹き付ける。
「…寒くないか?」
「…寒いけどがんばれるレベル」
当初はお洒落を重視した服装で出かけようとした芙蓉。伏黒は待ち合わせ場所で彼女の服装を見るなり、その格好はやめた方が良い、もっと暖かい服装に着替えた方が良いと提案してきた。せっかくお洒落したのにと、芙蓉は不満を抱えながらも着替えて来たのだが、果たして伏黒の提案は正しかった。
芙蓉は伏黒に先立って砂浜へ足を踏み入れる。波打ち際へ近づくにつれ、陽の光を受けた砂がキラキラと光る中、小さな貝殻やシーグラスが落ちているのが目に入る。芙蓉はそのひとつを拾い上げて陽にかざせば淡いブルーが柔らかく光る。辺りを見回すと、曇りガラスのような白や淡いグリーンが目に付き、芙蓉はひとつ、ふたつと拾い集めていく。伏黒はそんな無邪気な芙蓉を微笑ましく眺めていた。
ここ最近、伏黒の脳裏にも芙蓉と過ごせるタイムリミットがちらつくようになってきた。それぞれ別の学校へ進学するのは自分たちで決めた事だし、それが理由で、離れてしまう事で彼女との関係性がゼロになるわけではないーそうわかっていても、やはり別離は淋しくなるのだろうなと、ぼんやりと思っていた。
「めぐみぃ〜!」
少し離れたところで、子供のように芙蓉が手招きしている。何か珍しいものでも見つけたのだろうかと、伏黒はゆっくりとそちらに向かって歩き出す。
「見てこれ!こんなに拾ったの!」
やや興奮気味に芙蓉は小さな貝殻やシーグラスを両手いっぱいになりそうな程拾い集めていた。
「…こんなにどーすんだ、これ」
「今日遊びに来た記念に持って帰るの」
芙蓉は自身のバッグから小さなビニール袋を取り出すよう伏黒に頼み、彼が口を広げた袋にざらざらと流し入れる。色とりどり、大小様々なシーグラスや貝殻をたくさん見つけて満足気に笑う芙蓉は本当に子供のようで。
「恵も一緒に集めよ」
「これ以上集めてどーすんだよ」
「さっきのお土産屋さんで、フォトフレームをシーグラスで飾ってるのがあって、やってみたいなって思って」
なるほど女子が好みそうな物だと納得したのも束の間、また1人で宝探しに行こうとする芙蓉を引き止める。
「一緒に来たのに別行動するのか?」
拗ねたように言う伏黒に芙蓉は照れたように笑った。芙蓉は少し躊躇いがちに伏黒の手を取り、向こうにいっぱいあったの、一緒に行こうと歩き出した。
長い事海辺で過ごしたせいですっかり身体が冷え切ってしまった2人は、暖を取りがてら昼食をとる事にした。昼食の後は近くの路地を散策したり、神社を参拝したりしながら、2人で写真をたくさん撮り歩いた。
陽が傾いてきた頃、それぞれ食べ歩きグルメで有名な煎餅やクレープを手に再び海辺にやってきた。2人はベンチに座ってそれぞれのフードを交換しあい、小腹も満たされたところで落ち着いて海を眺める。
「今日はありがとう、すごく楽しかった。…恵との、すごく良い、思い出が出来た」
「そう言う割に、なんで泣いてんだよ」
伏黒は芙蓉の目尻に光る小さな涙を見逃さなかった。
「ん…、どうしても、先の、事が見えちゃって」
ダメだね、と言いながら芙蓉は無理矢理涙を潰して笑って見せる。が、その笑顔はすぐ涙に押し流されて。
「…恵と過ごす、残りの日は、ずっと、笑って過ごそうって、決めてた、のに」
涙を拭いながら自身の想いを吐き出す芙蓉。伏黒はそんな彼女の手を労るように優しく握った。
「泣いたって笑ったって、それ全部が芙蓉だろ。無理に気持ちを抑える事もねぇだろ」
「…でも、」
「素直なのが芙蓉の良いところだ。隠すなよ」
「…っもぉ、余計泣けて、きちゃうじゃん」
「…悪い、泣かすつもりはなかった」
言いながら伏黒はそっと芙蓉の肩を抱いた。恵の意地悪、と芙蓉は涙を拭うと戯けて頬を膨らませ、笑顔を作って見せた。まだ僅かに涙が残る目のまま、芙蓉はバッグから小さな包みを出し、伏黒に手渡す。
「…これ、さっき行った、神社のお守り。恵に何事もなく、元気に過ごせます様にって。…呪術師にお守り渡すのって、変かもしれないけど、私の気持ち」
「…ありがとう。…大事にする」
「ね、恵」
受け取った包みを見ていた伏黒は芙蓉に名を呼ばれて顔を上げる。彼女はじっと海を見つめていた。
「…私の事、忘れないでね」
海を見つめたまま、芙蓉はひと雫の涙を流した。そんな彼女の横顔に凛とした美しさを感じ、いつの間にか大人になりつつある芙蓉に伏黒は鼓動の早まりを感じた。
「…俺はそんなに信用ないか?」
伏黒は自身の気持ちを隠すように、芙蓉の言葉に冗談ぽく言い返す。
「ううん、そうじゃなくて…、恵、モテるから」
伏黒にとって意外過ぎた芙蓉の言葉に半分呆れ、あとの半分は笑うしかなかった。
「…その言葉はそっくり返しとく。…高専で今年入学するのは今のところ俺だけらしいし、1つ上にいる女の先輩は俺の遠い親戚なんだと。だから少なくとも芙蓉が心配するような事は何もねぇよ」
伏黒の言葉に芙蓉は目に見えて安心した顔を見せる。本当に彼女は素直だと、これまでに何度思っただろうか。
「…芙蓉もよそ見するなよな」
伏黒の言葉に驚いた様子の芙蓉、その顔が赤く見えるのは夕焼けのせいだとは誤魔化せなかった。
「そりゃあ1年で一番寒い季節だからな」
前日の曇天が嘘のように晴れ渡った日曜日。伏黒と芙蓉は朝早くに家を出て、電車に揺られて海へやってきた。2人が住む埼玉は内陸、せっかく海を見るのなら砂浜のある海がいい、という事で、少し足を伸ばして観光地となっているところを楽しもうとなった。
「やっぱり人が多いね」
「観光地だからな」
駅からのんびり歩き、通り沿いに並ぶ土産物屋を眺めながら海を目指す。通りを抜けて海へ出ると、冷たい潮風が吹き付ける。
「…寒くないか?」
「…寒いけどがんばれるレベル」
当初はお洒落を重視した服装で出かけようとした芙蓉。伏黒は待ち合わせ場所で彼女の服装を見るなり、その格好はやめた方が良い、もっと暖かい服装に着替えた方が良いと提案してきた。せっかくお洒落したのにと、芙蓉は不満を抱えながらも着替えて来たのだが、果たして伏黒の提案は正しかった。
芙蓉は伏黒に先立って砂浜へ足を踏み入れる。波打ち際へ近づくにつれ、陽の光を受けた砂がキラキラと光る中、小さな貝殻やシーグラスが落ちているのが目に入る。芙蓉はそのひとつを拾い上げて陽にかざせば淡いブルーが柔らかく光る。辺りを見回すと、曇りガラスのような白や淡いグリーンが目に付き、芙蓉はひとつ、ふたつと拾い集めていく。伏黒はそんな無邪気な芙蓉を微笑ましく眺めていた。
ここ最近、伏黒の脳裏にも芙蓉と過ごせるタイムリミットがちらつくようになってきた。それぞれ別の学校へ進学するのは自分たちで決めた事だし、それが理由で、離れてしまう事で彼女との関係性がゼロになるわけではないーそうわかっていても、やはり別離は淋しくなるのだろうなと、ぼんやりと思っていた。
「めぐみぃ〜!」
少し離れたところで、子供のように芙蓉が手招きしている。何か珍しいものでも見つけたのだろうかと、伏黒はゆっくりとそちらに向かって歩き出す。
「見てこれ!こんなに拾ったの!」
やや興奮気味に芙蓉は小さな貝殻やシーグラスを両手いっぱいになりそうな程拾い集めていた。
「…こんなにどーすんだ、これ」
「今日遊びに来た記念に持って帰るの」
芙蓉は自身のバッグから小さなビニール袋を取り出すよう伏黒に頼み、彼が口を広げた袋にざらざらと流し入れる。色とりどり、大小様々なシーグラスや貝殻をたくさん見つけて満足気に笑う芙蓉は本当に子供のようで。
「恵も一緒に集めよ」
「これ以上集めてどーすんだよ」
「さっきのお土産屋さんで、フォトフレームをシーグラスで飾ってるのがあって、やってみたいなって思って」
なるほど女子が好みそうな物だと納得したのも束の間、また1人で宝探しに行こうとする芙蓉を引き止める。
「一緒に来たのに別行動するのか?」
拗ねたように言う伏黒に芙蓉は照れたように笑った。芙蓉は少し躊躇いがちに伏黒の手を取り、向こうにいっぱいあったの、一緒に行こうと歩き出した。
長い事海辺で過ごしたせいですっかり身体が冷え切ってしまった2人は、暖を取りがてら昼食をとる事にした。昼食の後は近くの路地を散策したり、神社を参拝したりしながら、2人で写真をたくさん撮り歩いた。
陽が傾いてきた頃、それぞれ食べ歩きグルメで有名な煎餅やクレープを手に再び海辺にやってきた。2人はベンチに座ってそれぞれのフードを交換しあい、小腹も満たされたところで落ち着いて海を眺める。
「今日はありがとう、すごく楽しかった。…恵との、すごく良い、思い出が出来た」
「そう言う割に、なんで泣いてんだよ」
伏黒は芙蓉の目尻に光る小さな涙を見逃さなかった。
「ん…、どうしても、先の、事が見えちゃって」
ダメだね、と言いながら芙蓉は無理矢理涙を潰して笑って見せる。が、その笑顔はすぐ涙に押し流されて。
「…恵と過ごす、残りの日は、ずっと、笑って過ごそうって、決めてた、のに」
涙を拭いながら自身の想いを吐き出す芙蓉。伏黒はそんな彼女の手を労るように優しく握った。
「泣いたって笑ったって、それ全部が芙蓉だろ。無理に気持ちを抑える事もねぇだろ」
「…でも、」
「素直なのが芙蓉の良いところだ。隠すなよ」
「…っもぉ、余計泣けて、きちゃうじゃん」
「…悪い、泣かすつもりはなかった」
言いながら伏黒はそっと芙蓉の肩を抱いた。恵の意地悪、と芙蓉は涙を拭うと戯けて頬を膨らませ、笑顔を作って見せた。まだ僅かに涙が残る目のまま、芙蓉はバッグから小さな包みを出し、伏黒に手渡す。
「…これ、さっき行った、神社のお守り。恵に何事もなく、元気に過ごせます様にって。…呪術師にお守り渡すのって、変かもしれないけど、私の気持ち」
「…ありがとう。…大事にする」
「ね、恵」
受け取った包みを見ていた伏黒は芙蓉に名を呼ばれて顔を上げる。彼女はじっと海を見つめていた。
「…私の事、忘れないでね」
海を見つめたまま、芙蓉はひと雫の涙を流した。そんな彼女の横顔に凛とした美しさを感じ、いつの間にか大人になりつつある芙蓉に伏黒は鼓動の早まりを感じた。
「…俺はそんなに信用ないか?」
伏黒は自身の気持ちを隠すように、芙蓉の言葉に冗談ぽく言い返す。
「ううん、そうじゃなくて…、恵、モテるから」
伏黒にとって意外過ぎた芙蓉の言葉に半分呆れ、あとの半分は笑うしかなかった。
「…その言葉はそっくり返しとく。…高専で今年入学するのは今のところ俺だけらしいし、1つ上にいる女の先輩は俺の遠い親戚なんだと。だから少なくとも芙蓉が心配するような事は何もねぇよ」
伏黒の言葉に芙蓉は目に見えて安心した顔を見せる。本当に彼女は素直だと、これまでに何度思っただろうか。
「…芙蓉もよそ見するなよな」
伏黒の言葉に驚いた様子の芙蓉、その顔が赤く見えるのは夕焼けのせいだとは誤魔化せなかった。