アイゼア過去編【完結】

 ここまで読んでくださりありがとうございました。本編では主にメリーとスイウが主軸となっていたので、アイゼアの過去に関しては何かあったんだろうな……程度の描写に留まっていました。
 本編後にアイゼアとメリーの恋愛編を書くに至り、過去に何があって今のアイゼアという人間を形成しているのかは先に書いておくべきだと感じ形にさせていただきました。
 以下は少し伝わりにくかったかなと思う点も含め、アイゼアに関する補足(本編+過去編)を少しだけさせていただきます。

 ひたすら陰鬱な話で幼少期編は展開していきますが、双子二人に過去の話をしてる体なので、アイゼアが本当は二人から尊敬してもらえるような人間ではないという事実、理不尽で陰惨な現実がこの世にはあるということ、養父母との出会いのおかげで今の自身があるということ、騎士の仕事は綺麗なことばかりではない、という内容に絞って書いてあります。

 アイゼアの養父母との話はだいぶ端折って必要な部分だけ書かせてもらいました。アイゼアを真っ当な道に立ち返らせたのはどんな人たちだったのかな? というのがふんわりと伝わってくれてたらいいなと思ってます(なんてことない日々の小さな幸せの積み重ねが彼を変えたんだと思ってもらえれば幸いです)
 幸せそうに書いてますが、双子が3歳のときに養父母は亡くなっています(本編でも少し出てきた話ですが)

【アイゼアがなぜ読書が趣味なのか】
 本編では趣味という言及があったかまでは覚えがないのですが、本を読んでいるシーンはあります。
 これはクレムの影響であり、文字が読めるようになったことで生きる知恵をつけようという意思であり、文字が読めることが嬉しくて没頭した結果でもあります。
 推理小説を好むのはクレムの影響。彼が好きだったという本が何かはわからないままだけど、読み尽くせばいつかは行き着くはずという考えがアイゼアの中にはあります。

【アイゼアの早食い、大食い設定】
 こちらも本編でふんわりと触れている部分のある設定です(早い、よく食べる、といったような表現をしたと記憶しています)
 これはたとえ暮らしや価値観、考え方、それに付随して性格が変わっても抜けきらない癖として書いています。
 他者から食料を奪われる前に全て食べきる、その場にあるものを他の者よりいかに早く自分の腹に詰め込めるか。早さと一度に食べられる能力が高いほど、生存率が上がる。
 穏やかに生きてきた人から見れば、もっとゆっくり味わえば良いのにと思うかもしれませんが、食べること=生きることと直結していた者にとっては何を悠長なことをという話です。
 ただ、今は礼儀作法を守ってそれなりに味わって食べてるので昔よりは速度が落ちています。
 味覚が大雑把(美味しいもののハードルが低く、美味しいものの範囲が広い)という設定もあるのですが、食べ物を選り好みできなかった幼少期が強く影響してます。本人としては味は二の次で、食べれるものかそうでないかの方が重要なのです。

【アイゼアの改心】
 盗むことや人を出し抜くこと、暴力を返すことに良心の呵責のなかったアイゼアがなぜ一ヶ月という期間で罪悪感を抱くようになったのか。
 それには大きく理由が2つあり、1つは生きることに余裕ができたこと、もう1つは自分の世界(貧民街の常識)以外の全く違う世界の在り方を知ってしまったこと。
 1つめは簡単な話で、生きることに必死で生命維持のことしか見えてなかったけど、生きることに必死にならなくても良くなった分、他のことに思考が回せるようになったこと。
 2つめは、それまでの殺伐とした弱肉強食の貧民街の世界から、いきなり保護され大切にされるのが当たり前の世界に来てしまったこと(こちらがかなり大きいです)
 友達という存在や自己犠牲、無償の愛、善意など人生で一度も味わったことのないものを突然浴びせられ、それまで見ていた世界を覆される。
 そうなったときこれまでの自分の行動や考え方が晒され否応なしに周囲と自分を比較し、意識する。自分がいかに醜く、浅ましく、汚い生き方をしてきたのかが浮き彫りになってしまう。
 そこから罪悪感や後ろめたさのようなものが生じ、他者を殺して蹴落としてまで繋いだこの命に価値はあるのかという思考へ陥っていきます。
 殺しておきながら死を選んで楽になるなんてことはできない、だが生きて贖罪することが本当に正しいのかもわからない。そんな迷いと、命ある限りはできることをしようともがいています。その思いは本編でカーラントを殺そうとしたメリーと死にたがるカーラントへ向けた言葉に込められています。

【タイトルについて】
 「されど夜明けを待ち焦がれている」は、終わりのない贖罪の中でそれでも何か成せることがあると信じたい、という希望の光に縋っている。
 生きるべきか死ぬべきかという問いに答えを出せず、そんな先の見えない暗闇にいつか夜明けが来ると待ち焦がれながら、ランタンのように小さな希望の光を手に道を照らして歩んでいる(今も)イメージでタイトルをつけました。

 アイゼアはどこか人らしさの欠落しているメインメンバーの中で、唯一人間臭さのあるキャラクターとして描いています。
 人間が当たり前に持つ負の部分に焦点を当てつつ、それらに対して潔癖になり開き直りもできず真っ当な人でいたいと願う。自分の醜さや狡猾さを隠すために良い人風の仮面をつけて取り繕って生きている。
 何となく空虚で、自分を見失いかけている。そんな生きづらさや息苦しさを体現している存在でもあります。それがアイゼアの持つ脆さにも直結しています。

 このへんであとがきを締めさせていただきます。ここまで目を通してくださりありがとうございました。
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