夏の終わり
恵の幼馴染のお名前は?
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日下部、パンダと別れてから、芙蓉は腹部の痛みが少しずつ治まってきている事に内心戸惑いを覚えていた。痛みが無くなるのは間違いなく有り難い事ではあるのだが、その原因に関して全く心当たりがなく、不気味で気味が悪い、の一言に尽きる。が、どうにも出来ない以上、気にしたって仕方がない。芙蓉は周囲を警戒しながら腹部の具合に注意を払っていた。
狗巻に従って歩いていると、例の腹部がチリリと痛んだと思えば、身体がオーブンで焼かれたのではないかと錯覚する程の痛みと熱さが芙蓉を襲った。思わず口から悲鳴が漏れ、蹲り、狗巻を酷く心配させたが数分も経てばまた痛みが引いていく。
「こんぶ…」
「…そう、ですね…、硝子さんに、診てもらった方が、良い、ですね」
脂汗が滲む額を手の甲で拭うと、芙蓉はどうにか立ち上がった。本当に、一体何がどうなっているんだろうー芙蓉はまたジリジリと痛みだした腹部を押さえて唸った。今度は針で突かれるような痛みに芙蓉は歯を食いしばった。もうここにはいられない、今の自分は足手纏いだーそう思って少しずつ歩みを進めていく。今はとにかく家入が待機しているという首都高渋谷線の渋谷料金所へ向かうべきだろうと判断しての事だった。
狗巻に支えられながら歩いていると、ある地点を越えた途端に全く痛みが感じられなくなった。
「…?」
少し進むと再び芙蓉は腹部に軽い痛みを感じ、背にぞくりと怖気が走る。そしてこの時、ハッキリと術式の起こりを知覚した。少しずつ呪力が膨らんでいく気配ーここにいては危険だと、芙蓉の本能が警鐘を鳴らした。
「狗巻先輩、逃げましょう!」
「っ、すじこ?」
「上手く言えないけど…、逃げなきゃ」
芙蓉は狗巻の手を引いて走り出す。早く早くと急かす芙蓉に従い、並んで走り始める。
「こんぶ、明太子」
「説明出来なくて、すみません、とにかく、早くここから、離れないと…!」
何処に向かって逃げて良いのかもわからないが、ただとにかく芙蓉の本能が導く方向へと走る。そんな2人を追いかけてくるように、頭上から重くのしかかってくるような禍々しい呪力が広がってくる。そんな感覚に狗巻も本格的に危険を感じ、走る速度を上げていく。
「高菜!」
「っ、これ、以上はっ、」
この速さが限界だと芙蓉は悲鳴を上げる。狗巻は仕方なく口元のファスナーを開けた。
「逃 げ ろ」
狗巻が呪言を発するのと、芙蓉が狗巻の右手を掴んだのはほぼ同時だった。
「!」
しまった、と狗巻が思っても、もうどうにも出来なかった。芙蓉の手が狗巻の右手を離す気配はなく、芙蓉が狗巻の手を引いて走る格好となった。僅かに呪力が薄くなってきた気配に芙蓉は狗巻を振り返る。
「先輩、もうすー」
芙蓉は突然狗巻に突き飛ばされた。走っていた勢いを殺す事が出来ずに転がるように倒れ込むも、咄嗟にその勢いを活かして一回転して起き上がった。自身の手を掴んだままでは逃げ切れない、せめて芙蓉だけでもと判断した狗巻の、彼女の無事を思っての行動だった。今正に2人の居るところが例の禍々しい呪力の狭間、芙蓉は狗巻に飛び掛かるように彼の下へ駆け戻る。
「おかかぁ!」
駄目だ、来るな、と叫ぶ狗巻を無視して芙蓉は彼の右手を力一杯引き寄せた。と、芙蓉は自身の視界が赤く染まった事に、何が起きたかと動きを止めた。
ズキリと額に痛みが走り、芙蓉は恐る恐る手を添えて状況を確認する。左側の顳顬辺りから出血していた。
頭は少しの傷でも出血しやすいー痛みはあるが動けるー大丈夫だと判断し、狗巻を振り返る。
すぐ側で倒れ込んでいる狗巻を見て、芙蓉は絶句した。同時に自分の反転術式では治せない、と悟った。芙蓉が引き寄せた右腕より、左腕の方が僅かに長く見える。芙蓉は震える手で痛みに耐えている狗巻の左腕を検めた。
狗巻の左腕は鋭利な刃物で激しく切り付けられたようにズタズタになっていた。一番深い傷は上腕部で、骨まで切断されている様に見え、正に言葉通り、皮一枚で繋がっているような状態だった。
「狗巻、先、輩」
「…逃げ、ろ」
出血が酷く、身体の半分近くが血で汚れている。そんな状況でも尚、他者を気遣う狗巻。芙蓉は滲みそうになる涙を拭い、自身の額から流れる血も拭うと、自身の制服の上着を脱いだ。
「先輩、絶対助けますから」
芙蓉は折り畳んだハンカチを狗巻に噛ませる。
「一度身体を起こして、左腕を身体に固定します。…お願い、頑張って」
息を切らしながら頷く狗巻の様子見ると、芙蓉は覚悟を決めて狗巻の身体を支え起こす。くぐもった声が狗巻の口から漏れる。だらりと下がった狗巻の左腕、彼の意思で動かす事は不可能だろう。芙蓉は自身の身体に狗巻を寄り掛からせると、制服の襟側を彼の左肘に当てて袖を狗巻の身体に回し、右の脇腹辺りで袖を結んで固定する。とりあえずこれで左腕へのダメージは軽減出来るはずだが、問題はこの出血量ー1リットル以上の出血があると生命に危険が及ぶと言われている。芙蓉は狗巻の口からハンカチを抜き取り、彼の右腕を自身の肩に回し担いでゆっくりと立ち上がった。
あれこれ迷っている時間はなかった。芙蓉は足元に空へかかる道を作って歩き出す。狗巻はぐったりとして動かないー意識障害が出ている、とても危険な状況だと判断した芙蓉は、言葉通り脇目も振らず、無我夢中で家入の下へと駆けた。
狗巻に従って歩いていると、例の腹部がチリリと痛んだと思えば、身体がオーブンで焼かれたのではないかと錯覚する程の痛みと熱さが芙蓉を襲った。思わず口から悲鳴が漏れ、蹲り、狗巻を酷く心配させたが数分も経てばまた痛みが引いていく。
「こんぶ…」
「…そう、ですね…、硝子さんに、診てもらった方が、良い、ですね」
脂汗が滲む額を手の甲で拭うと、芙蓉はどうにか立ち上がった。本当に、一体何がどうなっているんだろうー芙蓉はまたジリジリと痛みだした腹部を押さえて唸った。今度は針で突かれるような痛みに芙蓉は歯を食いしばった。もうここにはいられない、今の自分は足手纏いだーそう思って少しずつ歩みを進めていく。今はとにかく家入が待機しているという首都高渋谷線の渋谷料金所へ向かうべきだろうと判断しての事だった。
狗巻に支えられながら歩いていると、ある地点を越えた途端に全く痛みが感じられなくなった。
「…?」
少し進むと再び芙蓉は腹部に軽い痛みを感じ、背にぞくりと怖気が走る。そしてこの時、ハッキリと術式の起こりを知覚した。少しずつ呪力が膨らんでいく気配ーここにいては危険だと、芙蓉の本能が警鐘を鳴らした。
「狗巻先輩、逃げましょう!」
「っ、すじこ?」
「上手く言えないけど…、逃げなきゃ」
芙蓉は狗巻の手を引いて走り出す。早く早くと急かす芙蓉に従い、並んで走り始める。
「こんぶ、明太子」
「説明出来なくて、すみません、とにかく、早くここから、離れないと…!」
何処に向かって逃げて良いのかもわからないが、ただとにかく芙蓉の本能が導く方向へと走る。そんな2人を追いかけてくるように、頭上から重くのしかかってくるような禍々しい呪力が広がってくる。そんな感覚に狗巻も本格的に危険を感じ、走る速度を上げていく。
「高菜!」
「っ、これ、以上はっ、」
この速さが限界だと芙蓉は悲鳴を上げる。狗巻は仕方なく口元のファスナーを開けた。
「逃 げ ろ」
狗巻が呪言を発するのと、芙蓉が狗巻の右手を掴んだのはほぼ同時だった。
「!」
しまった、と狗巻が思っても、もうどうにも出来なかった。芙蓉の手が狗巻の右手を離す気配はなく、芙蓉が狗巻の手を引いて走る格好となった。僅かに呪力が薄くなってきた気配に芙蓉は狗巻を振り返る。
「先輩、もうすー」
芙蓉は突然狗巻に突き飛ばされた。走っていた勢いを殺す事が出来ずに転がるように倒れ込むも、咄嗟にその勢いを活かして一回転して起き上がった。自身の手を掴んだままでは逃げ切れない、せめて芙蓉だけでもと判断した狗巻の、彼女の無事を思っての行動だった。今正に2人の居るところが例の禍々しい呪力の狭間、芙蓉は狗巻に飛び掛かるように彼の下へ駆け戻る。
「おかかぁ!」
駄目だ、来るな、と叫ぶ狗巻を無視して芙蓉は彼の右手を力一杯引き寄せた。と、芙蓉は自身の視界が赤く染まった事に、何が起きたかと動きを止めた。
ズキリと額に痛みが走り、芙蓉は恐る恐る手を添えて状況を確認する。左側の顳顬辺りから出血していた。
頭は少しの傷でも出血しやすいー痛みはあるが動けるー大丈夫だと判断し、狗巻を振り返る。
すぐ側で倒れ込んでいる狗巻を見て、芙蓉は絶句した。同時に自分の反転術式では治せない、と悟った。芙蓉が引き寄せた右腕より、左腕の方が僅かに長く見える。芙蓉は震える手で痛みに耐えている狗巻の左腕を検めた。
狗巻の左腕は鋭利な刃物で激しく切り付けられたようにズタズタになっていた。一番深い傷は上腕部で、骨まで切断されている様に見え、正に言葉通り、皮一枚で繋がっているような状態だった。
「狗巻、先、輩」
「…逃げ、ろ」
出血が酷く、身体の半分近くが血で汚れている。そんな状況でも尚、他者を気遣う狗巻。芙蓉は滲みそうになる涙を拭い、自身の額から流れる血も拭うと、自身の制服の上着を脱いだ。
「先輩、絶対助けますから」
芙蓉は折り畳んだハンカチを狗巻に噛ませる。
「一度身体を起こして、左腕を身体に固定します。…お願い、頑張って」
息を切らしながら頷く狗巻の様子見ると、芙蓉は覚悟を決めて狗巻の身体を支え起こす。くぐもった声が狗巻の口から漏れる。だらりと下がった狗巻の左腕、彼の意思で動かす事は不可能だろう。芙蓉は自身の身体に狗巻を寄り掛からせると、制服の襟側を彼の左肘に当てて袖を狗巻の身体に回し、右の脇腹辺りで袖を結んで固定する。とりあえずこれで左腕へのダメージは軽減出来るはずだが、問題はこの出血量ー1リットル以上の出血があると生命に危険が及ぶと言われている。芙蓉は狗巻の口からハンカチを抜き取り、彼の右腕を自身の肩に回し担いでゆっくりと立ち上がった。
あれこれ迷っている時間はなかった。芙蓉は足元に空へかかる道を作って歩き出す。狗巻はぐったりとして動かないー意識障害が出ている、とても危険な状況だと判断した芙蓉は、言葉通り脇目も振らず、無我夢中で家入の下へと駆けた。