不倶戴天
恵の幼馴染のお名前は?
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「高峰!」
頭の中が真っ白になったというか、突然頭を殴られたような衝撃というかー言葉を拾った耳から言葉が滑り落ちて行くような感覚を覚え、芙蓉は今しがた伝えられた言葉を上手く受け止められなかったが酷く混乱したのは間違いなく、医務室を飛び出していた。
虎杖が呼んでいるーわかっている。それでも芙蓉の身体はその場から逃げ出す様にそのまま走り続けた。
「…追わないのか?」
控えめな家入の言葉に虎杖は首を振った。
「…俺は、」
「心配しなくても大丈夫だよ」
のんびりと言う五条に虎杖と家入の視線が集まる。
「芙蓉はここで折れる程弱い子じゃない。悠仁もわかってるでしょー?大丈夫、芙蓉は絶対戻って来るよ」
複雑な表情のまま、虎杖は拳を握り締めながら頷いた。
駆け出した足が止まったのはあるドアの前ー芙蓉は荒い呼吸のまま静かにドアを開けた。
規則的な電子音が、そこに命が存在するのを告げているような気がして、芙蓉は涙でぐちゃぐちゃになった顔を乱暴に手で拭った。
「ねぇ、野薔薇…、ちょっとだけ、」
ベッドの釘崎から反応はない。だが、芙蓉の頭の中では気風の良い釘崎の言葉が響く。
『我慢したって辛いだけよ、泣きたい事があるなら泣けば良いし、吐き出したい事があるならいくらでも聞いてあげるわよ、遠慮すんな』
どれくらい経ったか、釘崎に縋る様にして泣いていた芙蓉は漸く落ち着きを取り戻した。
「私のお母さん…、死んじゃったんだって」
ベッドサイドの椅子に座る事なく、床に座り込んだまま釘崎に語りかけるかの様に呟き始める。
「…高専の“窓”やっててさ…、この状況で一般人の避難誘導してたんだって」
最後に連絡したのはいつだったかースマホを取り出す。
「渋谷での事があって…、もう全部めちゃくちゃなのにさ。補助監督も手が足りなくて、大変だろうからって」
スマホを操作する芙蓉の手はメッセージアプリ、通話履歴をタップし、表示された名前を眺めていく。
「…私のお父さんも術師でさ。私が小さい時、任務で現場近くの人助けて行方不明になったみたいでさ」
通話履歴の中から母親の名前を見つけ、僅かに震える指先で通話をタップする。
『…おかけになった電話は、電源が…』
触れてはいけないものに触れたかの様に、芙蓉はスマホを放り出した。無機質なガイド音声は喋り続けている。
「…どうして、私を置いていくの…?」
写真での記憶しかない父。女手一つで育ててくれた母。いつでも支えてくれた釘崎。姉と慕った津美紀。自身の半身のような伏黒。自身にとってかけがえの無い存在が、手の届かないところへ行ってしまう。時が経てば、その時が来るのは仕方のない事と受け入れる事も出来るだろうが、今はその時では無いはずなのにー落ち着いたはずの悲しみがまた騒ぎ始め、抑えきれない悲しみは涙となって芙蓉の頬を次々と流れていく。
と、釘崎の身体に栄養を送っている点滴モニターのアラートがけたたましく鳴り響き、驚いた芙蓉は顔を上げた。突然冷や水を掛けられた様に一気に頭が冷えた気がして、芙蓉は先程放り出したスマホを見つめた。いつの間にか通話は切れ沈黙を守っている。芙蓉はスマホを手に取って立ち上がった。
「…ありがとね、野薔薇」
釘崎の手に手を重ね、反転術式で自身の呪力を送ると静かに部屋を出た。
何処へともなく歩き出した芙蓉はスマホの写真フォルダを開いた。最近の写真が並んでいて、高専での仲間ー同期となる伏黒、虎杖、釘崎は勿論、先輩の真希、狗巻、パンダ、皆が楽しそうに幸せそうな顔で笑い合っている。遡って見ていくと、高専に入る前に通っていた高校の友人との写真、中学時代の写真には伏黒や津美紀と撮った写真、母親と撮った写真ー芙蓉は自身の想いと共にフォルダを閉じ、スマホをポケットに押し込んだ。過去を振り返ってもその時には戻れないー写真を眺めるのはよそう。ただ、その人に会いたくなるだけだ。
芙蓉は足を止めて顔を上げると大きく深呼吸をした。
このところずっと気持ちを揺さぶられ、自分で決めた事さえ貫けていないな、と思うと同時に、とにかく今は生き抜く事を考えよう、生き抜いたら今を振り返って泣けば良い、まだ何も始まっていないし終わってもいない。釘崎も伏黒も、戻って来る可能性はゼロではない。
「…よし」
芙蓉は小さく呟くと、再び歩き出した。
先程飛び出してきた医務室はもうすぐそこ、というところで家入と鉢合わせた。
「おう、戻ったか」
「硝子さん…、」
家入の手には点滴パックが1つ。恐らく釘崎のところに向かうのだろう。何を言えば良いだろうかと芙蓉が考えている間に家入が口を開いた。
「高峰、これからの事について相談なんだが」
「っはい?」
「お前には私のサポートを頼みたい。…他者に反転を使えるのは私とお前だけだ。救える奴は何が何でも救いたいんだ、力を貸して欲しい」
「……」
今まで見た事がないくらいに強い意志を持った家入の言葉。芙蓉はすぐに返事が出来なかった。そんな彼女の様子に家入はふっと笑った。
「…まだ日がある。少し考えといてくれ」
それだけ言うと家入は行ってしまった。芙蓉はまた歩き出す。自分は、宿儺を前に戦えるのだろうか。
「あっ、高峰」
「言ったでしょ、絶対戻って来るって」
虎杖と五条が医務室前の通路に居た。
「…さっきは、ごめんなさい」
「っや、全然」
芙蓉はどう答えて良いかー口を噤んだままでいた。と、視線を感じて顔を上げる。五条の目に僅かな翳りが見えた気がして、芙蓉はハッとした。
「…悟くん、お母さんの事、教えてくれてありがとう」
五条にとっても嫌な知らせであった事には違いない。それを芙蓉に伝えるのも少なからず心を砕いただろう。五条は口元を緩めた。
「よーしじゃあ今日は久しぶりに3人でごはんでも食べよっか!何が良いかな〜、デリバリーしちゃう?」
「…先生、それはちょっと無理くね?」
芙蓉が笑うと、五条も虎杖も笑顔を見せた。
頭の中が真っ白になったというか、突然頭を殴られたような衝撃というかー言葉を拾った耳から言葉が滑り落ちて行くような感覚を覚え、芙蓉は今しがた伝えられた言葉を上手く受け止められなかったが酷く混乱したのは間違いなく、医務室を飛び出していた。
虎杖が呼んでいるーわかっている。それでも芙蓉の身体はその場から逃げ出す様にそのまま走り続けた。
「…追わないのか?」
控えめな家入の言葉に虎杖は首を振った。
「…俺は、」
「心配しなくても大丈夫だよ」
のんびりと言う五条に虎杖と家入の視線が集まる。
「芙蓉はここで折れる程弱い子じゃない。悠仁もわかってるでしょー?大丈夫、芙蓉は絶対戻って来るよ」
複雑な表情のまま、虎杖は拳を握り締めながら頷いた。
駆け出した足が止まったのはあるドアの前ー芙蓉は荒い呼吸のまま静かにドアを開けた。
規則的な電子音が、そこに命が存在するのを告げているような気がして、芙蓉は涙でぐちゃぐちゃになった顔を乱暴に手で拭った。
「ねぇ、野薔薇…、ちょっとだけ、」
ベッドの釘崎から反応はない。だが、芙蓉の頭の中では気風の良い釘崎の言葉が響く。
『我慢したって辛いだけよ、泣きたい事があるなら泣けば良いし、吐き出したい事があるならいくらでも聞いてあげるわよ、遠慮すんな』
どれくらい経ったか、釘崎に縋る様にして泣いていた芙蓉は漸く落ち着きを取り戻した。
「私のお母さん…、死んじゃったんだって」
ベッドサイドの椅子に座る事なく、床に座り込んだまま釘崎に語りかけるかの様に呟き始める。
「…高専の“窓”やっててさ…、この状況で一般人の避難誘導してたんだって」
最後に連絡したのはいつだったかースマホを取り出す。
「渋谷での事があって…、もう全部めちゃくちゃなのにさ。補助監督も手が足りなくて、大変だろうからって」
スマホを操作する芙蓉の手はメッセージアプリ、通話履歴をタップし、表示された名前を眺めていく。
「…私のお父さんも術師でさ。私が小さい時、任務で現場近くの人助けて行方不明になったみたいでさ」
通話履歴の中から母親の名前を見つけ、僅かに震える指先で通話をタップする。
『…おかけになった電話は、電源が…』
触れてはいけないものに触れたかの様に、芙蓉はスマホを放り出した。無機質なガイド音声は喋り続けている。
「…どうして、私を置いていくの…?」
写真での記憶しかない父。女手一つで育ててくれた母。いつでも支えてくれた釘崎。姉と慕った津美紀。自身の半身のような伏黒。自身にとってかけがえの無い存在が、手の届かないところへ行ってしまう。時が経てば、その時が来るのは仕方のない事と受け入れる事も出来るだろうが、今はその時では無いはずなのにー落ち着いたはずの悲しみがまた騒ぎ始め、抑えきれない悲しみは涙となって芙蓉の頬を次々と流れていく。
と、釘崎の身体に栄養を送っている点滴モニターのアラートがけたたましく鳴り響き、驚いた芙蓉は顔を上げた。突然冷や水を掛けられた様に一気に頭が冷えた気がして、芙蓉は先程放り出したスマホを見つめた。いつの間にか通話は切れ沈黙を守っている。芙蓉はスマホを手に取って立ち上がった。
「…ありがとね、野薔薇」
釘崎の手に手を重ね、反転術式で自身の呪力を送ると静かに部屋を出た。
何処へともなく歩き出した芙蓉はスマホの写真フォルダを開いた。最近の写真が並んでいて、高専での仲間ー同期となる伏黒、虎杖、釘崎は勿論、先輩の真希、狗巻、パンダ、皆が楽しそうに幸せそうな顔で笑い合っている。遡って見ていくと、高専に入る前に通っていた高校の友人との写真、中学時代の写真には伏黒や津美紀と撮った写真、母親と撮った写真ー芙蓉は自身の想いと共にフォルダを閉じ、スマホをポケットに押し込んだ。過去を振り返ってもその時には戻れないー写真を眺めるのはよそう。ただ、その人に会いたくなるだけだ。
芙蓉は足を止めて顔を上げると大きく深呼吸をした。
このところずっと気持ちを揺さぶられ、自分で決めた事さえ貫けていないな、と思うと同時に、とにかく今は生き抜く事を考えよう、生き抜いたら今を振り返って泣けば良い、まだ何も始まっていないし終わってもいない。釘崎も伏黒も、戻って来る可能性はゼロではない。
「…よし」
芙蓉は小さく呟くと、再び歩き出した。
先程飛び出してきた医務室はもうすぐそこ、というところで家入と鉢合わせた。
「おう、戻ったか」
「硝子さん…、」
家入の手には点滴パックが1つ。恐らく釘崎のところに向かうのだろう。何を言えば良いだろうかと芙蓉が考えている間に家入が口を開いた。
「高峰、これからの事について相談なんだが」
「っはい?」
「お前には私のサポートを頼みたい。…他者に反転を使えるのは私とお前だけだ。救える奴は何が何でも救いたいんだ、力を貸して欲しい」
「……」
今まで見た事がないくらいに強い意志を持った家入の言葉。芙蓉はすぐに返事が出来なかった。そんな彼女の様子に家入はふっと笑った。
「…まだ日がある。少し考えといてくれ」
それだけ言うと家入は行ってしまった。芙蓉はまた歩き出す。自分は、宿儺を前に戦えるのだろうか。
「あっ、高峰」
「言ったでしょ、絶対戻って来るって」
虎杖と五条が医務室前の通路に居た。
「…さっきは、ごめんなさい」
「っや、全然」
芙蓉はどう答えて良いかー口を噤んだままでいた。と、視線を感じて顔を上げる。五条の目に僅かな翳りが見えた気がして、芙蓉はハッとした。
「…悟くん、お母さんの事、教えてくれてありがとう」
五条にとっても嫌な知らせであった事には違いない。それを芙蓉に伝えるのも少なからず心を砕いただろう。五条は口元を緩めた。
「よーしじゃあ今日は久しぶりに3人でごはんでも食べよっか!何が良いかな〜、デリバリーしちゃう?」
「…先生、それはちょっと無理くね?」
芙蓉が笑うと、五条も虎杖も笑顔を見せた。