それから
恵の幼馴染のお名前は?
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宿儺との戦いが終わって数日が経つ。
芙蓉は渋谷での出来事以降から引き続き、家入の補助としてケガ人の介助をしたり、簡単な書類作成や事務処理の作業に当たっていた。
高専側の犠牲者は五条と脹相の2名。それ以外のケガの程度はそれぞれではあったが、皆順調に回復し、大きく変化した世の中の情勢を見ながらそれぞれの場所へと戻りつつあったー伏黒を除いて。
未だ目を覚ましていない伏黒について、家入の見立てとしては身体の治療は済んでいるものの、いつ目が覚めるかはっきりとはわからないとの事だった。宿儺の器として五条と戦わされ、その最中に五条の領域対策に魂を使われていたというが、その影響もどの程度かわからないという。ただ、最後に宿儺と対峙した虎杖に言わせると、間違いなく伏黒の魂は生きている、絶対に目を覚ますはずだという事だった。
その言葉を疑う者は何処にも居らず、皆が1日も早く伏黒が目覚める事を願って日々を過ごしている。そんな中、芙蓉は朝昼晩と日に3回は伏黒の様子を見舞っていた。2人の関係性は周知となっており、また一連の出来事で芙蓉に降り掛かった不幸ーたった1人の肉親であった実母の死、兄の様に慕った五条の死ーを思えば尚の事、彼女の行動に口を出す者は誰も居なかった。
とある日の朝。芙蓉は朝の支度を済ませ、家入の下へ向かう前に、いつものように伏黒の眠る部屋へ立ち寄る。
「…おはよ、恵」
ベッドサイドに膝をつき、伏黒の顔を覗き込む。相変わらず眠っている伏黒の、大好きな顔に大きな傷が残っている。この傷を見る度に今回の出来事を思い出してしまうのは自分だけではないはずだと、芙蓉はチクリと胸を刺す痛みに小さく息を吐いた。穏やかではない心中ではあるが、目の前に伏黒が戻ってきた事は事実であり、大きな喜びである事は間違いない。
「…そろそろ行って来るね。また後で、ね」
温かな伏黒の手を握り、彼の頬の傷跡をそっと撫でて芙蓉は静かに部屋を出た。
部屋を出てすぐ、芙蓉のスマホが着信を伝え始める。ポケットからスマホを取り出して画面を見ると相手は家入、何事かとすぐに通話をタップした。
「はい、高峰です」
『あぁ、早くにすまないな。書類の確認なんだが』
「もしかして昨日の午後に話してたやつですか?あれは昨日の夕方、伊地知さんに渡しておきましたよ…って硝子さん、私に出しとく様に指示したじゃないですか」
『…そうだったか…?』
「私が言うのもなんですけど、硝子さんも少し休んでくださいよ、だいぶ落ち着いてきてるんですから」
『じゃあ高峰からの許可が降りたという事で、今夜は久しぶりに美味い日本酒でも飲むとするか』
こうして軽口を叩いたり冗談を言い合って素直に笑いがこぼれるーごく普通の事といえる今の時間がとても貴重でかけがえのないもの、そう思うと芙蓉は自身の胸が言いようのない幸福感というか、喜びで満たされる思いだった。用件が済んだところで芙蓉はこの後医務室に向かいます、と伝えて電話を切った。
暗くなったスマホの画面を見ながら先程の会話を思い出す。家入にコーヒーでも買って行こうか、それとも紅茶にしようか、甘いものは嫌いって言ってたっけーそんな事を考えながらスマホをポケットに押し込んだ。
「っ⁉︎」
歩き出そうとした芙蓉の身体が、前に進む代わりに強い力で後ろに引っ張られた。何かに抱えられる様に腹部を中心にかかった力に身体がくの字になり、抵抗する事も出来ずにそのまま移動していく。
(っな、に…⁉︎)
時間にしてほんの一瞬、状況が理解出来ないままの芙蓉は何処かの部屋に引き込まれた様だった。明るかった廊下に目が慣れていたせいもあって、光が少ない辺りの様子が上手く把握出来ない。
戸惑う芙蓉の身体を後ろから優しくも力強く抱き締める腕に、芙蓉は思わず動きを止めた。懐かしさと安心感を与える匂いと温度に自然と涙が溢れ出す。
「…少し…痩せた、か?」
頭の上からの少し掠れた聞き慣れた声を耳が拾う。
身体に温度を感じ、柔らかな声と穏やかな匂いに身体を震わせながら芙蓉はゆっくりと振り返り、見上げた。
「…芙蓉、ずっと…、会いたかった」
涙で歪む視界の中、芙蓉の目は確りと待ち焦がれていた存在を捉えて何度も頷いた。
「…めぐ、み…!」
「おっ…と、」
迷子になった子供が再会した母親に抱きつく様に、芙蓉は前触れもなく姿を見せた伏黒に抱きつき、もう二度と離さない、という様に自身の持てる力で彼を抱き締めた。伏黒は自身の腕の中で喜び、涙を流し続ける彼女を目を細めて受け止めた。
芙蓉が落ち着くのを見計らい、伏黒は彼女の顎を掬い上げると性急に、噛み付く様に芙蓉に口付けた。
「…おか、えり」
「…ただいま」
互いに互いを見つめ合い、言葉に出来ない程の想いを抱えたまま再びどちらからともなく抱き合った。
「…本当に…、心配かけて、悪かった」
芙蓉はただ首を振るしか出来なかった。何か言葉にして想いを伝えたいが、何をどう伝えたらいいかーまだまだ時間が必要だった。
「…出来るならこのままずっとこうしていたいが…、そうもいかないよな」
言葉ではそう言いながらも、伏黒の腕は芙蓉を抱き締めたままだった。
「…そう、だね…、みんなに、知らせなきゃ」
伏黒はもう一度芙蓉に口付けると、酷く名残惜しそうに芙蓉を解放した。
「…一緒に、行く…?」
「いや…、着替えてから行く」
さすがにこのカッコじゃあちょっとな、と言う伏黒に、そんなの誰も気にしないよ、と芙蓉は笑って見せた。
「じゃあ私、先に硝子さんのところに行くね」
「あぁ」
伏黒は最後にもう1回、と再び芙蓉へと口付けた。
芙蓉は渋谷での出来事以降から引き続き、家入の補助としてケガ人の介助をしたり、簡単な書類作成や事務処理の作業に当たっていた。
高専側の犠牲者は五条と脹相の2名。それ以外のケガの程度はそれぞれではあったが、皆順調に回復し、大きく変化した世の中の情勢を見ながらそれぞれの場所へと戻りつつあったー伏黒を除いて。
未だ目を覚ましていない伏黒について、家入の見立てとしては身体の治療は済んでいるものの、いつ目が覚めるかはっきりとはわからないとの事だった。宿儺の器として五条と戦わされ、その最中に五条の領域対策に魂を使われていたというが、その影響もどの程度かわからないという。ただ、最後に宿儺と対峙した虎杖に言わせると、間違いなく伏黒の魂は生きている、絶対に目を覚ますはずだという事だった。
その言葉を疑う者は何処にも居らず、皆が1日も早く伏黒が目覚める事を願って日々を過ごしている。そんな中、芙蓉は朝昼晩と日に3回は伏黒の様子を見舞っていた。2人の関係性は周知となっており、また一連の出来事で芙蓉に降り掛かった不幸ーたった1人の肉親であった実母の死、兄の様に慕った五条の死ーを思えば尚の事、彼女の行動に口を出す者は誰も居なかった。
とある日の朝。芙蓉は朝の支度を済ませ、家入の下へ向かう前に、いつものように伏黒の眠る部屋へ立ち寄る。
「…おはよ、恵」
ベッドサイドに膝をつき、伏黒の顔を覗き込む。相変わらず眠っている伏黒の、大好きな顔に大きな傷が残っている。この傷を見る度に今回の出来事を思い出してしまうのは自分だけではないはずだと、芙蓉はチクリと胸を刺す痛みに小さく息を吐いた。穏やかではない心中ではあるが、目の前に伏黒が戻ってきた事は事実であり、大きな喜びである事は間違いない。
「…そろそろ行って来るね。また後で、ね」
温かな伏黒の手を握り、彼の頬の傷跡をそっと撫でて芙蓉は静かに部屋を出た。
部屋を出てすぐ、芙蓉のスマホが着信を伝え始める。ポケットからスマホを取り出して画面を見ると相手は家入、何事かとすぐに通話をタップした。
「はい、高峰です」
『あぁ、早くにすまないな。書類の確認なんだが』
「もしかして昨日の午後に話してたやつですか?あれは昨日の夕方、伊地知さんに渡しておきましたよ…って硝子さん、私に出しとく様に指示したじゃないですか」
『…そうだったか…?』
「私が言うのもなんですけど、硝子さんも少し休んでくださいよ、だいぶ落ち着いてきてるんですから」
『じゃあ高峰からの許可が降りたという事で、今夜は久しぶりに美味い日本酒でも飲むとするか』
こうして軽口を叩いたり冗談を言い合って素直に笑いがこぼれるーごく普通の事といえる今の時間がとても貴重でかけがえのないもの、そう思うと芙蓉は自身の胸が言いようのない幸福感というか、喜びで満たされる思いだった。用件が済んだところで芙蓉はこの後医務室に向かいます、と伝えて電話を切った。
暗くなったスマホの画面を見ながら先程の会話を思い出す。家入にコーヒーでも買って行こうか、それとも紅茶にしようか、甘いものは嫌いって言ってたっけーそんな事を考えながらスマホをポケットに押し込んだ。
「っ⁉︎」
歩き出そうとした芙蓉の身体が、前に進む代わりに強い力で後ろに引っ張られた。何かに抱えられる様に腹部を中心にかかった力に身体がくの字になり、抵抗する事も出来ずにそのまま移動していく。
(っな、に…⁉︎)
時間にしてほんの一瞬、状況が理解出来ないままの芙蓉は何処かの部屋に引き込まれた様だった。明るかった廊下に目が慣れていたせいもあって、光が少ない辺りの様子が上手く把握出来ない。
戸惑う芙蓉の身体を後ろから優しくも力強く抱き締める腕に、芙蓉は思わず動きを止めた。懐かしさと安心感を与える匂いと温度に自然と涙が溢れ出す。
「…少し…痩せた、か?」
頭の上からの少し掠れた聞き慣れた声を耳が拾う。
身体に温度を感じ、柔らかな声と穏やかな匂いに身体を震わせながら芙蓉はゆっくりと振り返り、見上げた。
「…芙蓉、ずっと…、会いたかった」
涙で歪む視界の中、芙蓉の目は確りと待ち焦がれていた存在を捉えて何度も頷いた。
「…めぐ、み…!」
「おっ…と、」
迷子になった子供が再会した母親に抱きつく様に、芙蓉は前触れもなく姿を見せた伏黒に抱きつき、もう二度と離さない、という様に自身の持てる力で彼を抱き締めた。伏黒は自身の腕の中で喜び、涙を流し続ける彼女を目を細めて受け止めた。
芙蓉が落ち着くのを見計らい、伏黒は彼女の顎を掬い上げると性急に、噛み付く様に芙蓉に口付けた。
「…おか、えり」
「…ただいま」
互いに互いを見つめ合い、言葉に出来ない程の想いを抱えたまま再びどちらからともなく抱き合った。
「…本当に…、心配かけて、悪かった」
芙蓉はただ首を振るしか出来なかった。何か言葉にして想いを伝えたいが、何をどう伝えたらいいかーまだまだ時間が必要だった。
「…出来るならこのままずっとこうしていたいが…、そうもいかないよな」
言葉ではそう言いながらも、伏黒の腕は芙蓉を抱き締めたままだった。
「…そう、だね…、みんなに、知らせなきゃ」
伏黒はもう一度芙蓉に口付けると、酷く名残惜しそうに芙蓉を解放した。
「…一緒に、行く…?」
「いや…、着替えてから行く」
さすがにこのカッコじゃあちょっとな、と言う伏黒に、そんなの誰も気にしないよ、と芙蓉は笑って見せた。
「じゃあ私、先に硝子さんのところに行くね」
「あぁ」
伏黒は最後にもう1回、と再び芙蓉へと口付けた。