前章

 十二の月、三十一番の日。国民の大半が休暇を取り、各々家族や友人と過ごす日でもある。
 そんな一年の最後の日の夜、アイゼアは何をしているかといえば残業である。年が開ける前に終わらせるため、死に物狂いで書類作業を進めていた。

 本来なら、昼勤であったため夕方には帰宅できるはずだった。カストルとポルッカと過ごし、夜にはメリーに会いに行こうと画策していたが、全ての計画が丸潰れである。

「ふざっけんな、あのクソハゲ野郎!! 来年会ったらブッ殺す!! むしろ今年のうちに死ねぇぇーっ!!」
「ルーズ先輩、めちゃ口悪ぅ〜い。でも気持ちはめちゃわかりますぅ」

 同じく朝から働いている同僚のルーズが怒りで発狂し、ラセットがそれに賛同している。

「ラセット煽らないで。ルーズもちょっと落ち着いてよ……っていうか、二人とも手! 手を動かしてくれないかなぁ?」
「アイゼア、お前珍しく苛立ってるな。大丈夫か? 後は夜勤の俺らでやるから帰ったらどうだ?」
「スマルトさんやめてくださいよっ。こんなのオレら夜勤三人で終わる量じゃないっすよー!」

 夜勤組のスマルトの提案は同じく夜勤組のシャルの嘆きによって阻止される。

「……だよなぁ。日付変わる前には何とか終わらせて帰してやれるといいんだけどな」

 スマルトの言葉と思いやりが沁み、少しだけ頑張ろうという気力が湧いてくる。そもそも彼も所帯を持っていながら、年末の夜に仕事をしているのだ。文句などぶつける気にもなれなかった。

 例年通りであれば、年末年始は緊急の任務や長期任務でも帯びていない限りは業務を抑え、治安維持と内勤の仕事のみに絞られる。特殊任務隊は仕事柄、人員も通常時より少人数配置だ。年末の少し前がかなり忙しくなり、年末自体はさほど忙しくならないというのが通例だった。
 ならなぜ残業しなければならないほど膨大な書類作業に追われているかと聞かれれば、ルーズが叫んでいた『クソハゲ野郎』のせいとしか言いようがない。

 特務騎士は場所を問わず任務に赴く性質上、報告書をそれぞれ依頼してきた部署へと送ることになっている。そしてその報告書は上半期下半期の年二回に分けて上へ提出されるのだが、ここで問題が起きたのだ。

 北西区の区隊長が、報告書が一枚も提出されていないと言いがかりをつけてきたのだ。大方紛失したのだろう。
 失態を揉み消すためか、提出を怠ったのではと無茶苦茶かつ雑な理由づけで罪をなすりつけられた。責任を持って報告書を用意しろと命令され、当然貴族の上官に逆らえるはずもなく従うに至ったわけだ。

 話を聞いていたときのルーズは直接文句をぶつけそうになっていたが、肩を震わせながらも何とかこらえていた。言っても無駄だという現実と折り合いをつけ、感情の制御ができるからこその特務騎士なわけで、そこで楯突くようでは問題ありだ。

「あのクソハゲ、なーにが『精々汚名返上できるよう頑張りたまえ。私は君たちの働きに期待しているぞ』だ。何様目線だよ、クソが。で、自分は別荘で長期休暇〜ってか? マルアースルの海に沈んじまえっ」

 ルーズの呪詛じゅそを聞きながら、書類の記入を急ぐ。速さ重視のため普段よりも乱雑な字で、最低限の情報を任務記録簿から写していく。北西区関係の任務を洗い出すのに思いの外時間がかかり、夕方からようやく報告書の作成に着手し始めた。こんなことを昼前からずっと続けている。

 手元の懐中時計が十九時を差していた。あと五時間、自分含め昼勤の騎士が放棄しなければ年が明けるより前には帰れるかもしれない。

「あーん、恋人と過ごす約束してたのにまた会えないなんてあんまりですぅ〜! これじゃ、あたしもアイゼア先輩みたいに拳で殴られちゃうかもですよぉー!」

 まるで事故のように突然ぶつけられた嫌な記憶に不要な力が入る。ペン先がバッキリと折れ、溢れたインクが紙を容赦なく汚していく。
 ただでさえ計画を潰され、気が立っているような、それでいて虚しくて吐きそうな気分を抱えて仕事しているのにあんまりだ。本当にあんまりだ。

「ちょ、何か拭くもの!」
「アイゼア? おーい、戻ってこい!」
「お前は馬鹿か、ラセット! 空気読め! アイゼアにトドメ刺してんじゃねーよ! 死んじまったらどうするんだぁぁー!!」
「ごめぇーん、悪気はなかったんですぅー!」
「待ってぇ、頼むから行かないで〜っ!!」

 アイゼアはもう帰ろうかと立ち上がりかけたが、シャルに縋りつかれ抵抗する体力もなく断念した。


 それから愚痴を聞いたり、雑談を交わしながら、何とか紛失された分の報告書を作成して提出した。
 懐中時計の針はもうすぐ二十二時半を指そうとしている。すっかり遅くなってしまい、カストルとポルッカはもう布団に入った頃だろう。

 同僚たちと軽く挨拶を交わして別れ、騎士団の宿舎にある自室へと戻る。年末年始の宿舎は家に帰省する者も多く、異様なほどに静かだ。
 実家には部屋はおろか、自分専用のベッドすらない。アイゼアにはこういうときに帰れる場所がなかった。

 ジャケットを脱いで適当に椅子へと放り、ふと鏡を見ると、死人のような顔がまるで亡霊のように映り込んでいるのが見えた。本当に酷い顔で、乾いた笑いが小さく漏れる。
 何もかもがどうでも良くなり、冷え切ったベッドへ倒れるようにうつ伏せで沈み込んだ。シャワーを浴びないといけないのはわかっているのだが、面倒で気が重い。

 別に仕事自体は大変だったわけではない。戦闘を伴う任務の方がよほど神経も体力も使う。だがそういった任務よりずっと疲れているのは、心が追いつかず荒んでいるからだ。
 なぜ一年の最後の日まで、こんな馬車馬ばしゃうまの如くこき使われているのか。北西区の区隊長は全てを丸投げにして勝手に長期休暇に入っておいて。

虚しい……疲れた。
カストルとポルッカに会いに行く約束を守れなかった。
夜にはメリーに会いに行けたらと思っていた。
なのに結局仕事に明け暮れ、誰にも会えず終いだ。
もう何も考えたくない。

 泣きたくなるような重苦しい感情を乗せ、体から全ての空気を抜くように深いため息をついた。そこから少し遅れて、静かな部屋にお腹の鳴る音が響く。

「あぁ……何も食べてないんだっけ」

 思えば昼食も夕食も食べ損ねてしまっており、今日は食堂も休みだ。この空腹も翌朝まで我慢しなければならないらしい。アイゼアはベッドの上でごろりと仰向あおむけになり、窓の外へと目を向ける。雪が降っており、月も見えない暗い夜だった。

 そこでふと、窓の外側にいつもはないはずの丸い何かがあることに気づく。体を起こしてよくよく見ると、それはふっくらとしたふさふさの小鳥だった。この三毛猫みたいな配色の可愛らしい小鳥はメリーの使い魔とよく似ている。

 窓を開けて小鳥を招き入れると、アイゼアの膝の上にちょこんと飛び乗り、シュルシュルと一枚の小さな紙片に変わっていく。二つ折りになっている紙を開くと、少し癖のある丸い字で何かが書いてあった。

【年越しパーティーをやると、突然家におしかけられました。アイゼアさんも時間があればぜひ来てください。ペシェとフィロメナさんが今日は夜通し飲むと言って聞きません。むしろ助けてください。 メリー】

「ふふっ、困ってる」

 文字からもペシェたちが押しかけてきたときのメリーの困惑ぶりと表情が想像できるようで、思わず小さな笑いが漏れる。先程までの陰鬱いんうつとした気分はどこへやら、この小さな手紙一枚に救われている自分がいた。
 アイゼアは軽くシャワーを浴びてから私服に着替え、宿舎を飛び出した。


 橙色の街灯に照らされた石畳を歩く。吐く息は白く、空気が冷たく凍てついている。夜になってから降り出した雪が地面にうっすらと積もり始めていた。
 見えてきたメリーの家はまだ明かりが灯っている。本当に夜通し飲むつもりなのかそれはわからないが、誰かが起きているのは間違いなさそうだ。


 扉の前に立つと、中から複数の人の賑やかな声が聞こえる。呼び鈴を鳴らして少し待つと、扉がゆっくりと開いた。

「こんばんは、メリー」

 目が合い、疲れを気取られないように普段通りに微笑む。メリーは驚いたのか目を丸くしながら口を開いた。

「来てくれたんですね! 寒いですし早く入っちゃってください」

 優しい微笑みと共に招き入れられ、つんと目に沁みる。それは暖房の暖かさか、人の温もりか。

 メリーは雪を払うように、アイゼアのコートにポンポンと触れてくる。魔力を使っているのか僅かな温かさと共に、雪で湿った部分があっという間に乾いていった。
 メリーと一緒に暮らしたら、こんなふうに甲斐甲斐しく出迎えてくれることもあるのだろうと、思わず想像が膨らんでしまう。

「てっきり来られないんだって思ってました」
「いや、ついさっきまで残業しててね。やっと終わってすぐに来たんだよ」
「え、こんなに遅くまで残業ですか……お疲れ様です」

 気の毒そうに眉尻を下げるメリーの向こう側から、アイゼアを呼ぶ陽気な声がする。

「あー、アイゼアも来たのねぇー! あっははははっ!」

 何が面白いのかわからないが、フィロメナはこちらを見て笑い転げている。頬はすっかり赤く、しっかり酔っ払いとして出来上がっていた。

 酔っているのはフィロメナだけでない。顔を赤くしたミーリャは、見たことのないふにゃふにゃの笑みを浮かべながら暖炉の前の椅子でぐったりと眠っているし、スイウはお酒の入ったグラスを握ったまま、テーブルに突っ伏して微動だにしない。
 普段と変わらないのはエルヴェとペシェ、出迎えてくれたメリーだけのようだ。

「ヤベーなって思ったでしょ。フィロメナちゃん飲んでも大丈夫って言ってたのに全然大丈夫じゃないし、スイウくんは無言で水みたいに飲むようになってさっき電源落ちたとこ。ミーリャはすぐ眠くなるからいつも通りなんだけどさ」
「あぁ……なるほど」

 ペシェは肩を竦め、呆れたと言わんばかりにため息をついた。

「アイゼアさん、夕食は食べてきてますか?」
「それが……朝食を食べたきり何も口にしてなくて……」
「え、昼も夜も食べてないんですか? ミネストローネがありますけど、食べます?」
「いいのかい? 店も開いてないし困ってたとこで……本当に助かるよ」

 正直へろへろで力が入らないほど空腹を感じている。強烈な空腹は、まだ盗みも満足にできなかった頃のひもじい自分を少しだけ思い出した。

 アイゼアは皆がいるソファの方ではなく、キッチンの方のテーブルの前に座る。すぐに熱々のミネストローネが運ばれ、他にも豚肉のオーブン焼きと以前も食べたアンチョビのグラタンまでついてきた。

「余り物ですみません。残ったのはこれだけしかなくて……」
「十分すぎるよ。ありがとう」

 早速ミネストローネを口に運ぶと、スープが舌の上にじんわりと広がり、顔が綻ぶ。
 満足に物を食べれなかった頃どころか、今でも忙しさに追われてパンや携帯食で軽く済ませてしまうことも多い。こうして温かいものが食べられるというありがたさまでが体に沁みていく。

「スープのおかわりだけはまだあるので、遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとう。それにしても本当に美味しいなぁ……」
「エルヴェさん直伝ですから、間違いないですよ」

 小さな幸せに思わず涙ぐみそうになる。野菜たっぷりのミネストローネはスープにも関わらず食べ応え十分だ。空腹感と共に、疲れきっていた心がゆっくりと癒されていくようだった。


 豚肉もグラタンも食べきり、満腹になるまでスープを堪能した頃、ペシェとエルヴェがこちらのテーブルへと移ってきた。

「アイゼア様もお酒を飲まれますか?」
「飲めるなら付き合ってよ。あっちみんな酔い潰れて寝ちゃったし、メリーもエルヴェくんも飲まないって言うからさー」

 ペシェはお酒に強いのか、顔色も性格も特に大きく変わったところはない。

「そうだね、少し貰おうかな」

 エルヴェが新しいグラスを一つ手に取って氷を入れ、アイゼアの前へと差し出す。ペシェが持っていたボトルから琥珀色のお酒がとぽとぽと注がれた。

 早速一口含むと、まろやかな甘みとスッキリと鼻に抜けるような香りがした。強そうなお酒だが、ペシェは平然と飲み続けている。アイゼアも決してお酒に弱いわけではないが、きっとそれ以上に強そうだと感覚的に思った。

「ねー、メリー。ホントに飲まないのー? せっかくの宅飲みなのにさー」
「三人も酔い潰れてて飲めませんよ」
「アタシが面倒見るから大丈夫だって。一度くらいアンタと飲んでみたいのよねー」
「それは……そうですけど」
「メリーってペシェと飲みに行ったことないのかい?」
「ないない。ミュール兄さんの容態が急変したときに酔い潰れてたなんて冗談じゃない、が口癖だったからね」
「なるほど」

 その気持ちはわかる。もし自分の油断によって取り返しのつかない事態に陥ったら必ず後悔するだろう。それもメリーの場合は兄の命がかかっていたのだから尚更だ。

 ペシェは空のグラスに氷を入れてからお酒を注ぎ、メリーの前へ有無を言わさず差し出した。せめて何かで割った方が良いのではないかと不安に思うが、割れるような隙間もないほど容赦なくなみなみと注がれている。

 メリーはじっとそのグラスを見つめた後、一杯だけですからね、と不満そうに漏らしながら口をつけた。
 その様子をこっそりと眺めながら、アイゼアもお酒を飲み進めていく。メリーは断るかと思っていただけに少し意外に感じた。

 こくりとメリーの喉が動き、お酒を飲み下す。その瞬間、思いきり顔を顰めて再びグラスを凝視し、手を口元に当ててけほけほと咽せる。

「ぅ……食道が焼けるような感じがします」
「あははっ、アンタには強すぎたみたいねー。酔うの怖がるからあんまり強くないんだろうなーとは思ってたけどさ」
「口に含んだ瞬間吐き出しに行ったフィロメナさんよりはマシですよ。それと、飲めないとわかっててなみなみと注ぎましたね? これじゃジュースで割れないじゃないですか……」

 メリーは眉間をしわしわにしながらも、グラスの中身を減らすため、ちびりとまた一口飲む。本当に舐める程度にしか飲んでいないのか、中身は笑ってしまいそうなほど減っていない。

「メリー様、無理せず新しいものをジュースで割って飲んだらいかがですか?」

 エルヴェがジュースのボトルとウィスキーのボトルの両方をメリーへ差し出す。

「それがいいわね。美味しく感じないものを無理して飲む必要もないし。アタシまだ注いだばっかだから、アイゼアくん代わりに飲んだげてよ」

 確かにペシェのグラスは注がれたばかりなのか、必要以上にスレスレまでお酒で満たされている。比べて自分のグラスは半分は空いていた。元々ペシェが控えめに注いでいたこともあるが。

 ペシェはサッとメリーからグラスを取り上げ、さも当然のようにアイゼアの前に置く。視線をグラスからペシェへ移すと、軽くウインクをされた。
 完全に嵌められた。これを狙っていたからメリーに必要以上にお酒を注いだのだ。最初からペシェの企みだったのだとようやく理解した。

「うん。僕が飲むから、メリーは新しく注ぎ直すといいよ」
「すみません。じゃあ、お願いします」

 自分が飲んでいたものを相手が飲む。多少意識してくれなくてはこの一連の流れは全く意味を成さない。
 だがメリーは全く気にもしていないのか特別期待するような反応もなく、すぐに新しいグラスにお酒とジュースを注ぎ始めた。

これ、僕が無駄に意識して緊張するだけでは……?

 そう心の中で呟きながら、自分のグラスに入っているお酒を飲み干した。
 いつも通りの笑みを貼り付けながらペシェを凝視すると、ペシェはメリーを一瞥いちべつし、肩を竦めて眉尻を大げさに下げる。「残念、ダメだったわー」と言いたげな表情だった。要らぬ協力というやつである。ペシェに気持ちを明かしたのは時期尚早だっただろうかと早くも後悔が半分くらい占めていた。

 アイゼアは極力意識しないようにしながら、メリーの飲んでいたグラスに口をつける。できるだけ早く空にするためにいつもより多く口に含み飲み下す。度数の高いお酒が熱さを伴って喉を通り過ぎていき、じんと痺れるような熱にくらりとした。それをどこか心地良く感じてしまって危ない。

 普段酔っても性格が変わったりはなかったが、今日は普段通りでいられるだろうか。正常な思考を保っていられるか若干不安になってくる。

「アイゼアさん大丈夫ですか、ぼーっとしてますけど。ジュースで割りますか?」
「ありがとう。でも大丈夫だよ。少し考え事をしてただけだから」

 適当に濁しながら、グラスの中身を減らしていく。これさえ空けてしまえばきっと大丈夫なはずだ。
 メリーはジュースで割ったお酒を飲みながら、ペシェやエルヴェと楽しそうに談笑している。すでにほんのりと酔っているのか、浮かべている笑みはいつもより僅かに緩い。本当に小さな違いでしかないが。

 それをぼんやりと眺めていると、不意に外から鐘の音が聞こえてくる。三人はピタリと会話を止め、不思議そうに耳を澄ましていた。

「サントルーサでは新年になった瞬間、時計塔の鐘を鳴らすんだよ。十二回ね」

 生まれたときからサントルーサで育ったアイゼアとは違い、三人はこの街で新年を迎えるのが初めてなはずだ。

「新年おめでとうございます、ですね」

 十二回鐘が鳴るのを静かに聞き届けたあと、メリーが顔を綻ばせながら祝いの言葉を口にする。

「新年おめでとうー!」
「おめでとうございます。誰かと一緒に新たな年を迎えるなんて、何年ぶりでしょうか……!」
「おめでとう。僕も本来なら寮で新年を迎えてただろうねー。誘ってくれてありがとう、メリー」
「いえ、私もみんなと新年を迎えられて良かったです。来てくれなかったら一人でしたから」

 そう言って笑うメリーの表情は、少しだけ悲しく寂しそうなものだった。きっと今までは兄妹三人で毎年過ごしていたのだろう。今年はメリーにとって、初めて兄妹のいない年越しだ。

「さ、新たな新年を楽しくやってくためにも飲も飲もー!」
「ペシェ! 私はもうジュースで良いんですって」

 ペシェは容赦なくメリーのグラスにお酒を注ぐ。まだまだメリーとお酒を酌み交わしたいらしい。だが、注がれたグラスの中身はお酒よりもジュースの割合がかなり多いところに、彼なりの小さな気遣いを感じた。
 賑やかな夜のうたげはまだまだ続く。楽しげな笑い声を聞きながら、アイゼアはふと笑みを零した。


第25話 一人ぼっちの僕の行き着く場所  終
26/37ページ
スキ