不倶戴天
恵の幼馴染のお名前は?
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新田が送ってきた動画では何かを調べるにも調べようが無かった。せめて五条がいれば、という家入の呟きは彼女が吐き出した煙草の煙と共に消えていった。
芙蓉はとぼとぼと部屋に戻った。デスクに広げっぱなしの書類の山を一瞥し、ベッドに転がって先程の動画を見る。何度見ても津美紀が自力で歩いているのは変わらないし、それ以上でもそれ以下でもなく何もわからない。
諦めとも疲れともつかないため息を吐いたところで、時刻は程なく昼時になろうとしている事に気が付いた。時間を意識した途端に空腹感を覚えた気がして芙蓉は起き上がった。その際スマホの画面に指先が触れた様で、意図せず動画が再生された。
動画の終わる直前で芙蓉は微かな違和感を覚えた。もう何十回と見て初めての事ー津美紀の表情が本当に彼女なのかと疑問を持った。津美紀の歩行動作にばかり注目していて、彼女の表情までは意識していなかった、そう思って動画をもう一度再生する。
リハビリの担当者からの声に返事をする津美紀。上手く出来たと感嘆の声を上げる新田に礼を言う津美紀。その後、口元を歪めて笑う津美紀ー違和感。
彼女はこんな不気味な表情をした事があっただろうか?
筋力の低下に伴い、表情筋の動きが悪いのだろうか?
もしかしたら津美紀はー芙蓉はスマホを手放した。頭の中で膨らみ始めた不確定な悪い可能性に芙蓉は恐怖心を覚えた。そして改めて家入が言っていた“五条がいれば”という言葉を噛み締めずにはいられなかった。
様々な可能性を思い描いてみても、芙蓉の中に芽生えたその思いを確かめる術は何処にも見当たらなかった。津美紀が目覚めてから、伏黒と共に面会に行った時、伏黒は何も言わなかった。
自分の気のせいだろうか。上手く笑えなかっただけなのかもしれない。芙蓉はそう思う事にした。
事態が動いたのは午後になってからだった。
早朝に各結界へと向かい、戻ってきた真希を芙蓉を始め、拠点に残っていた面々が出迎えた。
彼女は順調に秤やパンダと遭遇出来、伏黒や虎杖とも話をする事が出来た様だった。
「津美紀を死滅回游から離脱させる算段がついた」
仙台結界の乙骨、第二結界の秤はそれぞれ高得点の泳者から得点を貰い受ける事が出来、その得点が伏黒に譲渡されてルールの変更まで行う事が出来たという。
「じゃあ…!」
「ただし」
真希は目を輝かせた芙蓉の言葉を遮った。
「…抜ける泳者の身代わりが必要になった」
その場にいた全員が口を噤んだ。
「私が行きます」
芙蓉がそう声を上げると、家入と伊地知が驚いた顔を見せ、日下部が声を上げた。
「馬っ鹿野郎、死ぬ気か!」
「死ぬつもりなんてないです!…でも、」
「よく考えろ」
真希の落ち着きのある強い言葉に芙蓉は彼女を振り返った。言葉と同様に強い眼差しが芙蓉を見つめている。
「芙蓉、お前が津美紀の身代わりになったら津美紀が回游から抜けた後はどうするんだ?今は恵だっていねぇんだ、津美紀の頼りになるのはお前しかいねぇだろうが」
「芙蓉ちゃん、伏黒くんとの約束を思い出して」
真希と綺羅羅の言葉が芙蓉に突き刺さる。
「っでも…、」
「私が行きましょう」
冷静な声の主を一同が振り返るー伊地知だった。
「伊地知さん⁉︎」
「私の業務は新田さんに引き継いでもらえば問題ありません。それにもしもの事態を考えると、結界外の術師を減らすのは得策ではないでしょう」
「でも…」
芙蓉は何も言えなかった。また自分は何も出来ないーそんな思いに芙蓉は拳を握った。
「…良いのか?」
日下部の言葉に伊地知は穏やかな顔で頷いた。
程なくして新田が津美紀と共に高専の拠点に呼び寄せられ、彼女は伊地知の業務を引き継いだ。
伊地知はひと通りの片付けを済ませると、新田の運転で真希、津美紀と同乗し、伏黒たちがいる第一結界へ向かおうと準備を始めた。
これには芙蓉も同行すると言ったが、結界近くでは何が起こるかわからない事、不要なリスクは是が非でも回避すべきだという強い意見に押され、やむなく拠点に残る事に同意した。
それならばせめて見送りだけはさせてくれと懇願し、芙蓉は新田が回してきた車を眺めていた。
「芙蓉」
名を呼ばれて振り返ると津美紀がじっと芙蓉を見つめている。が、上手くその目を見られず、芙蓉は思わず目を伏せた。そんな様子に津美紀は小さく笑った。
「…私の事なら心配しないで」
芙蓉が心配しているのだろうと思った津美紀、芙蓉はその言葉に頷くも、動画での彼女の表情が頭から離れないーおずおずと顔を上げた。改めて正面から見た津美紀は動画での彼女ではなく、以前から知っている津美紀の様に見え、芙蓉は彼女を疑っていた自身を恥じた。
「気を付けてね。…待ってるから」
芙蓉がしっかりと津美紀の目を見つめて言うと、津美紀は口元に笑みを浮かべて小さく頷いた。
「…そろそろ行くぞ」
真希の声に津美紀が振り返って返事をした。助手席には伊地知が乗り込み、後部座席には真希、続いて津美紀が乗り込んだ。車がゆっくりと動き出す。
とても手など振る気になれなかった。芙蓉はその場に立ち尽くしたまま、小さくなっていく車をじっと、目を逸らす事なく見つめていた。
芙蓉はとぼとぼと部屋に戻った。デスクに広げっぱなしの書類の山を一瞥し、ベッドに転がって先程の動画を見る。何度見ても津美紀が自力で歩いているのは変わらないし、それ以上でもそれ以下でもなく何もわからない。
諦めとも疲れともつかないため息を吐いたところで、時刻は程なく昼時になろうとしている事に気が付いた。時間を意識した途端に空腹感を覚えた気がして芙蓉は起き上がった。その際スマホの画面に指先が触れた様で、意図せず動画が再生された。
動画の終わる直前で芙蓉は微かな違和感を覚えた。もう何十回と見て初めての事ー津美紀の表情が本当に彼女なのかと疑問を持った。津美紀の歩行動作にばかり注目していて、彼女の表情までは意識していなかった、そう思って動画をもう一度再生する。
リハビリの担当者からの声に返事をする津美紀。上手く出来たと感嘆の声を上げる新田に礼を言う津美紀。その後、口元を歪めて笑う津美紀ー違和感。
彼女はこんな不気味な表情をした事があっただろうか?
筋力の低下に伴い、表情筋の動きが悪いのだろうか?
もしかしたら津美紀はー芙蓉はスマホを手放した。頭の中で膨らみ始めた不確定な悪い可能性に芙蓉は恐怖心を覚えた。そして改めて家入が言っていた“五条がいれば”という言葉を噛み締めずにはいられなかった。
様々な可能性を思い描いてみても、芙蓉の中に芽生えたその思いを確かめる術は何処にも見当たらなかった。津美紀が目覚めてから、伏黒と共に面会に行った時、伏黒は何も言わなかった。
自分の気のせいだろうか。上手く笑えなかっただけなのかもしれない。芙蓉はそう思う事にした。
事態が動いたのは午後になってからだった。
早朝に各結界へと向かい、戻ってきた真希を芙蓉を始め、拠点に残っていた面々が出迎えた。
彼女は順調に秤やパンダと遭遇出来、伏黒や虎杖とも話をする事が出来た様だった。
「津美紀を死滅回游から離脱させる算段がついた」
仙台結界の乙骨、第二結界の秤はそれぞれ高得点の泳者から得点を貰い受ける事が出来、その得点が伏黒に譲渡されてルールの変更まで行う事が出来たという。
「じゃあ…!」
「ただし」
真希は目を輝かせた芙蓉の言葉を遮った。
「…抜ける泳者の身代わりが必要になった」
その場にいた全員が口を噤んだ。
「私が行きます」
芙蓉がそう声を上げると、家入と伊地知が驚いた顔を見せ、日下部が声を上げた。
「馬っ鹿野郎、死ぬ気か!」
「死ぬつもりなんてないです!…でも、」
「よく考えろ」
真希の落ち着きのある強い言葉に芙蓉は彼女を振り返った。言葉と同様に強い眼差しが芙蓉を見つめている。
「芙蓉、お前が津美紀の身代わりになったら津美紀が回游から抜けた後はどうするんだ?今は恵だっていねぇんだ、津美紀の頼りになるのはお前しかいねぇだろうが」
「芙蓉ちゃん、伏黒くんとの約束を思い出して」
真希と綺羅羅の言葉が芙蓉に突き刺さる。
「っでも…、」
「私が行きましょう」
冷静な声の主を一同が振り返るー伊地知だった。
「伊地知さん⁉︎」
「私の業務は新田さんに引き継いでもらえば問題ありません。それにもしもの事態を考えると、結界外の術師を減らすのは得策ではないでしょう」
「でも…」
芙蓉は何も言えなかった。また自分は何も出来ないーそんな思いに芙蓉は拳を握った。
「…良いのか?」
日下部の言葉に伊地知は穏やかな顔で頷いた。
程なくして新田が津美紀と共に高専の拠点に呼び寄せられ、彼女は伊地知の業務を引き継いだ。
伊地知はひと通りの片付けを済ませると、新田の運転で真希、津美紀と同乗し、伏黒たちがいる第一結界へ向かおうと準備を始めた。
これには芙蓉も同行すると言ったが、結界近くでは何が起こるかわからない事、不要なリスクは是が非でも回避すべきだという強い意見に押され、やむなく拠点に残る事に同意した。
それならばせめて見送りだけはさせてくれと懇願し、芙蓉は新田が回してきた車を眺めていた。
「芙蓉」
名を呼ばれて振り返ると津美紀がじっと芙蓉を見つめている。が、上手くその目を見られず、芙蓉は思わず目を伏せた。そんな様子に津美紀は小さく笑った。
「…私の事なら心配しないで」
芙蓉が心配しているのだろうと思った津美紀、芙蓉はその言葉に頷くも、動画での彼女の表情が頭から離れないーおずおずと顔を上げた。改めて正面から見た津美紀は動画での彼女ではなく、以前から知っている津美紀の様に見え、芙蓉は彼女を疑っていた自身を恥じた。
「気を付けてね。…待ってるから」
芙蓉がしっかりと津美紀の目を見つめて言うと、津美紀は口元に笑みを浮かべて小さく頷いた。
「…そろそろ行くぞ」
真希の声に津美紀が振り返って返事をした。助手席には伊地知が乗り込み、後部座席には真希、続いて津美紀が乗り込んだ。車がゆっくりと動き出す。
とても手など振る気になれなかった。芙蓉はその場に立ち尽くしたまま、小さくなっていく車をじっと、目を逸らす事なく見つめていた。