出会い
恵の幼馴染のお名前は?
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五条より遅れて伏黒と芙蓉が部屋に戻ると、そこに五条の姿はなく、代わりに正座のお手本のように、姿勢よく背筋を伸ばして座っている男がいた。
「お待ちしておりました。悟様より呪力の運用についての鍛錬を仰せつかりました、不肖時永と申します」
中年に差し掛かる歳に見える時永は恭しく頭を下げる。そんな彼の態度に恐縮した様子の芙蓉と、ため息をつく伏黒。恐らく逃げたなー伏黒はそう直感した。五条から武術の鍛錬は施されているが、技術的な鍛錬は受けた記憶がほとんどない。
「あの、悟くんは…」
「は、用事を思い出したとかで…」
ー沈黙。
五条が何かと理由づけて姿を消すのは常套手段なのだろう。戸惑う芙蓉、表情こそ変えないものの幾分困った空気を醸し出す時永。伏黒は芙蓉を五条に任せた後は宿題を進めようと思っていたのだが、さすがに初対面のオッサンといきなり2人きりで鍛錬というのも芙蓉が気の毒だ。仕方なしに伏黒は腰を下ろした。
伏黒が同席するとわかり、芙蓉は少し緊張した様子ながら時永の向かいに正座をすると、よろしくお願いしますと頭を下げた。
芙蓉の鍛錬は夕食前に終わった。時永の基本的な説明から入り、呪力を知覚することから実践する、という流れで始まった。伏黒が聞いていても、時永の話はとてもわかりやすかったが、話を聞いたからといっていきなりすぐ出来るようになるはずもない。負けず嫌いの芙蓉はやや納得の行かない顔をしていたが、今日のところはそれで十分ですよと、また明日から頑張りましょうと言われてようやく引き下がった。
夕食を済ませた後はそれぞれに時間を過ごしていた。宿題を進めたり、本を読んだりー。
伏黒が入浴を済ませて部屋に戻る途中、部屋の前の廊下で外に足を投げ出すように芙蓉が座っているのが見えた。月明かりの下で難しい顔をしているところをみると、先程説明を受けた呪力の感覚を掴もうとしているのだろう。
「あんまり根詰めると身体に負担かかるぞ」
余程集中していたのか、伏黒に気付かなかったようで、かけられた声に芙蓉は飛び上がった。
「びっくりした…」
「明日もあるんだ、休める時は休んだ方がいい」
伏黒の言葉は尤もだが、芙蓉の返事は歯切れ悪い。伏黒は芙蓉の隣に座った。
「なんか、眠れない感じなの。急にこんな事になるとか全然思ってなかったし。気持ちがついていかない感じかな。…私としては、ただ猫がかわいそうって思っただけだったのに」
「猫?」
そこまで言って、芙蓉はハッとした。五条に口外しないようにと言われていたのを思い出したのだ。しかしもう口から出てしまった言葉は取り戻せない。芙蓉は内緒にしててね、と言い置いて口を開く。
「私が反転術式使ったのって、カラスに襲われた子猫なの。悟くんとお散歩してたら、その子猫がいて。…かわいそうって、死んじゃダメって思ったら…猫が立ち上がってて」
「本当に偶然出来たって感じなんだな」
「だから何が何だかわかんなくて」
俯き、芙蓉は小さくため息をついた。
「…とりあえず今日はもう寝るか」
少しだけ暗くなってきた雰囲気を断ち切るように伏黒はボソリと言った。
「考えても仕方ねぇし、もうやるしかねぇだろ。…俺も明日からまた鍛錬だ」
「何時に起きるの?」
「4時半」
「え、マジ?」
「マジ」
時間は21時半を回ったところ。伏黒のおかげで、芙蓉の中で諦めがつかずモヤモヤしていた気持ちが断ち切れたようだった。
「じゃあ早く寝なくちゃね」
芙蓉は立ち上がって伸びをした。伏黒も立ち上がり、部屋に入ろうと襖に手を伸ばす。
「恵」
呼び止められ、芙蓉を振り返る。
「今日はありがとう。恵のおかげでがんばれたよ」
一瞬、何の事を言われているのか理解出来なかった。何かしたかー伏黒は少し顔が熱くなるのを感じた。
「…あれは、」
「すごく嬉しかった」
満面の笑みの芙蓉に、伏黒は思わず顔を逸らしてしまった。意外とシャイなところがあるんだよねーそんな伏黒の様子が彼らしいと芙蓉はまた笑みを浮かべる。
「じゃ、また明日がんばろ!おやすみ」
「…おう」
部屋に入ろうとしていた伏黒よりも先に芙蓉は部屋に姿を消した。その場に立ち尽くしていた伏黒は思い出したように襖を開ける。
部屋を出る時に照明を消したので当然部屋に明かりはついていないが、窓から差し込む月明かりで部屋は仄明るい。伏黒は今日1日の自身の行動を顧みる。
我ながら少し大胆というか何というかー芙蓉を思っての行動だったが、とにかく恥ずかし過ぎるー伏黒は布団に倒れ込んだ。このやり場のない感情を何かしら言葉と共に吐き出したい衝動に駆られるが、そんな事は出来るはずもなく。こんな、変に悶々とした気持ちを抱えて眠れるだろうかー伏黒は枕に突っ伏した。
「お待ちしておりました。悟様より呪力の運用についての鍛錬を仰せつかりました、不肖時永と申します」
中年に差し掛かる歳に見える時永は恭しく頭を下げる。そんな彼の態度に恐縮した様子の芙蓉と、ため息をつく伏黒。恐らく逃げたなー伏黒はそう直感した。五条から武術の鍛錬は施されているが、技術的な鍛錬は受けた記憶がほとんどない。
「あの、悟くんは…」
「は、用事を思い出したとかで…」
ー沈黙。
五条が何かと理由づけて姿を消すのは常套手段なのだろう。戸惑う芙蓉、表情こそ変えないものの幾分困った空気を醸し出す時永。伏黒は芙蓉を五条に任せた後は宿題を進めようと思っていたのだが、さすがに初対面のオッサンといきなり2人きりで鍛錬というのも芙蓉が気の毒だ。仕方なしに伏黒は腰を下ろした。
伏黒が同席するとわかり、芙蓉は少し緊張した様子ながら時永の向かいに正座をすると、よろしくお願いしますと頭を下げた。
芙蓉の鍛錬は夕食前に終わった。時永の基本的な説明から入り、呪力を知覚することから実践する、という流れで始まった。伏黒が聞いていても、時永の話はとてもわかりやすかったが、話を聞いたからといっていきなりすぐ出来るようになるはずもない。負けず嫌いの芙蓉はやや納得の行かない顔をしていたが、今日のところはそれで十分ですよと、また明日から頑張りましょうと言われてようやく引き下がった。
夕食を済ませた後はそれぞれに時間を過ごしていた。宿題を進めたり、本を読んだりー。
伏黒が入浴を済ませて部屋に戻る途中、部屋の前の廊下で外に足を投げ出すように芙蓉が座っているのが見えた。月明かりの下で難しい顔をしているところをみると、先程説明を受けた呪力の感覚を掴もうとしているのだろう。
「あんまり根詰めると身体に負担かかるぞ」
余程集中していたのか、伏黒に気付かなかったようで、かけられた声に芙蓉は飛び上がった。
「びっくりした…」
「明日もあるんだ、休める時は休んだ方がいい」
伏黒の言葉は尤もだが、芙蓉の返事は歯切れ悪い。伏黒は芙蓉の隣に座った。
「なんか、眠れない感じなの。急にこんな事になるとか全然思ってなかったし。気持ちがついていかない感じかな。…私としては、ただ猫がかわいそうって思っただけだったのに」
「猫?」
そこまで言って、芙蓉はハッとした。五条に口外しないようにと言われていたのを思い出したのだ。しかしもう口から出てしまった言葉は取り戻せない。芙蓉は内緒にしててね、と言い置いて口を開く。
「私が反転術式使ったのって、カラスに襲われた子猫なの。悟くんとお散歩してたら、その子猫がいて。…かわいそうって、死んじゃダメって思ったら…猫が立ち上がってて」
「本当に偶然出来たって感じなんだな」
「だから何が何だかわかんなくて」
俯き、芙蓉は小さくため息をついた。
「…とりあえず今日はもう寝るか」
少しだけ暗くなってきた雰囲気を断ち切るように伏黒はボソリと言った。
「考えても仕方ねぇし、もうやるしかねぇだろ。…俺も明日からまた鍛錬だ」
「何時に起きるの?」
「4時半」
「え、マジ?」
「マジ」
時間は21時半を回ったところ。伏黒のおかげで、芙蓉の中で諦めがつかずモヤモヤしていた気持ちが断ち切れたようだった。
「じゃあ早く寝なくちゃね」
芙蓉は立ち上がって伸びをした。伏黒も立ち上がり、部屋に入ろうと襖に手を伸ばす。
「恵」
呼び止められ、芙蓉を振り返る。
「今日はありがとう。恵のおかげでがんばれたよ」
一瞬、何の事を言われているのか理解出来なかった。何かしたかー伏黒は少し顔が熱くなるのを感じた。
「…あれは、」
「すごく嬉しかった」
満面の笑みの芙蓉に、伏黒は思わず顔を逸らしてしまった。意外とシャイなところがあるんだよねーそんな伏黒の様子が彼らしいと芙蓉はまた笑みを浮かべる。
「じゃ、また明日がんばろ!おやすみ」
「…おう」
部屋に入ろうとしていた伏黒よりも先に芙蓉は部屋に姿を消した。その場に立ち尽くしていた伏黒は思い出したように襖を開ける。
部屋を出る時に照明を消したので当然部屋に明かりはついていないが、窓から差し込む月明かりで部屋は仄明るい。伏黒は今日1日の自身の行動を顧みる。
我ながら少し大胆というか何というかー芙蓉を思っての行動だったが、とにかく恥ずかし過ぎるー伏黒は布団に倒れ込んだ。このやり場のない感情を何かしら言葉と共に吐き出したい衝動に駆られるが、そんな事は出来るはずもなく。こんな、変に悶々とした気持ちを抱えて眠れるだろうかー伏黒は枕に突っ伏した。