芽生え
恵の幼馴染のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
期末テストを無事にやり遂げ、冬休みがやってきた。
冬休み中は5日間程、伏黒は予定通りというべきか、五条による短期集中鍛錬に連れ出された。今回は比叡山の近くまで連れて行かれたという伏黒も、年越し前には帰宅する事が出来たようだった。
年が明けてからはあっという間で、津美紀は3年、伏黒と芙蓉は2年になった。
津美紀はいよいよ高校受験の年。元々成績の良い津美紀も一層学業に励むようになったのだが、どうしても伏黒の事が気にかかる。津美紀も芙蓉も、このまま何事も無く過ごせれば、と思っていた。
それが、ついにやったと言うべきか、それとも必然と言うべきかー伏黒が校内で大人数を相手に大喧嘩を起こした。今までの伏黒の行動を生意気だの気に入らないだの、他校相手の喧嘩なども引っくるめ、そのようなものが校内の不良連中を駆り立てたようだった。
伏黒は幼い頃から五条家で大人を相手に武術の鍛錬を施されている。そんな彼に同年代の不良の喧嘩など児戯に等しい上、多勢に無勢という理屈も全く通らない。彼に向かっていった連中は悉く打ちのめされていった。
伏黒からすれば喧嘩を“売られた”ワケで、正当防衛いう事になるが、大概叱られるのは勝った立場。遠くで校務員の怒鳴り声が聞こえるのを擦り抜けていく。
「恵」
声に伏黒が振り返ると、今までに何度も見た怒り顔の津美紀。もう喧嘩しないって言ったよね、と言う彼女の声は冷たい。もうお互いの言い分は通じない、それくらい2人の間には隔たりが生じていた。
「…保護者ヅラすんな。…気持ち悪ィ」
そう言って彼女に背を向ける。と、伏黒が頭に衝撃を感じたのと同時に、冷たさと甘い匂いが鼻を突いた。
「あ…ゴメン…」
津美紀は手にしていたいちごオレを、怒りに任せて伏黒に投げつけた。それが伏黒の頭に命中、中身が出たー彼女は中身が出るとは思っていなかったようで、バツが悪そうな顔をしている。
さすがに頭に来た伏黒が何か言い返そうと彼女を振り返るも、津美紀の友人の姿が目に入った。
「ちょ、津美紀⁉︎」
この友人の登場により、伏黒は苛立ちを腹に押し込み津美紀と友人に背を向けて反対方向へ歩き出していった。
「…え、恵?」
その直後、いちごオレの甘ったるい匂いを纏った伏黒を見かけて声を上げたのは、部活の為体育館へ向かおうとしていた芙蓉だった。
「…悪ぃ」
「いいよ、部活で使うから枚数持ってるし」
頭から水を被り、いちごオレを洗い流す伏黒にタオルを手渡す。芙蓉は伏黒から半ば無理矢理剥ぎ取ったブレザーを濡らしたタオルで叩いて拭きあげていく。
「予備のブレザーってあるよね?」
「あぁ」
「クリーニングかなこれ…」
濡らした頭を拭き、甘い匂いとベタつきが消えたのを確認して伏黒はふっと息を吐く。
「ねぇ恵、後で津美紀ちゃんー」
「タオル、洗って返す。悪かったな」
伏黒は何か言いかけた芙蓉を遮り、ブレザーと彼女が持っていたタオルを引ったくって行ってしまった。
「…」
「あれ、芙蓉?早く行かないと遅れるよ?」
通りかかった部活のメンバーに声をかけられ、伏黒を横目に仕方なく芙蓉は体育館へ走った。
2年になった途端、ちょっかいをかけてくる連中が増えてきたーこの辺りの悪ガキ連中は全員シメてやると思っていた伏黒にとっては却って好都合だった。
その反面、そのような“悪い”と言われる事をやめさせようと、津美紀を含めた周りの人間が騒がしくなる。
世界は相反するものが存在するから成り立っている。光があるから闇があるー闇が存在しなければ光があると認識出来ないように。善悪も同じ事、それぞれが存在しなければ認識出来ない。そして何が善で何が悪か、それは全て主観の問題だ。一般的に善と言われる事が万人にとって善とは限らない。例えば嘘をつく事。一般的には人を欺く良くない事、悪だとされているが、“嘘も方便”という言葉もある。人それぞれ善悪の基準は違う。
そんな中、芙蓉は唯一中立と言える位置にいた。伏黒が喧嘩をしても怒る様子もないし、喧嘩をやめさせる様子もない。ただ、伏黒にケガはないか確認をしてくるだけ。そんな芙蓉に対し、何も言わないんだな、と伏黒が彼女の意図を探った事がある。
“私はよく津美紀ちゃんの話を聞いてるから、津美紀ちゃんが恵の行動に対してどう思ってるわかるし、恵も、何か思うところがあって行動してるって、わかってるつもり。私はどっちの気持ちも否定出来ないから何も言えない。ただ、恵がケガしないでくれればいいなって。とりあえずは、それだけかな”
どっち付かずな態度とも取れるが、芙蓉なりに悩み考え、伏黒と津美紀、それぞれを尊重して導き出した答えなのだろう事が窺えた。
今現在、伏黒と津美紀の関係はあまり良好と言える状況ではないにしろ、その間で芙蓉が上手く2人のバランスを保っていた。それはそれで、皆それぞれ苦労はあるかもしれないが、今しかない思春期の事、このまま時間が経てばまた今までのように仲の良い関係に戻るだろう。そう思っていた。
冬休み中は5日間程、伏黒は予定通りというべきか、五条による短期集中鍛錬に連れ出された。今回は比叡山の近くまで連れて行かれたという伏黒も、年越し前には帰宅する事が出来たようだった。
年が明けてからはあっという間で、津美紀は3年、伏黒と芙蓉は2年になった。
津美紀はいよいよ高校受験の年。元々成績の良い津美紀も一層学業に励むようになったのだが、どうしても伏黒の事が気にかかる。津美紀も芙蓉も、このまま何事も無く過ごせれば、と思っていた。
それが、ついにやったと言うべきか、それとも必然と言うべきかー伏黒が校内で大人数を相手に大喧嘩を起こした。今までの伏黒の行動を生意気だの気に入らないだの、他校相手の喧嘩なども引っくるめ、そのようなものが校内の不良連中を駆り立てたようだった。
伏黒は幼い頃から五条家で大人を相手に武術の鍛錬を施されている。そんな彼に同年代の不良の喧嘩など児戯に等しい上、多勢に無勢という理屈も全く通らない。彼に向かっていった連中は悉く打ちのめされていった。
伏黒からすれば喧嘩を“売られた”ワケで、正当防衛いう事になるが、大概叱られるのは勝った立場。遠くで校務員の怒鳴り声が聞こえるのを擦り抜けていく。
「恵」
声に伏黒が振り返ると、今までに何度も見た怒り顔の津美紀。もう喧嘩しないって言ったよね、と言う彼女の声は冷たい。もうお互いの言い分は通じない、それくらい2人の間には隔たりが生じていた。
「…保護者ヅラすんな。…気持ち悪ィ」
そう言って彼女に背を向ける。と、伏黒が頭に衝撃を感じたのと同時に、冷たさと甘い匂いが鼻を突いた。
「あ…ゴメン…」
津美紀は手にしていたいちごオレを、怒りに任せて伏黒に投げつけた。それが伏黒の頭に命中、中身が出たー彼女は中身が出るとは思っていなかったようで、バツが悪そうな顔をしている。
さすがに頭に来た伏黒が何か言い返そうと彼女を振り返るも、津美紀の友人の姿が目に入った。
「ちょ、津美紀⁉︎」
この友人の登場により、伏黒は苛立ちを腹に押し込み津美紀と友人に背を向けて反対方向へ歩き出していった。
「…え、恵?」
その直後、いちごオレの甘ったるい匂いを纏った伏黒を見かけて声を上げたのは、部活の為体育館へ向かおうとしていた芙蓉だった。
「…悪ぃ」
「いいよ、部活で使うから枚数持ってるし」
頭から水を被り、いちごオレを洗い流す伏黒にタオルを手渡す。芙蓉は伏黒から半ば無理矢理剥ぎ取ったブレザーを濡らしたタオルで叩いて拭きあげていく。
「予備のブレザーってあるよね?」
「あぁ」
「クリーニングかなこれ…」
濡らした頭を拭き、甘い匂いとベタつきが消えたのを確認して伏黒はふっと息を吐く。
「ねぇ恵、後で津美紀ちゃんー」
「タオル、洗って返す。悪かったな」
伏黒は何か言いかけた芙蓉を遮り、ブレザーと彼女が持っていたタオルを引ったくって行ってしまった。
「…」
「あれ、芙蓉?早く行かないと遅れるよ?」
通りかかった部活のメンバーに声をかけられ、伏黒を横目に仕方なく芙蓉は体育館へ走った。
2年になった途端、ちょっかいをかけてくる連中が増えてきたーこの辺りの悪ガキ連中は全員シメてやると思っていた伏黒にとっては却って好都合だった。
その反面、そのような“悪い”と言われる事をやめさせようと、津美紀を含めた周りの人間が騒がしくなる。
世界は相反するものが存在するから成り立っている。光があるから闇があるー闇が存在しなければ光があると認識出来ないように。善悪も同じ事、それぞれが存在しなければ認識出来ない。そして何が善で何が悪か、それは全て主観の問題だ。一般的に善と言われる事が万人にとって善とは限らない。例えば嘘をつく事。一般的には人を欺く良くない事、悪だとされているが、“嘘も方便”という言葉もある。人それぞれ善悪の基準は違う。
そんな中、芙蓉は唯一中立と言える位置にいた。伏黒が喧嘩をしても怒る様子もないし、喧嘩をやめさせる様子もない。ただ、伏黒にケガはないか確認をしてくるだけ。そんな芙蓉に対し、何も言わないんだな、と伏黒が彼女の意図を探った事がある。
“私はよく津美紀ちゃんの話を聞いてるから、津美紀ちゃんが恵の行動に対してどう思ってるわかるし、恵も、何か思うところがあって行動してるって、わかってるつもり。私はどっちの気持ちも否定出来ないから何も言えない。ただ、恵がケガしないでくれればいいなって。とりあえずは、それだけかな”
どっち付かずな態度とも取れるが、芙蓉なりに悩み考え、伏黒と津美紀、それぞれを尊重して導き出した答えなのだろう事が窺えた。
今現在、伏黒と津美紀の関係はあまり良好と言える状況ではないにしろ、その間で芙蓉が上手く2人のバランスを保っていた。それはそれで、皆それぞれ苦労はあるかもしれないが、今しかない思春期の事、このまま時間が経てばまた今までのように仲の良い関係に戻るだろう。そう思っていた。