前章
メレディス・クランベルカ、昨夜初めて会ったばかりの聞き馴染みのない人物の名前だ。にも関わらず『メリー』という略称を口にしたとき、その響きになぜか覚えがあるような気がした。
メリーと一日一緒に過ごしてみて、彼女の人となりはますますよくわからなくなってしまった。本当に何を考えてるのかわからず、こちらが想定している回答とは全く違う答えが返ってくる。何とも掴みどころのない不思議な人だとアイゼアは思った。
包み隠さずズケズケと物を言うわりには急に気づかわしげになったり、無表情だと冬の北風のように冷たく見えるのに笑うと温かさを感じる。親切なようでいて全て自分勝手にやっているだけだと言うし、詮索はしてこないのにこちらに寄り添おうと無遠慮に踏み込んでくる。
今だってそうだ。貸してくれたはずのベッドに潜り込まれ、なぜか一緒に寝ることになってしまった。背中に触れたメリーの手が、きゅうと引き寄せるように僅かに力がかかる。
温かい。
体の震えも冷や汗もすっかり止まり、恐怖も罪悪感も寂しさも優しい温もりに溶けるようにして消えていった。こんな心穏やかな夜を迎えるのは生まれて初めてかもしれない。当然、誰かがこうして一緒にいてくれる経験も人の温もりを知るのも初めてだった。
先程の心配そうにこちらを見つめるメリーの表情が忘れられない。なぜそんなに親身になって心配してくれるのか。メリーにとって大人の自分はそれほどまでに大切に思える友人なのだろうか。
魔法薬で子供に戻っているという話は半信半疑だったが、もしそれが本当ならそんなに悪くないと今は思える。こんな自分にも将来、これだけ気にかけて大切にしてくれる友人ができるということだ。
「大人の俺は、メリーさんを騙して友達になったのかな……」
アイゼアは未来の自分への信頼のなさと僅かな罪悪感を抱きながら、温もりに身を委ねて目を閉じた。
爽やかな鳥のさえずりが外から聞こえ、ゆったりと意識が覚醒してくる。心地良い温かさに、二度寝したくなる気持ちを抑えながらアイゼアはまぶたを押し上げた。すぐ隣に誰かがいる気配に気づき目視すると、それがメリーであることに一瞬思考が停止する。
「え……いや、なんで?」
無意識に転がり出た声は普段よりも妙に高く、咄嗟に口を手で覆う。ゆっくりと自身の状態を認識し、メリーの手がこちらの背中へ回され、まるで抱き寄せられているような体勢であることに気づく。
ありえない距離感と状況に混乱し息を吸うのも忘れ、氷漬けになったように体を強張らせて固まる。ドクドクと早鐘を打つ心臓の音を聞きながら、混濁した頭を必死に稼働させ記憶を手繰り寄せた。
魔法薬を浴びた自分は記憶や精神までもが退行し、昨晩はあの頃よく見ていた悪夢を見た。昨夜の自分が抱いていた苦しくて心細い気持ちが鮮明に蘇ってくる。
あの頃の自分は養父母にすら頼れず、悪夢を見ても一人で震えながら黙って耐え忍んでいた。今回こうして眠り、穏やかに目が覚めたのは紛れもなくメリーのおかげだ。
更に記憶を辿っていくと、一通り全部思い出すことができた。当時の素行の悪さ、捻くれた性格と物言いをばっちりと見られてしまった。スイウには笑われ、フィロメナを戸惑わせ、エルヴェに気を使わせ、メリーには面倒をかけた。カストルとポルッカにも暴言を吐いて逃げ帰ってきた。皆に迷惑をかけたことに気が滅入り、自己嫌悪で頭が真っ白になっていく。
全部なかったことにしたい。
そんなふうに思っても後の祭りだ。後悔に似た深いため息をつきながら、ふと投げ出されたメリーの手に目が留まる。
『怖い夢でも見ましたか?』
昨夜の心配そうなメリーの表情と優しい声色を思い出す。悪夢から掬い上げてくれたメリーの手を、感謝の思いを込めてそっと握りしめた。布団から出ていた手は冷えた室内の空気に晒されてひんやりと冷たくなっている。子供の姿のままの手はメリーの手を包むには小さく、もう片方の手を彼女の手の甲へと添えて温める。
これだけ迷惑をかけておきながらなかったことにしたいだなんて虫のいい話だ。記憶のないフリでもしてしまおうかと思ったが、それはやめようと思い留まる。
あんな酷い態度をとっていた自分に、メリーは怒ることもなく根気強く傍で世話を焼いてくれた。子供に戻っていた自分は確かにメリーの存在に救われていた。それをなかったことにはしたくない。
改めてメリーへ視線を向けると、規則正しい呼吸を繰り返し気持ち良さそうに眠っている。朝日を受けた白い肌と僅かに色づいた頬は何とも柔らかそうに見え、サラリとかかる薄紅色の髪が艶やかに輝いていた。僅かに口元が緩んでおり、唇はふっくらとしていて色っぽい。
楽園で地獄を味わっているような妙な心地になり、あまりよろしくない方向に思考が転がり始めていることに気づく。
自覚があるならさっさと起きて部屋を出ていけばいいともう一人の自分が理路整然と呟いた。こちらが動いたところでどうせメリーはまともに目を覚まさないことも経験則でわかっている。わかっているくせに、こんな機会は早々ないと思うだけで抜け出す気力が一向に湧いてこない。
好意を寄せている……つまり下心のようなものを持っているわけで、この状況を利用していることは「最低だ」と言われてしまうだろう。抱き寄せられているような形とはいえ、メリーに他意はない。ただ安心させるためにしてくれただけだ。
彼女の善意に付け込むというのはやはり人としてどうなのかという常識に則した思考と、そもそもこの状況を作ったのはメリー自身なのだから少なくともメリーから責められる謂れはないという都合の良い責任転嫁がせめぎ合っていた。
背中に回されたメリーの手の温もりを強く意識してしまい、触れられている部分がじんじんとひりつくように熱を帯びてくる。手を伸ばせば髪にも頬にも届くであろう距離が、まるで空に浮かぶ雲のように遠く感じられた。
迫るようなもどかしさに囚われそうになったとき、弱い力で手を握り返される。心臓が跳ね、おそるおそるメリーの様子を覗うと、相変わらずメリーは目を閉じたまま眠っていた。どうやら起きたわけではないらしく、静かに安堵する。
眠っているとはいえ、手を握り返してくれた事実がどうしようもなく嬉しかった。まるで受け入れられたかのような気分になったが、それが自分にだけ都合のいい解釈だということは重々承知している。逸る鼓動の音に聴覚を支配されながら、手の甲に添えていた手をメリーの頬へと伸ばす。
『あなたは私の大切な人なんです。今更何があったところでそれは揺らぎません』
大人の自分も信用ならないと言う子供のアイゼアにメリーは、そうは思わないと言ってくれた。その後に続けられた言葉を思い出し、手が止まる。
それは何をしても信頼が揺らがないという意味ではない。自分の過去、そして今のアイゼアの全てを知らずとも『大切な人』に足る人物として信じているという意味だ。その信頼を独りよがりな思いで裏切るのか。自分にとっても、メリーは大切な人だ。傷つけたくはない。
あとほんの少しで触れられるというギリギリのところで押し留まり、ゆっくりと手を胸元へと引っ込めた。ここで負けていたら、いよいよ自分を許せなくなる。良心の呵責に苛まれ続けることは一目瞭然だった。
穏やかなメリーの表情とは裏腹に、アイゼアは締めつけられるような切なさを胸の内に抱く。握り返された手のひらの感覚や伝わる温もりは穏やかな幸福感と僅かな虚しさをアイゼアに植え付けてくる。それでも手放し難い温もりに、自身の感情を誤魔化すためもう一度眠ってしまおうと固く目を閉じた。
しばらくしてようやく微睡んできた頃、握っていたメリーの手にきゅうっと強く力が入る。
「ぅー、ん……」
くぐもった小さな声と共にメリーが身動 ぎ、アイゼアは微睡 みから一気に覚醒した。息を潜めて見守っていると、静かに深海の色の瞳が覗き、その目がゆったりとアイゼアを捉える。微睡んでいるのか、ぼーっとこちらを見つめていた。
「お、おはよう、メリー……」
あまりの気まずさにとりあえず挨拶をしてみる。メリーは頭が冴えてこないのかゆっくりとまばたきを繰り返し、少し間を置いてから小さく囁くように唇が動く。
「おはよう……ございます」
挨拶したその場から、すぅっと再びまぶたが落ちていく。閉じられそうになる寸前、「あ」という声と共にゆっくりと再び目が開く。
「今……メリーって?」
「うん、呼んだよ。それより……そろそろ起きたいんだけど、壁際に追い詰められててどうして良いかわからなくて」
訳のわからないそれらしい理由をこじつけて、この状態に言い訳をする。だが、メリーは背中に回した手を退けることもなく、じっとこちらを見つめ続けていた。
「アイゼアさん、喋り方……?」
「もう戻ってるよ。昨日のこともしっかり覚えてるし。迷惑かけてごめん。それと、ありがとう」
「いえ……別に。んーと、体は……」
「えっ、ちょちょちょっと……!」
何の前触れもなくメリーの手がのそっと額に触れ、前髪を上げてくる。メリーはぼんやりとこちらを見つめたあと目を閉じた。今度は両手でこめかみあたりにやんわりと触れられ、アイゼアは再び体を強張らせる。
いきなり何なんだ……?
顔に手が添えられると親指が頬骨に触れ、そこからつうっと顔の側面を柔らかな手のひら撫でていき、ゆっくりと輪郭をなぞっていく。一度離れた手が首に触れたところで手首を掴んで止め、無理矢理引き剥がした。だが今度はこちらの腕を掴んでくる。
「待って待って、メリー! やめて、本当にっ……てか、何してんの!?」
「んー……ほそ……」
「ほそ……?」
「こっ……かくが……」
「こっ、こっかくが……?」
「……」
「いやいや、寝てないで起きて! ちゃんと説明してほしいんだけど!」
メリーは閉じかけたまぶたを押し上げ、半眼でこちらを見ながらのんびりと言葉を紡ぐ。
「骨格、と筋肉量……一昨日の夜……変わって、ない……かも……体の方も、診ないと、何とも……」
「へ、えぇ……? そ、それを診てたの?」
「はー……ぃ……」
一昨日の夜から変わってないって、いつ触ったんだ?
意識を失っているときだろうか。
いや、そもそも『体の方も』ってどこ触ったんだ……!?
聞いておきたい気もするが、聞くのが怖いという複雑な心境だった。顔が熱いような、それでいて血の気が引いていくような、自分でももう何が何やらわからず思考はぐちゃぐちゃだ。
とにかく落ち着かなくては。もうこの際過ぎたことはいい。これからどうすべきかを考える方が余程賢明だ。
「……とりあえず今日は本部に顔出そう……かな」
「着替えを……いきなり体、戻ると……」
片言だがメリーの言いたいことはわかる。街中や職場で突然元に戻った場合、着ていた服は一気にキツくなるだろう。下手をすれば破れかねない。
「怖っ……」
最悪の事態を想像して身震いした。周りには笑われるかもしれないが、アイゼア的には笑い事じゃ済まない。これ以上同僚の笑いのネタを増やしてたまるか。
「今日……経過観察。休んで二度寝……」
「しないよ!?」
その瞬間、離れていたはずの手が再び抱き寄せるように背中へ触れる。
なぜ戻す──!?
背中に回された手に力がこもり、メリーはアイゼアの体を更に引き寄せる。メリーが二度寝するのは勝手だが、こちらを巻き込んで抱き枕にしないでほしい。甲高い悲鳴を上げたいくらいの個人的な大惨事だった。
「メリー! 僕は君の抱き枕じゃない! これ本当に何も文句言える立場じゃないって自覚してくれないと困るんだけど!」
「文句? 何ので……?」
勘弁してくれ死んで召されてしまう、と何度目かもわからない心の叫びを聞いた。もうこれ以上はいろんな意味で持たない。以前男性には気をつけろとしっかり書き置きしたつもりだが読んできっちり反省してくれたのだろうか。子供の姿とはいえ少しくらいは意識して警戒するべきだと胸ぐら引っ掴んで説教してやりたい。
「メリー、早く起きるんだ! 見た目に騙されたらダメなんだって!」
見た目だけでなく声変わりもしていない高い声はあまりにも説得力がない。全く起きようとしてくれないメリーに痺れを切らし、掛け布団を奪い取るという強行手段に出た。
「うぅ……寒ぅー……」
体を震わせながら膝を抱えて猫のように丸くなる姿がまた何とも可愛らしく、思わず息を飲む。ハッと我に返り、そんな悠長なことを考えている場合ではないと叱咤した。
「もう朝なんだよ! 自堕落な生活は君のためにならない!」
「うーん、うるさーい……ですねーぇ」
「──っ! まったく君って人はっ。水を持ってきてあげるから待ってて、否が応でも起きてもらうよ!」
アイゼアはため息と共に掛け布団をメリーに投げつけ、水を取りに寝室を出た。扉の閉まる音と同時に、体中から力が抜けていくのがわかる。
「はぁ……殺されるかと思った……」
その声は子供らしからぬ、朝から異様にくたびれたものだった。
その後しっかり覚醒したメリーは身支度を整え、今は朝食を作ってくれている。正直料理に関して自分はあてにならないため、代わりに湯を沸かして紅茶の準備をすることにした。
いつもよりも低い目線。メリーと同じくらいの背丈。不思議な気分だが、まるでメリーと同じ世界を見ているようで嬉しい……というのは少し暢気すぎるだろうか。
同じテーブルに着き、メリーが準備してくれた朝食を一緒に食べる。少し遅めの、のんびりした休日の朝のような光景が目の前にあった。こんなふうに穏やかな日常を繰り返す、そういう関係になれる日がいつか来ればいいのにと思わずにはいられなかった。
「新しく弟ができたみたいですね。昨日は反抗期の弟で、今日はしっかり者の弟」
ホットサンドにかぶりつきながら、メリーは楽しそうに笑う。起き抜けに散々やらかしてくれたこともすっかり覚えていないのか、そもそも何も意識していないのか、照れなど一切なく実にあっけらかんとした態度だ。勝手に慌てふためいて心臓が爆発しそうになっていた自分があまりにも馬鹿馬鹿しく思える。
それにしてもこちらだけが一方的に意識しているというのはこうも虚しいものなのか。何となく素直に弟の立場に収まっているのも釈然としないので、小さく抵抗を試みることにした。
「僕からは全然姉には見えないかな。ベッドの上で潰れたプリンみたいになってたしね」
「それは……ちょっと否定できないですね……」
「でしょ。むしろ僕は、メリーと同棲してるみたいだなって思ったよ」
「同棲……同棲?」
「そう、同棲」
真面目に想像してくれているのか、メリーはホットサンドを咀嚼 しながら目を伏せた。これはいい兆候だ。このまま意識してもらえるようになればと思い露骨に追撃をかけてみることにした。
「起きたら同じベッドで寝てて僕は結構驚いたんだけど? 君は寝ぼけてべたべた触りまくるし、抱き寄せてくるし、恋人なのかってくらいの大胆さだったよ」
「すみません、困らせるつもりはなかったんです。アイゼアさんにフランを重ね見てしまって申し訳ないんですけど、少しだけ懐かしい感じがしました」
少し嬉しそうに照れ笑いしているメリーにアイゼアは何とも言えない複雑な感情を抱いた。
逆効果だ。
折角同棲の想像へ意識を向けさせたというのに、自ら姉弟の方向に話を修正してしまったのか。いや、普通に考えたら今の流れでは戻らないが、そこでサラッと戻ってしまうのがさすがメリーといったところか。
「やっぱりその見た目だと同棲ってのはピンと来ませんねー」
逸れたと思っていた話の方向がすぐにメリーによって戻ってきた。今度こそ逃さないように、アイゼアは言葉を選ぶ。
「それって、元の姿なら同棲してるみたいってこと?」
「んー……?」
首を傾げながら斜め上を見上げ、また真面目に想像を膨らませてくれているようだ。
「何となく旅のときを思い出す感じがします」
あー……なるほど。そうなるのか。
言われてみれば同じベッドではなくても、全員が同じ部屋で、隣同士のベッドを使ったことだってある。今日のように少々強引に起こしたこともあるし、朝食は皆で一緒に食べていた。二人きりということ以外何も特別感はなく、メリーはそんなこと気にも留めていないだろう。
親しい関係を築いたあの旅が、まさか全力で足を引っ張ることになるとは。内心荒んでいくアイゼアをよそに、メリーは言葉を続ける。
「そういえば一緒に暮らす人がいる感じも、ちょっと懐かしいですね」
彼女の笑みに一瞬陰りが見えたような気がし、一度思考を切って話に耳を傾ける。
「今までずっと一人の方が向いてると思ってたんですけど、誰かと一緒に暮らしてる方が慣れてるなーって。アイゼアさんはどっちですか?」
「慣れの話なら一人かな。でも僕は誰かと一緒に暮らしたいなぁ。ずっと一人だったから、憧れが強いのかも」
実母との生活は冷えきったもので一人のことも多かった。養父母との生活はたったの四年。後は学校の寮に入り、そのまま騎士団の宿舎暮らしだ。カストルとポルッカとは一緒に暮らしているとは言えず、寮にいれば周りに人はいるがそれは理想の生活とは少し違う。自分は得ることのできなかった『家族の暮らし』というものに特別な憧れをずっと抱き続けている。
「カストルさんやポルッカさんと一緒に暮らせるようになると良いですね」
「あー……いや、それがさ……」
少し前に二人から騎士になるために騎士養成学校の入試を受けるという話をされた。騎士になるということがどういうことか養父母や自身のこれまでのことも含めて二人に話したのだが、決意が揺らぐことはなく了承することになったのだ。
「二人とも騎士団の養成学校に入りたいみたいで。合格したら寮暮らしなんだよね」
「そ、それは何と言っていいのか……自立は仕方ないですよね。二人じゃなくても、いつか一緒に暮らしたいと思える人がきっと現れますよ」
目の前にいるんだけど、とはまだ言えない。まだ自分にはメリーに思いを告げる資格がない。感謝祭の日からずっと考えているが、自分自身の力で彼女を幸せにする方法をいまだに見つけられずにいる。
「実はもういるんだけどね」
「え? カストルさんとポルッカさん以外でですか?」
「もちろん」
あっさりと認めて頷くと、メリーは驚いたのか目を丸くしていた。
「……それっていわゆる想い人ってやつですよね?」
「そういうことになるかな」
「へぇー、ならその人と上手くいくように私も応援してますね。何ができるわけでもないですけど、アイゼアさんの大切な人は私も守ります。困ったときはいつでも頼ってください」
明るく鼓舞してくれるメリーの姿はまるっきり他人事だ。果たしてその『想い人』が自分自身だと知ったとき、何を思うのだろうか。
「ありがとう。真剣に頑張ってみるよ」
なんて、当たり障りのない言葉でメリーには関係ない話のように見せかける。笑顔の裏に募る想いを潜ませて。
第36話 君の微睡 みは僕を殺す 終
メリーと一日一緒に過ごしてみて、彼女の人となりはますますよくわからなくなってしまった。本当に何を考えてるのかわからず、こちらが想定している回答とは全く違う答えが返ってくる。何とも掴みどころのない不思議な人だとアイゼアは思った。
包み隠さずズケズケと物を言うわりには急に気づかわしげになったり、無表情だと冬の北風のように冷たく見えるのに笑うと温かさを感じる。親切なようでいて全て自分勝手にやっているだけだと言うし、詮索はしてこないのにこちらに寄り添おうと無遠慮に踏み込んでくる。
今だってそうだ。貸してくれたはずのベッドに潜り込まれ、なぜか一緒に寝ることになってしまった。背中に触れたメリーの手が、きゅうと引き寄せるように僅かに力がかかる。
温かい。
体の震えも冷や汗もすっかり止まり、恐怖も罪悪感も寂しさも優しい温もりに溶けるようにして消えていった。こんな心穏やかな夜を迎えるのは生まれて初めてかもしれない。当然、誰かがこうして一緒にいてくれる経験も人の温もりを知るのも初めてだった。
先程の心配そうにこちらを見つめるメリーの表情が忘れられない。なぜそんなに親身になって心配してくれるのか。メリーにとって大人の自分はそれほどまでに大切に思える友人なのだろうか。
魔法薬で子供に戻っているという話は半信半疑だったが、もしそれが本当ならそんなに悪くないと今は思える。こんな自分にも将来、これだけ気にかけて大切にしてくれる友人ができるということだ。
「大人の俺は、メリーさんを騙して友達になったのかな……」
アイゼアは未来の自分への信頼のなさと僅かな罪悪感を抱きながら、温もりに身を委ねて目を閉じた。
爽やかな鳥のさえずりが外から聞こえ、ゆったりと意識が覚醒してくる。心地良い温かさに、二度寝したくなる気持ちを抑えながらアイゼアはまぶたを押し上げた。すぐ隣に誰かがいる気配に気づき目視すると、それがメリーであることに一瞬思考が停止する。
「え……いや、なんで?」
無意識に転がり出た声は普段よりも妙に高く、咄嗟に口を手で覆う。ゆっくりと自身の状態を認識し、メリーの手がこちらの背中へ回され、まるで抱き寄せられているような体勢であることに気づく。
ありえない距離感と状況に混乱し息を吸うのも忘れ、氷漬けになったように体を強張らせて固まる。ドクドクと早鐘を打つ心臓の音を聞きながら、混濁した頭を必死に稼働させ記憶を手繰り寄せた。
魔法薬を浴びた自分は記憶や精神までもが退行し、昨晩はあの頃よく見ていた悪夢を見た。昨夜の自分が抱いていた苦しくて心細い気持ちが鮮明に蘇ってくる。
あの頃の自分は養父母にすら頼れず、悪夢を見ても一人で震えながら黙って耐え忍んでいた。今回こうして眠り、穏やかに目が覚めたのは紛れもなくメリーのおかげだ。
更に記憶を辿っていくと、一通り全部思い出すことができた。当時の素行の悪さ、捻くれた性格と物言いをばっちりと見られてしまった。スイウには笑われ、フィロメナを戸惑わせ、エルヴェに気を使わせ、メリーには面倒をかけた。カストルとポルッカにも暴言を吐いて逃げ帰ってきた。皆に迷惑をかけたことに気が滅入り、自己嫌悪で頭が真っ白になっていく。
全部なかったことにしたい。
そんなふうに思っても後の祭りだ。後悔に似た深いため息をつきながら、ふと投げ出されたメリーの手に目が留まる。
『怖い夢でも見ましたか?』
昨夜の心配そうなメリーの表情と優しい声色を思い出す。悪夢から掬い上げてくれたメリーの手を、感謝の思いを込めてそっと握りしめた。布団から出ていた手は冷えた室内の空気に晒されてひんやりと冷たくなっている。子供の姿のままの手はメリーの手を包むには小さく、もう片方の手を彼女の手の甲へと添えて温める。
これだけ迷惑をかけておきながらなかったことにしたいだなんて虫のいい話だ。記憶のないフリでもしてしまおうかと思ったが、それはやめようと思い留まる。
あんな酷い態度をとっていた自分に、メリーは怒ることもなく根気強く傍で世話を焼いてくれた。子供に戻っていた自分は確かにメリーの存在に救われていた。それをなかったことにはしたくない。
改めてメリーへ視線を向けると、規則正しい呼吸を繰り返し気持ち良さそうに眠っている。朝日を受けた白い肌と僅かに色づいた頬は何とも柔らかそうに見え、サラリとかかる薄紅色の髪が艶やかに輝いていた。僅かに口元が緩んでおり、唇はふっくらとしていて色っぽい。
楽園で地獄を味わっているような妙な心地になり、あまりよろしくない方向に思考が転がり始めていることに気づく。
自覚があるならさっさと起きて部屋を出ていけばいいともう一人の自分が理路整然と呟いた。こちらが動いたところでどうせメリーはまともに目を覚まさないことも経験則でわかっている。わかっているくせに、こんな機会は早々ないと思うだけで抜け出す気力が一向に湧いてこない。
好意を寄せている……つまり下心のようなものを持っているわけで、この状況を利用していることは「最低だ」と言われてしまうだろう。抱き寄せられているような形とはいえ、メリーに他意はない。ただ安心させるためにしてくれただけだ。
彼女の善意に付け込むというのはやはり人としてどうなのかという常識に則した思考と、そもそもこの状況を作ったのはメリー自身なのだから少なくともメリーから責められる謂れはないという都合の良い責任転嫁がせめぎ合っていた。
背中に回されたメリーの手の温もりを強く意識してしまい、触れられている部分がじんじんとひりつくように熱を帯びてくる。手を伸ばせば髪にも頬にも届くであろう距離が、まるで空に浮かぶ雲のように遠く感じられた。
迫るようなもどかしさに囚われそうになったとき、弱い力で手を握り返される。心臓が跳ね、おそるおそるメリーの様子を覗うと、相変わらずメリーは目を閉じたまま眠っていた。どうやら起きたわけではないらしく、静かに安堵する。
眠っているとはいえ、手を握り返してくれた事実がどうしようもなく嬉しかった。まるで受け入れられたかのような気分になったが、それが自分にだけ都合のいい解釈だということは重々承知している。逸る鼓動の音に聴覚を支配されながら、手の甲に添えていた手をメリーの頬へと伸ばす。
『あなたは私の大切な人なんです。今更何があったところでそれは揺らぎません』
大人の自分も信用ならないと言う子供のアイゼアにメリーは、そうは思わないと言ってくれた。その後に続けられた言葉を思い出し、手が止まる。
それは何をしても信頼が揺らがないという意味ではない。自分の過去、そして今のアイゼアの全てを知らずとも『大切な人』に足る人物として信じているという意味だ。その信頼を独りよがりな思いで裏切るのか。自分にとっても、メリーは大切な人だ。傷つけたくはない。
あとほんの少しで触れられるというギリギリのところで押し留まり、ゆっくりと手を胸元へと引っ込めた。ここで負けていたら、いよいよ自分を許せなくなる。良心の呵責に苛まれ続けることは一目瞭然だった。
穏やかなメリーの表情とは裏腹に、アイゼアは締めつけられるような切なさを胸の内に抱く。握り返された手のひらの感覚や伝わる温もりは穏やかな幸福感と僅かな虚しさをアイゼアに植え付けてくる。それでも手放し難い温もりに、自身の感情を誤魔化すためもう一度眠ってしまおうと固く目を閉じた。
しばらくしてようやく微睡んできた頃、握っていたメリーの手にきゅうっと強く力が入る。
「ぅー、ん……」
くぐもった小さな声と共にメリーが
「お、おはよう、メリー……」
あまりの気まずさにとりあえず挨拶をしてみる。メリーは頭が冴えてこないのかゆっくりとまばたきを繰り返し、少し間を置いてから小さく囁くように唇が動く。
「おはよう……ございます」
挨拶したその場から、すぅっと再びまぶたが落ちていく。閉じられそうになる寸前、「あ」という声と共にゆっくりと再び目が開く。
「今……メリーって?」
「うん、呼んだよ。それより……そろそろ起きたいんだけど、壁際に追い詰められててどうして良いかわからなくて」
訳のわからないそれらしい理由をこじつけて、この状態に言い訳をする。だが、メリーは背中に回した手を退けることもなく、じっとこちらを見つめ続けていた。
「アイゼアさん、喋り方……?」
「もう戻ってるよ。昨日のこともしっかり覚えてるし。迷惑かけてごめん。それと、ありがとう」
「いえ……別に。んーと、体は……」
「えっ、ちょちょちょっと……!」
何の前触れもなくメリーの手がのそっと額に触れ、前髪を上げてくる。メリーはぼんやりとこちらを見つめたあと目を閉じた。今度は両手でこめかみあたりにやんわりと触れられ、アイゼアは再び体を強張らせる。
いきなり何なんだ……?
顔に手が添えられると親指が頬骨に触れ、そこからつうっと顔の側面を柔らかな手のひら撫でていき、ゆっくりと輪郭をなぞっていく。一度離れた手が首に触れたところで手首を掴んで止め、無理矢理引き剥がした。だが今度はこちらの腕を掴んでくる。
「待って待って、メリー! やめて、本当にっ……てか、何してんの!?」
「んー……ほそ……」
「ほそ……?」
「こっ……かくが……」
「こっ、こっかくが……?」
「……」
「いやいや、寝てないで起きて! ちゃんと説明してほしいんだけど!」
メリーは閉じかけたまぶたを押し上げ、半眼でこちらを見ながらのんびりと言葉を紡ぐ。
「骨格、と筋肉量……一昨日の夜……変わって、ない……かも……体の方も、診ないと、何とも……」
「へ、えぇ……? そ、それを診てたの?」
「はー……ぃ……」
一昨日の夜から変わってないって、いつ触ったんだ?
意識を失っているときだろうか。
いや、そもそも『体の方も』ってどこ触ったんだ……!?
聞いておきたい気もするが、聞くのが怖いという複雑な心境だった。顔が熱いような、それでいて血の気が引いていくような、自分でももう何が何やらわからず思考はぐちゃぐちゃだ。
とにかく落ち着かなくては。もうこの際過ぎたことはいい。これからどうすべきかを考える方が余程賢明だ。
「……とりあえず今日は本部に顔出そう……かな」
「着替えを……いきなり体、戻ると……」
片言だがメリーの言いたいことはわかる。街中や職場で突然元に戻った場合、着ていた服は一気にキツくなるだろう。下手をすれば破れかねない。
「怖っ……」
最悪の事態を想像して身震いした。周りには笑われるかもしれないが、アイゼア的には笑い事じゃ済まない。これ以上同僚の笑いのネタを増やしてたまるか。
「今日……経過観察。休んで二度寝……」
「しないよ!?」
その瞬間、離れていたはずの手が再び抱き寄せるように背中へ触れる。
なぜ戻す──!?
背中に回された手に力がこもり、メリーはアイゼアの体を更に引き寄せる。メリーが二度寝するのは勝手だが、こちらを巻き込んで抱き枕にしないでほしい。甲高い悲鳴を上げたいくらいの個人的な大惨事だった。
「メリー! 僕は君の抱き枕じゃない! これ本当に何も文句言える立場じゃないって自覚してくれないと困るんだけど!」
「文句? 何ので……?」
勘弁してくれ死んで召されてしまう、と何度目かもわからない心の叫びを聞いた。もうこれ以上はいろんな意味で持たない。以前男性には気をつけろとしっかり書き置きしたつもりだが読んできっちり反省してくれたのだろうか。子供の姿とはいえ少しくらいは意識して警戒するべきだと胸ぐら引っ掴んで説教してやりたい。
「メリー、早く起きるんだ! 見た目に騙されたらダメなんだって!」
見た目だけでなく声変わりもしていない高い声はあまりにも説得力がない。全く起きようとしてくれないメリーに痺れを切らし、掛け布団を奪い取るという強行手段に出た。
「うぅ……寒ぅー……」
体を震わせながら膝を抱えて猫のように丸くなる姿がまた何とも可愛らしく、思わず息を飲む。ハッと我に返り、そんな悠長なことを考えている場合ではないと叱咤した。
「もう朝なんだよ! 自堕落な生活は君のためにならない!」
「うーん、うるさーい……ですねーぇ」
「──っ! まったく君って人はっ。水を持ってきてあげるから待ってて、否が応でも起きてもらうよ!」
アイゼアはため息と共に掛け布団をメリーに投げつけ、水を取りに寝室を出た。扉の閉まる音と同時に、体中から力が抜けていくのがわかる。
「はぁ……殺されるかと思った……」
その声は子供らしからぬ、朝から異様にくたびれたものだった。
その後しっかり覚醒したメリーは身支度を整え、今は朝食を作ってくれている。正直料理に関して自分はあてにならないため、代わりに湯を沸かして紅茶の準備をすることにした。
いつもよりも低い目線。メリーと同じくらいの背丈。不思議な気分だが、まるでメリーと同じ世界を見ているようで嬉しい……というのは少し暢気すぎるだろうか。
同じテーブルに着き、メリーが準備してくれた朝食を一緒に食べる。少し遅めの、のんびりした休日の朝のような光景が目の前にあった。こんなふうに穏やかな日常を繰り返す、そういう関係になれる日がいつか来ればいいのにと思わずにはいられなかった。
「新しく弟ができたみたいですね。昨日は反抗期の弟で、今日はしっかり者の弟」
ホットサンドにかぶりつきながら、メリーは楽しそうに笑う。起き抜けに散々やらかしてくれたこともすっかり覚えていないのか、そもそも何も意識していないのか、照れなど一切なく実にあっけらかんとした態度だ。勝手に慌てふためいて心臓が爆発しそうになっていた自分があまりにも馬鹿馬鹿しく思える。
それにしてもこちらだけが一方的に意識しているというのはこうも虚しいものなのか。何となく素直に弟の立場に収まっているのも釈然としないので、小さく抵抗を試みることにした。
「僕からは全然姉には見えないかな。ベッドの上で潰れたプリンみたいになってたしね」
「それは……ちょっと否定できないですね……」
「でしょ。むしろ僕は、メリーと同棲してるみたいだなって思ったよ」
「同棲……同棲?」
「そう、同棲」
真面目に想像してくれているのか、メリーはホットサンドを
「起きたら同じベッドで寝てて僕は結構驚いたんだけど? 君は寝ぼけてべたべた触りまくるし、抱き寄せてくるし、恋人なのかってくらいの大胆さだったよ」
「すみません、困らせるつもりはなかったんです。アイゼアさんにフランを重ね見てしまって申し訳ないんですけど、少しだけ懐かしい感じがしました」
少し嬉しそうに照れ笑いしているメリーにアイゼアは何とも言えない複雑な感情を抱いた。
逆効果だ。
折角同棲の想像へ意識を向けさせたというのに、自ら姉弟の方向に話を修正してしまったのか。いや、普通に考えたら今の流れでは戻らないが、そこでサラッと戻ってしまうのがさすがメリーといったところか。
「やっぱりその見た目だと同棲ってのはピンと来ませんねー」
逸れたと思っていた話の方向がすぐにメリーによって戻ってきた。今度こそ逃さないように、アイゼアは言葉を選ぶ。
「それって、元の姿なら同棲してるみたいってこと?」
「んー……?」
首を傾げながら斜め上を見上げ、また真面目に想像を膨らませてくれているようだ。
「何となく旅のときを思い出す感じがします」
あー……なるほど。そうなるのか。
言われてみれば同じベッドではなくても、全員が同じ部屋で、隣同士のベッドを使ったことだってある。今日のように少々強引に起こしたこともあるし、朝食は皆で一緒に食べていた。二人きりということ以外何も特別感はなく、メリーはそんなこと気にも留めていないだろう。
親しい関係を築いたあの旅が、まさか全力で足を引っ張ることになるとは。内心荒んでいくアイゼアをよそに、メリーは言葉を続ける。
「そういえば一緒に暮らす人がいる感じも、ちょっと懐かしいですね」
彼女の笑みに一瞬陰りが見えたような気がし、一度思考を切って話に耳を傾ける。
「今までずっと一人の方が向いてると思ってたんですけど、誰かと一緒に暮らしてる方が慣れてるなーって。アイゼアさんはどっちですか?」
「慣れの話なら一人かな。でも僕は誰かと一緒に暮らしたいなぁ。ずっと一人だったから、憧れが強いのかも」
実母との生活は冷えきったもので一人のことも多かった。養父母との生活はたったの四年。後は学校の寮に入り、そのまま騎士団の宿舎暮らしだ。カストルとポルッカとは一緒に暮らしているとは言えず、寮にいれば周りに人はいるがそれは理想の生活とは少し違う。自分は得ることのできなかった『家族の暮らし』というものに特別な憧れをずっと抱き続けている。
「カストルさんやポルッカさんと一緒に暮らせるようになると良いですね」
「あー……いや、それがさ……」
少し前に二人から騎士になるために騎士養成学校の入試を受けるという話をされた。騎士になるということがどういうことか養父母や自身のこれまでのことも含めて二人に話したのだが、決意が揺らぐことはなく了承することになったのだ。
「二人とも騎士団の養成学校に入りたいみたいで。合格したら寮暮らしなんだよね」
「そ、それは何と言っていいのか……自立は仕方ないですよね。二人じゃなくても、いつか一緒に暮らしたいと思える人がきっと現れますよ」
目の前にいるんだけど、とはまだ言えない。まだ自分にはメリーに思いを告げる資格がない。感謝祭の日からずっと考えているが、自分自身の力で彼女を幸せにする方法をいまだに見つけられずにいる。
「実はもういるんだけどね」
「え? カストルさんとポルッカさん以外でですか?」
「もちろん」
あっさりと認めて頷くと、メリーは驚いたのか目を丸くしていた。
「……それっていわゆる想い人ってやつですよね?」
「そういうことになるかな」
「へぇー、ならその人と上手くいくように私も応援してますね。何ができるわけでもないですけど、アイゼアさんの大切な人は私も守ります。困ったときはいつでも頼ってください」
明るく鼓舞してくれるメリーの姿はまるっきり他人事だ。果たしてその『想い人』が自分自身だと知ったとき、何を思うのだろうか。
「ありがとう。真剣に頑張ってみるよ」
なんて、当たり障りのない言葉でメリーには関係ない話のように見せかける。笑顔の裏に募る想いを潜ませて。
第36話 君の
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