それから
恵の幼馴染のお名前は?
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芙蓉と家入の居る医務室のドアを叩く音が、続いてドアの開く音が静かな部屋の中、妙に大きく響いた。
「失礼します。…家入さん、五条家の方がお見えになりました。…どうぞ中へ」
伊地知が顔を出し、彼の後ろにいた数名が医務室に入って来る。伊地知は最後に入室し、静かにドアを閉めた。芙蓉は彼らの顔を見るー見知った顔はなかった。
「…悟様は、」
五条家の数名の内、先頭に立つ初老の男が険しい顔で口を開いた。その言葉を受けた家入は芙蓉に目配せする。芙蓉は頷くと家入に従い、先程のストレッチャーを2人で静かに移動させると、彼らの前でシーツをめくった。
「……」
重い沈黙が部屋を支配した。五条家の当主であり、五条家相伝の術式である無下限呪術、そして稀有な六眼を併せ持った現代最強と呼ばれた術師。そんな彼が命を落としたのは時間や病ではないという事実が一層、五条家の人間を酷く困惑させたのだろう。
「ご遺体の処置は私が行いました」
「…この額の包帯は」
「傷が大きく目立つので、この様に」
「…一体何が?」
五条家からの質問に、家入は言い淀む事なくすらすらと答えていく。彼女の口から出る言葉は間違いのない事実であり、家入と共に現場状況を見ていた芙蓉も時折同意をしたり、多少の口添えなどをした。
「…感謝申し上げる」
最初に口を開いた初老の男が深々と頭を下げると、後の面々も倣って頭を下げていた。これで五条を連れて行くのだろう、もうこれで会えるのは本当に最後なんだと芙蓉が考えていると。
「…千浪の娘…、芙蓉、だったか」
「え、…?」
五条を見つめていた芙蓉はそちらを振り返って首を傾げた。芙蓉の母・千浪は五条の生まれ、冷静に考えれば芙蓉の事を知っているのは当然である。
「…今回の件で千浪も命を落としたと聞いている。芙蓉、お前はこれからどうするのだ?今は高峰の家から離れているのだろう?」
「…、えっ、と…」
「この際、五条に来てはどうか?」
「!」
「以前、悟様からお前の術式について伺っている。今後五条で鍛錬を積んでー」
「ちょっ、と、待ってください、私そんな、」
「待遇が不安か?」
「そういう事じゃなくて…!」
「お話し中、失礼します」
矢継ぎ早に芙蓉へ言葉を投げかける彼を止めたのは伊地知だった。その場全員の視線を受け、伊地知は僭越ではありますが、と口を開く。
「高峰さんを心配なさるお気持ちは痛いくらいにわかります。ですが彼女はまだ高校生…、子供とも大人とも言えない年頃です。今、高峰さんは当呪術高専の学生として、クラスメイトと共に術師を目指して日々努力を重ねています。彼女の身の振り方は、高専を卒業する時に考えては如何でしょうか。…若人から青春を取り上げるのは…、許される事ではないと思うんです」
「…伊地知の意見には私も賛成ですね。この子達には今しか出来ない事、今だからこそ経験すべき事が数多くあります。術師として、また人としての基を育てているところですしね。…特にこの子は私が育てるつもりです」
穏やかながら、凛とした2人の言葉。芙蓉は下を向き、歯を食いしばって湧き出してきた涙を堪えていた。
「…私、は、高専に残りたい、です」
「…申し訳ない。…今の状況に、私も焦りや不安を感じていた様です。御二方、感謝申し上げる。…芙蓉」
「…はい」
「困った事があったら、いつでも五条を頼りなさい。高峰の姓ではあっても、お前には五条の血が流れている。…強く、聡い術師になりなさい」
「…っはい…!」
五条家の者、芙蓉、家入、伊地知は互いに深々と頭を下げた。それでは失礼します、という言葉と共に、五条が家の者と共に部屋を出て行く。彼らがやって来た時と同様に、伊地知が帯同する。
「…最後だからね、一緒に行くとしようか」
家入の言葉に芙蓉は頷き、ストレッチャーの隣を歩いていく。誰も何も話さず、ストレッチャーのキャスターがゴロゴロ鳴る音が響く。外へのドア付近には五条家の人間だろう、老若問わず数人の男が固い表情で待ち構えていた。ストレッチャーを受け取った彼らは神妙な面持ちで車へと運び入れ始めた。
「では失礼致します」
再び互いに深々と頭を下げ、五条家からの数台の車は車列を成して走り去って行った。
車がすっかり見えなくなったところで家入は煙草を取り出し火を点けた。
「…伊地知も言う様になったじゃん」
苦い煙と共に向けられた言葉に、伊地知は照れた様な表情をしながら口を開く。
「…私なりに、かなり勇気を振り絞って言ったんですから…、揶揄わないでください」
「何言ってんだ、五条に信頼されてた奴が…、お前だから言えたって感じじゃん」
「伊地知さん、本当にありがとうございました」
照れた顔が赤くなり、伊地知はもうやめてください、仕事に戻りますと足早に行ってしまった。
「…色々あったけど…、ま、何とかなるんじゃない。生き残った以上、私らにはやる事があるって事だね」
家入は煙草を携帯灰皿に押し込んだ。
「さぁて…今日は高峰から休暇の許可が下りたからね、美味い酒でも飲むとするか」
「硝子さん私お酒の事は言ってないですよ!」
「そーだねぇ、まだ見送らなきゃいけない子もいるからね…、美味い酒はその後にとっておく事にするよ」
家入の言葉に芙蓉は口を噤んだ。
「…少なくとも宿儺の中で状況はわかってるはずだろう。…それと、新田の術式が持ってるかもわからん、早めに来た方がいい」
「…そう、ですね」
思わず芙蓉は空を仰ぐ。綺麗に晴れ渡った空に何とも言えない気持ちを抱えながら、自身を落ち着かせようと大きく深呼吸をした。
「失礼します。…家入さん、五条家の方がお見えになりました。…どうぞ中へ」
伊地知が顔を出し、彼の後ろにいた数名が医務室に入って来る。伊地知は最後に入室し、静かにドアを閉めた。芙蓉は彼らの顔を見るー見知った顔はなかった。
「…悟様は、」
五条家の数名の内、先頭に立つ初老の男が険しい顔で口を開いた。その言葉を受けた家入は芙蓉に目配せする。芙蓉は頷くと家入に従い、先程のストレッチャーを2人で静かに移動させると、彼らの前でシーツをめくった。
「……」
重い沈黙が部屋を支配した。五条家の当主であり、五条家相伝の術式である無下限呪術、そして稀有な六眼を併せ持った現代最強と呼ばれた術師。そんな彼が命を落としたのは時間や病ではないという事実が一層、五条家の人間を酷く困惑させたのだろう。
「ご遺体の処置は私が行いました」
「…この額の包帯は」
「傷が大きく目立つので、この様に」
「…一体何が?」
五条家からの質問に、家入は言い淀む事なくすらすらと答えていく。彼女の口から出る言葉は間違いのない事実であり、家入と共に現場状況を見ていた芙蓉も時折同意をしたり、多少の口添えなどをした。
「…感謝申し上げる」
最初に口を開いた初老の男が深々と頭を下げると、後の面々も倣って頭を下げていた。これで五条を連れて行くのだろう、もうこれで会えるのは本当に最後なんだと芙蓉が考えていると。
「…千浪の娘…、芙蓉、だったか」
「え、…?」
五条を見つめていた芙蓉はそちらを振り返って首を傾げた。芙蓉の母・千浪は五条の生まれ、冷静に考えれば芙蓉の事を知っているのは当然である。
「…今回の件で千浪も命を落としたと聞いている。芙蓉、お前はこれからどうするのだ?今は高峰の家から離れているのだろう?」
「…、えっ、と…」
「この際、五条に来てはどうか?」
「!」
「以前、悟様からお前の術式について伺っている。今後五条で鍛錬を積んでー」
「ちょっ、と、待ってください、私そんな、」
「待遇が不安か?」
「そういう事じゃなくて…!」
「お話し中、失礼します」
矢継ぎ早に芙蓉へ言葉を投げかける彼を止めたのは伊地知だった。その場全員の視線を受け、伊地知は僭越ではありますが、と口を開く。
「高峰さんを心配なさるお気持ちは痛いくらいにわかります。ですが彼女はまだ高校生…、子供とも大人とも言えない年頃です。今、高峰さんは当呪術高専の学生として、クラスメイトと共に術師を目指して日々努力を重ねています。彼女の身の振り方は、高専を卒業する時に考えては如何でしょうか。…若人から青春を取り上げるのは…、許される事ではないと思うんです」
「…伊地知の意見には私も賛成ですね。この子達には今しか出来ない事、今だからこそ経験すべき事が数多くあります。術師として、また人としての基を育てているところですしね。…特にこの子は私が育てるつもりです」
穏やかながら、凛とした2人の言葉。芙蓉は下を向き、歯を食いしばって湧き出してきた涙を堪えていた。
「…私、は、高専に残りたい、です」
「…申し訳ない。…今の状況に、私も焦りや不安を感じていた様です。御二方、感謝申し上げる。…芙蓉」
「…はい」
「困った事があったら、いつでも五条を頼りなさい。高峰の姓ではあっても、お前には五条の血が流れている。…強く、聡い術師になりなさい」
「…っはい…!」
五条家の者、芙蓉、家入、伊地知は互いに深々と頭を下げた。それでは失礼します、という言葉と共に、五条が家の者と共に部屋を出て行く。彼らがやって来た時と同様に、伊地知が帯同する。
「…最後だからね、一緒に行くとしようか」
家入の言葉に芙蓉は頷き、ストレッチャーの隣を歩いていく。誰も何も話さず、ストレッチャーのキャスターがゴロゴロ鳴る音が響く。外へのドア付近には五条家の人間だろう、老若問わず数人の男が固い表情で待ち構えていた。ストレッチャーを受け取った彼らは神妙な面持ちで車へと運び入れ始めた。
「では失礼致します」
再び互いに深々と頭を下げ、五条家からの数台の車は車列を成して走り去って行った。
車がすっかり見えなくなったところで家入は煙草を取り出し火を点けた。
「…伊地知も言う様になったじゃん」
苦い煙と共に向けられた言葉に、伊地知は照れた様な表情をしながら口を開く。
「…私なりに、かなり勇気を振り絞って言ったんですから…、揶揄わないでください」
「何言ってんだ、五条に信頼されてた奴が…、お前だから言えたって感じじゃん」
「伊地知さん、本当にありがとうございました」
照れた顔が赤くなり、伊地知はもうやめてください、仕事に戻りますと足早に行ってしまった。
「…色々あったけど…、ま、何とかなるんじゃない。生き残った以上、私らにはやる事があるって事だね」
家入は煙草を携帯灰皿に押し込んだ。
「さぁて…今日は高峰から休暇の許可が下りたからね、美味い酒でも飲むとするか」
「硝子さん私お酒の事は言ってないですよ!」
「そーだねぇ、まだ見送らなきゃいけない子もいるからね…、美味い酒はその後にとっておく事にするよ」
家入の言葉に芙蓉は口を噤んだ。
「…少なくとも宿儺の中で状況はわかってるはずだろう。…それと、新田の術式が持ってるかもわからん、早めに来た方がいい」
「…そう、ですね」
思わず芙蓉は空を仰ぐ。綺麗に晴れ渡った空に何とも言えない気持ちを抱えながら、自身を落ち着かせようと大きく深呼吸をした。