変転
恵の幼馴染のお名前は?
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「…そ…うだよね…っ、恵は、しっ、かりしてる、から、大丈夫、だよね」
まるで自分の口を誰かが使って話してるみたいだと、不自然な言葉に芙蓉は居た堪れなくなって、言葉と同じように上手く動かない身体を奮い立たせて立ち上がり、伏黒に背を向けて玄関へ向かった。
恵はなんでも話してくれると思ってた。
恵は私を信じてくれていると思ってた。
私は恵の事を理解していると思ってた。
そんな想いすべてが壊れるような気がした。
「…っ、津美紀、ちゃんが入院、しちゃって、…、恵まで、いなく、なっちゃったら、っ、どうしていい、か、わかんない、じゃん」
もう口が言う事を聞かない。自分の気持ちを吐き出したいのに、上手く言葉として繋いでくれないーぼやけた頭で芙蓉はそんな事を考えていた。
伏黒は芙蓉が泣いている事を直感すると、半ば駆け出すように立ち上がって芙蓉の腕を捕まえた。
「っ、離し、てよ、」
想像以上の力で腕を掴まれ、芙蓉は思わず身体を強張らせた。その様子に構う事なく、伏黒は芙蓉の肩を引いて向き直らせるー思った通り芙蓉の目からは大粒の涙が次々と溢れ出しており、彼女の頬を濡らしていた。
自分よりも背が高くなった伏黒と目が合い、芙蓉は居心地の悪さから空いた方の手で乱暴に涙を拭う。
「…何処にも行かねぇよ」
静かながらも力強い言葉と、真っ直ぐに芙蓉を見つめる瞳。まるで足を縫い止められてしまったように、芙蓉はその場から動く事が出来なかった。
「…め、ぐみ、」
「…、嫌なら殴れよ、」
そう言うと伏黒は掴んでいた腕を放し、向き合った芙蓉を、壊れ物を扱うようにそっと優しくその腕に包み込んだ。高くなった背、力強い腕ー今まで意識していなかった男女差を突然突き付けられ、芙蓉は自身の鼓動が早まるのを感じた。戸惑いながらも顔を上げると、真っ直ぐで綺麗な瞳とぶつかった。
「恵、」
今度はしっかりした声で、芙蓉は幼馴染の名を呼ぶ。
芙蓉は今まで逸らされ続けていた瞳をじっと見つめたー哀愁を湛えた瞳が見つめ返してくる。
そこで改めて、芙蓉は伏黒の気持ちに触れた気がした。芙蓉の手が、以前より僅かにほっそりとした頬に触れると、伏黒は気持ちを見透かされるのを嫌うように目を伏せた。そんな彼に、芙蓉は鼻の奥がツンと、涙が湧き出してくる感覚に襲われた。ぐ、と奥歯を食いしばるも様々な想いが溢れ出し、再び涙となって零れ落ちる。
「…恵の、分も、わ、たしが、泣く、から、…っ、」
最後の方はもう言葉にならなかった。伏黒はそっと、芙蓉が落ち着くまで優しく抱きしめていた。
津美紀が入院してから、伏黒はこれからの事をずっと考えていた。自分には何が出来るのか、これから自分はどうしたいのか、どうするべきなのかー。
そんな事を考えながら、ただ、芙蓉には心配をかけたくないという想いは常に自分の根底にあり、様々な事を考えながらも揺らぐ事はなかった。
そこまで強く思いながらも、その想いを素直に伝える事が上手く出来なかったせいで、何よりも大切にしなくてはいけない存在の芙蓉を不必要に傷つけてしまった。
自分と違って、素直で真っ直ぐで。自分にないものを、いつも惜しみなく与えてくれて。いつも笑顔で側にいてくれて、いつも自分を支えてくれて、本当に大切な、かけがえのない存在。
結局のところ、自分は芙蓉に甘えてばかりいたのだ。気持ちは言葉にしなくては伝わらないのに、言わなくてもわかってくれると、自分勝手に思い込んで。
男だからとか、変な羞恥心だとか、そのようなものが伏黒の心を強く押さえつけていて、素直に気持ちを吐き出す事を阻んでいた。そんな伏黒の気持ちをすぐに理解して“恵の分も泣くから”と、伏黒の全てを受け止めようとする芙蓉が本当に愛おしく思えた。
どれくらいそうしていたか、泣き声が落ち着いてきた。もそもそと漸く恥ずかしそうに顔を上げる芙蓉。
「…ごめん、ね」
腕の中で泣き続けていた芙蓉もまた、伏黒と同じように津美紀が寝たきりになってしまった事に戸惑い、悩み、自分に出来る事をずっと模索していた。
「謝るなよ、お前は悪くない」
芙蓉の頬が赤いのは泣いていたせいか、それとも伏黒に抱き締められている格好のせいか。
「…悪いのは俺の方だ」
自分の想いを包み隠さず打ち明けるのは、こんなにも勇気が要るものなのだろうかーそれはたぶん、相手に嫌な印象を与えたくないから、受け入れてもらえるかわからないから。だが、そんな事はもう乗り越えた。伏黒と芙蓉の絆はその程度で切れる程脆いはずもない。
「…これからどうするべきか、ずっと考えてた。自分の考えが決まってから、話をしようと思ってたんだが…、余計に心配かけちまった。芙蓉には心配かけたくないと思ってたんだけどな。…本当に、すまなかった」
まるで自分の口を誰かが使って話してるみたいだと、不自然な言葉に芙蓉は居た堪れなくなって、言葉と同じように上手く動かない身体を奮い立たせて立ち上がり、伏黒に背を向けて玄関へ向かった。
恵はなんでも話してくれると思ってた。
恵は私を信じてくれていると思ってた。
私は恵の事を理解していると思ってた。
そんな想いすべてが壊れるような気がした。
「…っ、津美紀、ちゃんが入院、しちゃって、…、恵まで、いなく、なっちゃったら、っ、どうしていい、か、わかんない、じゃん」
もう口が言う事を聞かない。自分の気持ちを吐き出したいのに、上手く言葉として繋いでくれないーぼやけた頭で芙蓉はそんな事を考えていた。
伏黒は芙蓉が泣いている事を直感すると、半ば駆け出すように立ち上がって芙蓉の腕を捕まえた。
「っ、離し、てよ、」
想像以上の力で腕を掴まれ、芙蓉は思わず身体を強張らせた。その様子に構う事なく、伏黒は芙蓉の肩を引いて向き直らせるー思った通り芙蓉の目からは大粒の涙が次々と溢れ出しており、彼女の頬を濡らしていた。
自分よりも背が高くなった伏黒と目が合い、芙蓉は居心地の悪さから空いた方の手で乱暴に涙を拭う。
「…何処にも行かねぇよ」
静かながらも力強い言葉と、真っ直ぐに芙蓉を見つめる瞳。まるで足を縫い止められてしまったように、芙蓉はその場から動く事が出来なかった。
「…め、ぐみ、」
「…、嫌なら殴れよ、」
そう言うと伏黒は掴んでいた腕を放し、向き合った芙蓉を、壊れ物を扱うようにそっと優しくその腕に包み込んだ。高くなった背、力強い腕ー今まで意識していなかった男女差を突然突き付けられ、芙蓉は自身の鼓動が早まるのを感じた。戸惑いながらも顔を上げると、真っ直ぐで綺麗な瞳とぶつかった。
「恵、」
今度はしっかりした声で、芙蓉は幼馴染の名を呼ぶ。
芙蓉は今まで逸らされ続けていた瞳をじっと見つめたー哀愁を湛えた瞳が見つめ返してくる。
そこで改めて、芙蓉は伏黒の気持ちに触れた気がした。芙蓉の手が、以前より僅かにほっそりとした頬に触れると、伏黒は気持ちを見透かされるのを嫌うように目を伏せた。そんな彼に、芙蓉は鼻の奥がツンと、涙が湧き出してくる感覚に襲われた。ぐ、と奥歯を食いしばるも様々な想いが溢れ出し、再び涙となって零れ落ちる。
「…恵の、分も、わ、たしが、泣く、から、…っ、」
最後の方はもう言葉にならなかった。伏黒はそっと、芙蓉が落ち着くまで優しく抱きしめていた。
津美紀が入院してから、伏黒はこれからの事をずっと考えていた。自分には何が出来るのか、これから自分はどうしたいのか、どうするべきなのかー。
そんな事を考えながら、ただ、芙蓉には心配をかけたくないという想いは常に自分の根底にあり、様々な事を考えながらも揺らぐ事はなかった。
そこまで強く思いながらも、その想いを素直に伝える事が上手く出来なかったせいで、何よりも大切にしなくてはいけない存在の芙蓉を不必要に傷つけてしまった。
自分と違って、素直で真っ直ぐで。自分にないものを、いつも惜しみなく与えてくれて。いつも笑顔で側にいてくれて、いつも自分を支えてくれて、本当に大切な、かけがえのない存在。
結局のところ、自分は芙蓉に甘えてばかりいたのだ。気持ちは言葉にしなくては伝わらないのに、言わなくてもわかってくれると、自分勝手に思い込んで。
男だからとか、変な羞恥心だとか、そのようなものが伏黒の心を強く押さえつけていて、素直に気持ちを吐き出す事を阻んでいた。そんな伏黒の気持ちをすぐに理解して“恵の分も泣くから”と、伏黒の全てを受け止めようとする芙蓉が本当に愛おしく思えた。
どれくらいそうしていたか、泣き声が落ち着いてきた。もそもそと漸く恥ずかしそうに顔を上げる芙蓉。
「…ごめん、ね」
腕の中で泣き続けていた芙蓉もまた、伏黒と同じように津美紀が寝たきりになってしまった事に戸惑い、悩み、自分に出来る事をずっと模索していた。
「謝るなよ、お前は悪くない」
芙蓉の頬が赤いのは泣いていたせいか、それとも伏黒に抱き締められている格好のせいか。
「…悪いのは俺の方だ」
自分の想いを包み隠さず打ち明けるのは、こんなにも勇気が要るものなのだろうかーそれはたぶん、相手に嫌な印象を与えたくないから、受け入れてもらえるかわからないから。だが、そんな事はもう乗り越えた。伏黒と芙蓉の絆はその程度で切れる程脆いはずもない。
「…これからどうするべきか、ずっと考えてた。自分の考えが決まってから、話をしようと思ってたんだが…、余計に心配かけちまった。芙蓉には心配かけたくないと思ってたんだけどな。…本当に、すまなかった」