不倶戴天
恵の幼馴染のお名前は?
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「真希、さん…?」
芙蓉は酷く戸惑った。目の前に現れたのは間違いなく頼りになり慕っている先輩であるはずなのに、彼女の雰囲気というか、彼女の纏う空気というかー自身が知る彼女ではない気がしてならなかった。
「…憂憂の術式で結界間を移動し、呪力を持たない彼女に結界内の面々へのメッセンジャーを務めてもらう。正に合理的で無駄のない事だと思わないかい?」
「…ま、その辺はともかく、おかげで助かったのは間違いなかったけどな」
「ウチの学生に勝手な事すんじゃねぇよ…」
ため息を吐く日下部、肩を竦める冥冥と真希。
「…けどま、助かったのは確かに間違いねぇわな」
禪院家を出てから真希は桜島結界を経て乙骨の居る仙台結界へ行き、乙骨と再会を果たすと同時に目下優先すべき事項を共有して戻って来たという事だった。
「夜が明けたらまず第二結界行く。金次とも状況の擦り合わせをしてから第一結界…、恵たちと津美紀の死滅回游離脱について話してくる。…それまでは少し休ませてくれ。さすがに疲れる」
そんな真希の様子に芙蓉は家入に頷いて見せた。
「真希さん、部屋、案内します」
医務室を出ると、芙蓉は隣を歩く真希を見上げた。
「…なんだよ」
「いえ…、…別に」
目が合うと芙蓉は慌てて顔を逸らした。
「どーせ芙蓉のこった、なんか自分に出来る事がないかとか考えてんだろ?」
「……」
「…図星かよ」
笑う真希と対照に項垂れる芙蓉。真希は芙蓉の背を軽く叩いた。
「シャンとしな。芙蓉は自分が戦うだけじゃなく皆のサポートも出来るんだ、いい加減自信待てよ」
真希の言葉に頷くと同時に、伊地知に言われた事も思い出した。生きているという事は、まだ何か役割があるのではないかー芙蓉は頷いた。
「…はい」
「ま…信じて待つってのも、しんどい事だけどな」
真希の言葉に涙が滲みそうになったのをどうにか押し留め、空き部屋を示した。
「何かあったら声かけてくださいね」
芙蓉は涙が溢れない内にと慌ててその場を離れた。
太陽が昇り始め、間もなく朝がやって来る。
少しの仮眠を済ませた芙蓉は再び医務室を訪れるも、家入は不在だった。ベッドを見ると誰も居らず、芙蓉は慌てて辺りを見回した。
「脹相、さん!起き上がって大丈夫ですか…?」
脹相は酷く憔悴した様子で窓際のベンチに座り項垂れていた。彼は芙蓉の声にゆっくりと顔を上げ、暗く虚ろな目で彼女をじっと見つめた。
「……」
声を掛けようにも、どう声を掛けていいか、何を言えばいいかー芙蓉は自身を見つめてくる目を見つめ返す事しか出来なかった。と、ドアの開く音が聞こえ、芙蓉は弾かれた様に振り返る。
「真希さん、綺羅羅先輩…」
「…高専での事も把握しておかないとな。なぁ、薨星宮で何があったんだ?由基さんは、」
真希の言葉に脹相の顔色が変わり、まるで叱られるのを恐れ、怯えた子供の様に彼は肩を揺らした。手にしていた立方体ー九十九から託されたという獄門疆を抱えた彼の手が、身体が、震え出した。
「え、ちょっと…、」
「大丈夫ですか⁉︎」
脹相を気遣う様に綺羅羅と芙蓉が彼の側に駆け寄る。そんな2人を振り払う様に脹相はゆるゆると首を振った。
「加茂憲倫が生きてるのだけはわかる…だから…!!」
今この場に九十九が戻って来ないという事はー
「…そうか。…じゃあ、天元様も」
脹相が力無く頷くのを見ると、真希は1つ息を吐く。
「…早ぇとこ動いた方が良さそうだな」
「真希さん、」
「憂憂の術式があれば結界間の移動はすぐだが、結界内でアイツら探すのはそう簡単じゃないんだ。…状況が状況だからな、のんびりしてる時間はねぇだろ」
真希は部屋を出て行き、芙蓉は家入を呼んでくるという綺羅羅を見送ると、脹相の傷の様子を検めた。
「あの…どこか痛むところは、」
「…問題ない」
特級相当と言われる彼が自身に反転術式を施すくらい当然だという事に気が付き、芙蓉は何も言えなかった。
その後、芙蓉は綺羅羅と家入が共に医務室に戻ってきたのと入れ違いになる様に自室に戻る事にした。少し落ち着く時間が欲しいー部屋に戻ると大きく息を吐く。部屋の隅に置いた段ボールが目に入り、芙蓉はファイリングをしようと箱を開けた。
どれくらい経ったか、ベッドに放り出してあったスマホが着信を告げ、芙蓉は手を止めた。集中の糸がぷつりと切れ、芙蓉は伸びをするとスマホに手を伸ばす。メッセージアプリに1件の通知。アプリを起動させると、補助監督の新田からだった。彼女は今、津美紀の付き添い兼連絡係をしている。
『津美紀さん、歩ける様になったッスよー!』
そんな文章と共に動画が送られてきていて、そのサムネイルにはリハビリのフロアらしい場所で、平行棒の間に立つ津美紀の姿。芙蓉は驚きと困惑が混ざった気持ちのまま、動画を再生した。
「……」
1分に満たない短い映像の中で、津美紀は自身の足で歩いていた。芙蓉はスマホを手に部屋を飛び出した。
「硝子さん、これ…!」
芙蓉が向かったのは医務室の家入。すっかりスモーカーに戻ってしまった彼女は咥え煙草で芙蓉を振り返った。
「…驚いたな」
「1年7カ月も寝たきりだったのに、たった2週間くらいのリハビリで歩ける様になるなんて…」
家入は唸った。津美紀は死滅回游に巻き込まれ、その身に呪いを宿した。その宿った呪力で弱った身体の力を補う事が出来るかもしれないが、津美紀は非術師として生きてきた。たった2週間程度でそこまでの呪力コントロールが出来る様になるのだろうか。芙蓉の中でじわじわと嫌な感覚が膨らみ始めていた。
芙蓉は酷く戸惑った。目の前に現れたのは間違いなく頼りになり慕っている先輩であるはずなのに、彼女の雰囲気というか、彼女の纏う空気というかー自身が知る彼女ではない気がしてならなかった。
「…憂憂の術式で結界間を移動し、呪力を持たない彼女に結界内の面々へのメッセンジャーを務めてもらう。正に合理的で無駄のない事だと思わないかい?」
「…ま、その辺はともかく、おかげで助かったのは間違いなかったけどな」
「ウチの学生に勝手な事すんじゃねぇよ…」
ため息を吐く日下部、肩を竦める冥冥と真希。
「…けどま、助かったのは確かに間違いねぇわな」
禪院家を出てから真希は桜島結界を経て乙骨の居る仙台結界へ行き、乙骨と再会を果たすと同時に目下優先すべき事項を共有して戻って来たという事だった。
「夜が明けたらまず第二結界行く。金次とも状況の擦り合わせをしてから第一結界…、恵たちと津美紀の死滅回游離脱について話してくる。…それまでは少し休ませてくれ。さすがに疲れる」
そんな真希の様子に芙蓉は家入に頷いて見せた。
「真希さん、部屋、案内します」
医務室を出ると、芙蓉は隣を歩く真希を見上げた。
「…なんだよ」
「いえ…、…別に」
目が合うと芙蓉は慌てて顔を逸らした。
「どーせ芙蓉のこった、なんか自分に出来る事がないかとか考えてんだろ?」
「……」
「…図星かよ」
笑う真希と対照に項垂れる芙蓉。真希は芙蓉の背を軽く叩いた。
「シャンとしな。芙蓉は自分が戦うだけじゃなく皆のサポートも出来るんだ、いい加減自信待てよ」
真希の言葉に頷くと同時に、伊地知に言われた事も思い出した。生きているという事は、まだ何か役割があるのではないかー芙蓉は頷いた。
「…はい」
「ま…信じて待つってのも、しんどい事だけどな」
真希の言葉に涙が滲みそうになったのをどうにか押し留め、空き部屋を示した。
「何かあったら声かけてくださいね」
芙蓉は涙が溢れない内にと慌ててその場を離れた。
太陽が昇り始め、間もなく朝がやって来る。
少しの仮眠を済ませた芙蓉は再び医務室を訪れるも、家入は不在だった。ベッドを見ると誰も居らず、芙蓉は慌てて辺りを見回した。
「脹相、さん!起き上がって大丈夫ですか…?」
脹相は酷く憔悴した様子で窓際のベンチに座り項垂れていた。彼は芙蓉の声にゆっくりと顔を上げ、暗く虚ろな目で彼女をじっと見つめた。
「……」
声を掛けようにも、どう声を掛けていいか、何を言えばいいかー芙蓉は自身を見つめてくる目を見つめ返す事しか出来なかった。と、ドアの開く音が聞こえ、芙蓉は弾かれた様に振り返る。
「真希さん、綺羅羅先輩…」
「…高専での事も把握しておかないとな。なぁ、薨星宮で何があったんだ?由基さんは、」
真希の言葉に脹相の顔色が変わり、まるで叱られるのを恐れ、怯えた子供の様に彼は肩を揺らした。手にしていた立方体ー九十九から託されたという獄門疆を抱えた彼の手が、身体が、震え出した。
「え、ちょっと…、」
「大丈夫ですか⁉︎」
脹相を気遣う様に綺羅羅と芙蓉が彼の側に駆け寄る。そんな2人を振り払う様に脹相はゆるゆると首を振った。
「加茂憲倫が生きてるのだけはわかる…だから…!!」
今この場に九十九が戻って来ないという事はー
「…そうか。…じゃあ、天元様も」
脹相が力無く頷くのを見ると、真希は1つ息を吐く。
「…早ぇとこ動いた方が良さそうだな」
「真希さん、」
「憂憂の術式があれば結界間の移動はすぐだが、結界内でアイツら探すのはそう簡単じゃないんだ。…状況が状況だからな、のんびりしてる時間はねぇだろ」
真希は部屋を出て行き、芙蓉は家入を呼んでくるという綺羅羅を見送ると、脹相の傷の様子を検めた。
「あの…どこか痛むところは、」
「…問題ない」
特級相当と言われる彼が自身に反転術式を施すくらい当然だという事に気が付き、芙蓉は何も言えなかった。
その後、芙蓉は綺羅羅と家入が共に医務室に戻ってきたのと入れ違いになる様に自室に戻る事にした。少し落ち着く時間が欲しいー部屋に戻ると大きく息を吐く。部屋の隅に置いた段ボールが目に入り、芙蓉はファイリングをしようと箱を開けた。
どれくらい経ったか、ベッドに放り出してあったスマホが着信を告げ、芙蓉は手を止めた。集中の糸がぷつりと切れ、芙蓉は伸びをするとスマホに手を伸ばす。メッセージアプリに1件の通知。アプリを起動させると、補助監督の新田からだった。彼女は今、津美紀の付き添い兼連絡係をしている。
『津美紀さん、歩ける様になったッスよー!』
そんな文章と共に動画が送られてきていて、そのサムネイルにはリハビリのフロアらしい場所で、平行棒の間に立つ津美紀の姿。芙蓉は驚きと困惑が混ざった気持ちのまま、動画を再生した。
「……」
1分に満たない短い映像の中で、津美紀は自身の足で歩いていた。芙蓉はスマホを手に部屋を飛び出した。
「硝子さん、これ…!」
芙蓉が向かったのは医務室の家入。すっかりスモーカーに戻ってしまった彼女は咥え煙草で芙蓉を振り返った。
「…驚いたな」
「1年7カ月も寝たきりだったのに、たった2週間くらいのリハビリで歩ける様になるなんて…」
家入は唸った。津美紀は死滅回游に巻き込まれ、その身に呪いを宿した。その宿った呪力で弱った身体の力を補う事が出来るかもしれないが、津美紀は非術師として生きてきた。たった2週間程度でそこまでの呪力コントロールが出来る様になるのだろうか。芙蓉の中でじわじわと嫌な感覚が膨らみ始めていた。