不倶戴天
恵の幼馴染のお名前は?
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死滅回游の各結界から高専の拠点に集まった面々はひとときの休息をとると、全員の顔合わせと今後の動向についての話し合いの場を持つ事となった。
最優先とされた事項は、獄門疆からの五条の解放。これは天使ー来栖華の回復を待っての事となり、数日の猶予が持たれた。
「失礼します、食事をお待ちしました」
芙蓉が医務室すぐ側の部屋のドアを開けると、ベッドの来栖は身体を起こした。
「…ありがとうございます」
「具合はどうですか?」
そう声をかけて芙蓉はベッドサイドのテーブルに食事を乗せたトレイを置く。だいぶ良くなってると思います、と答える来栖が食事をしやすい様にとテーブルを彼女のすぐ側へ移動させた。
「…いつもすみません」
「気にしないで下さい、私もたいした事が出来るわけじゃないので」
どうぞ、と芙蓉は食事を促した。片腕を失った彼女が困らない様に、そして今後の生活の為のリハビリを兼ねて、芙蓉は極力彼女が自力で食事が出来る様に食材を小さく切ったり、片手で食べやすい形状に調整していた。
食事をする来栖の様子を見ながら、芙蓉は天使の存在を考えていた。死滅回游の泳者で、来栖に受肉ーというにはやや語弊が生じそうな状態。
「…何か言いたげだな」
来栖の声ではない声が部屋に響き、芙蓉は目を瞬かせた。食事をしている来栖の頬に生じた口が動いていた。
「…受肉体って、いろんなタイプがあるんだなって」
「私は華と共生している」
「…来栖さんにとってちょっと嫌な話をしますけど」
そう言い置いて、芙蓉は近頃自身の頭で考え続けている受肉についての事を聞いてみる事にした。
「…天使は来栖さんに受肉は出来るんですか?…するしないの話じゃなくて、出来る出来ないの話です」
「…何故?」
「…私の近しい人が死滅回游に巻き込まれて…、受肉ってどういう事か、考えているんです」
食事をしていた来栖が手を止めて芙蓉を見ていた。彼女1人の視線を受け止めているが、その奥からは口を噤んだままの天使にも見つめられている様な気がしてー気分を害してしまっただろうかと、芙蓉は慌てて謝罪を口にしようとした。
「…近しい人って、」
自分より先に来栖が口を開いた事に、芙蓉は内心驚いた。そこまで自分に関心を寄せている様には思えなかったからだ。
「…姉同然の人です。すごく優しくて、憧れの人」
芙蓉が毅然と答えると、そうか、と天使が呟いた。
「先程の問いに答えるなら、出来る、と言うのが正しい…だろうな。術師は非術師にない能力を持っている。その能力を行使すれば、力関係でどちらが優位になるかは歴然だろう。…受肉する存在は器となる肉体の自我を沈めて肉体の主導権を握る。よっぽどの事がない限り、肉体を取り戻すのは難しいだろうな」
「……」
「…尤も、その様な事は私ではなく九相図の彼に聞いた方がわかるのではないか?」
「…そう、ですね」
気が付けば、来栖は食事を終えていた。
「…突然すみません、ありがとうございました」
芙蓉は片付けを済ませると部屋を出た。通路の壁に切り取られた窓の外はもう、暗い。空いた食器の乗ったトレイを持ったまま、ため息を吐いて歩き出す。
高専の寮母が共に新しい拠点へ来てくれていた事もあって、食事に関して大変助かっていた。来栖が使った食器を寮母のいる調理室へ運ぶと、彼女は食事だけは疎かにしない様にと世話を焼いてくれ、芙蓉は押し付けられる様に差し出された軽食を受け取り、寮母に礼を述べた。
先程天使に言われた通り、芙蓉は九相図の彼ー脹相を訪ねようとしたが、なんだか話をする気にもなれず、自室へと戻って来た。ベッドに腰掛けて大きく息を吐く。
テーブルに置いた、寮母から渡された軽食の入った包みを見つめ、手に取って中を覗く。小さめのおにぎりが2つ入っていた。芙蓉は1つ取り出すと齧り付いた。おにぎりを咀嚼しながら虎杖の話を思い出す。
津美紀は受肉体だったという事。津美紀に受肉した存在は宿儺に執着しているらしいという事。
芙蓉は再びため息を吐いたー考える事全てが良くない方向へ沈んでいく。何を考えても気が滅入る。持っていたおにぎりを包み直すとテーブルに置いた。
大きく息を吐いて、後ろに倒れる様に寝転がった。
伏黒が死滅回游へ参加する前に、彼と交わした約束が芙蓉の脳裏に浮かぶ。胸が痛むと同じくして、涙がじわりと滲む。泣いていても何にもならない、泣いたところで伏黒も津美紀も戻って来ないー芙蓉は少しだけ息苦しさを覚えて起き上がった。残酷過ぎる現実を直視しようとする度に息苦しくなる。芙蓉はハンガーに掛けてある制服の上着、ポケットを探る。また少しずつ、苦しくなってくる。上手く力が入らなくなってきている手で、薬のシートを取り出して錠剤を1つ押し出した。口に放り込み、簡易キッチンに置きっ放しにしてあるマグを取ると水道水を汲んで飲み干した。
渋谷の件以来、薬に頼って不安を押し込めている自分の弱さが情け無く感じられ、芙蓉は1人嗚咽を漏らした。
少しだけ気持ちと呼吸が落ち着くと、芙蓉はそのままシンクで顔を洗った。冷たい水に頭もスッキリした気がするー顔を拭くと芙蓉は息を吐いた。
と、ベッドに放ってあったスマホが着信を告げる音が聞こえた。メッセージアプリに着信があり、確認すれば虎杖だった。一緒に食事でもどうか、という内容だった。拠点に戻って来て以来、彼は芙蓉の様子を酷く気に掛けている様だった。虎杖の気遣いは本当に有難いが、今日のところは無理そうだーこんな泣き腫らした顔を出せば心配されるに決まっている。寮母から軽食をいただいた旨を書いてメッセージを送信した。程なくして了解、また今度な、とだけ返事が来た。
変わらない様子の虎杖ー彼だって辛いだろうに。
いい加減、自分はこの不安定な気持ちを何とかしなくちゃー芙蓉はスマホの液晶に写る自身の顔を見ると、また1つ大きく息を吐いた。
最優先とされた事項は、獄門疆からの五条の解放。これは天使ー来栖華の回復を待っての事となり、数日の猶予が持たれた。
「失礼します、食事をお待ちしました」
芙蓉が医務室すぐ側の部屋のドアを開けると、ベッドの来栖は身体を起こした。
「…ありがとうございます」
「具合はどうですか?」
そう声をかけて芙蓉はベッドサイドのテーブルに食事を乗せたトレイを置く。だいぶ良くなってると思います、と答える来栖が食事をしやすい様にとテーブルを彼女のすぐ側へ移動させた。
「…いつもすみません」
「気にしないで下さい、私もたいした事が出来るわけじゃないので」
どうぞ、と芙蓉は食事を促した。片腕を失った彼女が困らない様に、そして今後の生活の為のリハビリを兼ねて、芙蓉は極力彼女が自力で食事が出来る様に食材を小さく切ったり、片手で食べやすい形状に調整していた。
食事をする来栖の様子を見ながら、芙蓉は天使の存在を考えていた。死滅回游の泳者で、来栖に受肉ーというにはやや語弊が生じそうな状態。
「…何か言いたげだな」
来栖の声ではない声が部屋に響き、芙蓉は目を瞬かせた。食事をしている来栖の頬に生じた口が動いていた。
「…受肉体って、いろんなタイプがあるんだなって」
「私は華と共生している」
「…来栖さんにとってちょっと嫌な話をしますけど」
そう言い置いて、芙蓉は近頃自身の頭で考え続けている受肉についての事を聞いてみる事にした。
「…天使は来栖さんに受肉は出来るんですか?…するしないの話じゃなくて、出来る出来ないの話です」
「…何故?」
「…私の近しい人が死滅回游に巻き込まれて…、受肉ってどういう事か、考えているんです」
食事をしていた来栖が手を止めて芙蓉を見ていた。彼女1人の視線を受け止めているが、その奥からは口を噤んだままの天使にも見つめられている様な気がしてー気分を害してしまっただろうかと、芙蓉は慌てて謝罪を口にしようとした。
「…近しい人って、」
自分より先に来栖が口を開いた事に、芙蓉は内心驚いた。そこまで自分に関心を寄せている様には思えなかったからだ。
「…姉同然の人です。すごく優しくて、憧れの人」
芙蓉が毅然と答えると、そうか、と天使が呟いた。
「先程の問いに答えるなら、出来る、と言うのが正しい…だろうな。術師は非術師にない能力を持っている。その能力を行使すれば、力関係でどちらが優位になるかは歴然だろう。…受肉する存在は器となる肉体の自我を沈めて肉体の主導権を握る。よっぽどの事がない限り、肉体を取り戻すのは難しいだろうな」
「……」
「…尤も、その様な事は私ではなく九相図の彼に聞いた方がわかるのではないか?」
「…そう、ですね」
気が付けば、来栖は食事を終えていた。
「…突然すみません、ありがとうございました」
芙蓉は片付けを済ませると部屋を出た。通路の壁に切り取られた窓の外はもう、暗い。空いた食器の乗ったトレイを持ったまま、ため息を吐いて歩き出す。
高専の寮母が共に新しい拠点へ来てくれていた事もあって、食事に関して大変助かっていた。来栖が使った食器を寮母のいる調理室へ運ぶと、彼女は食事だけは疎かにしない様にと世話を焼いてくれ、芙蓉は押し付けられる様に差し出された軽食を受け取り、寮母に礼を述べた。
先程天使に言われた通り、芙蓉は九相図の彼ー脹相を訪ねようとしたが、なんだか話をする気にもなれず、自室へと戻って来た。ベッドに腰掛けて大きく息を吐く。
テーブルに置いた、寮母から渡された軽食の入った包みを見つめ、手に取って中を覗く。小さめのおにぎりが2つ入っていた。芙蓉は1つ取り出すと齧り付いた。おにぎりを咀嚼しながら虎杖の話を思い出す。
津美紀は受肉体だったという事。津美紀に受肉した存在は宿儺に執着しているらしいという事。
芙蓉は再びため息を吐いたー考える事全てが良くない方向へ沈んでいく。何を考えても気が滅入る。持っていたおにぎりを包み直すとテーブルに置いた。
大きく息を吐いて、後ろに倒れる様に寝転がった。
伏黒が死滅回游へ参加する前に、彼と交わした約束が芙蓉の脳裏に浮かぶ。胸が痛むと同じくして、涙がじわりと滲む。泣いていても何にもならない、泣いたところで伏黒も津美紀も戻って来ないー芙蓉は少しだけ息苦しさを覚えて起き上がった。残酷過ぎる現実を直視しようとする度に息苦しくなる。芙蓉はハンガーに掛けてある制服の上着、ポケットを探る。また少しずつ、苦しくなってくる。上手く力が入らなくなってきている手で、薬のシートを取り出して錠剤を1つ押し出した。口に放り込み、簡易キッチンに置きっ放しにしてあるマグを取ると水道水を汲んで飲み干した。
渋谷の件以来、薬に頼って不安を押し込めている自分の弱さが情け無く感じられ、芙蓉は1人嗚咽を漏らした。
少しだけ気持ちと呼吸が落ち着くと、芙蓉はそのままシンクで顔を洗った。冷たい水に頭もスッキリした気がするー顔を拭くと芙蓉は息を吐いた。
と、ベッドに放ってあったスマホが着信を告げる音が聞こえた。メッセージアプリに着信があり、確認すれば虎杖だった。一緒に食事でもどうか、という内容だった。拠点に戻って来て以来、彼は芙蓉の様子を酷く気に掛けている様だった。虎杖の気遣いは本当に有難いが、今日のところは無理そうだーこんな泣き腫らした顔を出せば心配されるに決まっている。寮母から軽食をいただいた旨を書いてメッセージを送信した。程なくして了解、また今度な、とだけ返事が来た。
変わらない様子の虎杖ー彼だって辛いだろうに。
いい加減、自分はこの不安定な気持ちを何とかしなくちゃー芙蓉はスマホの液晶に写る自身の顔を見ると、また1つ大きく息を吐いた。