芽生え
恵の幼馴染のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
桜の咲き誇る4月。伏黒と芙蓉は中学へ進学し、1つ年上の津美紀は2年生になった。
真新しい制服に袖を通し、新しい環境に胸躍らせる芙蓉。麗らかなこの日は中学校の入学式だ。
「…なんでいるんスか」
無事に入学式が終わり、上機嫌な芙蓉とは対照的に思いっきり不機嫌な伏黒。吐き出された凍てつくような冷ややかな言葉は、真っ黒なサングラス、そして黒を基調としたスーツを程良く着崩した五条へと向けられたものだったが、当の本人は全く意に介する様子もなく、へらりと笑みを浮かべている。
「だぁって、今日は恵と芙蓉の入学式だよ?そりゃあ出席するに決まってるでしょ〜」
事も無げに言ってのける五条に苦笑しながら、芙蓉の母・千浪は口を開く。
「恵くん、この後津美紀ちゃんも一緒に、みんなで食事に行きましょう」
テンション下降中の伏黒を母と同じように食事へと誘う芙蓉。せっかくのお祝いだし、津美紀ちゃんも喜ぶと思う、と芙蓉が言えば、五条がいる事に少々渋い顔をしたが、申し出に同意した。
「じゃ、また後でね」
解散前に連絡事項があるという事で、伏黒と芙蓉は連れ立って教室へ戻る。五条と千浪は3人が来るまで式場の外で待つ事にした。
「それにしても悟くん、相変わらず目立つわね」
「千浪ちゃんまでそんな事言うのぉ?もう僕がこんなんなのは昔から知ってるでしょ」
校門のすぐ外で並んで立つ2人に集まる視線ー通り過ぎる人の9割近くが五条の事を見ていた。
「…それにしても、芙蓉も恵も中学生かぁ。ホント時間が経つのは早いねぇ」
五条と伏黒が出会って6年が経つ。伏黒は中学生ながら、もう呪術師としてやっていけそうだと、彼の成長を思い返す。そして、芙蓉ー。
「ねぇ千浪ちゃん」
戯けた声音から一転、真面目な調子で呼ばれ、千浪は首を傾げながら顔を向ける。
「… 芙蓉を高専に入れる気、ない?」
いつか言われるかもしれないと覚悟を決めていた千浪だが、まさか今日、中学校入学式の当日に言われるとは思っていなかった。
「悟くん。… 芙蓉は中学生になったばかりよ」
「うん。節目でちょうどいいかと思って」
少なからず、千浪の気持ちはざわついた。進路を決めるまで、“あと3年ある”が、“3年しかない”のだ。この3年で決められるのだろうかー千浪は首を振った。
「私が決める事じゃないわ、あの子の人生だもの。
…自分で選ばせるわ。夫もそう願っている」
千浪の夫・和真の事は五条もよく知っている。年が近く、気さくな彼とはよく話をしたものだった。
「…りょーかい。急にごめんね」
些か気まずい空気になってしまったが、外での立ち話程度でちょうど良かったのかもしれない、今話して正解だったかも、と五条は思った。改まって話をしようものならもっと千浪を追い詰めるような事になったかもしれない、そう思えば尚更だった。
「お待たせ〜!」
重い空気を断ち切るように芙蓉の声が聞こえた。伏黒と津美紀を従えるように、芙蓉が手を振りながら向かってくるのが見えた。五条が手を振り返す。
「芙蓉のお母さん、こんにちは」
「こんにちは。この度は恵くんのご入学、おめでとうございます。芙蓉がいつもお世話になってます」
「とんでもないです、そんな…、いつもお世話になってるのはウチの方で…」
千浪と保護者同士の挨拶のような遣り取りをする津美紀。もう立派な大人だと言えそうだ。
一方五条は伏黒と芙蓉に何を食べたいか聞きながら、スマホで店を調べていた。フレンチ、イタリアン、中華、和食、焼肉、寿司ー様々な候補が挙がったが、肩肘張らずフランクに食べられる寿司に決まった。
一行は五条の行きつけという“回らない”寿司屋にやって来た。店の佇まいから津美紀は恐縮していたが、隣で遠慮なく注文し箸を進める伏黒、芙蓉が津美紀の分を勝手に注文したりと、そんなこんなで津美紀の緊張も解けて食事を楽しんだ。
「五条さん、本当にありがとうございました」
支払いを持った五条に丁寧に頭を下げる津美紀。彼女は五条と伏黒の関係について詳しく知らされていない。伏黒が伝える必要はないと、五条に口止めしている。津美紀は呪いの見えない非術師だ。彼女に呪いや呪術師の事を話しても、変に不安を煽るだけだ。
「いやいや、こちらこそ楽しかったよ。これからも芙蓉の事、よろしくね」
「はい!もちろんです!」
僕はこれで、と五条はその場で皆と別れた。
五条を見送り、4人はのんびり帰途につく。千浪は前を歩く3人の後ろ姿を眺めながら、とても複雑な気持ちを持て余していた。彼らの成長を手放しで喜べない。もし伏黒が呪術師になったら、津美紀や芙蓉とは離れ離れになってしまうだろう。芙蓉も呪術師の道を選べば津美紀は1人になってしまう。仲の良い3人にとって、最善の道はないものだろうかー
「お母さーん?」
声に顔を上げれば、3人が千浪を振り返っていた。どうやら千浪は立ち止まっていたらしい。
考えたって何にもならない、それならせめて、今この時を大切にしていこう。
気遣いの声に頷き、千浪は歩みを進めた。
真新しい制服に袖を通し、新しい環境に胸躍らせる芙蓉。麗らかなこの日は中学校の入学式だ。
「…なんでいるんスか」
無事に入学式が終わり、上機嫌な芙蓉とは対照的に思いっきり不機嫌な伏黒。吐き出された凍てつくような冷ややかな言葉は、真っ黒なサングラス、そして黒を基調としたスーツを程良く着崩した五条へと向けられたものだったが、当の本人は全く意に介する様子もなく、へらりと笑みを浮かべている。
「だぁって、今日は恵と芙蓉の入学式だよ?そりゃあ出席するに決まってるでしょ〜」
事も無げに言ってのける五条に苦笑しながら、芙蓉の母・千浪は口を開く。
「恵くん、この後津美紀ちゃんも一緒に、みんなで食事に行きましょう」
テンション下降中の伏黒を母と同じように食事へと誘う芙蓉。せっかくのお祝いだし、津美紀ちゃんも喜ぶと思う、と芙蓉が言えば、五条がいる事に少々渋い顔をしたが、申し出に同意した。
「じゃ、また後でね」
解散前に連絡事項があるという事で、伏黒と芙蓉は連れ立って教室へ戻る。五条と千浪は3人が来るまで式場の外で待つ事にした。
「それにしても悟くん、相変わらず目立つわね」
「千浪ちゃんまでそんな事言うのぉ?もう僕がこんなんなのは昔から知ってるでしょ」
校門のすぐ外で並んで立つ2人に集まる視線ー通り過ぎる人の9割近くが五条の事を見ていた。
「…それにしても、芙蓉も恵も中学生かぁ。ホント時間が経つのは早いねぇ」
五条と伏黒が出会って6年が経つ。伏黒は中学生ながら、もう呪術師としてやっていけそうだと、彼の成長を思い返す。そして、芙蓉ー。
「ねぇ千浪ちゃん」
戯けた声音から一転、真面目な調子で呼ばれ、千浪は首を傾げながら顔を向ける。
「… 芙蓉を高専に入れる気、ない?」
いつか言われるかもしれないと覚悟を決めていた千浪だが、まさか今日、中学校入学式の当日に言われるとは思っていなかった。
「悟くん。… 芙蓉は中学生になったばかりよ」
「うん。節目でちょうどいいかと思って」
少なからず、千浪の気持ちはざわついた。進路を決めるまで、“あと3年ある”が、“3年しかない”のだ。この3年で決められるのだろうかー千浪は首を振った。
「私が決める事じゃないわ、あの子の人生だもの。
…自分で選ばせるわ。夫もそう願っている」
千浪の夫・和真の事は五条もよく知っている。年が近く、気さくな彼とはよく話をしたものだった。
「…りょーかい。急にごめんね」
些か気まずい空気になってしまったが、外での立ち話程度でちょうど良かったのかもしれない、今話して正解だったかも、と五条は思った。改まって話をしようものならもっと千浪を追い詰めるような事になったかもしれない、そう思えば尚更だった。
「お待たせ〜!」
重い空気を断ち切るように芙蓉の声が聞こえた。伏黒と津美紀を従えるように、芙蓉が手を振りながら向かってくるのが見えた。五条が手を振り返す。
「芙蓉のお母さん、こんにちは」
「こんにちは。この度は恵くんのご入学、おめでとうございます。芙蓉がいつもお世話になってます」
「とんでもないです、そんな…、いつもお世話になってるのはウチの方で…」
千浪と保護者同士の挨拶のような遣り取りをする津美紀。もう立派な大人だと言えそうだ。
一方五条は伏黒と芙蓉に何を食べたいか聞きながら、スマホで店を調べていた。フレンチ、イタリアン、中華、和食、焼肉、寿司ー様々な候補が挙がったが、肩肘張らずフランクに食べられる寿司に決まった。
一行は五条の行きつけという“回らない”寿司屋にやって来た。店の佇まいから津美紀は恐縮していたが、隣で遠慮なく注文し箸を進める伏黒、芙蓉が津美紀の分を勝手に注文したりと、そんなこんなで津美紀の緊張も解けて食事を楽しんだ。
「五条さん、本当にありがとうございました」
支払いを持った五条に丁寧に頭を下げる津美紀。彼女は五条と伏黒の関係について詳しく知らされていない。伏黒が伝える必要はないと、五条に口止めしている。津美紀は呪いの見えない非術師だ。彼女に呪いや呪術師の事を話しても、変に不安を煽るだけだ。
「いやいや、こちらこそ楽しかったよ。これからも芙蓉の事、よろしくね」
「はい!もちろんです!」
僕はこれで、と五条はその場で皆と別れた。
五条を見送り、4人はのんびり帰途につく。千浪は前を歩く3人の後ろ姿を眺めながら、とても複雑な気持ちを持て余していた。彼らの成長を手放しで喜べない。もし伏黒が呪術師になったら、津美紀や芙蓉とは離れ離れになってしまうだろう。芙蓉も呪術師の道を選べば津美紀は1人になってしまう。仲の良い3人にとって、最善の道はないものだろうかー
「お母さーん?」
声に顔を上げれば、3人が千浪を振り返っていた。どうやら千浪は立ち止まっていたらしい。
考えたって何にもならない、それならせめて、今この時を大切にしていこう。
気遣いの声に頷き、千浪は歩みを進めた。