夏の終わり
恵の幼馴染のお名前は?
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秤が根城にしているという立体駐車場に3人が着いたのは日が暮れる前だった。
「芙蓉は待機していてくれ」
「え、連れてった方が安全じゃね?」
「いや、逆に目立って目を付けられそうだ」
「ありがと虎杖くん、私は大丈夫だよ。…何処か身を隠せそうなところがあるか、少し周りの様子見てみるね」
2人と別れ、芙蓉は近くの雑木林に足を踏み入れた。あまり音を立てない様に目立たない様にと歩みを進める。
それにしても、よくこんな場所を見つけたものだと、そして高専から停学処分を受けている間にこんな事をよく考えついたなと芙蓉は感心した。
こちらに来る前に乙骨は秤の事を“ノッてる時は僕より強い”と評していたが、その意味も今ひとつ腑に落ちない。高専3年にして呪術規定に抵触しながらファイトクラブの胴元をしているーどんな人なんだろうと芙蓉は強面の男が巡回している様子を見ながら考えていた。
程なくして2人が戻って来た。芙蓉も合流し、虎杖が今夜の試合に出場する事に決まった事に驚きながらも、改めて自分達が取るべき行動について再確認をした。伏黒の言葉に虎杖は神妙な面持ちで建物へと戻って行った。
「虎杖くん大丈夫かな…ケガしたりしないと良いけど」
「…何とかなるだろ」
「恵はどうするの?中に入るって言ってたけど、」
「……」
時間が経つにつれ、何処からとも無く人が集まり始める。活気というか賑わいというか、辺りの空気感が変わり、試合が始まったのは深夜になってからだった。そんな中、芙蓉は独りで客席に足を踏み入れていた。
時折自身を査定するような視線を受けながら、芙蓉は壁沿いを静かに歩く。服装は制服から着替え、一見して性別が分かりにくい服に身を包んでいた。
試合の様子を見ながら辺りを歩き回る。同じ場所を何度目か通り過ぎた時に、ここの関係者らしい強面の男に声をかけられた。
「なぁアンタ…、さっきもこの辺歩いてなかったか?」
「すみません、迷ってしまって…、その、お手洗いはどちらでしたか?」
「…。そこの角曲がった先だよ」
「ありがとうございます」
芙蓉は丁寧に頭を下げ、トイレへと滑り込んだ。誰もいない事を確認すると、独り大きく息を吐いた。
「私の影の中に入る…⁉︎」
「声がデカいぞ」
「っごめん…!」
芙蓉は慌てて自身の口元を押さえて辺りを見回した。
虎杖を送り出してから、今後の行動について改めて伏黒と芙蓉は入念に話し合いをしていた。
「…そんな事、出来るの…?」
「試行段階だがな。影に物を入れる事が出来るんだ、それならその逆も出来ると思う。…普段自分の影を媒体にしているのは確実に自分の術式が及ぶ範囲内だからだ」
「…つまり、恵の術式の範囲内に存在する影は全て媒体に出来るって事…?」
「理屈としてはそういう事だ。…だが夜になると影が不明瞭になる。確実に影が存在する状況じゃないと他の影に潜り込む事は難しくなるだろうな」
伏黒は夜の闇が残照を飲み込もうとしている空を見上げた。すぐ側の立体駐車場の内部は煌々と迫り来る闇を追い払っている。明度を落として周辺から建物の存在を目立たなくするよりも、不審者の侵入を拒む事を優先としているのだろう。
「…あれくらいの光があれば十分影が出来る。…ここの関係者の影に入って移動する事も出来なくはないが、行動パターンを探る時間も惜しい。…出来るなら芙蓉の影に入って移動するのが手っ取り早い」
「…それは構わないけど…、」
「芙蓉はただ客として中に入ってくれれば良い。関係者の近くを通った時にソイツの影に入る」
そうすりゃ何かしら情報は手に入るだろう、と伏黒は付け加えた。
「…その後はどうするの?また私の影に入って外に出るのが一番安全だよね?」
「それはそうだが、そうなると芙蓉が目を付けられる可能性が高くなる。マークされる対象は少ない方がいいだろうからな、芙蓉は俺の呪力が薄くなったと感じたら建物を出てくれれば良い」
果たして手筈通り、芙蓉は影の中へ伏黒を忍ばせて建物へ潜入した。影に隠れた伏黒と話をする事も、彼の存在を確認する事も出来ない以上、芙蓉はただひたすらに伏黒の呪力に意識を向けるしか出来なかった。
今、彼は誰かの影に忍んでいるのだろう。自分に与えられた役割は遂行した、後は伏黒が戻って来るのを待つしかない。芙蓉はトイレの小窓から外へ飛び出した。
とりあえず見つかりにくい場所、という事で、芙蓉は木の上に身を隠す事にした。比較的大きめの、晩秋の中でも葉を多く宿している木の上に降り立った。伏黒と合流できるのはどれくらい先になるのか、ここでどれくらい待てば良いのかわからないが、芙蓉はひたすら周囲に警戒しながら伏黒が戻って来るのを待つ事にした。
時間にして1時間は経っただろうか。人の来る気配も感じられず、芙蓉はひとつ息を吐いた。集中し続けるのは簡単な事ではない。少しだけ気を緩め、緊張している身体を伸ばそうと木の上で伸びをした。
「…誰かいるな?」
突如として聞こえた声に芙蓉は固まった。呼吸まで握られてしまった様な感覚のまま、相手の位置を確認しようと恐る恐る視線を木の下へ動かしていく。
「っパンダ先輩⁉︎」
「…お、その声は芙蓉?…マジ?」
芙蓉はするりと木から飛び降りた。
「マジもマジですよ、パンダ先輩こそ、どうしてここに?…渋谷の後、高専に戻ってたはずじゃ…?」
「あー…、まぁちっとばかしイザコザがあって、それに巻き込まれてた感じ?…んで、流れ流れてここに着いたってトコかなァ。…お、恵か?」
パンダが鼻を動かし、匂いを嗅ぐ仕草をした。なるほど索敵に長けているというのは動物的な部分なのかと芙蓉は1人頷いて納得した。
「よし、とりあえず恵と合流して情報交換といこうぜ」
雑木林をかき分けて進むパンダの後ろ姿にシュールさを見、複雑な気持ちを覚えながら芙蓉はその後を追った。
「芙蓉は待機していてくれ」
「え、連れてった方が安全じゃね?」
「いや、逆に目立って目を付けられそうだ」
「ありがと虎杖くん、私は大丈夫だよ。…何処か身を隠せそうなところがあるか、少し周りの様子見てみるね」
2人と別れ、芙蓉は近くの雑木林に足を踏み入れた。あまり音を立てない様に目立たない様にと歩みを進める。
それにしても、よくこんな場所を見つけたものだと、そして高専から停学処分を受けている間にこんな事をよく考えついたなと芙蓉は感心した。
こちらに来る前に乙骨は秤の事を“ノッてる時は僕より強い”と評していたが、その意味も今ひとつ腑に落ちない。高専3年にして呪術規定に抵触しながらファイトクラブの胴元をしているーどんな人なんだろうと芙蓉は強面の男が巡回している様子を見ながら考えていた。
程なくして2人が戻って来た。芙蓉も合流し、虎杖が今夜の試合に出場する事に決まった事に驚きながらも、改めて自分達が取るべき行動について再確認をした。伏黒の言葉に虎杖は神妙な面持ちで建物へと戻って行った。
「虎杖くん大丈夫かな…ケガしたりしないと良いけど」
「…何とかなるだろ」
「恵はどうするの?中に入るって言ってたけど、」
「……」
時間が経つにつれ、何処からとも無く人が集まり始める。活気というか賑わいというか、辺りの空気感が変わり、試合が始まったのは深夜になってからだった。そんな中、芙蓉は独りで客席に足を踏み入れていた。
時折自身を査定するような視線を受けながら、芙蓉は壁沿いを静かに歩く。服装は制服から着替え、一見して性別が分かりにくい服に身を包んでいた。
試合の様子を見ながら辺りを歩き回る。同じ場所を何度目か通り過ぎた時に、ここの関係者らしい強面の男に声をかけられた。
「なぁアンタ…、さっきもこの辺歩いてなかったか?」
「すみません、迷ってしまって…、その、お手洗いはどちらでしたか?」
「…。そこの角曲がった先だよ」
「ありがとうございます」
芙蓉は丁寧に頭を下げ、トイレへと滑り込んだ。誰もいない事を確認すると、独り大きく息を吐いた。
「私の影の中に入る…⁉︎」
「声がデカいぞ」
「っごめん…!」
芙蓉は慌てて自身の口元を押さえて辺りを見回した。
虎杖を送り出してから、今後の行動について改めて伏黒と芙蓉は入念に話し合いをしていた。
「…そんな事、出来るの…?」
「試行段階だがな。影に物を入れる事が出来るんだ、それならその逆も出来ると思う。…普段自分の影を媒体にしているのは確実に自分の術式が及ぶ範囲内だからだ」
「…つまり、恵の術式の範囲内に存在する影は全て媒体に出来るって事…?」
「理屈としてはそういう事だ。…だが夜になると影が不明瞭になる。確実に影が存在する状況じゃないと他の影に潜り込む事は難しくなるだろうな」
伏黒は夜の闇が残照を飲み込もうとしている空を見上げた。すぐ側の立体駐車場の内部は煌々と迫り来る闇を追い払っている。明度を落として周辺から建物の存在を目立たなくするよりも、不審者の侵入を拒む事を優先としているのだろう。
「…あれくらいの光があれば十分影が出来る。…ここの関係者の影に入って移動する事も出来なくはないが、行動パターンを探る時間も惜しい。…出来るなら芙蓉の影に入って移動するのが手っ取り早い」
「…それは構わないけど…、」
「芙蓉はただ客として中に入ってくれれば良い。関係者の近くを通った時にソイツの影に入る」
そうすりゃ何かしら情報は手に入るだろう、と伏黒は付け加えた。
「…その後はどうするの?また私の影に入って外に出るのが一番安全だよね?」
「それはそうだが、そうなると芙蓉が目を付けられる可能性が高くなる。マークされる対象は少ない方がいいだろうからな、芙蓉は俺の呪力が薄くなったと感じたら建物を出てくれれば良い」
果たして手筈通り、芙蓉は影の中へ伏黒を忍ばせて建物へ潜入した。影に隠れた伏黒と話をする事も、彼の存在を確認する事も出来ない以上、芙蓉はただひたすらに伏黒の呪力に意識を向けるしか出来なかった。
今、彼は誰かの影に忍んでいるのだろう。自分に与えられた役割は遂行した、後は伏黒が戻って来るのを待つしかない。芙蓉はトイレの小窓から外へ飛び出した。
とりあえず見つかりにくい場所、という事で、芙蓉は木の上に身を隠す事にした。比較的大きめの、晩秋の中でも葉を多く宿している木の上に降り立った。伏黒と合流できるのはどれくらい先になるのか、ここでどれくらい待てば良いのかわからないが、芙蓉はひたすら周囲に警戒しながら伏黒が戻って来るのを待つ事にした。
時間にして1時間は経っただろうか。人の来る気配も感じられず、芙蓉はひとつ息を吐いた。集中し続けるのは簡単な事ではない。少しだけ気を緩め、緊張している身体を伸ばそうと木の上で伸びをした。
「…誰かいるな?」
突如として聞こえた声に芙蓉は固まった。呼吸まで握られてしまった様な感覚のまま、相手の位置を確認しようと恐る恐る視線を木の下へ動かしていく。
「っパンダ先輩⁉︎」
「…お、その声は芙蓉?…マジ?」
芙蓉はするりと木から飛び降りた。
「マジもマジですよ、パンダ先輩こそ、どうしてここに?…渋谷の後、高専に戻ってたはずじゃ…?」
「あー…、まぁちっとばかしイザコザがあって、それに巻き込まれてた感じ?…んで、流れ流れてここに着いたってトコかなァ。…お、恵か?」
パンダが鼻を動かし、匂いを嗅ぐ仕草をした。なるほど索敵に長けているというのは動物的な部分なのかと芙蓉は1人頷いて納得した。
「よし、とりあえず恵と合流して情報交換といこうぜ」
雑木林をかき分けて進むパンダの後ろ姿にシュールさを見、複雑な気持ちを覚えながら芙蓉はその後を追った。