不倶戴天
恵の幼馴染のお名前は?
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「戻りました」
芙蓉が高専に戻って来たのは14時を回る頃だった。医務室の家入に声をかけると、早かったな、と返された。
「寄り道してくると思ってたんだがな」
「…特に行くところもないですよ。…お昼ごはん食べて来たくらいで」
「そうか」
無駄話を続けている程、家入は暇では無さそうだった。デスクに積まれた書類を見てはチェックをつけるーそんな作業を繰り返していた。
「…硝子さん、何か手伝える事があれば、」
「そうか、悪いな」
芙蓉の言葉に対して家入は食い気味に言うと立ち上がり、簡易ベッドに積まれた書類の山を示した。
「…コレをファイルに綴じてもらいたい」
「え…」
思わず尻込みする程の量だった。見ても良いですか、と許可を得て書類を手に取った。
「…これ…、渋谷の…」
「そうだ。術師と補助監督のケガとその状態、経過に関しての記録だ。…あとこっちは判る範囲で、現場に居合わせた一般人の記録だ」
膨大な書類に気が遠くなる思いだった。高専に繋がりのある人物に関しての情報はとにかく、一般人の情報まで取り扱うとはー芙蓉は家入を振り返る。
「…これ、硝子さんが全部やるんですか…?」
「私が過労死しないようにお前が手伝うんだろうが」
家入は煙草に火を点け、ふっと息を吐いた。
「…過去に例がないくらいのでかい出来事だ。ほんの一部しか残す事は出来ないが…その人が存在した記録を残す事は悪い事ではないだろう」
芙蓉は手に取った書類を戻すと家入を振り返り、やります、と返事をした。その言葉に満足した様に笑うと、家入は助かるよ、と紫煙を吐き出した。
「…特に期日もないし、お前の手が空いた時にでも十分だ。無くさなければ部屋に持って行っても良いぞ」
「…部外持ち出し禁止って書いてありますけど」
「寮は医務室の延長だと思ってくれ」
事務室に声をかけて台車を借り、芙蓉は医務室の書類を段ボールに納めて寮棟へ運ぶ作業を始めた。
渋谷の事があって以来、高専の空気感は大きく変わっていた。現場に動員された補助監督も犠牲になった者が多く、術師も散り散りになってしまった。更におかしな話なのが、渋谷の主犯が五条であると仕立て上げられ、学長は上層部との摩擦により処刑された、というパンダの話だ。高専に戻って来て以来、学長の姿を見ていない事を考えると、パンダの話は本当なのだろう。
以前から五条は上層部の人間が大嫌いで、衝突が絶えないと言う事は聞いていた。現代最強の術師である彼が封印されたとなれば、上層部はそれを利用し、徹底的に封じ込める為に動き始めているらしい。目の上のタンコブである五条に全ての罪をなすり付け、思い通りにならない存在を全て消してしまおうという事かーなんて淺ましいんだろう、と芙蓉はため息を吐いた。
「ツナ」
不意の声に芙蓉は顔を上げた。
「狗巻先輩…」
「すじこ?」
「コレですか?硝子さんに頼まれた書類で、寮棟での取り扱いの許可をもらったので」
「しゃけ、めんた…」
(そっか、1人で運ぶの大変でしょ、手伝う…)
狗巻は手を伸ばしかけー動きを止めた。芙蓉が泣き出しそうな顔を向けると、狗巻は一瞬気まずそうな顔をし、照れた様に笑った。
「おかか。…高菜、こんぶ」
(ごめん。…そんな顔しないで、芙蓉のおかげで、腕1本なくしただけで命は助かったんだから)
「…でも、」
「おかか」
「ごめんなさい…、ありがとうございます」
狗巻は親指を立てて見せ、2人は寮棟へ向かう。流石に2階の芙蓉の部屋へ運び入れる事は難しいので、とりあえず共有スペースに保管しておこうと台車を止めた。
狗巻が台車を押さえ、芙蓉が段ボールをフロアに下ろす。全て下ろすと再び医務室へ向かう。
その作業を数回繰り返し、全て運び終えたところで芙蓉は狗巻に礼を言う。と、彼は頷くと何処かへと行ってしまった。狗巻を見送り、芙蓉は息を吐いた。
医務室では相変わらず家入は忙しくしていて、居るだけで邪魔してしまいそうな状態で、事務室では伊地知が今まで以上に忙しくしている。寮の部屋に戻ればとても静かだった。寮で生活している虎杖と伏黒は死滅回游の結界へ、真希は実家である禪院家へ向かった。今、寮を利用しているのは自分と狗巻だけだ。
何をするにも落ち着かないー芙蓉は部屋を出て共有スペースに向かった。積み上げた段ボールの中を確認すると、芙蓉は一般人の書類を取り上げた。顔や名前、人となりを知っている術師や補助監督の書類はまだ見る事が出来そうになかった。命が助かった者ならまだしも、命を落としてしまった者の情報など受け止めきれない。
書類を抱え、芙蓉は部屋に戻った。テーブルに書類を広げながら、家入から“ファイルに綴じてもらいたい”と言われた事を思い出す。しかしただ綴じるだけなら家入だって出来るはずだーそう思った芙蓉は、名前から調べ易くする為に五十音順に綴じていくのが良いだろうと思い至った。そうと決まればーが、なかなか手が動かない。
芙蓉はスマホの待受画面を起動させるー伏黒と共に撮った写真が表示される。伏黒の言葉が思い出される。
約束は覚えてる。死ぬつもりはない。
芙蓉は息を吐く。考えてみたって仕方ない。今ここで、伏黒たちの為に何かが出来るわけでもない。胸元のネックレスに意識を向けて深呼吸をするー信じて、待つ。
漸く芙蓉は書類のファイリングに取り掛かり始めた。
芙蓉が高専に戻って来たのは14時を回る頃だった。医務室の家入に声をかけると、早かったな、と返された。
「寄り道してくると思ってたんだがな」
「…特に行くところもないですよ。…お昼ごはん食べて来たくらいで」
「そうか」
無駄話を続けている程、家入は暇では無さそうだった。デスクに積まれた書類を見てはチェックをつけるーそんな作業を繰り返していた。
「…硝子さん、何か手伝える事があれば、」
「そうか、悪いな」
芙蓉の言葉に対して家入は食い気味に言うと立ち上がり、簡易ベッドに積まれた書類の山を示した。
「…コレをファイルに綴じてもらいたい」
「え…」
思わず尻込みする程の量だった。見ても良いですか、と許可を得て書類を手に取った。
「…これ…、渋谷の…」
「そうだ。術師と補助監督のケガとその状態、経過に関しての記録だ。…あとこっちは判る範囲で、現場に居合わせた一般人の記録だ」
膨大な書類に気が遠くなる思いだった。高専に繋がりのある人物に関しての情報はとにかく、一般人の情報まで取り扱うとはー芙蓉は家入を振り返る。
「…これ、硝子さんが全部やるんですか…?」
「私が過労死しないようにお前が手伝うんだろうが」
家入は煙草に火を点け、ふっと息を吐いた。
「…過去に例がないくらいのでかい出来事だ。ほんの一部しか残す事は出来ないが…その人が存在した記録を残す事は悪い事ではないだろう」
芙蓉は手に取った書類を戻すと家入を振り返り、やります、と返事をした。その言葉に満足した様に笑うと、家入は助かるよ、と紫煙を吐き出した。
「…特に期日もないし、お前の手が空いた時にでも十分だ。無くさなければ部屋に持って行っても良いぞ」
「…部外持ち出し禁止って書いてありますけど」
「寮は医務室の延長だと思ってくれ」
事務室に声をかけて台車を借り、芙蓉は医務室の書類を段ボールに納めて寮棟へ運ぶ作業を始めた。
渋谷の事があって以来、高専の空気感は大きく変わっていた。現場に動員された補助監督も犠牲になった者が多く、術師も散り散りになってしまった。更におかしな話なのが、渋谷の主犯が五条であると仕立て上げられ、学長は上層部との摩擦により処刑された、というパンダの話だ。高専に戻って来て以来、学長の姿を見ていない事を考えると、パンダの話は本当なのだろう。
以前から五条は上層部の人間が大嫌いで、衝突が絶えないと言う事は聞いていた。現代最強の術師である彼が封印されたとなれば、上層部はそれを利用し、徹底的に封じ込める為に動き始めているらしい。目の上のタンコブである五条に全ての罪をなすり付け、思い通りにならない存在を全て消してしまおうという事かーなんて淺ましいんだろう、と芙蓉はため息を吐いた。
「ツナ」
不意の声に芙蓉は顔を上げた。
「狗巻先輩…」
「すじこ?」
「コレですか?硝子さんに頼まれた書類で、寮棟での取り扱いの許可をもらったので」
「しゃけ、めんた…」
(そっか、1人で運ぶの大変でしょ、手伝う…)
狗巻は手を伸ばしかけー動きを止めた。芙蓉が泣き出しそうな顔を向けると、狗巻は一瞬気まずそうな顔をし、照れた様に笑った。
「おかか。…高菜、こんぶ」
(ごめん。…そんな顔しないで、芙蓉のおかげで、腕1本なくしただけで命は助かったんだから)
「…でも、」
「おかか」
「ごめんなさい…、ありがとうございます」
狗巻は親指を立てて見せ、2人は寮棟へ向かう。流石に2階の芙蓉の部屋へ運び入れる事は難しいので、とりあえず共有スペースに保管しておこうと台車を止めた。
狗巻が台車を押さえ、芙蓉が段ボールをフロアに下ろす。全て下ろすと再び医務室へ向かう。
その作業を数回繰り返し、全て運び終えたところで芙蓉は狗巻に礼を言う。と、彼は頷くと何処かへと行ってしまった。狗巻を見送り、芙蓉は息を吐いた。
医務室では相変わらず家入は忙しくしていて、居るだけで邪魔してしまいそうな状態で、事務室では伊地知が今まで以上に忙しくしている。寮の部屋に戻ればとても静かだった。寮で生活している虎杖と伏黒は死滅回游の結界へ、真希は実家である禪院家へ向かった。今、寮を利用しているのは自分と狗巻だけだ。
何をするにも落ち着かないー芙蓉は部屋を出て共有スペースに向かった。積み上げた段ボールの中を確認すると、芙蓉は一般人の書類を取り上げた。顔や名前、人となりを知っている術師や補助監督の書類はまだ見る事が出来そうになかった。命が助かった者ならまだしも、命を落としてしまった者の情報など受け止めきれない。
書類を抱え、芙蓉は部屋に戻った。テーブルに書類を広げながら、家入から“ファイルに綴じてもらいたい”と言われた事を思い出す。しかしただ綴じるだけなら家入だって出来るはずだーそう思った芙蓉は、名前から調べ易くする為に五十音順に綴じていくのが良いだろうと思い至った。そうと決まればーが、なかなか手が動かない。
芙蓉はスマホの待受画面を起動させるー伏黒と共に撮った写真が表示される。伏黒の言葉が思い出される。
約束は覚えてる。死ぬつもりはない。
芙蓉は息を吐く。考えてみたって仕方ない。今ここで、伏黒たちの為に何かが出来るわけでもない。胸元のネックレスに意識を向けて深呼吸をするー信じて、待つ。
漸く芙蓉は書類のファイリングに取り掛かり始めた。