もしも、明日死ぬなら
恵の幼馴染のお名前は?
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「華。…華」
「……」
「…返事くらいしてもいいだろうに、」
「……」
「…元はと言えば、君が伏黒恵に対して先走った事を言うからだろう。突然あんな事を言われれば誰だってー」
「あぁもぅうっさい!」
怒りと苛立ちを露わに、来栖は手近なクッションを壁に投げつけた。ベッドの上、彼女は膝を抱えている。
「伏黒恵は“後で話そう”と言っていたのに、自分から逃げ出してその機会を潰すとは、」
「だからうっさい!」
話し相手は自分の中にいる。自分では追い出す事も、黙らせる方法もなく、彼か彼女かわからないが、天使自身の意思で口を閉じてくれない限りどうしようもない。
「…あんなに早く話し合うなんて思ってもみなかったし…、…何より彼女がいるなんて…!」
悲痛な声を上げる来栖の目には涙が滲んでいた。
「それは仕方ないだろう。華の力でどうにか出来る事でもない。…だからこそ、話をするべきだと思うが」
「でも…」
「考えてもみなさい。伏黒恵は恋人がいるにも関わらず、華にあのような言葉をかける程に誠実な人物だ。彼だって恋人との事もある、そんな彼に対してこのまま逃げ回っているわけにはいかないだろう」
天使の言葉は理解出来るが、来栖の気持ちとしてはまだ容認出来そうもない状況だった。
「はァ⁉︎逃げられたぁ⁈」
「野薔薇、声大きい…」
芙蓉と釘崎は食堂で少し遅めの昼食をとっていた。相変わらず家入の手伝いに忙殺されている芙蓉を気遣い、釘崎は時間を見つけては彼女の話し相手になっていた。
「どーいう事よソレ?」
剣呑な目つきの釘崎ー隻眼となって、より凄みを増した気がするーに怯えながら、芙蓉は先日、伏黒が部屋に来た時の事、そして現状を整理するように話し始める。
事の発端は伏黒が右腕を失った来栖に対して“責任は取る”と伝えた事。その伏黒の発言に対して来栖は喜んでいたらしく、伏黒からそのやり取りについて聞かされた芙蓉は、その時の伏黒の言葉選びに関して思うところを伏黒本人に伝える。その後、そこで話を立ち聞きしていたらしい来栖を見つけ、彼女と話をするよう伏黒に言い残して芙蓉がその場を離れたのが数日前。
そして今芙蓉と釘崎の間で問題となっているのは、先日伏黒から聞かされたと言う、芙蓉が立ち去った後の事。芙蓉がその場を離れた後、伏黒が来栖に声をかけようとしたところ、彼女は脱兎の如く逃げ出してしまった、という事だ。それからというもの、伏黒は来栖を見かけては声をかけようとしているのだが、その度にまた彼女は逃げ回っている、という事で、伏黒も来栖の行動に少々頭を痛めているらしかった。
「…餓鬼かよ」
吐き捨てるように釘崎が言い、彼女はお茶を飲んだ。芙蓉もひと口お茶を飲んで、皿に盛られたコールスローサラダをつつく。
「…誰でも来れる場所で話をしちゃった私が悪いんだけどね。…もっと、周りに気を遣うべきだったのに」
「芙蓉は悪くないわよ。悪いのは伏黒、あと話をしようとしない来栖さんよ」
「…。…もう恵と来栖さんの問題だから、私が口出し出来る事はもう何もないからね。…恵の気持ちを尊重して、それで良いかな、って…」
「もぅ〜!こんな良い子を泣かせる事になったら、私がトンカチで伏黒をぶん殴ってやるわ!」
「さすがにそれはやめてあげてね…」
相変わらず物騒な発言をする釘崎と、気持ちを決めた芙蓉の2人は食事を続けながら違う話をし始めていた。
「…彼女はもう腹を括っているようだが…、君はこのまま、中途半端なままでいいのかい?」
食堂へ行けと騒ぎ立てる天使に辟易した来栖は、気乗りしないまま食堂へ来ていた。ドアのすぐ横、芙蓉と釘崎からは死角となる場所で、2人のやり取りを黙って聞いていた。来栖はフラフラと歩き出す。
天使はもう、何も言わなかった。あれだけなんだかんだと言っていたくせにー来栖は唇を噛んだ。伏黒の彼女である芙蓉は伏黒の意思に従う意向で、伏黒は自身に対して責任を取ると言っていた。正直なところ、伏黒からの言葉を聞いた時は舞い上がる程に嬉しかった。しかし、芙蓉の言葉を聞いてしまった以上、そしてそれを理解してしまった以上、複雑な思いに苛まれ始めていた。
“責任”という言葉は義務的なもので、そこには気持ちがない、という事。そして自身の側に伏黒を繋ぎ止めたとしても、自分は伏黒にとっての芙蓉のような存在にはなれない、という事が、来栖をじわじわと蝕んでいる。
「…天使、」
「…どうした?」
来栖は宛てがわれている部屋へ戻って来た。
「…初恋って、どう思う?」
「…。難しい事を言うな。…恋愛に限った事ではないが、何事も相手がいての問題は思う通りにはならないだろう。…今回の華の身に起きた出来事としては、悪い事ばかりでは無かったのではないかな?」
勿論、腕を失ってしまったのは辛い事ではあるけれど、と付け加え、天使はそれきり黙ってしまった。
数時間程経って、鬱々とした思いを抱えたままの来栖は少し気分転換にと部屋を出た。外の空気を吸い、外の景色を眺め、自身の気持ちをフラットにさせようーそう思ってゆっくりと歩き出す。
建物の外に出ると、すっかり葉を落とした寒々しい木々が並ぶ小道を歩く。枝先を見れば、少しずつ芽吹いていて、長い冬がもうすぐ終わる気配を感じられた。これから暖かな春の訪れを喜ぶ様に自然と頬が緩む。
「…あっ」
誰もいないと思っていたところで誰かの声が響き、来栖は驚いてそちらを振り返る。
白い肌に、真っ黒な眼帯が目に入るー確か、釘崎さん。
「…アンタ、来栖さんね⁉︎ちょっと来てくれる?」
言うが早いか、来栖が何か言葉を発する前に釘崎は彼女の手を捕まえ歩き出す。
「えっ、ちょっと…」
「早いとこ白黒つけましょ」
戸惑う来栖に構わず、歩きながら釘崎は何処かへと電話をかけた。
「……」
「…返事くらいしてもいいだろうに、」
「……」
「…元はと言えば、君が伏黒恵に対して先走った事を言うからだろう。突然あんな事を言われれば誰だってー」
「あぁもぅうっさい!」
怒りと苛立ちを露わに、来栖は手近なクッションを壁に投げつけた。ベッドの上、彼女は膝を抱えている。
「伏黒恵は“後で話そう”と言っていたのに、自分から逃げ出してその機会を潰すとは、」
「だからうっさい!」
話し相手は自分の中にいる。自分では追い出す事も、黙らせる方法もなく、彼か彼女かわからないが、天使自身の意思で口を閉じてくれない限りどうしようもない。
「…あんなに早く話し合うなんて思ってもみなかったし…、…何より彼女がいるなんて…!」
悲痛な声を上げる来栖の目には涙が滲んでいた。
「それは仕方ないだろう。華の力でどうにか出来る事でもない。…だからこそ、話をするべきだと思うが」
「でも…」
「考えてもみなさい。伏黒恵は恋人がいるにも関わらず、華にあのような言葉をかける程に誠実な人物だ。彼だって恋人との事もある、そんな彼に対してこのまま逃げ回っているわけにはいかないだろう」
天使の言葉は理解出来るが、来栖の気持ちとしてはまだ容認出来そうもない状況だった。
「はァ⁉︎逃げられたぁ⁈」
「野薔薇、声大きい…」
芙蓉と釘崎は食堂で少し遅めの昼食をとっていた。相変わらず家入の手伝いに忙殺されている芙蓉を気遣い、釘崎は時間を見つけては彼女の話し相手になっていた。
「どーいう事よソレ?」
剣呑な目つきの釘崎ー隻眼となって、より凄みを増した気がするーに怯えながら、芙蓉は先日、伏黒が部屋に来た時の事、そして現状を整理するように話し始める。
事の発端は伏黒が右腕を失った来栖に対して“責任は取る”と伝えた事。その伏黒の発言に対して来栖は喜んでいたらしく、伏黒からそのやり取りについて聞かされた芙蓉は、その時の伏黒の言葉選びに関して思うところを伏黒本人に伝える。その後、そこで話を立ち聞きしていたらしい来栖を見つけ、彼女と話をするよう伏黒に言い残して芙蓉がその場を離れたのが数日前。
そして今芙蓉と釘崎の間で問題となっているのは、先日伏黒から聞かされたと言う、芙蓉が立ち去った後の事。芙蓉がその場を離れた後、伏黒が来栖に声をかけようとしたところ、彼女は脱兎の如く逃げ出してしまった、という事だ。それからというもの、伏黒は来栖を見かけては声をかけようとしているのだが、その度にまた彼女は逃げ回っている、という事で、伏黒も来栖の行動に少々頭を痛めているらしかった。
「…餓鬼かよ」
吐き捨てるように釘崎が言い、彼女はお茶を飲んだ。芙蓉もひと口お茶を飲んで、皿に盛られたコールスローサラダをつつく。
「…誰でも来れる場所で話をしちゃった私が悪いんだけどね。…もっと、周りに気を遣うべきだったのに」
「芙蓉は悪くないわよ。悪いのは伏黒、あと話をしようとしない来栖さんよ」
「…。…もう恵と来栖さんの問題だから、私が口出し出来る事はもう何もないからね。…恵の気持ちを尊重して、それで良いかな、って…」
「もぅ〜!こんな良い子を泣かせる事になったら、私がトンカチで伏黒をぶん殴ってやるわ!」
「さすがにそれはやめてあげてね…」
相変わらず物騒な発言をする釘崎と、気持ちを決めた芙蓉の2人は食事を続けながら違う話をし始めていた。
「…彼女はもう腹を括っているようだが…、君はこのまま、中途半端なままでいいのかい?」
食堂へ行けと騒ぎ立てる天使に辟易した来栖は、気乗りしないまま食堂へ来ていた。ドアのすぐ横、芙蓉と釘崎からは死角となる場所で、2人のやり取りを黙って聞いていた。来栖はフラフラと歩き出す。
天使はもう、何も言わなかった。あれだけなんだかんだと言っていたくせにー来栖は唇を噛んだ。伏黒の彼女である芙蓉は伏黒の意思に従う意向で、伏黒は自身に対して責任を取ると言っていた。正直なところ、伏黒からの言葉を聞いた時は舞い上がる程に嬉しかった。しかし、芙蓉の言葉を聞いてしまった以上、そしてそれを理解してしまった以上、複雑な思いに苛まれ始めていた。
“責任”という言葉は義務的なもので、そこには気持ちがない、という事。そして自身の側に伏黒を繋ぎ止めたとしても、自分は伏黒にとっての芙蓉のような存在にはなれない、という事が、来栖をじわじわと蝕んでいる。
「…天使、」
「…どうした?」
来栖は宛てがわれている部屋へ戻って来た。
「…初恋って、どう思う?」
「…。難しい事を言うな。…恋愛に限った事ではないが、何事も相手がいての問題は思う通りにはならないだろう。…今回の華の身に起きた出来事としては、悪い事ばかりでは無かったのではないかな?」
勿論、腕を失ってしまったのは辛い事ではあるけれど、と付け加え、天使はそれきり黙ってしまった。
数時間程経って、鬱々とした思いを抱えたままの来栖は少し気分転換にと部屋を出た。外の空気を吸い、外の景色を眺め、自身の気持ちをフラットにさせようーそう思ってゆっくりと歩き出す。
建物の外に出ると、すっかり葉を落とした寒々しい木々が並ぶ小道を歩く。枝先を見れば、少しずつ芽吹いていて、長い冬がもうすぐ終わる気配を感じられた。これから暖かな春の訪れを喜ぶ様に自然と頬が緩む。
「…あっ」
誰もいないと思っていたところで誰かの声が響き、来栖は驚いてそちらを振り返る。
白い肌に、真っ黒な眼帯が目に入るー確か、釘崎さん。
「…アンタ、来栖さんね⁉︎ちょっと来てくれる?」
言うが早いか、来栖が何か言葉を発する前に釘崎は彼女の手を捕まえ歩き出す。
「えっ、ちょっと…」
「早いとこ白黒つけましょ」
戸惑う来栖に構わず、歩きながら釘崎は何処かへと電話をかけた。