芽生え
恵の幼馴染のお名前は?
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伏黒から津美紀が体調を崩したと聞いた芙蓉は、一旦自宅へ戻ってから伏黒のアパートを訪れた。津美紀が体調を崩したら病院へ行く事になっているのは芙蓉の母も承知していて、更に付き添いの件も承諾していた為、芙蓉と共にアパートへやって来た千浪は津美紀を車に乗せるとすぐに病院へ向かった。
伏黒と芙蓉の2人も同行しようと申し出たが、津美紀から辞退されて留守番という事になった。
「一緒に行ったって良いと思うんだけどな」
「学年末テストの勉強でもしとけって事じゃねぇのか」
「…」
2人、というより芙蓉はアパートで勉強しながら津美紀たちが戻って来るのを待った。
すっかり日が暮れ、外が暗くなった頃合いに津美紀と千浪がアパートへ戻ってきた。
「津美紀ちゃん、ゆっくり休むのよ」
「すみません、本当にありがとうございました」
津美紀は部屋に入るなり、伏黒が準備しておいた隣の部屋の布団で横になった。
「お母さん、津美紀ちゃんどうだったの?」
「うん、特に悪いところは無さそうだって…。強いて言うなら、受験のストレスとか疲れが出たんじゃないかってことみたいよ」
そう言いながらも、医者の見立てに納得していないような表情だった。
「とにかく栄養のあるものを食べて休むように言われたわ。恵くん、明日芙蓉に食事を持たせるから、大変だけど津美紀ちゃんにしっかり食べさせてあげてね」
「はい。いつもありがとうございます」
「芙蓉、そろそろ帰るわよ」
返事をし、荷物をまとめ始める芙蓉。彼女の耳に入らないような小声で、千浪が口を開く。
「恵くん、ちょっといい?」
「…はい?」
「ちょっと気になった事なんだけど」
「…?」
「なんだか蠅頭が少し多い気がするの。現に、津美紀ちゃんに纏わりついてるのもいるんじゃないかな。体調が悪いのはそのせいかもしれない。申し訳ないけど私では上手く祓えないから、恵くんが祓ってあげて」
「…蠅頭、ですか」
そう言う伏黒はどことなく複雑な表情をした。
「もし何か心配な事とかあったら、悟くんに連絡するから、いつでも言ってね」
芙蓉の足音が近づいてくるのに気付いた千浪は早口で話を切り上げた。
「…ありがとうございます」
礼を言う伏黒の表情は幾分固い。
「恵、大丈夫?」
「恵くんもしっかり休んでね。津美紀ちゃんの体調が良くない今、恵くんまで体調を崩しちゃったら大変よ」
芙蓉と千浪の言葉を受けて伏黒は頷き、顔を上げた。先程の、何とも複雑そうな表情が消えているのを見て千浪は安心し、芙蓉と共にアパートを出て行った。
2人を見送ると伏黒は大きく息を吐き、何か飲もうと冷蔵庫から缶コーヒーを1本取り出した。リビングに移動し、テーブルにコーヒーを置いてどっかりと座る。先程の千浪の言葉を反芻した。
ひと言に呪いと言っても、様々な呪いが存在する。呪いの強さは各個体様々で、そのほとんどが等級で割り振られている。そして先程千浪が言っていた蠅頭とは、その等級に当てはまらないくらいの弱い呪いだ。弱い呪いと言っても呪いは呪いで、人に取り憑けば悪さをするし、プランクトンのように上級の呪いのエサにもなり得、その呪いをより強くする事もある。
「蠅頭か…」
特に気にもしていなかったーというより、そこらじゅう漂っている蠅頭を気にしていたらキリがない。しかし、蠅頭が寄ってくるという事は、津美紀に僅かながら、蠅頭のエサになるくらいの微弱な呪いが憑いているという事なのだろうか。
思考を巡らせていた意識がふと目の前に戻る。そこで伏黒はテーブルに置いた缶コーヒーの存在を思い出したーが、飲む気にはなれなかった。
もし、津美紀が呪われていたらーそんな考えが頭を擡げるが、蠅頭がつくからといって必ずしも呪われているわけではない。千浪の話もわからなくないが、恐らくアパートの近くで何か呪いを生じさせるような出来事があったのだろうー伏黒はそう思う事にした。
伏黒は極力音を立てないように津美紀が眠る隣の部屋を覗く。そっとドアを開ければ、確かに千浪が言っていたように蠅頭が数匹飛んでいるのが目に入った。
無邪気に飛び回る蠅頭が、今まで感じた事がないくらいに不快だった。手に呪力を僅かに込めて振り払うだけで祓える存在にも関わらず、伏黒は飛び回る蠅頭を捕まえ握り潰すように祓った。
これで津美紀は回復するだろう。明日になったら、アパートの周りに寄っている呪い全てを徹底的に祓ってやるー伏黒はそう思わずには居られなかった。
津美紀は典型的な善人ー伏黒にとっては苦手な人種であるのだが、それ以前に彼女はかけがえのない大切な家族だ。津美紀の表情が先程より安らかになった気がするー伏黒はそっとドアを閉めた。
伏黒と芙蓉の2人も同行しようと申し出たが、津美紀から辞退されて留守番という事になった。
「一緒に行ったって良いと思うんだけどな」
「学年末テストの勉強でもしとけって事じゃねぇのか」
「…」
2人、というより芙蓉はアパートで勉強しながら津美紀たちが戻って来るのを待った。
すっかり日が暮れ、外が暗くなった頃合いに津美紀と千浪がアパートへ戻ってきた。
「津美紀ちゃん、ゆっくり休むのよ」
「すみません、本当にありがとうございました」
津美紀は部屋に入るなり、伏黒が準備しておいた隣の部屋の布団で横になった。
「お母さん、津美紀ちゃんどうだったの?」
「うん、特に悪いところは無さそうだって…。強いて言うなら、受験のストレスとか疲れが出たんじゃないかってことみたいよ」
そう言いながらも、医者の見立てに納得していないような表情だった。
「とにかく栄養のあるものを食べて休むように言われたわ。恵くん、明日芙蓉に食事を持たせるから、大変だけど津美紀ちゃんにしっかり食べさせてあげてね」
「はい。いつもありがとうございます」
「芙蓉、そろそろ帰るわよ」
返事をし、荷物をまとめ始める芙蓉。彼女の耳に入らないような小声で、千浪が口を開く。
「恵くん、ちょっといい?」
「…はい?」
「ちょっと気になった事なんだけど」
「…?」
「なんだか蠅頭が少し多い気がするの。現に、津美紀ちゃんに纏わりついてるのもいるんじゃないかな。体調が悪いのはそのせいかもしれない。申し訳ないけど私では上手く祓えないから、恵くんが祓ってあげて」
「…蠅頭、ですか」
そう言う伏黒はどことなく複雑な表情をした。
「もし何か心配な事とかあったら、悟くんに連絡するから、いつでも言ってね」
芙蓉の足音が近づいてくるのに気付いた千浪は早口で話を切り上げた。
「…ありがとうございます」
礼を言う伏黒の表情は幾分固い。
「恵、大丈夫?」
「恵くんもしっかり休んでね。津美紀ちゃんの体調が良くない今、恵くんまで体調を崩しちゃったら大変よ」
芙蓉と千浪の言葉を受けて伏黒は頷き、顔を上げた。先程の、何とも複雑そうな表情が消えているのを見て千浪は安心し、芙蓉と共にアパートを出て行った。
2人を見送ると伏黒は大きく息を吐き、何か飲もうと冷蔵庫から缶コーヒーを1本取り出した。リビングに移動し、テーブルにコーヒーを置いてどっかりと座る。先程の千浪の言葉を反芻した。
ひと言に呪いと言っても、様々な呪いが存在する。呪いの強さは各個体様々で、そのほとんどが等級で割り振られている。そして先程千浪が言っていた蠅頭とは、その等級に当てはまらないくらいの弱い呪いだ。弱い呪いと言っても呪いは呪いで、人に取り憑けば悪さをするし、プランクトンのように上級の呪いのエサにもなり得、その呪いをより強くする事もある。
「蠅頭か…」
特に気にもしていなかったーというより、そこらじゅう漂っている蠅頭を気にしていたらキリがない。しかし、蠅頭が寄ってくるという事は、津美紀に僅かながら、蠅頭のエサになるくらいの微弱な呪いが憑いているという事なのだろうか。
思考を巡らせていた意識がふと目の前に戻る。そこで伏黒はテーブルに置いた缶コーヒーの存在を思い出したーが、飲む気にはなれなかった。
もし、津美紀が呪われていたらーそんな考えが頭を擡げるが、蠅頭がつくからといって必ずしも呪われているわけではない。千浪の話もわからなくないが、恐らくアパートの近くで何か呪いを生じさせるような出来事があったのだろうー伏黒はそう思う事にした。
伏黒は極力音を立てないように津美紀が眠る隣の部屋を覗く。そっとドアを開ければ、確かに千浪が言っていたように蠅頭が数匹飛んでいるのが目に入った。
無邪気に飛び回る蠅頭が、今まで感じた事がないくらいに不快だった。手に呪力を僅かに込めて振り払うだけで祓える存在にも関わらず、伏黒は飛び回る蠅頭を捕まえ握り潰すように祓った。
これで津美紀は回復するだろう。明日になったら、アパートの周りに寄っている呪い全てを徹底的に祓ってやるー伏黒はそう思わずには居られなかった。
津美紀は典型的な善人ー伏黒にとっては苦手な人種であるのだが、それ以前に彼女はかけがえのない大切な家族だ。津美紀の表情が先程より安らかになった気がするー伏黒はそっとドアを閉めた。