芽生え
恵の幼馴染のお名前は?
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津美紀にとって、中学最後の夏休みが目前に迫っていた。その直前、親しい友達数人に、夏休みになったら肝試しに行かないかと誘われた。正直なところ、そのような事はあまり得意ではなく、乗り気ではなかった津美紀だが、大切な友人を案じて話に乗る事に決めた。
場所は、学区内でも有名な心霊スポット・鯉ノ口峡谷八十八橋。自殺の名所とも言われるそこは肝試しにはうってつけの場所と言えた。
伏黒に変な心配をかけたくないと思った津美紀は、彼が五条との鍛錬で不在の時になら問題ないだろうと、その期間なら行けると返事をした。友達の家に泊まると伏黒に伝えておけば、1人で家にいるよりは安心出来ると、何も言わないだろう。
そして夏休みが始まり、八十八橋に行く日。
津美紀は計画通り一緒に行く友人の家に泊めてもらう事にし、その友人と共に待ち合わせ場所のコンビニへ向かった。もう数人集まっていて、部活の繋がりやクラスメイトなど、5、6人程度で行く予定だ。
「そろそろ行こうか」
時計の針が19時半を指したところで、1人が声をあげた。それに頷き、ぞろぞろと橋の近くへ向かう。まずは橋の上を行ってみようと、狭い歩道を1列になって、懐中電灯を持った友人が先頭を歩いていく。時折車が通るくらいで、向こう側へ渡っても彼らが期待していたような怪現象や心霊現象の類は何も起こらなかった。
「今度は橋の下に行ってみようよ」
誰かの声に全員が沈黙した。本当に行くのか、行っても大丈夫なのかー津美紀もその例外ではなかった。
「みんなで行けば大丈夫じゃない?」
その別の誰かの声に、僅かな賛成の声が上がる。強い反対もなく、一行は橋から離れた散策コースを通って橋の下へ向かう事とした。
あまり利用する人がいないのだろう、散策コースは草が生い茂っていた。高く伸びた草に覆い尽くされそうではあるが、辛うじて残る遊歩道を歩いて行く。
日中であれば生い茂る木々が日陰を作り、川辺の空気が夏の暑さを和らげるような心地よい場所になるのだろう。月明かりの夜になれば、木々の陰は不気味に見え、葉を揺らす風の音に恐怖を感じるーそんな中を慎重に、転んだりケガをしないようにと互いに手を貸しあいながら歩いていく。
どれくらい歩いたか、一行は少し開けた河原に出た。さらさらと流れる川の上流方向を見ると、八十八橋が見える。川辺を辿って行けば橋の近くへ行けそうだ。
「…とりあえず、何もないね」
「そろそろ戻らない?」
「もうちょっとだけ橋の方に行ってみる?」
様々な声が上がり、意見が割れる。少しの間話し合いが持たれ、橋の近くへ行く者とその場に残る者と、半分に別れて動く事になったー津美紀はその場に残る事を選んだ。懐中電灯の光が少しずつ離れていくのを見送りながら空を見上げる。視界に広がるはずの夜空は半分くらいが木々に遮られている。
恐怖心を少しでも和らげようと、津美紀は星座を探す。月明かりの中、辛うじて夏の大三角は見えるものの、天の川までは見えなかった。
風が吹くと、一斉に木立がザワザワと鳴く。疑心暗鬼の言葉通り、木立の中から何かが出てくるのではないか、得体の知れない何かと遭遇したらどうしようー津美紀を含めたその場にいた全員の恐怖心がどんどん増幅していく。その時、チラ、と光が動く。それに誰かが悲鳴を上げ、津美紀は飛び上がり、友人は津美紀にしがみつく。
「…そんなに驚く事ないじゃん」
橋の近くに行っていた面々が戻ってきた。先程の光は彼らの持っていた懐中電灯だとわかると、残っていたメンバーは安堵の息を漏らした。
「どうだった?」
「何もなかった。もう戻ろうか」
そんなやり取りの後、来た時と同じように遊歩道を慎重に歩いていく。遊歩道を抜けて生活道路へ出て、待ち合わせ場所にしていたコンビニへ向かう。
ポツポツと見えてきた街灯や家の灯りに照らされ、恐怖心が溶けていく。固く結ばれていた口も次第に緩まり、先程までの沈黙が嘘のように話に花が咲き、交通量の少ない道を塞ぐように、横に広がって話しながら進んでいく。皆が饒舌になっている傍ら、津美紀は何の気なしに後ろを振り返った。ただ闇が広がるだけで、何かがあるわけでもない。
ねぇ津美紀、と声がかかり、話に意識を向け会話に参加する。コンビニは目の前だった。
「みんなお疲れー」
「じゃあ今日は解散だね」
「またみんなで遊びに行こうね」
口々に挨拶を交し、ちらほら解散という流れになっていった。コンビニを離れる前に、津美紀はちらと橋の方に視線を向ける。車が1台走っていくのが見えた。友人の後を追うように、橋に背を向けて歩き出した刹那、津美紀の頭に閃光のような痛みが走った。痛みを感じたと思ったが何もなく、まるで静電気が走ったような感覚。今のはなんだったのかしら、気のせいかしらー。津美紀は小さな虫が頭を掠めて行っただけなのかもしれないとさして気にする事もなく、友人と共に歩き出す。外泊をするのはいつ以来だろう、久しぶりに楽しい時間を過ごせそうだと、津美紀は友人との会話を楽しみながら歩き、無事友人の家に帰り着いた。
肝試しの間はずっと緊張していたのだろう、津美紀も友人も中学最後の夏休みの夜、のんびりお喋りをして過ごすつもりだったようだが、2人とも早々に睡魔に襲われ、あっという間に眠りについていた。
場所は、学区内でも有名な心霊スポット・鯉ノ口峡谷八十八橋。自殺の名所とも言われるそこは肝試しにはうってつけの場所と言えた。
伏黒に変な心配をかけたくないと思った津美紀は、彼が五条との鍛錬で不在の時になら問題ないだろうと、その期間なら行けると返事をした。友達の家に泊まると伏黒に伝えておけば、1人で家にいるよりは安心出来ると、何も言わないだろう。
そして夏休みが始まり、八十八橋に行く日。
津美紀は計画通り一緒に行く友人の家に泊めてもらう事にし、その友人と共に待ち合わせ場所のコンビニへ向かった。もう数人集まっていて、部活の繋がりやクラスメイトなど、5、6人程度で行く予定だ。
「そろそろ行こうか」
時計の針が19時半を指したところで、1人が声をあげた。それに頷き、ぞろぞろと橋の近くへ向かう。まずは橋の上を行ってみようと、狭い歩道を1列になって、懐中電灯を持った友人が先頭を歩いていく。時折車が通るくらいで、向こう側へ渡っても彼らが期待していたような怪現象や心霊現象の類は何も起こらなかった。
「今度は橋の下に行ってみようよ」
誰かの声に全員が沈黙した。本当に行くのか、行っても大丈夫なのかー津美紀もその例外ではなかった。
「みんなで行けば大丈夫じゃない?」
その別の誰かの声に、僅かな賛成の声が上がる。強い反対もなく、一行は橋から離れた散策コースを通って橋の下へ向かう事とした。
あまり利用する人がいないのだろう、散策コースは草が生い茂っていた。高く伸びた草に覆い尽くされそうではあるが、辛うじて残る遊歩道を歩いて行く。
日中であれば生い茂る木々が日陰を作り、川辺の空気が夏の暑さを和らげるような心地よい場所になるのだろう。月明かりの夜になれば、木々の陰は不気味に見え、葉を揺らす風の音に恐怖を感じるーそんな中を慎重に、転んだりケガをしないようにと互いに手を貸しあいながら歩いていく。
どれくらい歩いたか、一行は少し開けた河原に出た。さらさらと流れる川の上流方向を見ると、八十八橋が見える。川辺を辿って行けば橋の近くへ行けそうだ。
「…とりあえず、何もないね」
「そろそろ戻らない?」
「もうちょっとだけ橋の方に行ってみる?」
様々な声が上がり、意見が割れる。少しの間話し合いが持たれ、橋の近くへ行く者とその場に残る者と、半分に別れて動く事になったー津美紀はその場に残る事を選んだ。懐中電灯の光が少しずつ離れていくのを見送りながら空を見上げる。視界に広がるはずの夜空は半分くらいが木々に遮られている。
恐怖心を少しでも和らげようと、津美紀は星座を探す。月明かりの中、辛うじて夏の大三角は見えるものの、天の川までは見えなかった。
風が吹くと、一斉に木立がザワザワと鳴く。疑心暗鬼の言葉通り、木立の中から何かが出てくるのではないか、得体の知れない何かと遭遇したらどうしようー津美紀を含めたその場にいた全員の恐怖心がどんどん増幅していく。その時、チラ、と光が動く。それに誰かが悲鳴を上げ、津美紀は飛び上がり、友人は津美紀にしがみつく。
「…そんなに驚く事ないじゃん」
橋の近くに行っていた面々が戻ってきた。先程の光は彼らの持っていた懐中電灯だとわかると、残っていたメンバーは安堵の息を漏らした。
「どうだった?」
「何もなかった。もう戻ろうか」
そんなやり取りの後、来た時と同じように遊歩道を慎重に歩いていく。遊歩道を抜けて生活道路へ出て、待ち合わせ場所にしていたコンビニへ向かう。
ポツポツと見えてきた街灯や家の灯りに照らされ、恐怖心が溶けていく。固く結ばれていた口も次第に緩まり、先程までの沈黙が嘘のように話に花が咲き、交通量の少ない道を塞ぐように、横に広がって話しながら進んでいく。皆が饒舌になっている傍ら、津美紀は何の気なしに後ろを振り返った。ただ闇が広がるだけで、何かがあるわけでもない。
ねぇ津美紀、と声がかかり、話に意識を向け会話に参加する。コンビニは目の前だった。
「みんなお疲れー」
「じゃあ今日は解散だね」
「またみんなで遊びに行こうね」
口々に挨拶を交し、ちらほら解散という流れになっていった。コンビニを離れる前に、津美紀はちらと橋の方に視線を向ける。車が1台走っていくのが見えた。友人の後を追うように、橋に背を向けて歩き出した刹那、津美紀の頭に閃光のような痛みが走った。痛みを感じたと思ったが何もなく、まるで静電気が走ったような感覚。今のはなんだったのかしら、気のせいかしらー。津美紀は小さな虫が頭を掠めて行っただけなのかもしれないとさして気にする事もなく、友人と共に歩き出す。外泊をするのはいつ以来だろう、久しぶりに楽しい時間を過ごせそうだと、津美紀は友人との会話を楽しみながら歩き、無事友人の家に帰り着いた。
肝試しの間はずっと緊張していたのだろう、津美紀も友人も中学最後の夏休みの夜、のんびりお喋りをして過ごすつもりだったようだが、2人とも早々に睡魔に襲われ、あっという間に眠りについていた。