変転
恵の幼馴染のお名前は?
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この空きビルは4階建てのようで、間取りから見ると会社の事務所などに使われるような作りだった。
部屋を綺麗に片付けて退去した様子の部屋もあれば、夜逃げのようにデスクやキャビネットに書類などがそっくりそのまま収められている部屋もある。
それ程広い建物でもないが、伏黒は今までの任務以上に慎重に呪いの気配を追っていた。
玉犬にあちこち索敵させているが、引っかかるのは弱い呪いばかり。1階2階共に大きな当たりはない。五条と芙蓉に先立って伏黒が3階に足を踏み入れると、僅かに呪いの気配が濃くなったのを感じた。
改めて気を引き締め、伏黒は近くの部屋のドアを開ける。と、先行させている玉犬が何かに反応した気配を感じ、伏黒はその部屋に入るのをやめて玉犬を追った。
「…今日はだいぶ慎重にやってるねぇ」
芙蓉と共に階段を昇りながら、五条は薄く笑った。
「こういうところって、何が出てくるかわかんないんでしょ?慎重になるのが普通じゃないの?」
「ん〜まぁそうかもしれないけど、今日の相手は恵の実力ならこんなに慎重になる程でもないんだけどねぇ」
階段を昇りきると、通路の先の方に伏黒の後ろ姿が見えた。五条はまた壁に凭れて静観を始める。
芙蓉は近くの薄く開いたドアに気が付き、静かに押し開ける。この部屋は事務所の姿をそっくり残していて、デスクの上に散らかった書類が芙蓉の目を引いた。
ドア近くのデスクに近付いて書類を覗き見る。が、その書類は年数が経っているのか、劣化が酷く文字が掠れ、何の書類かを読み取るのは難しい。
「…、芙蓉…」
名を呼ばれ、芙蓉は書類からドアへと視線を移す。
「…?…今のって…」
伏黒の声ではない。となると、この場にいる五条の声、なのだろうが、どこか微妙な違和感を覚えた。部屋を出て確認しようと入り口へ向かう。
「あ、れ…?」
閉めた覚えのないドアが閉まっている。ドアノブに手を掛けて回すも、ドアノブが回らない。ドアを叩いて五条を呼ぼうとした刹那、芙蓉は背後に呪いの気配を感じて振り返る。と、得体の知れない、大きな波打つ物体が彼女の想像を超える速さで襲いかかってきた。
「ぃやあぁぁぁ!!」
芙蓉の悲鳴がビルにこだました。離れた場所で索敵していた伏黒は玉犬と共に急いでとって返し、近くにいた五条はドアを開けようと手を伸ばす。
「、お…?」
五条が掴もうとしていたドアノブが消えた。正確に言えば、ドアそのものが吹き飛び無くなっていた。ドアが吹き飛んだ部屋の中では、呪いが芙蓉に襲いかかるところだった。呪いが彼女を取り込もうとする直前、何が割れるような大きな音と共に呪いは弾き返されーその呪いはガラス片のような鋭利な物に全身を突き刺され貫かれ、壁に縫い止められていた。程なく呪いの断末魔が響き、黒い塊が霧散すると五条は帳が上がる気配を感じた。
「おっ…と、」
芙蓉は気を失い、今まさに倒れるところを五条が支え受け止めた。ざっと芙蓉にケガがない事を確認し、五条がひと息ついたところで伏黒が部屋に飛び込んできた。
「芙蓉!」
「大丈夫、呪力を使い切って気を失ってるだけだよ。ケガもないから安心していいよ」
「…」
「高専に行こうか。念の為、硝子に診てもらおう」
伏黒は黙ったまま五条から芙蓉を奪い取るようにして彼女を抱き抱えた。その顔は不機嫌さを隠そうともせず、五条を待たずにさっさと階段を降りて行く。五条は伏黒の後ろ姿を見ながらやれやれと肩をすくめた。
ビルの外で待機していた藤田は出て来た伏黒を見て飛び上がった。伏黒の剣幕に何も聞けず、慌てて後部座席のドアを開けて伏黒に手を貸して芙蓉を車に乗せる。伏黒もそのまま車に乗り込んだ。
「藤田、高専まで飛ばして」
いつの間にか外に出て来ていて、藤田に代わって呪いが消えた事を確認した五条は助手席に乗り込む。藤田は運転席に乗り込むと急いでエンジンを回した。
幸いにして渋滞に巻き込まれる事もなく、車は無事に高専へ到着した。道中、五条が高専専属医の家入に連絡していたのもあって、正門前では家入が待機していた。
「久しぶりだな、伏黒」
それぞれ車を降り、伏黒は家入の言葉に小さく頭を下げた。相変わらず不機嫌そうな表情のまま、何も言わずに芙蓉を抱えて車から降ろす。手を貸そうと藤田の申し出を断り、伏黒は家入に続いて高専の建物へ向かった。
「そこに寝かせてやってくれ」
辿り着いた医務室で家入の指示を受け、伏黒はそっと、ベッドに芙蓉を横たえた。
「僕が見たところ、ケガはないと思うんだけど」
五条の言葉に返事もせず家入は芙蓉の状態を確認する。ややあって、家入は様子を見守っていた伏黒に向かって問題ない、大丈夫だと声をかけた。
「呪力切れだな。少し休めば目を覚ますだろう」
その言葉に伏黒は初めて安心したようで、今まで呼吸していなかったように大きく息を吐き出した。
「…それにしても、どうしてこんな状況になったんだ?この子はお前の親戚の子だろう?それにこの子はまだ術式も発現してないとか言ってたよな?」
家入と伏黒の冷ややかな目が五条に集まった。
部屋を綺麗に片付けて退去した様子の部屋もあれば、夜逃げのようにデスクやキャビネットに書類などがそっくりそのまま収められている部屋もある。
それ程広い建物でもないが、伏黒は今までの任務以上に慎重に呪いの気配を追っていた。
玉犬にあちこち索敵させているが、引っかかるのは弱い呪いばかり。1階2階共に大きな当たりはない。五条と芙蓉に先立って伏黒が3階に足を踏み入れると、僅かに呪いの気配が濃くなったのを感じた。
改めて気を引き締め、伏黒は近くの部屋のドアを開ける。と、先行させている玉犬が何かに反応した気配を感じ、伏黒はその部屋に入るのをやめて玉犬を追った。
「…今日はだいぶ慎重にやってるねぇ」
芙蓉と共に階段を昇りながら、五条は薄く笑った。
「こういうところって、何が出てくるかわかんないんでしょ?慎重になるのが普通じゃないの?」
「ん〜まぁそうかもしれないけど、今日の相手は恵の実力ならこんなに慎重になる程でもないんだけどねぇ」
階段を昇りきると、通路の先の方に伏黒の後ろ姿が見えた。五条はまた壁に凭れて静観を始める。
芙蓉は近くの薄く開いたドアに気が付き、静かに押し開ける。この部屋は事務所の姿をそっくり残していて、デスクの上に散らかった書類が芙蓉の目を引いた。
ドア近くのデスクに近付いて書類を覗き見る。が、その書類は年数が経っているのか、劣化が酷く文字が掠れ、何の書類かを読み取るのは難しい。
「…、芙蓉…」
名を呼ばれ、芙蓉は書類からドアへと視線を移す。
「…?…今のって…」
伏黒の声ではない。となると、この場にいる五条の声、なのだろうが、どこか微妙な違和感を覚えた。部屋を出て確認しようと入り口へ向かう。
「あ、れ…?」
閉めた覚えのないドアが閉まっている。ドアノブに手を掛けて回すも、ドアノブが回らない。ドアを叩いて五条を呼ぼうとした刹那、芙蓉は背後に呪いの気配を感じて振り返る。と、得体の知れない、大きな波打つ物体が彼女の想像を超える速さで襲いかかってきた。
「ぃやあぁぁぁ!!」
芙蓉の悲鳴がビルにこだました。離れた場所で索敵していた伏黒は玉犬と共に急いでとって返し、近くにいた五条はドアを開けようと手を伸ばす。
「、お…?」
五条が掴もうとしていたドアノブが消えた。正確に言えば、ドアそのものが吹き飛び無くなっていた。ドアが吹き飛んだ部屋の中では、呪いが芙蓉に襲いかかるところだった。呪いが彼女を取り込もうとする直前、何が割れるような大きな音と共に呪いは弾き返されーその呪いはガラス片のような鋭利な物に全身を突き刺され貫かれ、壁に縫い止められていた。程なく呪いの断末魔が響き、黒い塊が霧散すると五条は帳が上がる気配を感じた。
「おっ…と、」
芙蓉は気を失い、今まさに倒れるところを五条が支え受け止めた。ざっと芙蓉にケガがない事を確認し、五条がひと息ついたところで伏黒が部屋に飛び込んできた。
「芙蓉!」
「大丈夫、呪力を使い切って気を失ってるだけだよ。ケガもないから安心していいよ」
「…」
「高専に行こうか。念の為、硝子に診てもらおう」
伏黒は黙ったまま五条から芙蓉を奪い取るようにして彼女を抱き抱えた。その顔は不機嫌さを隠そうともせず、五条を待たずにさっさと階段を降りて行く。五条は伏黒の後ろ姿を見ながらやれやれと肩をすくめた。
ビルの外で待機していた藤田は出て来た伏黒を見て飛び上がった。伏黒の剣幕に何も聞けず、慌てて後部座席のドアを開けて伏黒に手を貸して芙蓉を車に乗せる。伏黒もそのまま車に乗り込んだ。
「藤田、高専まで飛ばして」
いつの間にか外に出て来ていて、藤田に代わって呪いが消えた事を確認した五条は助手席に乗り込む。藤田は運転席に乗り込むと急いでエンジンを回した。
幸いにして渋滞に巻き込まれる事もなく、車は無事に高専へ到着した。道中、五条が高専専属医の家入に連絡していたのもあって、正門前では家入が待機していた。
「久しぶりだな、伏黒」
それぞれ車を降り、伏黒は家入の言葉に小さく頭を下げた。相変わらず不機嫌そうな表情のまま、何も言わずに芙蓉を抱えて車から降ろす。手を貸そうと藤田の申し出を断り、伏黒は家入に続いて高専の建物へ向かった。
「そこに寝かせてやってくれ」
辿り着いた医務室で家入の指示を受け、伏黒はそっと、ベッドに芙蓉を横たえた。
「僕が見たところ、ケガはないと思うんだけど」
五条の言葉に返事もせず家入は芙蓉の状態を確認する。ややあって、家入は様子を見守っていた伏黒に向かって問題ない、大丈夫だと声をかけた。
「呪力切れだな。少し休めば目を覚ますだろう」
その言葉に伏黒は初めて安心したようで、今まで呼吸していなかったように大きく息を吐き出した。
「…それにしても、どうしてこんな状況になったんだ?この子はお前の親戚の子だろう?それにこの子はまだ術式も発現してないとか言ってたよな?」
家入と伏黒の冷ややかな目が五条に集まった。