夏の終わり
恵の幼馴染のお名前は?
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渋谷での出来事が一旦の終結となった後、九十九、と名乗る女性が高専に姿を見せた。渋谷では高専側と首謀者側との情勢を見ていたという特級術師である彼女から、一気に世の中の状況ー術師と呪霊を取り巻く状況も変わった事を知らされ、先の件での首謀者、“加茂憲倫”と言う者が渋谷で企てた事、そして今後の見通しについて九十九と伏黒、真希が話をしている間、芙蓉は家入の補助としてケガ人のケアをしていた。
猪野、狗巻、そして伊地知を始めとした補助監督たち。ケガの度合いは様々で、切創や打撲といった軽傷の者、狗巻のような重傷者もいる。家入が術式で処置をしたのもあって、殆どの者の回復が早いだろう事が見込まれている。落ち着いてきた状況で芙蓉はケガ人への食事の配膳や介助、日に数回の見回り、何か入り用な物を準備したりと、細かなサポートをこなしていた。
「高峰さん、いつもありがとうございます。そろそろ自分でも動けると思うので、私の事はもう大丈夫です。
…それより高峰さん、しっかり休んでいますか?」
この日、芙蓉が伊地知に食事を届けると、そう声をかけられた。先の件から数日が経ち、伊地知はベッドの上で仕事を始めるまでに回復した。
「…辛い事が重なってしまって、…気持ちの遣り場がないのは十分にわかります。ですが、高峰さんが倒れてしまっては大変ですし、伏黒くんや禪院さんは勿論、家入さんだって心配しますよ。…私も、ですけどね」
はは、と空気を和らげようと伊地知が笑ってみせるも、芙蓉は何も言えなかった。
「…何も出来なかった、などと自分を責めない事です」
芙蓉は思わず顔を上げた。伊地知の穏やかな目が芙蓉をしっかり見つめていた。
「…現場に立って呪霊や呪詛師と正面から戦う事ばかりが全てではありません。…今回の件に関しては、…残念な事に想定外の事が数多く重なり、大変な事態となってしまいましたが…、少なくとも、自分の仕事には胸を張っていきましょう。…私達はまだ生きています。生きてるという事は、まだ何かしらの役割が与えられていると思っても良いのではないでしょうか。…補助監督として術師を現場に送り出して来た私の考え、ですけどね」
穏やかな声音ながら、力強い伊地知の言葉に芙蓉は頷くしか出来なかった。口を開けば抱えている思いが嗚咽となって溢れ出しそうで、必死でそれを堪えていた。
と、ドアの叩く音が聞こえ、伊地知が返事をすると伏黒が顔を見せた。
「失礼します。…芙蓉、ここにいたのか」
「…恵」
「私は大丈夫ですよ。…気にせず行ってください」
ありがとうございます、と伏黒は礼を述べると芙蓉の手を取り部屋を出た。部屋を出ても、伏黒は芙蓉の手を離す様子がなく歩き続ける。
「恵…?何処、行くの…?」
「…虎杖の死刑執行が決まった」
「!」
芙蓉は思わず足を止めた。伏黒の足も止まる。
「…今後の動きに関して、アイツの力が必要なんだ」
それきり伏黒は口を噤んだ。九十九、伏黒、真希の話し合いに芙蓉が参加する事は殆ど無かったものの、現状の話は伏黒から聞かされていた。死滅回游、と呼ばれる術師の殺し合いが始まり、それに津美紀が巻き込まれているらしい、という事も。まだハッキリしたわけではないが、津美紀が入院している病院から、彼女が目を覚ましたという連絡が来ている。今のこのタイミングを考える、津美紀が巻き込まれているというのはほぼ間違いはないのだろう。芙蓉は伏黒を見上げた。
「…恵の話はわかるけど…、私に、出来る事なんて、」
芙蓉の目が不安気に揺れる。伏黒はまだ抜糸の済んでいない、芙蓉の額の絆創膏を一瞥すると深呼吸をした。
「芙蓉を残して行くのが心配なんだよ」
「え…?」
戸惑う芙蓉の手を引き、伏黒は再び歩き出した。
「虎杖の力も必要だが…、俺には…、芙蓉がいなきゃダメなんだ。…芙蓉の事は絶対に失いたくない。何があっても、俺が守るから、」
伏黒の言葉に芙蓉は何も言えなかった。今回の件ではあまりに多くの人が傷つき倒れた。これから先、津美紀の事も含め、今後何がどうなるかも全く予測がつかない。そんな中、伏黒が自身の手の届くところに芙蓉に居て欲しいと考えるのはごく自然な事だろう。
「…頼む。一緒に来てくれ」
伏黒は足を止めて振り返ると、真っ直ぐに芙蓉を見つめて言った。強い決意が感じられる伏黒から目が離せなかった。芙蓉は彼の目を見つめ返し、しっかりと頷いた。
「…執行人は2年の乙骨先輩。もう向かってる」
乙骨、という名は数回耳にした事があるが、芙蓉自身面識は無い。真希たち2年の同期で、2年になってすぐに海外へ派遣されていたという。それが今回の件を受け、五条が不在となった今、高専上層部が頼れる特級術師は彼しかいないという事もあり、帰国するように命じられたという事だった。
「…どんな先輩なの?」
月の見えない暗闇の中、伏黒と芙蓉は瓦礫の道を駆け抜けていた。廃墟となった建物は呪霊の隠れ家になっており、伏黒の式神・玉犬が2人に先立ち駆けていた。
「…少なくとも、俺の中では手放しに尊敬出来る先輩だ。めちゃくちゃ良い人」
玉犬は乙骨の気配を辿りながら、時折2人の前に姿を見せる呪霊を祓い、駆ける。高専を出てどれくらい経ったか、それ程高くないビルの屋上に揺れる灯りを見た。玉犬は足を止めて伏黒を振り返る。
「よくやった」
「渾、ありがとう」
伏黒に褒められ、芙蓉に撫でられた玉犬・渾は嬉しそうに目を細めると伏黒の影に溶けていった。
「行くぞ」
芙蓉はひとつ深呼吸をして伏黒に続いた。
猪野、狗巻、そして伊地知を始めとした補助監督たち。ケガの度合いは様々で、切創や打撲といった軽傷の者、狗巻のような重傷者もいる。家入が術式で処置をしたのもあって、殆どの者の回復が早いだろう事が見込まれている。落ち着いてきた状況で芙蓉はケガ人への食事の配膳や介助、日に数回の見回り、何か入り用な物を準備したりと、細かなサポートをこなしていた。
「高峰さん、いつもありがとうございます。そろそろ自分でも動けると思うので、私の事はもう大丈夫です。
…それより高峰さん、しっかり休んでいますか?」
この日、芙蓉が伊地知に食事を届けると、そう声をかけられた。先の件から数日が経ち、伊地知はベッドの上で仕事を始めるまでに回復した。
「…辛い事が重なってしまって、…気持ちの遣り場がないのは十分にわかります。ですが、高峰さんが倒れてしまっては大変ですし、伏黒くんや禪院さんは勿論、家入さんだって心配しますよ。…私も、ですけどね」
はは、と空気を和らげようと伊地知が笑ってみせるも、芙蓉は何も言えなかった。
「…何も出来なかった、などと自分を責めない事です」
芙蓉は思わず顔を上げた。伊地知の穏やかな目が芙蓉をしっかり見つめていた。
「…現場に立って呪霊や呪詛師と正面から戦う事ばかりが全てではありません。…今回の件に関しては、…残念な事に想定外の事が数多く重なり、大変な事態となってしまいましたが…、少なくとも、自分の仕事には胸を張っていきましょう。…私達はまだ生きています。生きてるという事は、まだ何かしらの役割が与えられていると思っても良いのではないでしょうか。…補助監督として術師を現場に送り出して来た私の考え、ですけどね」
穏やかな声音ながら、力強い伊地知の言葉に芙蓉は頷くしか出来なかった。口を開けば抱えている思いが嗚咽となって溢れ出しそうで、必死でそれを堪えていた。
と、ドアの叩く音が聞こえ、伊地知が返事をすると伏黒が顔を見せた。
「失礼します。…芙蓉、ここにいたのか」
「…恵」
「私は大丈夫ですよ。…気にせず行ってください」
ありがとうございます、と伏黒は礼を述べると芙蓉の手を取り部屋を出た。部屋を出ても、伏黒は芙蓉の手を離す様子がなく歩き続ける。
「恵…?何処、行くの…?」
「…虎杖の死刑執行が決まった」
「!」
芙蓉は思わず足を止めた。伏黒の足も止まる。
「…今後の動きに関して、アイツの力が必要なんだ」
それきり伏黒は口を噤んだ。九十九、伏黒、真希の話し合いに芙蓉が参加する事は殆ど無かったものの、現状の話は伏黒から聞かされていた。死滅回游、と呼ばれる術師の殺し合いが始まり、それに津美紀が巻き込まれているらしい、という事も。まだハッキリしたわけではないが、津美紀が入院している病院から、彼女が目を覚ましたという連絡が来ている。今のこのタイミングを考える、津美紀が巻き込まれているというのはほぼ間違いはないのだろう。芙蓉は伏黒を見上げた。
「…恵の話はわかるけど…、私に、出来る事なんて、」
芙蓉の目が不安気に揺れる。伏黒はまだ抜糸の済んでいない、芙蓉の額の絆創膏を一瞥すると深呼吸をした。
「芙蓉を残して行くのが心配なんだよ」
「え…?」
戸惑う芙蓉の手を引き、伏黒は再び歩き出した。
「虎杖の力も必要だが…、俺には…、芙蓉がいなきゃダメなんだ。…芙蓉の事は絶対に失いたくない。何があっても、俺が守るから、」
伏黒の言葉に芙蓉は何も言えなかった。今回の件ではあまりに多くの人が傷つき倒れた。これから先、津美紀の事も含め、今後何がどうなるかも全く予測がつかない。そんな中、伏黒が自身の手の届くところに芙蓉に居て欲しいと考えるのはごく自然な事だろう。
「…頼む。一緒に来てくれ」
伏黒は足を止めて振り返ると、真っ直ぐに芙蓉を見つめて言った。強い決意が感じられる伏黒から目が離せなかった。芙蓉は彼の目を見つめ返し、しっかりと頷いた。
「…執行人は2年の乙骨先輩。もう向かってる」
乙骨、という名は数回耳にした事があるが、芙蓉自身面識は無い。真希たち2年の同期で、2年になってすぐに海外へ派遣されていたという。それが今回の件を受け、五条が不在となった今、高専上層部が頼れる特級術師は彼しかいないという事もあり、帰国するように命じられたという事だった。
「…どんな先輩なの?」
月の見えない暗闇の中、伏黒と芙蓉は瓦礫の道を駆け抜けていた。廃墟となった建物は呪霊の隠れ家になっており、伏黒の式神・玉犬が2人に先立ち駆けていた。
「…少なくとも、俺の中では手放しに尊敬出来る先輩だ。めちゃくちゃ良い人」
玉犬は乙骨の気配を辿りながら、時折2人の前に姿を見せる呪霊を祓い、駆ける。高専を出てどれくらい経ったか、それ程高くないビルの屋上に揺れる灯りを見た。玉犬は足を止めて伏黒を振り返る。
「よくやった」
「渾、ありがとう」
伏黒に褒められ、芙蓉に撫でられた玉犬・渾は嬉しそうに目を細めると伏黒の影に溶けていった。
「行くぞ」
芙蓉はひとつ深呼吸をして伏黒に続いた。