出会い
恵の幼馴染のお名前は?
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小学校に入学したからといって、生活はさして何も変わらない。毎日の行き先が幼稚園から小学校に変わっただけだ。父親は相変わらず行方知れずだし、俺が小学校に入学してから母親も家を留守にする事が多くなった。そのせいで家の事ほとんどを津美紀がやっている。俺の方が年下だからという理由で、津美紀はやたらと俺に気を回している。俺の方が年下だと言っても1つしか変わらないし、大丈夫だと何度伝えても、津美紀の保護者ぶったようなその態度は変わらない。時々、夜中にすすり泣いている声が聞こえる時がある。津美紀自身、かなり無理をしているだろうにーどうしてこんなにも俺にばかり気を遣うのか。もっと自分の事を考えればいいのにとつくづく思う。
俺がこんな事を考えていると津美紀が知ったらどう思うだろうか。
小学校の生活にもだいぶ慣れてきたこの日、俺は放課後に図書室へ立ち寄り、数冊本を借りた。読むのは過去の偉人伝や歴史の類いがほとんど。漫画とか怪談なんかよりもずっと面白いと思う。
借りた本をランドセルに詰め込み、昇降口へ向かう。クラスの連中はもう殆どが帰ったようだった。靴に履き替え、家へ向かう道を歩いていく。
学校と家のちょうど中間地点辺りで、見覚えのある後ろ姿を見つけた。その後ろ姿はその場をウロウロ、行くなら早く行けばいいのにーと、その先に普通じゃない見た目のモノがいることに気が付いた。動いているから生き物なのかもしれないが、少なくともあんな生き物は今まで見た事がない。
「…何してんだ?」
「あ、恵くん…」
見覚えのある後ろ姿は高峰芙蓉だった。同じクラスで席は離れているが、本を読むのが好きらしく、休み時間に本を読んでいたら声をかけてきた。それ以来、何かにつけ声をかけてくる。他人に気を遣い過ぎるようなところがどことなく津美紀と似ている気がする。
「うん、ちょっと考え事してるの」
芙蓉はそう言って辺りを見回している。
「帰らないのか?」
「だからちょっと考え事してるんだってば」
「アレ、か?」
怒ったような八つ当たりのような言い方が少し気になったが、俺が“アレ”をそっと指差せば、芙蓉の顔色がさっと変わった。
「…恵くんにも、見えてる、の?」
やっぱりそうだ。芙蓉にも“見えて”いるのだ。俺は“見える”事を誰かに話した事はない。最初は驚いたが、近寄らなければ特に害はなかったからだ。自分にしか見えていないとわかったのは、一緒にいた津美紀の様子を見てのことだ。
「近寄らなければ大丈夫だろ」
「でも、ここを通らないと帰れないの」
帰れないという事はないと思うが、かなりの遠回りになるのだろう。帰れと言いながら、芙蓉の家がここから近いのか遠いのかはわからない。
「…走るぞ」
「でも…」
「一緒に行ってやるよ」
俺はこの先にいる“アレ”と芙蓉の間になるようにして、芙蓉の手を掴んだ。
「走るのは得意か?」
「う、うん…」
「じゃあ全力で走って行くぞ」
気が進まない様子の芙蓉の手を掴んだまま俺が動き始めると、芙蓉も覚悟を決めたような顔でついてきた。“アレ”との距離が近づいてくるー絶対に見ないようにーお互い暗黙の了解で、真っ直ぐ前だけを見て走り抜ける。
路地を曲がったところで足を止め、芙蓉の手を離す。少し息が上がっていた。
「大丈夫か?」
下を向き、肩で息をしていた芙蓉は黙って頷く。彼女が大きな瞳に涙を湛え、泣きそうになっている事に気がついたのは顔を上げた時だった。
「家、どこなんだ?」
「…え?」
「送ってってやるよ」
「っ、大丈夫だよ、恵くんも家に帰らなくちゃいけないでしょ」
「泣きそうなくせに何言ってんだ」
そう言えば、芙蓉は何も言えなくなったようだった。しばらくして観念したのか、芙蓉のこっち、と小さな声が聞こえた。
芙蓉の家は意外と近くだった上に、さっきの道を通らずに帰れる通りが近くにあった。
それを伝えて帰ろうとすれば、芙蓉が呼び止めてきた。
「恵くん、ありがとう」
「恵でいい。じゃあな、芙蓉」
俺はそのまま走ったー芙蓉の姿が見えなくなるまで。芙蓉はずっと手を振っていた。俺は照れ臭さを抑え込む方法を知らなかった。
俺がこんな事を考えていると津美紀が知ったらどう思うだろうか。
小学校の生活にもだいぶ慣れてきたこの日、俺は放課後に図書室へ立ち寄り、数冊本を借りた。読むのは過去の偉人伝や歴史の類いがほとんど。漫画とか怪談なんかよりもずっと面白いと思う。
借りた本をランドセルに詰め込み、昇降口へ向かう。クラスの連中はもう殆どが帰ったようだった。靴に履き替え、家へ向かう道を歩いていく。
学校と家のちょうど中間地点辺りで、見覚えのある後ろ姿を見つけた。その後ろ姿はその場をウロウロ、行くなら早く行けばいいのにーと、その先に普通じゃない見た目のモノがいることに気が付いた。動いているから生き物なのかもしれないが、少なくともあんな生き物は今まで見た事がない。
「…何してんだ?」
「あ、恵くん…」
見覚えのある後ろ姿は高峰芙蓉だった。同じクラスで席は離れているが、本を読むのが好きらしく、休み時間に本を読んでいたら声をかけてきた。それ以来、何かにつけ声をかけてくる。他人に気を遣い過ぎるようなところがどことなく津美紀と似ている気がする。
「うん、ちょっと考え事してるの」
芙蓉はそう言って辺りを見回している。
「帰らないのか?」
「だからちょっと考え事してるんだってば」
「アレ、か?」
怒ったような八つ当たりのような言い方が少し気になったが、俺が“アレ”をそっと指差せば、芙蓉の顔色がさっと変わった。
「…恵くんにも、見えてる、の?」
やっぱりそうだ。芙蓉にも“見えて”いるのだ。俺は“見える”事を誰かに話した事はない。最初は驚いたが、近寄らなければ特に害はなかったからだ。自分にしか見えていないとわかったのは、一緒にいた津美紀の様子を見てのことだ。
「近寄らなければ大丈夫だろ」
「でも、ここを通らないと帰れないの」
帰れないという事はないと思うが、かなりの遠回りになるのだろう。帰れと言いながら、芙蓉の家がここから近いのか遠いのかはわからない。
「…走るぞ」
「でも…」
「一緒に行ってやるよ」
俺はこの先にいる“アレ”と芙蓉の間になるようにして、芙蓉の手を掴んだ。
「走るのは得意か?」
「う、うん…」
「じゃあ全力で走って行くぞ」
気が進まない様子の芙蓉の手を掴んだまま俺が動き始めると、芙蓉も覚悟を決めたような顔でついてきた。“アレ”との距離が近づいてくるー絶対に見ないようにーお互い暗黙の了解で、真っ直ぐ前だけを見て走り抜ける。
路地を曲がったところで足を止め、芙蓉の手を離す。少し息が上がっていた。
「大丈夫か?」
下を向き、肩で息をしていた芙蓉は黙って頷く。彼女が大きな瞳に涙を湛え、泣きそうになっている事に気がついたのは顔を上げた時だった。
「家、どこなんだ?」
「…え?」
「送ってってやるよ」
「っ、大丈夫だよ、恵くんも家に帰らなくちゃいけないでしょ」
「泣きそうなくせに何言ってんだ」
そう言えば、芙蓉は何も言えなくなったようだった。しばらくして観念したのか、芙蓉のこっち、と小さな声が聞こえた。
芙蓉の家は意外と近くだった上に、さっきの道を通らずに帰れる通りが近くにあった。
それを伝えて帰ろうとすれば、芙蓉が呼び止めてきた。
「恵くん、ありがとう」
「恵でいい。じゃあな、芙蓉」
俺はそのまま走ったー芙蓉の姿が見えなくなるまで。芙蓉はずっと手を振っていた。俺は照れ臭さを抑え込む方法を知らなかった。