奈落
恵の幼馴染のお名前は?
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12月23日。
今までであれば、前日に伏黒の誕生日を祝い、翌日のクリスマスイヴをどのように過ごすか計画を立てていた。
それが今年は誰もが予想しなかった事が起きている。
目の前で行われている話し合いが現実ではない様に感じられる。拠点内の講堂にて、話に耳を傾けながら芙蓉は自身の手の甲を抓ってみた。
「え、大丈夫ですか?」
赤くなったそこと芙蓉の顔を交互に見ながら、そして少し引いた様子で京都校の三輪が心配そうに言った。
「あ…、すみません…、少し、眠気が」
秋の交流会で知り合い、京都校の生徒で唯一連絡先を知っている彼女の横顔を見る。芙蓉の苦し紛れの言い訳は通じた様だった。芙蓉より学年がひとつ上であるが、彼女はとても穏やかで丁寧に接してくれる。確か三輪は同期2人ー真希の双子の妹である真依、そしてメカ丸と呼ばれていた与幸吉ーを亡くしていたはずと思い至った。
「…最近ちゃんと寝てますか?クマ、目立ちますよ」
自分だって辛い思いを抱えているだろうにー芙蓉には凛とした三輪が眩しく見えた。
「…ちょっと、いろいろ考えちゃって…。けど、大丈夫です、ありがとうございます」
「…無理しないでくださいね」
心配そうな顔ながら、三輪はそれ以上何も言わなかった。目の前の会合も程なくして解散となり、それぞれが席を立ち始める。隣に居た三輪も、西宮と共に立ち上がり、芙蓉に軽く声を掛けると行ってしまった。
明日は宿儺との決戦。
一番手は五条。受肉体の鹿紫雲だけが異論を唱えたらしいが、彼を高専に引き入れた秤がどうにか説得して彼が二番手となった。
そしてその後は死滅回游で覚醒した日車。彼の術式及び領域が有効だろうという事だ。ただ術師としての経験が乏しい事、元は一般人だった事を踏まえ、日下部、虎杖、脹相、猪野がサポートにつく。
芙蓉が知らされている情報はここまでだった。
前線に出る面々は更に詳細な計画を練っているらしいが、家入と共に後方支援を行う事に決めた芙蓉には少々縁遠い話だ。気付けば部屋には自分と、出入り口近くに数人いるくらいとなっていた。
芙蓉は息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。
家入と共に負傷者の治癒を行うと決めたがーやはり現実感がないというか、夢の中を彷徨っている様な感覚でこの数日を過ごしている。
そろそろ部屋を閉めるという声に、芙蓉は出入り口へ向かった。日下部と虎杖、脹相がいた。
「お疲れ。今日は夜更かしすんなよ」
まるで小学生への声掛けの様な日下部の言葉に返事をすると、芙蓉はゆっくりと部屋を出て通路を歩き始める。後ろに虎杖と脹相がいるのが感じられるが、普段よりも気が立っている様な感覚に振り返る事が出来なかった。
「高峰」
驚いて肩を揺らしながらも芙蓉は振り返る。
「…、」
「これから飯食うところなんだけど、一緒にどう?」
「…、いい、の?」
「何が?」
「っ、だって、…ホラ…、…明日、は」
虎杖を気遣う様な言葉が出るが、逆に自分から虎杖を遠ざけようとしている事に芙蓉自身、気が付いていた。
自分は前線に立てない。
自分は皆の邪魔をしてはいけない。
自分はー
「いんや?変に意識するより、ルーティンっつーか…、いつも通りの方が良いような気がしてさ」
虎杖の言葉に何も言う事が出来なかった芙蓉は、彼と脹相の3人で食事をとる事にした。食事の時の虎杖は本当にいつも通りの彼だったーよく食べ、よく笑い、芙蓉は久しぶりに楽しいひとときを過ごせた気がした。
食堂を出て、それぞれが部屋に向かう。虎杖は芙蓉の事を頼む、という伏黒の言葉に忠実に従い、律儀に彼女を部屋まで送り届けた。
「…ありがとう虎杖くん」
「全然。こっちこそありがとな」
「…ゆっくり、休んでね」
「高峰」
やや低い声に芙蓉は背筋が伸びる思いがした。
「…前も、言ったけどさ。…伏黒の事は、俺が死んでも助けるから」
「お願いだから、…、…虎杖くん、絶対、生きて、」
泣いてはいないが、何処か怯えた様な芙蓉の声に、身内を失ったばかりの彼女に対して虎杖は言葉選びを誤ってしまったかと内心後悔した。
「…わりぃ…、言い方、悪かったな。…伏黒の事、絶対連れて帰って来る。絶対、助ける」
力強い虎杖の言葉に、芙蓉は頷いた。
「ありがとう。…私もがんばる…、出番がないのが、一番良いんだけど、ね」
相手は史上最強の術師と言われた宿儺、無傷で済むはずはないと理解しているが、言わずにはいられなかった。虎杖は芙蓉に同調するように、まぁ、そーだな、と困った様に笑って小さく頷いた。
「んじゃ、おやすみ」
「おやすみ、また明日」
翌日、12月24日。
ついに来てしまったー自分が生きている間は絶対にこの日を忘れる事はないだろうなと、目を覚ました芙蓉はそんな事をぼんやりと思った。まだ夜明け前の薄暗い部屋の中、ベッドから身体を起こした。
もう寝てはいられない、むしろ眠れた方が奇跡的というくらいの緊張状態の中で怠さの抜けた身体に安堵しながら制服に袖を通した。
部屋を出てみると、自分以外にも起きたのか起きていたのかー人の動く気配が感じられ、芙蓉は引き寄せられるようにそちらへと足を向けた。灯りがついている部屋を覗くと、そこはまるで謁見の間と言えそうな広間だった。足を踏み入れれば、数人の人影が見えた。
「あ、高峰さん」
声をかけたのは乙骨だった。彼と共に真希、狗巻、パンダがいた。真希が手招きしている。
「眠れたか?」
そう聞こえて声を辿ると、狗巻の肩に乗ったパンダだった。鹿紫雲との一戦で可愛らしいサイズになってしまったパンダは本当にぬいぐるみの様で、芙蓉は少しだけ緊張が緩んだ感覚を覚えながら頷いた。
それから拠点に身を置く面々が集まるのはすぐだった。
五条が姿を見せると一同は手荒い激励と共に、彼を宿儺との決戦へと送り出した。
呪術界に於ける名門五条家にて、生まれながらに現代最強の術師という宿命を背負い、幼い頃から兄の様に慕った悟の背中を、芙蓉はただ見送るしか出来なかった。
今までであれば、前日に伏黒の誕生日を祝い、翌日のクリスマスイヴをどのように過ごすか計画を立てていた。
それが今年は誰もが予想しなかった事が起きている。
目の前で行われている話し合いが現実ではない様に感じられる。拠点内の講堂にて、話に耳を傾けながら芙蓉は自身の手の甲を抓ってみた。
「え、大丈夫ですか?」
赤くなったそこと芙蓉の顔を交互に見ながら、そして少し引いた様子で京都校の三輪が心配そうに言った。
「あ…、すみません…、少し、眠気が」
秋の交流会で知り合い、京都校の生徒で唯一連絡先を知っている彼女の横顔を見る。芙蓉の苦し紛れの言い訳は通じた様だった。芙蓉より学年がひとつ上であるが、彼女はとても穏やかで丁寧に接してくれる。確か三輪は同期2人ー真希の双子の妹である真依、そしてメカ丸と呼ばれていた与幸吉ーを亡くしていたはずと思い至った。
「…最近ちゃんと寝てますか?クマ、目立ちますよ」
自分だって辛い思いを抱えているだろうにー芙蓉には凛とした三輪が眩しく見えた。
「…ちょっと、いろいろ考えちゃって…。けど、大丈夫です、ありがとうございます」
「…無理しないでくださいね」
心配そうな顔ながら、三輪はそれ以上何も言わなかった。目の前の会合も程なくして解散となり、それぞれが席を立ち始める。隣に居た三輪も、西宮と共に立ち上がり、芙蓉に軽く声を掛けると行ってしまった。
明日は宿儺との決戦。
一番手は五条。受肉体の鹿紫雲だけが異論を唱えたらしいが、彼を高専に引き入れた秤がどうにか説得して彼が二番手となった。
そしてその後は死滅回游で覚醒した日車。彼の術式及び領域が有効だろうという事だ。ただ術師としての経験が乏しい事、元は一般人だった事を踏まえ、日下部、虎杖、脹相、猪野がサポートにつく。
芙蓉が知らされている情報はここまでだった。
前線に出る面々は更に詳細な計画を練っているらしいが、家入と共に後方支援を行う事に決めた芙蓉には少々縁遠い話だ。気付けば部屋には自分と、出入り口近くに数人いるくらいとなっていた。
芙蓉は息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。
家入と共に負傷者の治癒を行うと決めたがーやはり現実感がないというか、夢の中を彷徨っている様な感覚でこの数日を過ごしている。
そろそろ部屋を閉めるという声に、芙蓉は出入り口へ向かった。日下部と虎杖、脹相がいた。
「お疲れ。今日は夜更かしすんなよ」
まるで小学生への声掛けの様な日下部の言葉に返事をすると、芙蓉はゆっくりと部屋を出て通路を歩き始める。後ろに虎杖と脹相がいるのが感じられるが、普段よりも気が立っている様な感覚に振り返る事が出来なかった。
「高峰」
驚いて肩を揺らしながらも芙蓉は振り返る。
「…、」
「これから飯食うところなんだけど、一緒にどう?」
「…、いい、の?」
「何が?」
「っ、だって、…ホラ…、…明日、は」
虎杖を気遣う様な言葉が出るが、逆に自分から虎杖を遠ざけようとしている事に芙蓉自身、気が付いていた。
自分は前線に立てない。
自分は皆の邪魔をしてはいけない。
自分はー
「いんや?変に意識するより、ルーティンっつーか…、いつも通りの方が良いような気がしてさ」
虎杖の言葉に何も言う事が出来なかった芙蓉は、彼と脹相の3人で食事をとる事にした。食事の時の虎杖は本当にいつも通りの彼だったーよく食べ、よく笑い、芙蓉は久しぶりに楽しいひとときを過ごせた気がした。
食堂を出て、それぞれが部屋に向かう。虎杖は芙蓉の事を頼む、という伏黒の言葉に忠実に従い、律儀に彼女を部屋まで送り届けた。
「…ありがとう虎杖くん」
「全然。こっちこそありがとな」
「…ゆっくり、休んでね」
「高峰」
やや低い声に芙蓉は背筋が伸びる思いがした。
「…前も、言ったけどさ。…伏黒の事は、俺が死んでも助けるから」
「お願いだから、…、…虎杖くん、絶対、生きて、」
泣いてはいないが、何処か怯えた様な芙蓉の声に、身内を失ったばかりの彼女に対して虎杖は言葉選びを誤ってしまったかと内心後悔した。
「…わりぃ…、言い方、悪かったな。…伏黒の事、絶対連れて帰って来る。絶対、助ける」
力強い虎杖の言葉に、芙蓉は頷いた。
「ありがとう。…私もがんばる…、出番がないのが、一番良いんだけど、ね」
相手は史上最強の術師と言われた宿儺、無傷で済むはずはないと理解しているが、言わずにはいられなかった。虎杖は芙蓉に同調するように、まぁ、そーだな、と困った様に笑って小さく頷いた。
「んじゃ、おやすみ」
「おやすみ、また明日」
翌日、12月24日。
ついに来てしまったー自分が生きている間は絶対にこの日を忘れる事はないだろうなと、目を覚ました芙蓉はそんな事をぼんやりと思った。まだ夜明け前の薄暗い部屋の中、ベッドから身体を起こした。
もう寝てはいられない、むしろ眠れた方が奇跡的というくらいの緊張状態の中で怠さの抜けた身体に安堵しながら制服に袖を通した。
部屋を出てみると、自分以外にも起きたのか起きていたのかー人の動く気配が感じられ、芙蓉は引き寄せられるようにそちらへと足を向けた。灯りがついている部屋を覗くと、そこはまるで謁見の間と言えそうな広間だった。足を踏み入れれば、数人の人影が見えた。
「あ、高峰さん」
声をかけたのは乙骨だった。彼と共に真希、狗巻、パンダがいた。真希が手招きしている。
「眠れたか?」
そう聞こえて声を辿ると、狗巻の肩に乗ったパンダだった。鹿紫雲との一戦で可愛らしいサイズになってしまったパンダは本当にぬいぐるみの様で、芙蓉は少しだけ緊張が緩んだ感覚を覚えながら頷いた。
それから拠点に身を置く面々が集まるのはすぐだった。
五条が姿を見せると一同は手荒い激励と共に、彼を宿儺との決戦へと送り出した。
呪術界に於ける名門五条家にて、生まれながらに現代最強の術師という宿命を背負い、幼い頃から兄の様に慕った悟の背中を、芙蓉はただ見送るしか出来なかった。