変転
恵の幼馴染のお名前は?
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「…もうこんな時間か。引き留めて悪かった」
時計の針は18時半に差し掛かっていた。19時が門限だと以前芙蓉が言っていたのを伏黒は思い出した。芙蓉の家まで30分もかからないが、雨も降っているから普段より少し時間がかかるだろうーそう思って伏黒はすっかり冷め切ったコーヒーを飲む。
伏黒の中では、今までの状況を解決するにはもっと時間がかかるだろうと思っていた。芙蓉がもっと詳細な話を求めてくるかもしれないと思っていたが、伏黒が思っていた以上に芙蓉は伏黒をよく理解していた。
「芙蓉、本当にありがとう」
「ヤダもぅ、急に改まって。恥ずかしいじゃん」
芙蓉は自身のカップと伏黒のカップを手に台所へ逃げ込んだ。あまり使っている形跡がないシンクでカップを洗う。と、そこで今日持って来た保冷バッグが目に入るーほったらかしになっていた事に気付き、慌ててバッグを開けてタッパーを取り出す。
「恵ぃ、冷蔵庫開けるよー」
伏黒の返事が届き、冷蔵庫を開けて持参した食事を冷蔵庫に詰め込み始める。
「…いつも悪いな。よろしく伝えてくれ」
「お母さんも恵の事心配してたよ。しっかり食べるようにって言ってた」
このところあまり食欲がなかったのだが、作ってくれる人の事を考えたら、食べないのは失礼に当たるなと思い直し、今夜からしっかり食べようと伏黒は冷蔵庫の中を眺めながら思った。
「…そろそろ送ってく」
伏黒の言葉に芙蓉は空いたタッパーを保冷バッグに入れ、貸していたタオルを小脇に抱えて帰る準備を整えた。外ではまだ雨が降っている。
「芙蓉」
ドアを開けようとしたところで伏黒に声をかけられ、芙蓉は彼を振り返る。
「…っめぐ、み?」
芙蓉は驚きの声を上げるー伏黒は芙蓉を抱き締めた。突然の事に、芙蓉はタオルとバッグを取り落とした。
「悪ぃ…、少しだけ」
津美紀が突然倒れ、2人で暮らしていたアパートで1人になってしまった伏黒。淋しさや不安が彼を苛んでいたのだろう事は想像に難くない。その気持ちを吐露する事も出来なかった伏黒にとって、芙蓉の言葉は彼を本当に勇気づけたのだろう。芙蓉は伏黒の気持ちを受け止めるように、おずおずと彼の背に腕を回した。
ややあって、伏黒は腕を緩めて芙蓉の顔を覗き込む。芙蓉は僅かに頬を染め、顔を伏せていた。
「…芙蓉」
「っ、え…?」
名を呼ばれ、芙蓉は顔を上げる。と、突然目元を大きな手で遮られる。視界を奪われた事に戸惑った刹那、少しひやりとした柔らかいものが芙蓉の唇に優しく触れた。目元に感じていた暖かさが離れて視界が戻れば、そっぽを向いた伏黒。心なしか、彼の頬が赤いように見えるーそんな彼を見て、芙蓉は先程の出来事が何だったかを悟ると同時に、顔に熱が集まるのを感じた。
「っめ、恵…」
「…芙蓉が居てくれて、本当に良かった」
まだ少し頬が赤いままではあるが、伏黒はしっかりと芙蓉を見つめて言った。
「…俺の我儘になるが…、これからも側にいて欲しい」
芙蓉は驚いて目を見開き、両手で口元を覆った。
「あ、ぁ…え…と、…」
「…なんでそんなに動揺してんだよ」
本当に、素直でわかりやすいー泡食った様子の芙蓉に伏黒は笑った。彼女を見ていると、先程までの自身の照れが何処かへ消えて行くようだった。
「え、なん、でって…、」
「…とりあえず行くぞ。本当に遅くなる」
伏黒は先程芙蓉が落としたバッグとタオルを拾い、まだ落ち着かない様子の芙蓉の背を押してアパートを出る。芙蓉には津美紀の傘を手渡した。
「…な、んで、恵はそんなに、落ち着いてるの」
白い傘の下、芙蓉は俯いたまま呟くように伏黒に問いかける。未だに芙蓉の頬は赤い。
「…芙蓉が動揺し過ぎ」
「だ、って、…」
「…ん?」
「…初めて、なんだよ」
一瞬、何の事を言っているのか理解出来なかった伏黒だったが、話をしながらも俯いたままで、顔を上げようとしない芙蓉を見ていてやっと理解した。
「…俺も同じだ」
その言葉に芙蓉は勢いよく顔を上げ、伏黒を振り返る。
「…じゃあなんで、…そんなに、落ち着いてるの」
「自分よりテンパってる奴見たら冷静になれるもんだ」
それでも納得のいかない様子の芙蓉に対し、伏黒の中で悪戯心が少しだけ芽生える。
「…それとも何か、経験してた方が良かったのか?」
その言葉に芙蓉は子供の様に大きく首を振る。
「じゃあ問題ねぇだろ?」
恥ずかしそうに芙蓉が小さく頷くのを見て、伏黒は足を止めた。芙蓉もつられて足を止める。伏黒の行動に首を傾げ、彼を見上げる芙蓉。
「…俺は、芙蓉の事を誰にも譲る気はねぇから」
揶揄われるものだとばかり思っていた芙蓉に伏黒の不意打ちがクリーンヒット。真剣な彼の言葉を理解するにつれ、芙蓉の顔はみるみる赤くなっていく。
「そ…れ、って…」
「そういう事だ」
驚きと喜びと羞恥と、もう様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、何をどうしたら、と混乱して真っ赤な顔の芙蓉はただ頷くしか出来なかった。
時計の針は18時半に差し掛かっていた。19時が門限だと以前芙蓉が言っていたのを伏黒は思い出した。芙蓉の家まで30分もかからないが、雨も降っているから普段より少し時間がかかるだろうーそう思って伏黒はすっかり冷め切ったコーヒーを飲む。
伏黒の中では、今までの状況を解決するにはもっと時間がかかるだろうと思っていた。芙蓉がもっと詳細な話を求めてくるかもしれないと思っていたが、伏黒が思っていた以上に芙蓉は伏黒をよく理解していた。
「芙蓉、本当にありがとう」
「ヤダもぅ、急に改まって。恥ずかしいじゃん」
芙蓉は自身のカップと伏黒のカップを手に台所へ逃げ込んだ。あまり使っている形跡がないシンクでカップを洗う。と、そこで今日持って来た保冷バッグが目に入るーほったらかしになっていた事に気付き、慌ててバッグを開けてタッパーを取り出す。
「恵ぃ、冷蔵庫開けるよー」
伏黒の返事が届き、冷蔵庫を開けて持参した食事を冷蔵庫に詰め込み始める。
「…いつも悪いな。よろしく伝えてくれ」
「お母さんも恵の事心配してたよ。しっかり食べるようにって言ってた」
このところあまり食欲がなかったのだが、作ってくれる人の事を考えたら、食べないのは失礼に当たるなと思い直し、今夜からしっかり食べようと伏黒は冷蔵庫の中を眺めながら思った。
「…そろそろ送ってく」
伏黒の言葉に芙蓉は空いたタッパーを保冷バッグに入れ、貸していたタオルを小脇に抱えて帰る準備を整えた。外ではまだ雨が降っている。
「芙蓉」
ドアを開けようとしたところで伏黒に声をかけられ、芙蓉は彼を振り返る。
「…っめぐ、み?」
芙蓉は驚きの声を上げるー伏黒は芙蓉を抱き締めた。突然の事に、芙蓉はタオルとバッグを取り落とした。
「悪ぃ…、少しだけ」
津美紀が突然倒れ、2人で暮らしていたアパートで1人になってしまった伏黒。淋しさや不安が彼を苛んでいたのだろう事は想像に難くない。その気持ちを吐露する事も出来なかった伏黒にとって、芙蓉の言葉は彼を本当に勇気づけたのだろう。芙蓉は伏黒の気持ちを受け止めるように、おずおずと彼の背に腕を回した。
ややあって、伏黒は腕を緩めて芙蓉の顔を覗き込む。芙蓉は僅かに頬を染め、顔を伏せていた。
「…芙蓉」
「っ、え…?」
名を呼ばれ、芙蓉は顔を上げる。と、突然目元を大きな手で遮られる。視界を奪われた事に戸惑った刹那、少しひやりとした柔らかいものが芙蓉の唇に優しく触れた。目元に感じていた暖かさが離れて視界が戻れば、そっぽを向いた伏黒。心なしか、彼の頬が赤いように見えるーそんな彼を見て、芙蓉は先程の出来事が何だったかを悟ると同時に、顔に熱が集まるのを感じた。
「っめ、恵…」
「…芙蓉が居てくれて、本当に良かった」
まだ少し頬が赤いままではあるが、伏黒はしっかりと芙蓉を見つめて言った。
「…俺の我儘になるが…、これからも側にいて欲しい」
芙蓉は驚いて目を見開き、両手で口元を覆った。
「あ、ぁ…え…と、…」
「…なんでそんなに動揺してんだよ」
本当に、素直でわかりやすいー泡食った様子の芙蓉に伏黒は笑った。彼女を見ていると、先程までの自身の照れが何処かへ消えて行くようだった。
「え、なん、でって…、」
「…とりあえず行くぞ。本当に遅くなる」
伏黒は先程芙蓉が落としたバッグとタオルを拾い、まだ落ち着かない様子の芙蓉の背を押してアパートを出る。芙蓉には津美紀の傘を手渡した。
「…な、んで、恵はそんなに、落ち着いてるの」
白い傘の下、芙蓉は俯いたまま呟くように伏黒に問いかける。未だに芙蓉の頬は赤い。
「…芙蓉が動揺し過ぎ」
「だ、って、…」
「…ん?」
「…初めて、なんだよ」
一瞬、何の事を言っているのか理解出来なかった伏黒だったが、話をしながらも俯いたままで、顔を上げようとしない芙蓉を見ていてやっと理解した。
「…俺も同じだ」
その言葉に芙蓉は勢いよく顔を上げ、伏黒を振り返る。
「…じゃあなんで、…そんなに、落ち着いてるの」
「自分よりテンパってる奴見たら冷静になれるもんだ」
それでも納得のいかない様子の芙蓉に対し、伏黒の中で悪戯心が少しだけ芽生える。
「…それとも何か、経験してた方が良かったのか?」
その言葉に芙蓉は子供の様に大きく首を振る。
「じゃあ問題ねぇだろ?」
恥ずかしそうに芙蓉が小さく頷くのを見て、伏黒は足を止めた。芙蓉もつられて足を止める。伏黒の行動に首を傾げ、彼を見上げる芙蓉。
「…俺は、芙蓉の事を誰にも譲る気はねぇから」
揶揄われるものだとばかり思っていた芙蓉に伏黒の不意打ちがクリーンヒット。真剣な彼の言葉を理解するにつれ、芙蓉の顔はみるみる赤くなっていく。
「そ…れ、って…」
「そういう事だ」
驚きと喜びと羞恥と、もう様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、何をどうしたら、と混乱して真っ赤な顔の芙蓉はただ頷くしか出来なかった。