それから
恵の幼馴染のお名前は?
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規則的に振動する何かに伏黒は睡眠を中断させられた。目を開けると、芙蓉が穏やかな顔で、静かに寝息を立てて眠っている。彼女を起こさない様に、自身の眠りを妨げた何かを探すー芙蓉のスマホだった。今までよく眠れていなかったのか、それとも伏黒の存在に安心感を覚えて深く眠っているのか、彼女は目を覚ます気配がない。
伏黒は芙蓉の着ている服のポケットからこぼれ落ちそうになっているスマホをそっと取り上げて画面を見る。家入からの電話だった。
「…伏黒です」
『…、まさかと思うが、ちゃんと避妊はしただろうな』
「何言ってんですか朝からやめてください。何もないです。昨夜話をしていたら寝てしまって」
正に藪から棒、伏黒は盛大に溜め息を吐いた。それが聞こえたのか、家入のくつくつ笑う様子が耳に届く。
『相変わらずで安心したよ。…ところで高峰は』
「まだ寝てます。なかなか起きないと思いますよ。…何か急ぎですか?」
『いや、お前の様子を聞こうと思ってな』
自身の様子ーとても幅の広い言葉だった。どう答えたものかと考えながら、伏黒は芙蓉を起こさない様にと静かにベッドを抜け出した。
「…芙蓉が起きたら、そっちに行くつもりです。…津美紀に、…、津美紀の、見送りに」
『そうか。じゃあ極力部屋を空けない様にしておく』
それだけ言うと、家入は電話を切った。伏黒はスマホを耳から離して通話の終わった画面をぼんやりと眺める。通話画面が消え、待ち受け画面に切り替わった。自身と芙蓉のツーショット。これはいつの写真だったろうかと、伏黒の頬が緩む。ベッドサイドに芙蓉のスマホを置く。未だ眠っている芙蓉を見遣れば、待ち受け画面の彼女よりも大人びて雰囲気の変わった彼女。以前より少し伸びた芙蓉の髪をさらりと撫でた。
伏黒と芙蓉が家入の下を訪れたのは昼前になった。他の面々は何処に行ったのかと心配になるくらいに静かな通路を2人は歩いて行く。
伏黒が先立って医務室のドアを叩き、ドアを開ける。
「来たか」
2人を確認すると、家入は部屋の奥へ進んで行く。後を追うと、白く綺麗な大きな箱がストレッチャーに固定されていた。津美紀の事は受け入れたはずではあるが、それでもー芙蓉は変えようのない現実を突き付けられ、身体が強張るのを自覚した。
「勝手に段取りを組んだ事は悪いと思ってる。が、身体がもう限界だろう。新田の術式も効果が薄まっているだろうし…、ずっと寒い想いをさせとくのも可哀想だろ」
白く綺麗な大きな箱ー棺だった。伏黒は僅かな間を置いて棺に手を伸ばし、静かにその蓋をずらし開けた。
白無垢の様な綺麗な装束を纏い、旅支度を済ませた津美紀。伏黒はその姿を目に焼き付ける様に見つめると、静かに蓋を元に戻した。
「…家入さん、…、後、お願いします」
「わかった」
家入は何処かに電話をかけながら、伏黒と芙蓉に向けテーブルを指し示した。2人がそちらに目を向けると、白百合が2本、1本ずつ包まれたものが置かれていた。
手向けの花、という事だろうと察した2人は1本ずつ手に取り、伏黒は確りとした手つきで、芙蓉は僅かに震える手つきで棺の上へ白百合を添えた。通話を終えた家入は2人に向き直った。
「…本来なら、伏黒に話をして決めていく事なんだろうが…、やはりお前が未成年という事が何かと枷になってな。…墓所は五条が手配してったよ。伏黒の世話をしてた以上、自分に出来る事はやっておきたいってさ」
「そ、う…ですか」
伏黒は曖昧に、伏目がちに返事をすると静かにドアへと足を向け、部屋を出た。芙蓉は伏黒が潜ったドアが閉まるのを見つめていた。
「…状況を理解していても辛い現実である事に変わりはないからな」
「そう、ですね」
「…行ってやれ。宿儺の中だったとは言え、ずっと1人で抱えてきたんだ」
家入の言葉に返事をする前に芙蓉は部屋を飛び出して行った。それを見送った家入は小さく息を吐いた。
「心配しなくても、あの2人はお互い支え合っていけるんじゃないかな。…血の繋がりは無くても、あの子達は自慢の弟と妹だね、津美紀ちゃん」
芙蓉が部屋を出、さほど時間もかからずに伏黒の姿をすぐに見つける事が出来た。医務室近くの、自販機の並ぶ屋外の休憩所。誰が運び込んだのか、年季の入った木製のベンチに伏黒は蹲る様に座っていた。芙蓉が近付くと、彼女の気配に気付いた伏黒は上体を起こす。芙蓉は黙って彼の隣に座った。津美紀が倒れた時も、こうして隣に座るだけしか出来なかったなと、芙蓉は盗み見る様に伏黒を見遣る。あの時の様に、声をかけてくれる五条はもう居ない。芙蓉は五条の瞳に似た青空を見上げた。
「…今までずっと、ありがとな」
ぽつり、と不意にこぼされた言葉に、芙蓉は思わず伏黒を振り返った。
「…津美紀の事」
「…うん」
ー沈黙。お互いにそれ以上言葉は出なかった。
“誰かの事を呪う暇があったら大切な人の事を考えていたい”と言っていた彼女の人生は。彼女の想いは。
「…津美紀ちゃんの分も、生きる」
今度は伏黒が芙蓉を振り返った。
「…私も恵も、呪術師だから、…津美紀ちゃんの様には生きられないけど…、想いを背負うのは、出来るはず」
「……」
「…もし、それが呪いになっても、私は津美紀ちゃんの事、大事に生きていきたい」
芙蓉の強い言葉に伏黒は面食らった様な表情を見せたが、彼は顔を伏せて小さく笑った。
「ふ…、そう、だな」
呟く伏黒の目尻に小さな光る粒。それを拭おうと芙蓉が手を伸ばすと、その手を避けるようにして伏黒は彼女を抱き締めた。
「…芙蓉、本当にありがとう」
芙蓉は泣きながら何度も何度も頷いた。
伏黒は芙蓉の着ている服のポケットからこぼれ落ちそうになっているスマホをそっと取り上げて画面を見る。家入からの電話だった。
「…伏黒です」
『…、まさかと思うが、ちゃんと避妊はしただろうな』
「何言ってんですか朝からやめてください。何もないです。昨夜話をしていたら寝てしまって」
正に藪から棒、伏黒は盛大に溜め息を吐いた。それが聞こえたのか、家入のくつくつ笑う様子が耳に届く。
『相変わらずで安心したよ。…ところで高峰は』
「まだ寝てます。なかなか起きないと思いますよ。…何か急ぎですか?」
『いや、お前の様子を聞こうと思ってな』
自身の様子ーとても幅の広い言葉だった。どう答えたものかと考えながら、伏黒は芙蓉を起こさない様にと静かにベッドを抜け出した。
「…芙蓉が起きたら、そっちに行くつもりです。…津美紀に、…、津美紀の、見送りに」
『そうか。じゃあ極力部屋を空けない様にしておく』
それだけ言うと、家入は電話を切った。伏黒はスマホを耳から離して通話の終わった画面をぼんやりと眺める。通話画面が消え、待ち受け画面に切り替わった。自身と芙蓉のツーショット。これはいつの写真だったろうかと、伏黒の頬が緩む。ベッドサイドに芙蓉のスマホを置く。未だ眠っている芙蓉を見遣れば、待ち受け画面の彼女よりも大人びて雰囲気の変わった彼女。以前より少し伸びた芙蓉の髪をさらりと撫でた。
伏黒と芙蓉が家入の下を訪れたのは昼前になった。他の面々は何処に行ったのかと心配になるくらいに静かな通路を2人は歩いて行く。
伏黒が先立って医務室のドアを叩き、ドアを開ける。
「来たか」
2人を確認すると、家入は部屋の奥へ進んで行く。後を追うと、白く綺麗な大きな箱がストレッチャーに固定されていた。津美紀の事は受け入れたはずではあるが、それでもー芙蓉は変えようのない現実を突き付けられ、身体が強張るのを自覚した。
「勝手に段取りを組んだ事は悪いと思ってる。が、身体がもう限界だろう。新田の術式も効果が薄まっているだろうし…、ずっと寒い想いをさせとくのも可哀想だろ」
白く綺麗な大きな箱ー棺だった。伏黒は僅かな間を置いて棺に手を伸ばし、静かにその蓋をずらし開けた。
白無垢の様な綺麗な装束を纏い、旅支度を済ませた津美紀。伏黒はその姿を目に焼き付ける様に見つめると、静かに蓋を元に戻した。
「…家入さん、…、後、お願いします」
「わかった」
家入は何処かに電話をかけながら、伏黒と芙蓉に向けテーブルを指し示した。2人がそちらに目を向けると、白百合が2本、1本ずつ包まれたものが置かれていた。
手向けの花、という事だろうと察した2人は1本ずつ手に取り、伏黒は確りとした手つきで、芙蓉は僅かに震える手つきで棺の上へ白百合を添えた。通話を終えた家入は2人に向き直った。
「…本来なら、伏黒に話をして決めていく事なんだろうが…、やはりお前が未成年という事が何かと枷になってな。…墓所は五条が手配してったよ。伏黒の世話をしてた以上、自分に出来る事はやっておきたいってさ」
「そ、う…ですか」
伏黒は曖昧に、伏目がちに返事をすると静かにドアへと足を向け、部屋を出た。芙蓉は伏黒が潜ったドアが閉まるのを見つめていた。
「…状況を理解していても辛い現実である事に変わりはないからな」
「そう、ですね」
「…行ってやれ。宿儺の中だったとは言え、ずっと1人で抱えてきたんだ」
家入の言葉に返事をする前に芙蓉は部屋を飛び出して行った。それを見送った家入は小さく息を吐いた。
「心配しなくても、あの2人はお互い支え合っていけるんじゃないかな。…血の繋がりは無くても、あの子達は自慢の弟と妹だね、津美紀ちゃん」
芙蓉が部屋を出、さほど時間もかからずに伏黒の姿をすぐに見つける事が出来た。医務室近くの、自販機の並ぶ屋外の休憩所。誰が運び込んだのか、年季の入った木製のベンチに伏黒は蹲る様に座っていた。芙蓉が近付くと、彼女の気配に気付いた伏黒は上体を起こす。芙蓉は黙って彼の隣に座った。津美紀が倒れた時も、こうして隣に座るだけしか出来なかったなと、芙蓉は盗み見る様に伏黒を見遣る。あの時の様に、声をかけてくれる五条はもう居ない。芙蓉は五条の瞳に似た青空を見上げた。
「…今までずっと、ありがとな」
ぽつり、と不意にこぼされた言葉に、芙蓉は思わず伏黒を振り返った。
「…津美紀の事」
「…うん」
ー沈黙。お互いにそれ以上言葉は出なかった。
“誰かの事を呪う暇があったら大切な人の事を考えていたい”と言っていた彼女の人生は。彼女の想いは。
「…津美紀ちゃんの分も、生きる」
今度は伏黒が芙蓉を振り返った。
「…私も恵も、呪術師だから、…津美紀ちゃんの様には生きられないけど…、想いを背負うのは、出来るはず」
「……」
「…もし、それが呪いになっても、私は津美紀ちゃんの事、大事に生きていきたい」
芙蓉の強い言葉に伏黒は面食らった様な表情を見せたが、彼は顔を伏せて小さく笑った。
「ふ…、そう、だな」
呟く伏黒の目尻に小さな光る粒。それを拭おうと芙蓉が手を伸ばすと、その手を避けるようにして伏黒は彼女を抱き締めた。
「…芙蓉、本当にありがとう」
芙蓉は泣きながら何度も何度も頷いた。