変転
恵の幼馴染のお名前は?
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窓の外では雨が本降りになっていた。こんなに降るなんて予報は出てなかったはずなのに、とため息混じりに芙蓉は窓越しに雨雲を睨みつける。
「どうかしたのか?」
テーブルにマグを2つ置いた伏黒が声をかける。以前、ここでテスト勉強をした時と同じように、コーヒーとココアの混ざり合った香りが漂う。
少し落ち着いて話をしたいという伏黒の言葉に芙蓉は頷き、飲み物を準備するという伏黒を待っていた。
「…傘、持って来なかったなって」
テーブルの前に座り、カップを包み込んで手を温める。
「傘くらい貸してやるよ」
伏黒は真っ黒いコーヒーをゆっくりと啜る。彼に倣って芙蓉もココアを啜れば、ココアの温かさと香りに、芙蓉の中でわだかまっていた思いが少しだけ、解れた気がした。カップを置いて伏黒を見遣ると、彼は所在無げにカップのコーヒーを見つめていた。
芙蓉の視線に気付いた伏黒は視線を漂わせ、ひとつ深呼吸をして口を開いた。
「…何から話していいか、まだ纏まってねぇんだけど」
「うん、…大丈夫」
そう返事をしながら、芙蓉は珍しいな、と思った。いつも冷静沈着な伏黒、自身を俯瞰的に見つめる事が出来る彼が、まだ気持ちの整理がついていないという。それ程までに伏黒は動揺していた、という事だろうか。
「…、俺、高専に進学する事にした」
「高専…って、悟くんがいるところ?」
「あぁ。…あの人…、五条先生に相談して、高専にはもう話を通してもらってある」
今までずっと五条の事を“あの人”と呼んでいた伏黒が“先生”と呼んだ事に、芙蓉は僅かに驚いた。
そして、それはつまりー
「…恵は、呪術師になる、の?」
伏黒は黙って、確りと頷いた。
「俺は、津美紀を助けたい」
力強い言葉だった。
「…世の中には善人と悪人がいて、」
突然の言葉に、芙蓉は目を瞬かせた。伏黒は芙蓉の様子に構う事なく言葉を続ける。
「津美紀は、善人だと思う。…そんな善人である津美紀が呪われて、悪人である連中はのうのうと生きてる。俺は、津美紀に幸せになって欲しい。…津美紀のような善人が幸せを享受できるように、俺は人を助けたい」
これ程明確に自身の想いを話す伏黒を見るのは初めてかもしれない、と芙蓉は思った。と同時に、津美紀の事を本当に大切に思っているのだなと改めて実感した。
「…今まで喧嘩してたのも、関係ある、よね?」
芙蓉の言葉に、伏黒は僅かに驚いたようだった。
伏黒の今までの喧嘩相手は不良と言われる連中ばかりだった。その不良連中と伏黒の違うところは、周りの人間に対しての振る舞い方だった。少なくとも伏黒は、他人を力で抑圧して従わせるようなー所謂、パシリという存在を作ったり、自分のご機嫌取りの為に他人を巻き込むような事は絶対にしなかった。
「…ホント、よく見てるよな」
伏黒は小さく笑った。
「子供の頃から、気付かなくてもいいような事にも気付いちゃう方だったからね」
芙蓉は肩をすくめて自嘲気味に呟いた。細かいところまで目が行き届く、気がつくというのは長所であると思われがちだが、当の本人からすればあまり良いものではないようだった。今でこそ見て見ぬフリという逃れ方を身につけたものの、それまでは他人の粗探しをしているようだと、つくづく自分に嫌気がさしたものだった。
「…どうしても、“喧嘩をした”っていう事にばっかり目がいっちゃうけど、恵は不良からターゲットにされてる人を助けてたんだよね。…最初はどういうつもりで始めたのかわかんなかったけど、ね」
伏黒は芙蓉の言葉に内心感謝していた。自身の行動に対して何も言わない、何も言えないと言っていたくせに、しっかり理由まで理解していたとはー。彼女のこういう、痒いところに手が届くような、何でも理解してくれる事は本当にありがたかった。そして、こうして側に居てくれるだけで、どれだけ自分が支えられているかーいくら言葉にしても足りないくらいの感謝の気持ちでいっぱいだった。だからこそ、しっかり自分の言葉で想いを伝えていかなくてはならないと、伏黒は再確認した。
「…正直なところ、芙蓉がそこまで気付いてるとは思わなかった」
「ずっと確証がなかったからね。憶測で言っていい事じゃないって思ってたし。けど、さっきの恵の話でハッキリわかったよ」
笑顔で言う芙蓉。久しぶりに屈託のない笑顔を見た気がして、伏黒は目を奪われた。
「? 恵?」
声をかけられて伏黒は我に返り、芙蓉から目を離してコーヒーを飲んだ。
「…何でもねぇ」
「変なの」
「…うるせぇ」
そう言いながら笑う伏黒。またこうして、他愛のない話をして、笑い合って。
「前も言ったと思うんだけどね、」
優しい表情で芙蓉が口を開く。
「恵は何でも自分で抱え過ぎだよ。そりゃぁ…私はちょっと頼りないかもしれないけど、恵の背負ってるものを私にもわけてくれれば、恵の分は少し軽くなるでしょ?私は絶対、何があっても恵から手を離さないから」
「…頼むからいきなりそー言う事を言うんじゃねぇ」
コーヒーカップを見つめる伏黒の顔は赤くなっていた。
「どうかしたのか?」
テーブルにマグを2つ置いた伏黒が声をかける。以前、ここでテスト勉強をした時と同じように、コーヒーとココアの混ざり合った香りが漂う。
少し落ち着いて話をしたいという伏黒の言葉に芙蓉は頷き、飲み物を準備するという伏黒を待っていた。
「…傘、持って来なかったなって」
テーブルの前に座り、カップを包み込んで手を温める。
「傘くらい貸してやるよ」
伏黒は真っ黒いコーヒーをゆっくりと啜る。彼に倣って芙蓉もココアを啜れば、ココアの温かさと香りに、芙蓉の中でわだかまっていた思いが少しだけ、解れた気がした。カップを置いて伏黒を見遣ると、彼は所在無げにカップのコーヒーを見つめていた。
芙蓉の視線に気付いた伏黒は視線を漂わせ、ひとつ深呼吸をして口を開いた。
「…何から話していいか、まだ纏まってねぇんだけど」
「うん、…大丈夫」
そう返事をしながら、芙蓉は珍しいな、と思った。いつも冷静沈着な伏黒、自身を俯瞰的に見つめる事が出来る彼が、まだ気持ちの整理がついていないという。それ程までに伏黒は動揺していた、という事だろうか。
「…、俺、高専に進学する事にした」
「高専…って、悟くんがいるところ?」
「あぁ。…あの人…、五条先生に相談して、高専にはもう話を通してもらってある」
今までずっと五条の事を“あの人”と呼んでいた伏黒が“先生”と呼んだ事に、芙蓉は僅かに驚いた。
そして、それはつまりー
「…恵は、呪術師になる、の?」
伏黒は黙って、確りと頷いた。
「俺は、津美紀を助けたい」
力強い言葉だった。
「…世の中には善人と悪人がいて、」
突然の言葉に、芙蓉は目を瞬かせた。伏黒は芙蓉の様子に構う事なく言葉を続ける。
「津美紀は、善人だと思う。…そんな善人である津美紀が呪われて、悪人である連中はのうのうと生きてる。俺は、津美紀に幸せになって欲しい。…津美紀のような善人が幸せを享受できるように、俺は人を助けたい」
これ程明確に自身の想いを話す伏黒を見るのは初めてかもしれない、と芙蓉は思った。と同時に、津美紀の事を本当に大切に思っているのだなと改めて実感した。
「…今まで喧嘩してたのも、関係ある、よね?」
芙蓉の言葉に、伏黒は僅かに驚いたようだった。
伏黒の今までの喧嘩相手は不良と言われる連中ばかりだった。その不良連中と伏黒の違うところは、周りの人間に対しての振る舞い方だった。少なくとも伏黒は、他人を力で抑圧して従わせるようなー所謂、パシリという存在を作ったり、自分のご機嫌取りの為に他人を巻き込むような事は絶対にしなかった。
「…ホント、よく見てるよな」
伏黒は小さく笑った。
「子供の頃から、気付かなくてもいいような事にも気付いちゃう方だったからね」
芙蓉は肩をすくめて自嘲気味に呟いた。細かいところまで目が行き届く、気がつくというのは長所であると思われがちだが、当の本人からすればあまり良いものではないようだった。今でこそ見て見ぬフリという逃れ方を身につけたものの、それまでは他人の粗探しをしているようだと、つくづく自分に嫌気がさしたものだった。
「…どうしても、“喧嘩をした”っていう事にばっかり目がいっちゃうけど、恵は不良からターゲットにされてる人を助けてたんだよね。…最初はどういうつもりで始めたのかわかんなかったけど、ね」
伏黒は芙蓉の言葉に内心感謝していた。自身の行動に対して何も言わない、何も言えないと言っていたくせに、しっかり理由まで理解していたとはー。彼女のこういう、痒いところに手が届くような、何でも理解してくれる事は本当にありがたかった。そして、こうして側に居てくれるだけで、どれだけ自分が支えられているかーいくら言葉にしても足りないくらいの感謝の気持ちでいっぱいだった。だからこそ、しっかり自分の言葉で想いを伝えていかなくてはならないと、伏黒は再確認した。
「…正直なところ、芙蓉がそこまで気付いてるとは思わなかった」
「ずっと確証がなかったからね。憶測で言っていい事じゃないって思ってたし。けど、さっきの恵の話でハッキリわかったよ」
笑顔で言う芙蓉。久しぶりに屈託のない笑顔を見た気がして、伏黒は目を奪われた。
「? 恵?」
声をかけられて伏黒は我に返り、芙蓉から目を離してコーヒーを飲んだ。
「…何でもねぇ」
「変なの」
「…うるせぇ」
そう言いながら笑う伏黒。またこうして、他愛のない話をして、笑い合って。
「前も言ったと思うんだけどね、」
優しい表情で芙蓉が口を開く。
「恵は何でも自分で抱え過ぎだよ。そりゃぁ…私はちょっと頼りないかもしれないけど、恵の背負ってるものを私にもわけてくれれば、恵の分は少し軽くなるでしょ?私は絶対、何があっても恵から手を離さないから」
「…頼むからいきなりそー言う事を言うんじゃねぇ」
コーヒーカップを見つめる伏黒の顔は赤くなっていた。