芽生え
恵の幼馴染のお名前は?
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「…落ち着いたか?」
泣く芙蓉を連れ、伏黒は近くの公園に飛び込んだ。
本来、呪いを祓うときには“帳”という、呪いを秘匿する、非術師には知覚出来ない結界を下ろさなくてはならないのだが、今回は急な事だった上に帳を下ろす人間がいなかった。住宅街のほぼど真ん中で呪いを祓ったのだ、周りに影響が出ないように細心の注意を払ったが、もし騒ぎになって巻き込まれても面倒だと判断して公園に逃げ込んだのだった。
伏黒と並んでベンチに座り、タオルに顔を埋めて未だにぐすぐすと泣く芙蓉。やっとの事で顔を上げるも、目も鼻も真っ赤になっていた。
「…そんなに泣く事もねぇだろ…」
「ごめん、なんか気持ちがぐちゃぐちゃで…」
芙蓉は近くの水道でザブザブと顔を洗う。先程よりだいぶスッキリした表情になった。
「…うん、だいぶ落ち着いた」
幾分目鼻がまだうっすら赤いが、笑顔を見せる辺り大丈夫なのだろう。
「助けてくれてありがとう」
「…おう」
人に感謝の念を伝える、礼を言う、謝罪を言う。このような、人として当たり前とも言える事を素直に言える芙蓉はとても素晴らしいと思うが、改まって面と向かって言われると、どうにもこそばゆいーその辺はもっとフランクでも良いのにと、伏黒はいつもそっけなく返事をしてしまう。
「ごめんね、呪霊にも気を付けなくちゃいけないのを忘れてて…」
普段、学区内の呪霊は伏黒が祓っているのだが、鍛錬の間に呪霊が寄って来たのであろう。今は呪霊が多く発生する時期ー少し間を空けたらすぐ発生するのは仕方のない事と言えた。
「もう少しすれば呪霊が湧くのも落ち着いてくるはずだ。気を抜くなよ」
伏黒の言葉に芙蓉は頷いた。いくら呪力操作をしているとはいえ、呪霊を祓う術を持たない芙蓉にとっては非術師と同様、呪霊は脅威でしかない。
五条が言うには、芙蓉は術式を持っている、それは間違いないらしい。じゃあ何故術式を認識できないのか、発現しないのかというのはわからない。何かしらのキッカケで発現するのかもしれないし、このまま一生発現しないかもしれない、との事だ。
伏黒としては、芙蓉はこのまま津美紀と同様非術師のように、呪いから離れたところで生活して欲しいと思っている。こちら側の暗い部分なんて見て欲しくないし、手を汚して欲しくないー芙蓉の明るい笑顔を見ているとつくづく思う。
暮れかけていた日は既に落ち、夜の帳が降り始めている。芙蓉は部活帰り、そろそろ帰らないと千浪が心配するだろう。
「そろそろ帰るか。芙蓉の母さんも心配してるだろ」
先程呪いを祓った場所の辺りが気になるが、特に人が集まる様子や警察のパトカーなどサイレンも聞こえなかったから問題はなかったのだろう。
「そう言えば、恵はもう一旦家に帰ったの?」
「いや。帰ろうと思った時に…、あ」
「え?」
「いや…、あの人、芙蓉の家にいるかも」
家の近くまで来て途中で別れたのを思い出した。
もう帰ってると良いな、けどなんだかんだ長居してそうだよな、芙蓉を送ったらすぐ帰ろう。
2人は芙蓉の家を目指して歩く。
「そういえばさ、悟くんと何処行ってたの?」
五条家に帰省した際、何処かへ行ったと聞かされた旨を伝える。鍛錬じゃなかったの、と。
「…青森。…恐山」
「えっと…、あのイタコさんとかいるところ?」
「そう」
恐山と言えば日本でも有名な霊場で、死者の集まる山としても知られている。
「…なんで?」
「知るか」
それ以上多くを語ろうとしない伏黒。青森滞在中は何かと苦労が多かったのだろう。
「大変だったと思うけど…、とりあえずこれで夏休みはもう鍛錬ないんでしょ?」
「たぶんな。…たぶん」
気まぐれな五条の事、本当にこの後は何もないと言い切る事は出来ない。折角の夏休みなのに、と少々気が滅入るが、今年は自分の時間があるだけまだ良い、伏黒はそう思う事にした。
「そうだ、忘れないうち」
伏黒は歩きながら背負っていたバックパックを前側に持ってきて中を漁る。
「土産」
手渡された袋を受け取り、芙蓉は中を覗く。
「すごい、おっきい…、バウムクーヘン?」
「芙蓉の母さんと一緒に食べてくれ。いつも世話になってるから、少しだけどお礼」
それと、と言いながらまたバックパックを漁る。
「これは芙蓉に」
今度は小さな紙の袋を手渡され、開けてみると幾何学模様の綺麗な刺繍が施された小さめのポーチ。
「青森ではこの刺繍が有名なんだそうだ。芙蓉の好みに合うかわかんねぇけど…」
「私こういうの好きだよ。シンプルでかわいい。恵、ありがとう、大事に使わせてもらうね」
「…おう」
やっぱりこそばゆいー伏黒は少しだけ、素直な芙蓉を羨ましく思った。
泣く芙蓉を連れ、伏黒は近くの公園に飛び込んだ。
本来、呪いを祓うときには“帳”という、呪いを秘匿する、非術師には知覚出来ない結界を下ろさなくてはならないのだが、今回は急な事だった上に帳を下ろす人間がいなかった。住宅街のほぼど真ん中で呪いを祓ったのだ、周りに影響が出ないように細心の注意を払ったが、もし騒ぎになって巻き込まれても面倒だと判断して公園に逃げ込んだのだった。
伏黒と並んでベンチに座り、タオルに顔を埋めて未だにぐすぐすと泣く芙蓉。やっとの事で顔を上げるも、目も鼻も真っ赤になっていた。
「…そんなに泣く事もねぇだろ…」
「ごめん、なんか気持ちがぐちゃぐちゃで…」
芙蓉は近くの水道でザブザブと顔を洗う。先程よりだいぶスッキリした表情になった。
「…うん、だいぶ落ち着いた」
幾分目鼻がまだうっすら赤いが、笑顔を見せる辺り大丈夫なのだろう。
「助けてくれてありがとう」
「…おう」
人に感謝の念を伝える、礼を言う、謝罪を言う。このような、人として当たり前とも言える事を素直に言える芙蓉はとても素晴らしいと思うが、改まって面と向かって言われると、どうにもこそばゆいーその辺はもっとフランクでも良いのにと、伏黒はいつもそっけなく返事をしてしまう。
「ごめんね、呪霊にも気を付けなくちゃいけないのを忘れてて…」
普段、学区内の呪霊は伏黒が祓っているのだが、鍛錬の間に呪霊が寄って来たのであろう。今は呪霊が多く発生する時期ー少し間を空けたらすぐ発生するのは仕方のない事と言えた。
「もう少しすれば呪霊が湧くのも落ち着いてくるはずだ。気を抜くなよ」
伏黒の言葉に芙蓉は頷いた。いくら呪力操作をしているとはいえ、呪霊を祓う術を持たない芙蓉にとっては非術師と同様、呪霊は脅威でしかない。
五条が言うには、芙蓉は術式を持っている、それは間違いないらしい。じゃあ何故術式を認識できないのか、発現しないのかというのはわからない。何かしらのキッカケで発現するのかもしれないし、このまま一生発現しないかもしれない、との事だ。
伏黒としては、芙蓉はこのまま津美紀と同様非術師のように、呪いから離れたところで生活して欲しいと思っている。こちら側の暗い部分なんて見て欲しくないし、手を汚して欲しくないー芙蓉の明るい笑顔を見ているとつくづく思う。
暮れかけていた日は既に落ち、夜の帳が降り始めている。芙蓉は部活帰り、そろそろ帰らないと千浪が心配するだろう。
「そろそろ帰るか。芙蓉の母さんも心配してるだろ」
先程呪いを祓った場所の辺りが気になるが、特に人が集まる様子や警察のパトカーなどサイレンも聞こえなかったから問題はなかったのだろう。
「そう言えば、恵はもう一旦家に帰ったの?」
「いや。帰ろうと思った時に…、あ」
「え?」
「いや…、あの人、芙蓉の家にいるかも」
家の近くまで来て途中で別れたのを思い出した。
もう帰ってると良いな、けどなんだかんだ長居してそうだよな、芙蓉を送ったらすぐ帰ろう。
2人は芙蓉の家を目指して歩く。
「そういえばさ、悟くんと何処行ってたの?」
五条家に帰省した際、何処かへ行ったと聞かされた旨を伝える。鍛錬じゃなかったの、と。
「…青森。…恐山」
「えっと…、あのイタコさんとかいるところ?」
「そう」
恐山と言えば日本でも有名な霊場で、死者の集まる山としても知られている。
「…なんで?」
「知るか」
それ以上多くを語ろうとしない伏黒。青森滞在中は何かと苦労が多かったのだろう。
「大変だったと思うけど…、とりあえずこれで夏休みはもう鍛錬ないんでしょ?」
「たぶんな。…たぶん」
気まぐれな五条の事、本当にこの後は何もないと言い切る事は出来ない。折角の夏休みなのに、と少々気が滅入るが、今年は自分の時間があるだけまだ良い、伏黒はそう思う事にした。
「そうだ、忘れないうち」
伏黒は歩きながら背負っていたバックパックを前側に持ってきて中を漁る。
「土産」
手渡された袋を受け取り、芙蓉は中を覗く。
「すごい、おっきい…、バウムクーヘン?」
「芙蓉の母さんと一緒に食べてくれ。いつも世話になってるから、少しだけどお礼」
それと、と言いながらまたバックパックを漁る。
「これは芙蓉に」
今度は小さな紙の袋を手渡され、開けてみると幾何学模様の綺麗な刺繍が施された小さめのポーチ。
「青森ではこの刺繍が有名なんだそうだ。芙蓉の好みに合うかわかんねぇけど…」
「私こういうの好きだよ。シンプルでかわいい。恵、ありがとう、大事に使わせてもらうね」
「…おう」
やっぱりこそばゆいー伏黒は少しだけ、素直な芙蓉を羨ましく思った。