もしも、明日死ぬなら
恵の幼馴染のお名前は?
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五条と津美紀の見送りを済ませてから、伏黒と芙蓉は任務に駆り出される事が多くなった。
伏黒は呪霊の祓除関係、芙蓉も伏黒と同様祓除の任務、その他家入の業務の補助に入る事が増えていた。
それでも2人は時間が合えば共に過ごし、死滅回游の間に起きた出来事を共有し合い、少しずつ、そして確実に気持ちの整理をつけつつ前を向き始めていた。
「芙蓉、ちょっといいか」
任務から高専に戻るなり、伏黒は芙蓉に声を掛けた。
「どうしたの?」
普段、任務から戻ればすぐに報告書の作成に取り掛かる伏黒が、珍しいと思いながら芙蓉は頷く。
2人は自販機前のベンチに落ち着いた。
「…来栖の事なんだが」
伏黒が宿儺に肉体を乗っ取られていた時の出来事。芙蓉はどういう状況で何がどうなったのかは詳しくは知らない。が、その時の出来事で、彼女が右腕を失ったのは事実。記憶を整理し、その事に申し訳なさを感じていた伏黒は、彼女に出来る限りの事をしたいと考えている、と以前芙蓉に伝えていた。
「話、したの?」
「あぁ。…とりあえず、責任は取る、って」
「…え…、…そう、言ったの…?」
頷く伏黒に芙蓉は小さく唸った。
「個人的に、その言い方はあんまり良くないかなって」
「…来栖は、その…、喜んでいるように見えたが」
伏黒の言葉に、芙蓉は何か飲み物買おうと立ち上がった。2人が座っているベンチのすぐ側、芙蓉は伏黒の分のコーヒーと自分の分のカフェオレを買い、手渡した。
「はい」
「…サンキュ」
互いに飲み物を口にする。側から見れば仲良くお茶を楽しんでいるようにも見える。
「…ダメ出しみたいになっちゃうかもしれないけど」
伏黒は黙って頷き、芙蓉へ先を促した。
「…私が来栖さんの立場だったら、って話ね」
何か飲もうと思った来栖は冷蔵庫を覗いてため息を吐いたー何も無い。冷蔵庫の飲み物は今朝、全て飲み切ってしまった事を思い出し、仕方なく買いに行こうと宛てがわれている部屋を出た。自販機で買おう、そう思って自販機コーナーへ足を向ける。何を飲もうか考えていると話し声が聞こえて来た。男女の声、男の方は聞き違えるはずもなく伏黒だと気付く。相手は誰だろうと、そっと物陰から様子を伺う。今いる場所からは良く聞こえないが、声が弾んでいる様子でない事が窺われ、あまり良くない話なのかもしれない。好奇心から来栖はもう少しだけ、と近くに移動した。
「…言葉の受け取り方は人それぞれだと思うけど、私だったら、“責任”なんて言葉は使って欲しくないって思うかな。…それだけ恵が真摯に向き合ってるって事はわかるけど、責任って義務みたいに感じて、私はちょっと複雑かなって。恵にそんな気持ちを抱えさせるなら、私は大丈夫だよ、気にしないでって伝えるかな…」
「……」
伏黒は黙って缶コーヒーを見つめていた。自身の思いを見つめ直すように。
「…けど」
芙蓉の言葉に、伏黒は耳をそばだてた。
「…そこが恵の良いところなんだよね。不器用だけど、すごく一生懸命。…相手が来栖さんじゃなくても、例えば野薔薇とか虎杖くん、他の誰にだって、同じ事言うよね、きっと」
そう言って芙蓉は空を仰ぐ。と、視界の端に何か動いた気配を感じた。芙蓉はカフェオレをひと息に飲み干して立ち上がった。
「恵。…私、先に戻って報告書の下書きしておくね」
それだけ言い残し、伏黒の返事も待たずに芙蓉は歩き出す。伏黒が彼女の後ろ姿を目で追うと、来栖が俯きがちに立っている事に気が付いた。
数日後。朝からの任務を終えた伏黒が食堂で遅い昼食をとっていると、釘崎が声をかけてきた。この日虎杖は天使と共に死滅回游の泳者を探しに出ており、芙蓉は家入の手伝いに取り掛かっていた。
「ちょっと伏黒、芙蓉と別れたってマジ?」
「…は?」
寝耳に水とはまさにこの事、伏黒は箸で掴んでいた焼き魚を取り落とした。
「…何の話だ」
「違うの?…こないだ、久しぶりに芙蓉と話したんだけど、元気ないからちょっと詳しく話聞いたのよ。その時もしかしたら、なんて言ってたから」
「……」
「あの人、来栖さんて言ったっけ?アンタに惚れてるらしいじゃない。それに加えて今回の騒ぎ、アンタ、彼女に対して責任取るとか言ったんだって?」
「…まぁ…」
釘崎は苛立ちを隠す事なく盛大にため息を吐いた。
「…今回の件に責任感じてんなら、新宿ぶっ壊した事にも責任取りやがれ」
「……」
「アンタが言ってんのはそーゆー事なのよ。…ずっと寝てた私が言えた事じゃないけどさ、アンタ芙蓉の気持ち考えたの?宿儺に身体取られて、生きてるか死んでるかもわかんないアンタを支える為にずっと待っててさぁ。そんで戻って来たと思えば他の女の話?…芙蓉はアンタが決めた事を尊重するって言ってたけど、芙蓉を泣かせるなんて事、私は絶対認めないからね」
一方的に捲し立てるように言うと、釘崎は食堂を出て行った。残された伏黒は箸を置いた。
ー芙蓉とゆっくり話をしたのはいつだったろうか。最近芙蓉は家入の手伝いに時間を割く事が多く、祓除に出る伏黒と、互いに過ごす時間にズレが生じ、すれ違いが続いている。すっかり食欲が失せてしまった伏黒は、寮母に謝罪を述べ半端な食事を片付けると食堂を出た。
部屋に戻ろうと思って歩き出すも、伏黒の足は自然と芙蓉の部屋へ向かっていた。部屋の前で大きく息を吸って、ドアをノックする。
「…あ、」
開いたドアから顔を覗かせ、芙蓉は僅かに驚いたように目を見開いて伏黒を見上げていた。
「少し、いいか」
芙蓉はドアを大きく開き、伏黒を招き入れる。
「ごめんね、ちょっと散らかってて」
部屋に足を踏み入れれば、学習用のデスクには書類が山積みになっており、その足元にはファイルが何冊も並んでいる。フローリングに置かれたテーブルにも何某かの書類が広げられていた。芙蓉はそれらを手早く片付け、伏黒に座るよう促した。
「…コーヒーでいい?」
「あ、…悪い、な」
湯を沸かす音、カップを準備する音だけが静かな部屋に響く。伏黒は所在無げに床に並ぶファイルを眺めた。
「…これ、何のファイルなんだ?」
伏黒が示したのはファイルの見出しー高専関係者の名前がラベリングしてある。
「今回の一連の件での負傷者、被害者、そのケガの度合いと経過、その後の状態に関してまとめる作業を硝子さんから頼まれてるの。…今後使わない可能性は高いけど、記録には残しておくからって」
その声に伏黒は納得したように頷いた。自分の名前や釘崎に乙骨、七海、日車、五条といった名が並んでいた。
「…辛くないか?」
伏黒はカップを2つ手に戻って来た芙蓉を振り返った。その顔は随分と疲れ、顔色もあまり優れないように見えた。それでも芙蓉は笑顔を見せた。
「…私はずっと、何も出来なかったから…、これくらいやらないと。…みんなは、もっと辛かったと思うから。…私は平気、大丈夫だよ」
「…そうか」
きっぱりと強い意志を口にした芙蓉に伏黒は何も言えず、芙蓉が淹れてくれたコーヒーを久しぶりに飲んだ。とても落ち着く気がし、とても美味く感じた。
伏黒は呪霊の祓除関係、芙蓉も伏黒と同様祓除の任務、その他家入の業務の補助に入る事が増えていた。
それでも2人は時間が合えば共に過ごし、死滅回游の間に起きた出来事を共有し合い、少しずつ、そして確実に気持ちの整理をつけつつ前を向き始めていた。
「芙蓉、ちょっといいか」
任務から高専に戻るなり、伏黒は芙蓉に声を掛けた。
「どうしたの?」
普段、任務から戻ればすぐに報告書の作成に取り掛かる伏黒が、珍しいと思いながら芙蓉は頷く。
2人は自販機前のベンチに落ち着いた。
「…来栖の事なんだが」
伏黒が宿儺に肉体を乗っ取られていた時の出来事。芙蓉はどういう状況で何がどうなったのかは詳しくは知らない。が、その時の出来事で、彼女が右腕を失ったのは事実。記憶を整理し、その事に申し訳なさを感じていた伏黒は、彼女に出来る限りの事をしたいと考えている、と以前芙蓉に伝えていた。
「話、したの?」
「あぁ。…とりあえず、責任は取る、って」
「…え…、…そう、言ったの…?」
頷く伏黒に芙蓉は小さく唸った。
「個人的に、その言い方はあんまり良くないかなって」
「…来栖は、その…、喜んでいるように見えたが」
伏黒の言葉に、芙蓉は何か飲み物買おうと立ち上がった。2人が座っているベンチのすぐ側、芙蓉は伏黒の分のコーヒーと自分の分のカフェオレを買い、手渡した。
「はい」
「…サンキュ」
互いに飲み物を口にする。側から見れば仲良くお茶を楽しんでいるようにも見える。
「…ダメ出しみたいになっちゃうかもしれないけど」
伏黒は黙って頷き、芙蓉へ先を促した。
「…私が来栖さんの立場だったら、って話ね」
何か飲もうと思った来栖は冷蔵庫を覗いてため息を吐いたー何も無い。冷蔵庫の飲み物は今朝、全て飲み切ってしまった事を思い出し、仕方なく買いに行こうと宛てがわれている部屋を出た。自販機で買おう、そう思って自販機コーナーへ足を向ける。何を飲もうか考えていると話し声が聞こえて来た。男女の声、男の方は聞き違えるはずもなく伏黒だと気付く。相手は誰だろうと、そっと物陰から様子を伺う。今いる場所からは良く聞こえないが、声が弾んでいる様子でない事が窺われ、あまり良くない話なのかもしれない。好奇心から来栖はもう少しだけ、と近くに移動した。
「…言葉の受け取り方は人それぞれだと思うけど、私だったら、“責任”なんて言葉は使って欲しくないって思うかな。…それだけ恵が真摯に向き合ってるって事はわかるけど、責任って義務みたいに感じて、私はちょっと複雑かなって。恵にそんな気持ちを抱えさせるなら、私は大丈夫だよ、気にしないでって伝えるかな…」
「……」
伏黒は黙って缶コーヒーを見つめていた。自身の思いを見つめ直すように。
「…けど」
芙蓉の言葉に、伏黒は耳をそばだてた。
「…そこが恵の良いところなんだよね。不器用だけど、すごく一生懸命。…相手が来栖さんじゃなくても、例えば野薔薇とか虎杖くん、他の誰にだって、同じ事言うよね、きっと」
そう言って芙蓉は空を仰ぐ。と、視界の端に何か動いた気配を感じた。芙蓉はカフェオレをひと息に飲み干して立ち上がった。
「恵。…私、先に戻って報告書の下書きしておくね」
それだけ言い残し、伏黒の返事も待たずに芙蓉は歩き出す。伏黒が彼女の後ろ姿を目で追うと、来栖が俯きがちに立っている事に気が付いた。
数日後。朝からの任務を終えた伏黒が食堂で遅い昼食をとっていると、釘崎が声をかけてきた。この日虎杖は天使と共に死滅回游の泳者を探しに出ており、芙蓉は家入の手伝いに取り掛かっていた。
「ちょっと伏黒、芙蓉と別れたってマジ?」
「…は?」
寝耳に水とはまさにこの事、伏黒は箸で掴んでいた焼き魚を取り落とした。
「…何の話だ」
「違うの?…こないだ、久しぶりに芙蓉と話したんだけど、元気ないからちょっと詳しく話聞いたのよ。その時もしかしたら、なんて言ってたから」
「……」
「あの人、来栖さんて言ったっけ?アンタに惚れてるらしいじゃない。それに加えて今回の騒ぎ、アンタ、彼女に対して責任取るとか言ったんだって?」
「…まぁ…」
釘崎は苛立ちを隠す事なく盛大にため息を吐いた。
「…今回の件に責任感じてんなら、新宿ぶっ壊した事にも責任取りやがれ」
「……」
「アンタが言ってんのはそーゆー事なのよ。…ずっと寝てた私が言えた事じゃないけどさ、アンタ芙蓉の気持ち考えたの?宿儺に身体取られて、生きてるか死んでるかもわかんないアンタを支える為にずっと待っててさぁ。そんで戻って来たと思えば他の女の話?…芙蓉はアンタが決めた事を尊重するって言ってたけど、芙蓉を泣かせるなんて事、私は絶対認めないからね」
一方的に捲し立てるように言うと、釘崎は食堂を出て行った。残された伏黒は箸を置いた。
ー芙蓉とゆっくり話をしたのはいつだったろうか。最近芙蓉は家入の手伝いに時間を割く事が多く、祓除に出る伏黒と、互いに過ごす時間にズレが生じ、すれ違いが続いている。すっかり食欲が失せてしまった伏黒は、寮母に謝罪を述べ半端な食事を片付けると食堂を出た。
部屋に戻ろうと思って歩き出すも、伏黒の足は自然と芙蓉の部屋へ向かっていた。部屋の前で大きく息を吸って、ドアをノックする。
「…あ、」
開いたドアから顔を覗かせ、芙蓉は僅かに驚いたように目を見開いて伏黒を見上げていた。
「少し、いいか」
芙蓉はドアを大きく開き、伏黒を招き入れる。
「ごめんね、ちょっと散らかってて」
部屋に足を踏み入れれば、学習用のデスクには書類が山積みになっており、その足元にはファイルが何冊も並んでいる。フローリングに置かれたテーブルにも何某かの書類が広げられていた。芙蓉はそれらを手早く片付け、伏黒に座るよう促した。
「…コーヒーでいい?」
「あ、…悪い、な」
湯を沸かす音、カップを準備する音だけが静かな部屋に響く。伏黒は所在無げに床に並ぶファイルを眺めた。
「…これ、何のファイルなんだ?」
伏黒が示したのはファイルの見出しー高専関係者の名前がラベリングしてある。
「今回の一連の件での負傷者、被害者、そのケガの度合いと経過、その後の状態に関してまとめる作業を硝子さんから頼まれてるの。…今後使わない可能性は高いけど、記録には残しておくからって」
その声に伏黒は納得したように頷いた。自分の名前や釘崎に乙骨、七海、日車、五条といった名が並んでいた。
「…辛くないか?」
伏黒はカップを2つ手に戻って来た芙蓉を振り返った。その顔は随分と疲れ、顔色もあまり優れないように見えた。それでも芙蓉は笑顔を見せた。
「…私はずっと、何も出来なかったから…、これくらいやらないと。…みんなは、もっと辛かったと思うから。…私は平気、大丈夫だよ」
「…そうか」
きっぱりと強い意志を口にした芙蓉に伏黒は何も言えず、芙蓉が淹れてくれたコーヒーを久しぶりに飲んだ。とても落ち着く気がし、とても美味く感じた。