奈落
恵の幼馴染のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「どういう、事、ですか、…?」
渇ききった喉は滑らかに言葉を紡ぐ事が出来ず、嗄れたような自身の声に芙蓉は軽く咳き込んだ。
「…乙骨の術式は知っているな?」
本人から聞いたか、他の誰かから聞いたかー芙蓉は頷いた。今の呪術界で生き残っている唯一の特級術師は、彼に従属する式神“リカ”が取り込んだ術師の術式を模倣する事が出来るという。
「、まさ、か、」
そういえば乙骨の姿が無い。3番手となる日車のバックアップには日下部、虎杖、脹相、猪野ー芙蓉は息を飲んだ。乙骨の名が無かった事に思い至る。
「乙骨は岩手の結界に飛んだ」
「っ、それって、」
「羂索が岩手にいるらしい。対抗馬に高羽、そのバックアップに乙骨がついた」
「……」
何か言いたいが、何を言ったらいいか、言葉が出てこない。目の前の宿儺、羂索の企み、どちら「か」を止めるのではなく、どちら「も」止めなくてはならない。現代最強の五条を手に掛けた宿儺、天元に並ぶ結界術の使い手で、九十九と脹相の2人を退けた羂索。どちらも生半可な戦法では通用しないのは明白、そして敗北はこの国の崩壊に繋がる。芙蓉は状況を理解しながらも、五条と乙骨の話についての戸惑いは消えなかった。
「…硝子さんは、…、悟くんの身体の事、」
「…本人同士が決めた事だからな。私が口を挟む事は何もないよ。…五条は少々不満だった様だがな」
家入は何処となく哀しげな笑みを浮かべ、五条の身体に巻きつけた呪符をそっと撫でた。
「じゃあ…!」
「…私なりにも色々思うところはあるが…、今更それを言ったところで何もならないだろう?」
「っ…でも、」
「さっきも言ったろ。…五条も乙骨も、互いに了承しての事だ。私はアイツらが望んだ事を実現させる手伝いをするだけだよ」
家入の言葉は理解できる、けどー芙蓉の頭には反論の言葉ばかり浮かぶ。意を決して芙蓉が言葉を紡ごうと息を吸った時、烏の鳴き声が響いた。
「…冥さんの烏…、」
家入は呟く様に言うと、医務室に設えられているモニターに目を向けた。そこには戦況が映し出されていて、日車や虎杖、高専の面々が前線に立ったところだった。
「…鹿紫雲がやられたのか」
「……⁉︎」
芙蓉は目を疑った。先程までの宿儺は伏黒の面影を残していたのが、今は別人となっていた。少なくとも、その事は芙蓉の気持ちを奈落へ突き落とすには十分過ぎた。
「高峰」
「っ…はい、」
「辛いだろうが…、今は皆を信じるしかない」
「…はい」
「私はまだこっちの処置が残ってる。新田、甘井と一緒に準備を整えておいてくれ、頼むぞ」
「っはい!」
蟠りを断ち切る様な返事をすると、芙蓉は部屋を出た。
「…お前の生徒は、本当に優秀だな」
芙蓉の後ろ姿を見送った家入の呟きが、静かな部屋の中、ゆっくりと溶けていった。
家入の指示を受けた芙蓉は新田、甘井と共に治療の準備手順を確認しながら戦況をモニターしていた。
状況を把握していなければならないのは承知の上ではあるが、自身の仲間と呼べる存在が傷付くところを黙って観ている、というの事は芙蓉にとってはかなりのストレスであった。後方支援に徹すると決めたのは自分だし、仮に前線に立ったとしても、伏黒に受肉している宿儺を攻撃するなんて事は出来そうになかった。
「…バケモンかよあの人…、」
甘井の声に、芙蓉は視線を移した。画面に映っていたのは日車だった。覚醒タイプの泳者であり、術師としての経験がほぼ無いに等しい彼が宿儺相手に戦うのは勿論、この危機的状況の中、自身への反転術式まで行使出来ている事は甘井の言葉通りだった。まさに固唾を呑む状況の中、家入が姿を見せた。
「硝子さん、」
家入は険しい表情で画面を一瞥した。
「手筈は整っているな?」
「…はい。…新田さんの術式、硝子さんの処置、私の反転…、フォローに甘井さんが」
「よし。…こちらも死力を尽くすぞ」
これ以上誰も死なせない、という家入の静かな呟き。感情的になっているのを見た事がない彼女も、五条の亡骸を前に涙を流したり悲しんだりしたのだろうかーそんな事を考えながらも芙蓉は家入に同調する様に頷いた。
「新田!術式を!高峰は私の補助に入れ!」
静寂を維持していた室内が慌ただしくなり、家入の鋭い声が響く。文字通り、日車を抱えて綺羅羅と憂憂が飛んできた。意識を失っている日車は処置台に寝かされ、芙蓉は家入と共に彼の治療の準備に取りかかる。日車の黒いスーツに手をかけるとぐっしょりと濡れた感覚を覚え、芙蓉が自身の手を確認すると真っ赤になっていた。宿儺と戦っていた事を思えば当然の事であるが、こんなにもー強烈な血の臭いに、先程目の当たりにした五条の死が思い出され、日車に対して嫌なイメージが重なる。芙蓉は自身の血の気が引いていく感覚を覚えた。
「新田の術式があるとはいえグズグズするな、急げ」
「…っ、はいっ」
晒された日車の身体には、目を背けたくなる様な傷が幾つも刻まれていた。初めて見る酷い状況に、芙蓉は内臓を鷲掴みされた様な思いに小さく呻いた。新田の術式のおかげで出血は止まっているようで、家入は慣れた手つきで深い傷の縫合を始めている。
「…反転を使えるようになったのが幸いしたな。ここの縫合が終わったら反転を使ってやってくれ」
「…はい、…っ」
「まずは落ち着いて意識を自分に集中しろ。大丈夫だ」
芙蓉はこの場から少し離れて気持ちを落ち着けようと脚を動かしたーつもりだったが、少しも動けておらずにバランスを崩す。
「っと、だいじょぶ?」
近くにいた新田と甘井が慌てて芙蓉に手を差し出す。支えられ、かろうじて倒れるのを免れた芙蓉は青ざめた顔で小さく頷くしか出来なかった。
渇ききった喉は滑らかに言葉を紡ぐ事が出来ず、嗄れたような自身の声に芙蓉は軽く咳き込んだ。
「…乙骨の術式は知っているな?」
本人から聞いたか、他の誰かから聞いたかー芙蓉は頷いた。今の呪術界で生き残っている唯一の特級術師は、彼に従属する式神“リカ”が取り込んだ術師の術式を模倣する事が出来るという。
「、まさ、か、」
そういえば乙骨の姿が無い。3番手となる日車のバックアップには日下部、虎杖、脹相、猪野ー芙蓉は息を飲んだ。乙骨の名が無かった事に思い至る。
「乙骨は岩手の結界に飛んだ」
「っ、それって、」
「羂索が岩手にいるらしい。対抗馬に高羽、そのバックアップに乙骨がついた」
「……」
何か言いたいが、何を言ったらいいか、言葉が出てこない。目の前の宿儺、羂索の企み、どちら「か」を止めるのではなく、どちら「も」止めなくてはならない。現代最強の五条を手に掛けた宿儺、天元に並ぶ結界術の使い手で、九十九と脹相の2人を退けた羂索。どちらも生半可な戦法では通用しないのは明白、そして敗北はこの国の崩壊に繋がる。芙蓉は状況を理解しながらも、五条と乙骨の話についての戸惑いは消えなかった。
「…硝子さんは、…、悟くんの身体の事、」
「…本人同士が決めた事だからな。私が口を挟む事は何もないよ。…五条は少々不満だった様だがな」
家入は何処となく哀しげな笑みを浮かべ、五条の身体に巻きつけた呪符をそっと撫でた。
「じゃあ…!」
「…私なりにも色々思うところはあるが…、今更それを言ったところで何もならないだろう?」
「っ…でも、」
「さっきも言ったろ。…五条も乙骨も、互いに了承しての事だ。私はアイツらが望んだ事を実現させる手伝いをするだけだよ」
家入の言葉は理解できる、けどー芙蓉の頭には反論の言葉ばかり浮かぶ。意を決して芙蓉が言葉を紡ごうと息を吸った時、烏の鳴き声が響いた。
「…冥さんの烏…、」
家入は呟く様に言うと、医務室に設えられているモニターに目を向けた。そこには戦況が映し出されていて、日車や虎杖、高専の面々が前線に立ったところだった。
「…鹿紫雲がやられたのか」
「……⁉︎」
芙蓉は目を疑った。先程までの宿儺は伏黒の面影を残していたのが、今は別人となっていた。少なくとも、その事は芙蓉の気持ちを奈落へ突き落とすには十分過ぎた。
「高峰」
「っ…はい、」
「辛いだろうが…、今は皆を信じるしかない」
「…はい」
「私はまだこっちの処置が残ってる。新田、甘井と一緒に準備を整えておいてくれ、頼むぞ」
「っはい!」
蟠りを断ち切る様な返事をすると、芙蓉は部屋を出た。
「…お前の生徒は、本当に優秀だな」
芙蓉の後ろ姿を見送った家入の呟きが、静かな部屋の中、ゆっくりと溶けていった。
家入の指示を受けた芙蓉は新田、甘井と共に治療の準備手順を確認しながら戦況をモニターしていた。
状況を把握していなければならないのは承知の上ではあるが、自身の仲間と呼べる存在が傷付くところを黙って観ている、というの事は芙蓉にとってはかなりのストレスであった。後方支援に徹すると決めたのは自分だし、仮に前線に立ったとしても、伏黒に受肉している宿儺を攻撃するなんて事は出来そうになかった。
「…バケモンかよあの人…、」
甘井の声に、芙蓉は視線を移した。画面に映っていたのは日車だった。覚醒タイプの泳者であり、術師としての経験がほぼ無いに等しい彼が宿儺相手に戦うのは勿論、この危機的状況の中、自身への反転術式まで行使出来ている事は甘井の言葉通りだった。まさに固唾を呑む状況の中、家入が姿を見せた。
「硝子さん、」
家入は険しい表情で画面を一瞥した。
「手筈は整っているな?」
「…はい。…新田さんの術式、硝子さんの処置、私の反転…、フォローに甘井さんが」
「よし。…こちらも死力を尽くすぞ」
これ以上誰も死なせない、という家入の静かな呟き。感情的になっているのを見た事がない彼女も、五条の亡骸を前に涙を流したり悲しんだりしたのだろうかーそんな事を考えながらも芙蓉は家入に同調する様に頷いた。
「新田!術式を!高峰は私の補助に入れ!」
静寂を維持していた室内が慌ただしくなり、家入の鋭い声が響く。文字通り、日車を抱えて綺羅羅と憂憂が飛んできた。意識を失っている日車は処置台に寝かされ、芙蓉は家入と共に彼の治療の準備に取りかかる。日車の黒いスーツに手をかけるとぐっしょりと濡れた感覚を覚え、芙蓉が自身の手を確認すると真っ赤になっていた。宿儺と戦っていた事を思えば当然の事であるが、こんなにもー強烈な血の臭いに、先程目の当たりにした五条の死が思い出され、日車に対して嫌なイメージが重なる。芙蓉は自身の血の気が引いていく感覚を覚えた。
「新田の術式があるとはいえグズグズするな、急げ」
「…っ、はいっ」
晒された日車の身体には、目を背けたくなる様な傷が幾つも刻まれていた。初めて見る酷い状況に、芙蓉は内臓を鷲掴みされた様な思いに小さく呻いた。新田の術式のおかげで出血は止まっているようで、家入は慣れた手つきで深い傷の縫合を始めている。
「…反転を使えるようになったのが幸いしたな。ここの縫合が終わったら反転を使ってやってくれ」
「…はい、…っ」
「まずは落ち着いて意識を自分に集中しろ。大丈夫だ」
芙蓉はこの場から少し離れて気持ちを落ち着けようと脚を動かしたーつもりだったが、少しも動けておらずにバランスを崩す。
「っと、だいじょぶ?」
近くにいた新田と甘井が慌てて芙蓉に手を差し出す。支えられ、かろうじて倒れるのを免れた芙蓉は青ざめた顔で小さく頷くしか出来なかった。