夏の終わり
恵の幼馴染のお名前は?
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狗巻を連れ、家入の待機していた場所へ行って以降の記憶が酷く曖昧で、気が付いたら高専施設内の何処かの部屋にいた、というのが芙蓉の感覚だった。窓のない部屋のベッドから身体を起こすと、いつもより酷いクマを目の下に拵えた家入が振り返った。
「あぁ、起きたか」
家入は芙蓉の側まで来ると、気分はどうだと声をかける。芙蓉は記憶を辿るー
「…狗巻先輩、」
「狗巻は無事だよ。…とりあえずはな」
「そうですか、良かった…」
芙蓉は安堵すると、自身も額をケガしていたなと思い至り、左の顳顬に手を伸ばす。包帯の感覚に家入を見た。
「…高峰には申し訳ないが、現場はケガ人が殺到して本当に酷い状態だった。トリアージ…、治療の優先順位をつけて治療に当たった。お前は他の奴らに比べて比較的軽傷だった事、私の呪力にも限界がある事…、その傷は私の術式を使わずに外科処置をさせてもらった。そのせいで傷が残るだろう。…すまない」
「いえ、全然、大丈夫です…、…すみません」
徐々に蘇ってくる記憶。狗巻の負傷、酷い血の臭い。家入のいる渋谷料金所、伊地知。猪野。意識のない伏黒を肩に担いだ学長。そして、
「高峰、!」
突然息苦しさを覚え、芙蓉は思わず喉元を押さえた。上手く空気が吸えない感覚に何が起きたのか、自分はどうなってしまうだろうと恐怖が増幅していく。
「慌てるな、今お前は過呼吸を起こしているだけだ。落ち着いて大きく息を吸え、大丈夫だ、すぐに落ち着く」
背中を摩っている家入の言葉に何度も頷き、震える身体を落ち着かせようと、芙蓉は呼吸に意識を向ける。
ややあって、漸く芙蓉の呼吸が落ち着いてきたところで家入は少し待ってろ、と言い置き、壁際のキャビネットから薬を、すぐ側の冷蔵庫からミネラルウォーターを手に戻ってきた。
「抗不安薬だ。少し飲み続けて様子を見よう」
「…」
「薬に頼るのは悪い事じゃない。お前自身を守る為だ」
そこまで言われて芙蓉は薬を口にした。
「今のお前は酷いストレスに曝された状態だ。今の過呼吸、記憶障害、強い不安感もストレスが原因だ。…昨日の今日の出来事、忘れたり思い出さないようにする方が無理な話。身体もダメージは受けてるんだ、薬で情緒を安定させながら身体の方も少しずつ回復させていくようにしていこう。とにかく休む事を考えるようにな」
芙蓉はじっと、家入の言葉を聞いていた。
「…硝子さん、」
どうした、と芙蓉を気遣わしげに返事をする。
「…あの…、お腹、見てもらえませんか」
「腹?腹がどうかしたのか?」
芙蓉は渋谷での出来事を掻い摘んで伝えたー突然針で突かれる様に痛んだり、火傷をしたように痛み、動けなくなった事があった。家入は芙蓉に横になる様言うと、服の裾を捲り上げた。
「…痛んだのはここか?」
指先が這う感覚に頷けば、家入は難しい顔をした。
「…まだ詳しくは調査中の話だが、渋谷で虎杖の中の宿儺が顕現したそうだ」
「…!」
「あくまで可能性の話だが…、その影響じゃないか?」
見てみろと促され、芙蓉は身体を起こして自身の腹部を見て息を飲んだ。
「嘘…、…こんな…、」
高専に入って初めて祓除の任務で赴いた少年院。そこで顕現した宿儺に襲われた際につけられた傷。五条の六眼によればこの傷は残穢のようなものだという事だったが、今回の件で傷に残っていた宿儺の呪力が顕現した宿儺本体に反応したように、赤い線だった傷は芙蓉の腹部を覆うように拡がっていた。
「体調はどうだ?…呪われてる感じ…は無さそうだが、上手く術式が使えないとか、呪力が練れないとか」
「そういうのは、無い、と思います…」
腹部に広がったソレは火傷の痕の様に、くっきりと芙蓉の白い肌に、木の根の様に食い付いていた。芙蓉は以前、五条が言っていた事を思い出していたー傷が大きくなる事は想定していなかったが。
「…宿儺の存在自体、元は千年前の術師だからな、わからない事の方が多いだろう。それも残穢のように見えるが、それが本当のところどんなものなのかは宿儺にしかわからないだろう」
とりあえず身体に影響がないのなら、気にし過ぎないのが最善だと思う、と家入は1本煙草を取り出した。
「硝子さん、…何か、私に出来る事はありますか?」
「何言ってる。お前が今出来る事は休む事だ」
家入の煙草の煙に、芙蓉は数回咳き込んだ。何か言いたげな芙蓉に構う事なく、家入はデスクのテーブルに置いてある山盛りの灰皿へ煙草の灰を落とす。音もなく崩れた灰は、パラパラと吸い殻の上に落ちていく。
「硝子さん、」
「この部屋の横並び」
突然の家入の言葉に芙蓉は口を噤む。家入は煙をひとつ吐き出した。
「…それぞれ今回のケガ人を寝かせてる。そろそろ目を覚ます奴もいるだろう。…これから定期的に見回りをしていくが、どうしても何かしたいと言うなら、それぞれ連中の様子を見て、何か異常があれば知らせてくれ」
「…わかりました」
青白い顔で頷く芙蓉。医師として、彼女を休ませたい家入だが、悲惨な現実から自身のメンタルを守る為に一度意識を手放した芙蓉の心情を思えば、何かしていた方が救われるという気持ちもわからなくもない。
「ただし、絶対に無理はするなよ。お前自身もケガ人なんだ、それを忘れるなよ」
「…はい」
静かに部屋を出て行く芙蓉の背を見送りながら、家入は紫煙を吸い込んで大きく息を吐いた。
「…ったく…何がどうなってるんだか、」
最強で問題児だった同期2人の顔を思い浮かべるー家入の呟きは虚空へ溶けていった。
「あぁ、起きたか」
家入は芙蓉の側まで来ると、気分はどうだと声をかける。芙蓉は記憶を辿るー
「…狗巻先輩、」
「狗巻は無事だよ。…とりあえずはな」
「そうですか、良かった…」
芙蓉は安堵すると、自身も額をケガしていたなと思い至り、左の顳顬に手を伸ばす。包帯の感覚に家入を見た。
「…高峰には申し訳ないが、現場はケガ人が殺到して本当に酷い状態だった。トリアージ…、治療の優先順位をつけて治療に当たった。お前は他の奴らに比べて比較的軽傷だった事、私の呪力にも限界がある事…、その傷は私の術式を使わずに外科処置をさせてもらった。そのせいで傷が残るだろう。…すまない」
「いえ、全然、大丈夫です…、…すみません」
徐々に蘇ってくる記憶。狗巻の負傷、酷い血の臭い。家入のいる渋谷料金所、伊地知。猪野。意識のない伏黒を肩に担いだ学長。そして、
「高峰、!」
突然息苦しさを覚え、芙蓉は思わず喉元を押さえた。上手く空気が吸えない感覚に何が起きたのか、自分はどうなってしまうだろうと恐怖が増幅していく。
「慌てるな、今お前は過呼吸を起こしているだけだ。落ち着いて大きく息を吸え、大丈夫だ、すぐに落ち着く」
背中を摩っている家入の言葉に何度も頷き、震える身体を落ち着かせようと、芙蓉は呼吸に意識を向ける。
ややあって、漸く芙蓉の呼吸が落ち着いてきたところで家入は少し待ってろ、と言い置き、壁際のキャビネットから薬を、すぐ側の冷蔵庫からミネラルウォーターを手に戻ってきた。
「抗不安薬だ。少し飲み続けて様子を見よう」
「…」
「薬に頼るのは悪い事じゃない。お前自身を守る為だ」
そこまで言われて芙蓉は薬を口にした。
「今のお前は酷いストレスに曝された状態だ。今の過呼吸、記憶障害、強い不安感もストレスが原因だ。…昨日の今日の出来事、忘れたり思い出さないようにする方が無理な話。身体もダメージは受けてるんだ、薬で情緒を安定させながら身体の方も少しずつ回復させていくようにしていこう。とにかく休む事を考えるようにな」
芙蓉はじっと、家入の言葉を聞いていた。
「…硝子さん、」
どうした、と芙蓉を気遣わしげに返事をする。
「…あの…、お腹、見てもらえませんか」
「腹?腹がどうかしたのか?」
芙蓉は渋谷での出来事を掻い摘んで伝えたー突然針で突かれる様に痛んだり、火傷をしたように痛み、動けなくなった事があった。家入は芙蓉に横になる様言うと、服の裾を捲り上げた。
「…痛んだのはここか?」
指先が這う感覚に頷けば、家入は難しい顔をした。
「…まだ詳しくは調査中の話だが、渋谷で虎杖の中の宿儺が顕現したそうだ」
「…!」
「あくまで可能性の話だが…、その影響じゃないか?」
見てみろと促され、芙蓉は身体を起こして自身の腹部を見て息を飲んだ。
「嘘…、…こんな…、」
高専に入って初めて祓除の任務で赴いた少年院。そこで顕現した宿儺に襲われた際につけられた傷。五条の六眼によればこの傷は残穢のようなものだという事だったが、今回の件で傷に残っていた宿儺の呪力が顕現した宿儺本体に反応したように、赤い線だった傷は芙蓉の腹部を覆うように拡がっていた。
「体調はどうだ?…呪われてる感じ…は無さそうだが、上手く術式が使えないとか、呪力が練れないとか」
「そういうのは、無い、と思います…」
腹部に広がったソレは火傷の痕の様に、くっきりと芙蓉の白い肌に、木の根の様に食い付いていた。芙蓉は以前、五条が言っていた事を思い出していたー傷が大きくなる事は想定していなかったが。
「…宿儺の存在自体、元は千年前の術師だからな、わからない事の方が多いだろう。それも残穢のように見えるが、それが本当のところどんなものなのかは宿儺にしかわからないだろう」
とりあえず身体に影響がないのなら、気にし過ぎないのが最善だと思う、と家入は1本煙草を取り出した。
「硝子さん、…何か、私に出来る事はありますか?」
「何言ってる。お前が今出来る事は休む事だ」
家入の煙草の煙に、芙蓉は数回咳き込んだ。何か言いたげな芙蓉に構う事なく、家入はデスクのテーブルに置いてある山盛りの灰皿へ煙草の灰を落とす。音もなく崩れた灰は、パラパラと吸い殻の上に落ちていく。
「硝子さん、」
「この部屋の横並び」
突然の家入の言葉に芙蓉は口を噤む。家入は煙をひとつ吐き出した。
「…それぞれ今回のケガ人を寝かせてる。そろそろ目を覚ます奴もいるだろう。…これから定期的に見回りをしていくが、どうしても何かしたいと言うなら、それぞれ連中の様子を見て、何か異常があれば知らせてくれ」
「…わかりました」
青白い顔で頷く芙蓉。医師として、彼女を休ませたい家入だが、悲惨な現実から自身のメンタルを守る為に一度意識を手放した芙蓉の心情を思えば、何かしていた方が救われるという気持ちもわからなくもない。
「ただし、絶対に無理はするなよ。お前自身もケガ人なんだ、それを忘れるなよ」
「…はい」
静かに部屋を出て行く芙蓉の背を見送りながら、家入は紫煙を吸い込んで大きく息を吐いた。
「…ったく…何がどうなってるんだか、」
最強で問題児だった同期2人の顔を思い浮かべるー家入の呟きは虚空へ溶けていった。