芽生え
恵の幼馴染のお名前は?
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茹だるような暑さの8月。真夏の太陽はこれでもかと言わんばかりに熱気を振り撒いている。
茹だるような、ではなく本当に茹だってしまう暑さだー芙蓉はサウナ状態の体育館で部活に勤しんでいた。芙蓉の所属するバスケ部は屋内だからまだ良いが、野球部やサッカー部は暑さの為に日中の活動を禁止されているようで、早朝か夕方に活動しているらしい。
そんな配慮をしようが、朝だろうが昼間だろうが夜だろうが、夏はいつだってやっぱり暑い。
そんな灼熱地獄での部活は明日から一旦休みになる。芙蓉は明日から母の実家である五条家に帰省の予定だ。五条家の周りは何もないが、静かで気持ちが休まるし、自分たちが住んでいる地域よりも涼しく感じられる。まさに保養所の様な場所だと、呪いさえいなければ最高の場所だと芙蓉は思っていた。
さて、今年から短期集中、夏期講習スタイルの鍛錬になったという伏黒の五条家合宿。伏黒は先週半ば頃に五条家入りしている。津美紀によると、去年よりも暗い顔で出て行ったらしい。
「え?いない?」
「えぇ、こちらに2日程滞在した後、“しばらく留守にするから”と、悟様が」
芙蓉と千浪が五条家へ帰省した際、五条と伏黒の姿が見当たらない事を家人に尋ねてみれば、この答えである。行き先も知らないようだが、これも五条は日常茶飯事なようで、さして誰も気にしていないようだった。
いない人間の事を気にしたってどうしようもないと仕方ないと結論付ける。彼女も呪力操作の鍛錬があるものの、それほど時間を取られるものでもなく、1日1時間から2時間程度。あとは自分のやりたいようにのんびり過ごそうというところに着地した。
芙蓉と千浪は3日程五条家に滞在していたが、結局五条と伏黒は戻って来なかった。2人に会えないまま帰省を終え、芙蓉は再び灼熱の部活の日々に戻る事になった。週末には食事を届けに伏黒のアパートを訪れる。が、この日もまだ伏黒は戻って来ていないとの事だった。もう2週間になるから、帰ってきてもいいと思うんだけど、と津美紀も本格的に心配し始めていた。
そんなこんなで、伏黒の事を心配しつつも、午後からの部活に勤しんでいたある日の事。
「お疲れ様でしたぁー!」
練習が終わり、体育館の片付けを済ませたところで芙蓉は戸締りの当番になっていたのを、一緒に当番になっているメンバーに言われるまで、すっかり失念していた。そのメンバーと戸締りをし、職員室へ鍵を返す。と、ここで芙蓉は帰り道、1人になってしまう事に気付いた。ペアのメンバーの家は反対方向だ。
まだ日没まで時間はあるし、空はまだ明るい。1人で帰ってもきっと大丈夫ー何の根拠もなく、そう言い聞かせて芙蓉は歩き出す。帰り道にはあちこち家もあるし、何かあったら助けを求めたっていい。
「…っ、やば…」
思わず口から出た言葉。視線の先、進む先には道路を塞ぐ程に巨大なカエルのような生物がいた。目がなく、つるりとした頭、大きな口の中では長い舌が蠢いているー呪霊だと気付き、足を止めた。恐らく呪霊はまだ芙蓉の存在には気付いていないと思うのだが、カエルは芙蓉の方を向く格好になっている。長い舌を忙しなく動かし、この呪霊は気が立っているようにも見える。下手に動けば気付かれてしまうかもしれない。
伏黒から極力1人にならないように言われ、不良連中に遭遇しないように気を回していたのだが、呪霊の事は完全に抜け落ちていた。
呪霊はソワソワと身体を動かしてはいるものの、その場から動く様子がないー目がないから、何処を見ているのかもわからない。が、芙蓉が何かしら動きを見せれば飛びかかって来るかもしれない。
あらゆる可能性を思い描くも、この場から抜け出す方法が出てこない。本格的に良くない状況だと理解し始めた時、大きな白と黒の犬が芙蓉を追い越すように駆けて行くのが見えた。2頭はカエルに飛び掛かる。足下のアスファルトが水面のように波打ったと思えば、大蛇が飛び出しカエルに喰らいつく。パリパリと火花の散る音が耳を突き、見上げると大きな鳥がカエルに雷を落としていた。カエルがグェ、と声を上げ影のように黒くなったと思えば忽ち霧散した。
「…出来るだけ1人で帰るなって言っただろ」
声が聞こえると同時に2頭の犬も大蛇も鳥も、パシャ、という水が撥ねるような音と同時に姿を消した。芙蓉は耳に慣れた声に安堵して振り返る。大ぶりのバックパックを背負った伏黒がいた。
「呪霊の気配がすると思って来てみれば。俺が気付かなかったらどうするつもりだったんだよ…って、おい、どうした?大丈夫か⁈」
焦る伏黒。芙蓉は泣き出していた。呪霊への恐怖、伏黒の操る式神への驚き、伏黒に会えた嬉しさと、様々な感情が混ざり合い、涙となって溢れたのだろう。
もう芙蓉自身も涙が止まらずどうして良いかわからなくなっているようで、戸惑っている伏黒に申し訳なく思いながらもひとしきり泣いた。
茹だるような、ではなく本当に茹だってしまう暑さだー芙蓉はサウナ状態の体育館で部活に勤しんでいた。芙蓉の所属するバスケ部は屋内だからまだ良いが、野球部やサッカー部は暑さの為に日中の活動を禁止されているようで、早朝か夕方に活動しているらしい。
そんな配慮をしようが、朝だろうが昼間だろうが夜だろうが、夏はいつだってやっぱり暑い。
そんな灼熱地獄での部活は明日から一旦休みになる。芙蓉は明日から母の実家である五条家に帰省の予定だ。五条家の周りは何もないが、静かで気持ちが休まるし、自分たちが住んでいる地域よりも涼しく感じられる。まさに保養所の様な場所だと、呪いさえいなければ最高の場所だと芙蓉は思っていた。
さて、今年から短期集中、夏期講習スタイルの鍛錬になったという伏黒の五条家合宿。伏黒は先週半ば頃に五条家入りしている。津美紀によると、去年よりも暗い顔で出て行ったらしい。
「え?いない?」
「えぇ、こちらに2日程滞在した後、“しばらく留守にするから”と、悟様が」
芙蓉と千浪が五条家へ帰省した際、五条と伏黒の姿が見当たらない事を家人に尋ねてみれば、この答えである。行き先も知らないようだが、これも五条は日常茶飯事なようで、さして誰も気にしていないようだった。
いない人間の事を気にしたってどうしようもないと仕方ないと結論付ける。彼女も呪力操作の鍛錬があるものの、それほど時間を取られるものでもなく、1日1時間から2時間程度。あとは自分のやりたいようにのんびり過ごそうというところに着地した。
芙蓉と千浪は3日程五条家に滞在していたが、結局五条と伏黒は戻って来なかった。2人に会えないまま帰省を終え、芙蓉は再び灼熱の部活の日々に戻る事になった。週末には食事を届けに伏黒のアパートを訪れる。が、この日もまだ伏黒は戻って来ていないとの事だった。もう2週間になるから、帰ってきてもいいと思うんだけど、と津美紀も本格的に心配し始めていた。
そんなこんなで、伏黒の事を心配しつつも、午後からの部活に勤しんでいたある日の事。
「お疲れ様でしたぁー!」
練習が終わり、体育館の片付けを済ませたところで芙蓉は戸締りの当番になっていたのを、一緒に当番になっているメンバーに言われるまで、すっかり失念していた。そのメンバーと戸締りをし、職員室へ鍵を返す。と、ここで芙蓉は帰り道、1人になってしまう事に気付いた。ペアのメンバーの家は反対方向だ。
まだ日没まで時間はあるし、空はまだ明るい。1人で帰ってもきっと大丈夫ー何の根拠もなく、そう言い聞かせて芙蓉は歩き出す。帰り道にはあちこち家もあるし、何かあったら助けを求めたっていい。
「…っ、やば…」
思わず口から出た言葉。視線の先、進む先には道路を塞ぐ程に巨大なカエルのような生物がいた。目がなく、つるりとした頭、大きな口の中では長い舌が蠢いているー呪霊だと気付き、足を止めた。恐らく呪霊はまだ芙蓉の存在には気付いていないと思うのだが、カエルは芙蓉の方を向く格好になっている。長い舌を忙しなく動かし、この呪霊は気が立っているようにも見える。下手に動けば気付かれてしまうかもしれない。
伏黒から極力1人にならないように言われ、不良連中に遭遇しないように気を回していたのだが、呪霊の事は完全に抜け落ちていた。
呪霊はソワソワと身体を動かしてはいるものの、その場から動く様子がないー目がないから、何処を見ているのかもわからない。が、芙蓉が何かしら動きを見せれば飛びかかって来るかもしれない。
あらゆる可能性を思い描くも、この場から抜け出す方法が出てこない。本格的に良くない状況だと理解し始めた時、大きな白と黒の犬が芙蓉を追い越すように駆けて行くのが見えた。2頭はカエルに飛び掛かる。足下のアスファルトが水面のように波打ったと思えば、大蛇が飛び出しカエルに喰らいつく。パリパリと火花の散る音が耳を突き、見上げると大きな鳥がカエルに雷を落としていた。カエルがグェ、と声を上げ影のように黒くなったと思えば忽ち霧散した。
「…出来るだけ1人で帰るなって言っただろ」
声が聞こえると同時に2頭の犬も大蛇も鳥も、パシャ、という水が撥ねるような音と同時に姿を消した。芙蓉は耳に慣れた声に安堵して振り返る。大ぶりのバックパックを背負った伏黒がいた。
「呪霊の気配がすると思って来てみれば。俺が気付かなかったらどうするつもりだったんだよ…って、おい、どうした?大丈夫か⁈」
焦る伏黒。芙蓉は泣き出していた。呪霊への恐怖、伏黒の操る式神への驚き、伏黒に会えた嬉しさと、様々な感情が混ざり合い、涙となって溢れたのだろう。
もう芙蓉自身も涙が止まらずどうして良いかわからなくなっているようで、戸惑っている伏黒に申し訳なく思いながらもひとしきり泣いた。