奈落
恵の幼馴染のお名前は?
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ホラー映画を観よう、と言い出したのは虎杖だった。
レンタルしたというDVDのジャケットには“R15”という表記があり、どの様なものか興味が湧いたらしい。
コレはホラーじゃなくてスプラッターだろ、と訂正したのは伏黒だ。DVDを手にした伏黒が眺めているジャケットにはとても物騒な写真が並んでいる。
どーせ“R15”っていう事に惹かれただけでしょ、ガキね、とため息を吐いたのは釘崎で、虎杖はバレたか、と悪戯っ子の様に笑っていた。
その日の夜、早速虎杖の部屋に集まり、菓子や飲み物を持ち寄ってのDVD鑑賞会が始まった。
映画は伏黒が言っていた通りのスプラッターで、演出も手伝って非常に残虐なものだった。
次第に気分が悪くなってきて、大丈夫か、嫌なら見なくて良いんだぞ、と伏黒が声を掛けてくれて。もう見たいならアンタ1人で見なさいよ、胸クソ悪くなるわ、と釘崎が虎杖に言葉を投げ、やっぱみんなもそう思うよね、やめよっか、と虎杖はあっさりとDVDを止めた。
「…ちゃん、芙蓉ちゃん!」
肩を強めに叩かれ、芙蓉はビクリと肩を揺らした。
目の前の現実ーあの時のスプラッター映画とは違い、停止ボタンを押せば平穏が手に入るはずは無かった。
鼻を掠めていく強烈な生臭い鉄の臭いが脳を突き上げ、血溜まりに浸かり2つに分断された動かない身体に視界を奪われ、圧倒的な呪力に皮膚は痺れる様に震え、喉はカラカラに乾き、耳に届く音は理解出来なくなっていた。芙蓉がやっとの事でそちらに顔を向ければ、綺羅羅が険しい顔をして口を尖らせている。
「こんなとこでボサっとしてる場合じゃない」
「……」
綺羅羅は人形の様に動かない芙蓉の頬を張った。
「しっかりしなよ!自分で言い出したんだろ!」
頬の痛みと強い言葉に芙蓉は漸く我に返った。
世界を断つ斬撃が全てを一閃した後、目にも止まらぬ速さで鹿紫雲が嬉々として拠点を飛び出して行ったのと同時に、高専側の動きも慌ただしくなった。術式を運用し、行動不能となった者の搬送を担う事になっていた憂憂と綺羅羅も拠点を出る準備に取り掛かる。
「…、私も、行きます」
その芙蓉の一言に憂憂と綺羅羅が驚きと戸惑いを見せる中、家入がちょっと待て、と呼び止めた。
「宿儺がいるんだぞ。…渋谷で起きた事がまた起こる可能性が非常に高い」
その言葉に芙蓉は思わず自身の腹部に手を当てた。
「呪力の質も圧倒的に強く、濃い。…それでも、」
「行きます」
毅然とした芙蓉の言葉に家入は今回だけだぞ、と息を吐いた。ありがとうございます、と芙蓉は頭を下げて憂憂と綺羅羅に向き直った。
どうしても、死力を尽くした五条悟の姿を目に焼き付けておきたかった。恐らく、五条の血縁というものが頭の片隅に蟠っていたからだろう。
そして、自身の半身である伏黒を奪った宿儺という憎悪の存在も目にしておきたかった。仮に自身が彼と対峙し、挑んだところで太刀打ち出来るはずもなく、それどころか戦いにもならずにすぐに殺されるだろう事は目に見えているのに。
こちらについては理由が見当たらないー伏黒の顔をしていたからだろうか。そんな事は口が裂けても言えるはずもないが、幸いに理由を尋ねるような者はいなかった。
芙蓉は五条の顔にそっと手を添えると彼の目を伏せた。宝石が煌めく様に美しかったあの瞳を、もう見る事は無いのだろうと思うと胸が詰まる思いだった。
「急ぎますよ」
憂憂の言葉に芙蓉は頷いた。憂憂が白い布を五条の身体に翳すと、熱を失い始めた大きな身体は血溜まりだけを残して消え去った。
視界いっぱいに広がる、目に痛い程の、深紅。
「行きましょう」
「芙蓉ちゃん、行くよ!」
万が一の為に、綺羅羅の術式を芙蓉に施してある為、その場に取り残されるという事はない。放っておいても芙蓉の身体は2人と共に拠点へと戻される。
ビリビリと空間を揺らす呪力、場違いな程に景気の良い音楽、冷たさを帯びた空気が辺りをかき乱している。その中で一際強く感じられる、禍々しい呪力。
「…私に見向きもしないでいてくれてありがとう」
誰にも届かない呟きを残して芙蓉の身体は見えない力に引かれて拠点に戻った。瞬きの後には穏やかな空気が感じられ、芙蓉はゆっくりと息を吐いた。無事に戻って来れた事、幸いにして宿儺の呪力の影響は少なかった事に安堵した。腹部にジリジリと燻り焼ける様な痛みは感じていたが、動けなくなる程ではなかった。
芙蓉は憂憂と綺羅羅に礼を述べた。
あまり気が進まないが、医務室へ向かう事にした。憂憂の術式で五条の肉体は家入の下へ送られているはずだ。
「高峰」
芙蓉は足を止めて振り返った。虎杖だった。
「……」
力強い眼差し。まるで昨日とは別人の様な虎杖に、芙蓉は息を飲んだ。
「…五条先生は、」
「…、憂憂、くんが」
「…そっか」
虎杖が拳を握り締めた。それと同時に圧倒される程の呪力を感じて、芙蓉は自身の身体を掻き抱いた。
「虎杖くん、」
「…」
「…生きて」
虎杖は僅かに目を見開くと芙蓉の目を見つめて頷いた。すぐに虎杖は踵を返し、足早にその場を立ち去っていった。息が止まる程の強い呪力が緩み、芙蓉は呼吸を整える様に息を吐くと、医務室のドアを開けた。
「…戻りました」
「ご苦労だったな」
芙蓉の目に飛び込んできたのは、ベッドに横たえられた五条の身体。五条の身体の縫合を終えた家入が幾重にも呪符を巻きつけているところだった。
家入の行動に芙蓉は疑問を抱いた。命が燃え尽きた彼の身体は永遠の眠りへと向かうはずだ。それなのに、術式の効果を増幅させる為の呪符が巻かれている。
「…硝子さん…、なんで、呪符、?」
「…そうか、聞いてないのか」
家入は芙蓉に向き直った。
「五条の身体は乙骨が使うそうだ」
レンタルしたというDVDのジャケットには“R15”という表記があり、どの様なものか興味が湧いたらしい。
コレはホラーじゃなくてスプラッターだろ、と訂正したのは伏黒だ。DVDを手にした伏黒が眺めているジャケットにはとても物騒な写真が並んでいる。
どーせ“R15”っていう事に惹かれただけでしょ、ガキね、とため息を吐いたのは釘崎で、虎杖はバレたか、と悪戯っ子の様に笑っていた。
その日の夜、早速虎杖の部屋に集まり、菓子や飲み物を持ち寄ってのDVD鑑賞会が始まった。
映画は伏黒が言っていた通りのスプラッターで、演出も手伝って非常に残虐なものだった。
次第に気分が悪くなってきて、大丈夫か、嫌なら見なくて良いんだぞ、と伏黒が声を掛けてくれて。もう見たいならアンタ1人で見なさいよ、胸クソ悪くなるわ、と釘崎が虎杖に言葉を投げ、やっぱみんなもそう思うよね、やめよっか、と虎杖はあっさりとDVDを止めた。
「…ちゃん、芙蓉ちゃん!」
肩を強めに叩かれ、芙蓉はビクリと肩を揺らした。
目の前の現実ーあの時のスプラッター映画とは違い、停止ボタンを押せば平穏が手に入るはずは無かった。
鼻を掠めていく強烈な生臭い鉄の臭いが脳を突き上げ、血溜まりに浸かり2つに分断された動かない身体に視界を奪われ、圧倒的な呪力に皮膚は痺れる様に震え、喉はカラカラに乾き、耳に届く音は理解出来なくなっていた。芙蓉がやっとの事でそちらに顔を向ければ、綺羅羅が険しい顔をして口を尖らせている。
「こんなとこでボサっとしてる場合じゃない」
「……」
綺羅羅は人形の様に動かない芙蓉の頬を張った。
「しっかりしなよ!自分で言い出したんだろ!」
頬の痛みと強い言葉に芙蓉は漸く我に返った。
世界を断つ斬撃が全てを一閃した後、目にも止まらぬ速さで鹿紫雲が嬉々として拠点を飛び出して行ったのと同時に、高専側の動きも慌ただしくなった。術式を運用し、行動不能となった者の搬送を担う事になっていた憂憂と綺羅羅も拠点を出る準備に取り掛かる。
「…、私も、行きます」
その芙蓉の一言に憂憂と綺羅羅が驚きと戸惑いを見せる中、家入がちょっと待て、と呼び止めた。
「宿儺がいるんだぞ。…渋谷で起きた事がまた起こる可能性が非常に高い」
その言葉に芙蓉は思わず自身の腹部に手を当てた。
「呪力の質も圧倒的に強く、濃い。…それでも、」
「行きます」
毅然とした芙蓉の言葉に家入は今回だけだぞ、と息を吐いた。ありがとうございます、と芙蓉は頭を下げて憂憂と綺羅羅に向き直った。
どうしても、死力を尽くした五条悟の姿を目に焼き付けておきたかった。恐らく、五条の血縁というものが頭の片隅に蟠っていたからだろう。
そして、自身の半身である伏黒を奪った宿儺という憎悪の存在も目にしておきたかった。仮に自身が彼と対峙し、挑んだところで太刀打ち出来るはずもなく、それどころか戦いにもならずにすぐに殺されるだろう事は目に見えているのに。
こちらについては理由が見当たらないー伏黒の顔をしていたからだろうか。そんな事は口が裂けても言えるはずもないが、幸いに理由を尋ねるような者はいなかった。
芙蓉は五条の顔にそっと手を添えると彼の目を伏せた。宝石が煌めく様に美しかったあの瞳を、もう見る事は無いのだろうと思うと胸が詰まる思いだった。
「急ぎますよ」
憂憂の言葉に芙蓉は頷いた。憂憂が白い布を五条の身体に翳すと、熱を失い始めた大きな身体は血溜まりだけを残して消え去った。
視界いっぱいに広がる、目に痛い程の、深紅。
「行きましょう」
「芙蓉ちゃん、行くよ!」
万が一の為に、綺羅羅の術式を芙蓉に施してある為、その場に取り残されるという事はない。放っておいても芙蓉の身体は2人と共に拠点へと戻される。
ビリビリと空間を揺らす呪力、場違いな程に景気の良い音楽、冷たさを帯びた空気が辺りをかき乱している。その中で一際強く感じられる、禍々しい呪力。
「…私に見向きもしないでいてくれてありがとう」
誰にも届かない呟きを残して芙蓉の身体は見えない力に引かれて拠点に戻った。瞬きの後には穏やかな空気が感じられ、芙蓉はゆっくりと息を吐いた。無事に戻って来れた事、幸いにして宿儺の呪力の影響は少なかった事に安堵した。腹部にジリジリと燻り焼ける様な痛みは感じていたが、動けなくなる程ではなかった。
芙蓉は憂憂と綺羅羅に礼を述べた。
あまり気が進まないが、医務室へ向かう事にした。憂憂の術式で五条の肉体は家入の下へ送られているはずだ。
「高峰」
芙蓉は足を止めて振り返った。虎杖だった。
「……」
力強い眼差し。まるで昨日とは別人の様な虎杖に、芙蓉は息を飲んだ。
「…五条先生は、」
「…、憂憂、くんが」
「…そっか」
虎杖が拳を握り締めた。それと同時に圧倒される程の呪力を感じて、芙蓉は自身の身体を掻き抱いた。
「虎杖くん、」
「…」
「…生きて」
虎杖は僅かに目を見開くと芙蓉の目を見つめて頷いた。すぐに虎杖は踵を返し、足早にその場を立ち去っていった。息が止まる程の強い呪力が緩み、芙蓉は呼吸を整える様に息を吐くと、医務室のドアを開けた。
「…戻りました」
「ご苦労だったな」
芙蓉の目に飛び込んできたのは、ベッドに横たえられた五条の身体。五条の身体の縫合を終えた家入が幾重にも呪符を巻きつけているところだった。
家入の行動に芙蓉は疑問を抱いた。命が燃え尽きた彼の身体は永遠の眠りへと向かうはずだ。それなのに、術式の効果を増幅させる為の呪符が巻かれている。
「…硝子さん…、なんで、呪符、?」
「…そうか、聞いてないのか」
家入は芙蓉に向き直った。
「五条の身体は乙骨が使うそうだ」