アイゼア過去編【完結】

来るなっ。
人殺し。
どうして笑ってられるんだ、この化け物。
嫌っ、殺さないで。
お願い、代わりに死んでよ。
痛い……もうやめて。
死にたくない。
帰りたいよ。
お母さん……お父さ……

「……」

ねぇ、きみだけ狡いと思わない?
ねぇ、恵まれた暮らしってどう?
ねぇ、皆を殺してまで生きてる気分は?
ねぇ、罪悪感とかないの?
ねぇ……

「ねぇ、アイゼア。どうしてお前だけ生きてる?」
「……!」

 布団を跳ね除け、反射的に起き上がる。夜の静寂の中、自身の鼓動の音だけが耳を支配していた。じっとりと冷や汗をかいた背中に質のいい寝間着の布がひたりと貼りつく。

 ウィンスレット家の養子となって早一ヶ月、生活こそ改善されたものの徐々に悪夢を見るようになり、今は毎夜同じ悪夢にうなされるようになっていた。

暗く深く冷たい水底を漂うような感覚。
生温い血の色と断末魔。
今までに殺してきた者たちの怨嗟えんさの声。

 その誰とも判別のつかない声の中に、一つだけ判る声がある。そしてその声は必ず「アイゼア」と名前を呼ぶのだ。

 生きるためには仕方のないことだった、そう何度も何度も何度も繰り返し呟き、言い聞かせる。

 それでも足元に折り重なった屍が訴える。なぜお前だけが生き延びた、と。いくら謝罪の言葉を重ねようと許されない。許しを乞うべき人はもういない。
命を差し出そうと許されることのない罪と業だ。

 生活が落ち着くにつれ、殺して生き延びたからこそ死ねないという思いと、償いとして死ぬべきなのではないかという相反する思いを強く抱くようになっていた。
 むごたらしく死ねば、それがほんの僅かだったとしても罪滅ぼしになるかもしれない。終わりのない罪悪感から救われたいという思いが、まるで影のように背に張り付いて追いかけてきた。

 震えの止まらない手を伸ばし、跳ね除けた布団を掴む。ふと窓の外から月明かりが柔らかく差し込んでいるのが目にとまった。アイゼアは光に吸い寄せられる羽虫のように窓辺へ近づき、外を覗く。

「あっ」

 窓の外の光景に思わず声が漏れる。そこには、アイゼアの知っている『夜』とは全く違う光景が広がっていたからだ。

 庭や整備された街並みに点在する街灯の光がまるで蝋燭ろうそくの火のように無数に灯っている。冷たく暗く恐ろしい夜は隅へと追いやられ、信じられないほどに温かく見えた。

 棚の上に乗っているカンテラに火を灯し、そっと部屋を抜け出す。薄暗い廊下を抜け、玄関の扉をそっと開くと梔子の甘い芳香がふわりとすり抜けていく。

 月明かりに照らされた芝が柔らかく輝き、踏むたびにさわさわと心地の良い音を立てる。暗闇の中、光を受けて淡く浮かび上がる梔子くちなしの花へと近づいた。

『ほら、花びらの色がアイゼアの髪にそっくりね』

 ここへ来た最初の日にラランジャに言われた言葉が頭を過り、息が詰まり胸元を握りしめた。

「どこがだよ……全然違うってのに」

 同じ名前、似た色をしているのに、この花と自分の有り様は全くの逆だ。清らかで誰からも愛されるような花と誰にも愛してもらえず薄汚れてしまった自分ではあまりにもかけ離れている。

 梔子の花のように大切にされて生きられたらどんなに幸せだっただろうか。

 自然と下がった視界に、落ちた花が映る。アイゼアは無意識のうちにその落ちた花を拾い上げていた。
 それは雨に打たれて地に落ちたらしく、ぐずぐずに崩れて茶色に染まりかけている。僅かに残る白さが必死に自分は『梔子の花』だったのだと訴えていた。本当は美しい姿で愛でられていた、今もなお咲き誇る花たちと同じだったのだと。

 それでも落ちた花など見向きもされない。踏まれて崩れてやがて腐って消えていくだけだ。ここにいる人々が木についた白い花なら、自分は落ちて腐りかけたこの花だろう。

 優しくされればされるほど心が痛くてたまらない。その度に見たくもない自身の醜さや浅ましい面を嫌というほど正面からつきつけられた。

 汚い、もう到底拭いきれないほどに自分は汚れてしまっている。こんなふうに優しくされて、守られて、愛される価値など自分にはない。そう感じているのに手放そうとせず、むしろ利用してやろうという図々しさと狡さに、強い自己嫌悪が湧き上がった。

「──っ」

言葉にならない声が漏れかけ、強く歯を食いしばってこらえる。

「アイゼア、そこで何を──

 突然の気配に心臓が跳ねる。敷地内だからと油断していた。明るくとも今は夜でここは外だというのに。振り返りざまにカンテラを叩き割ってガラス片を握り、切っ先を声の主へと向ける。

「おいおい俺だよ。ヒューゴだよ、アイゼア」
「ヒューゴ、さん……か」

 知っている顔に肩の力が僅かに抜けたが、ガラス片を向ける手を下ろしはしない。月明かりの下、カンテラの灯りと共にぼんやりと照らされたヒューゴは困ったように笑っていた。

「眠れないのか?」
「……」
「少し話に付き合ってくれ。俺の目が冴えてしまってなー」
「……」

 ガラス片を向けるアイゼアを気にとめることもなくこちらに背を向ける。背後から襲われても勝てるという余裕なのか、こちらが襲ってこないと踏んでいるのかはわからない。庭に備え付けられた丸テーブルにカンテラを置くと白い椅子を二脚引き、水滴を雑に袖で拭って座る。

「ほら、アイゼアもここにおいで」

 ぽんぽんと片手で空いている椅子を叩いて誘われたが、近づく気になれなかった。きみは頑固だな、と小さく呟きながらヒューゴは言葉を続ける。

「ずっと聞こうと思ってたんだが、ここでの暮らしはどうだ? 何か不便なこととか嫌なことがあれば遠慮なく言って良いんだぞ?」

 ヒューゴの問いかけに、ここで暮らした一ヶ月間をゆっくりと振り返る。

 雨風のしのげる大きな屋敷。自分一人になれる部屋。清潔な服。柔らかな寝具。温かい食事が三食出てきて、お腹いっぱい食べられる。それらが保証されていながら、行動の制限はない。

 積極的に外へ出る気にはなれなかったが、マスターに捕らえられていた頃とは違い、出るなと言われたことはなかった。逃げようと思えばいつでも逃げられる環境で、その際にくすねられそうな金目のものにもある程度目星はつけてある。

 それでも逃げる気にはなれなかった。空腹に耐え、寒さに震え、暴力に怯え、奪い奪われる生活に戻りたいわけがない。まだ大丈夫、あと一日、そうやってギリギリまでこの暮らしをむさぼろうとしている。

「別に、不便なんてないよ。貧民街暮らしを思えば便利すぎるくらい。何もしなくても生きていけるんだし」

 たが、アイゼアをここに引き留めているのは恵まれた生活だけではない。
 文字や勉強を教えてほしいとせがめば、その日からラランジャが付きっきりで教えてくれていた。いつかここから逃げたとき、知識はあった方がいいという下心からだった。

 ヒューゴもラランジャも自分を息子と呼び、実の母親とは比べ物にならないほど温かな態度で接してくれる。使用人たちもアイゼアに冷たく当たるどころか、こちらが冷たい態度でも気さくに話しかけてくれていた。
 あれほど警戒していたにも関わらず、彼らの笑みや優しさを手放すのが何よりも恐ろしい事のように感じられた。

 クレムを失った時に味わった思いが苦々しく蘇る。クレムと過ごした時間が何物にも代え難かったように、彼らと過ごす時間が、頭を撫でてくれた手の温もりが、かけてくれた言葉の数々が捨てられないでいた。

 失う痛みを知っているからこそ捨てられず、いつか失うことも怖くてたまらない。

信じたい。
でも裏切られるかもしれない。
なら信じない方がいい。
でも信じていたい。

 そんな独り言のような思考を何度も胸の内で繰り返している。

「良かったと言いたいとこだけど、浮かない顔だな。悩んでることがあるならいつでも相談してほしい」

 揺らめくカンテラの灯りに照らされたヒューゴの微笑みに口を開きかけてつぐむ。
 人を殺した自分が生きていていいのか、そんなことを聞いたところで答えなんか返ってくるはずもない。
慰めの言葉など聞きたくもなかった。

 贖罪のために死にたがっていながら、奪った命を思えば簡単に死ぬわけにはいかない。死ぬべきか生きるべきか、どちらが正しいかはわからずとも、答えは出ているはずだと言い聞かせる。
 だからこそ生きていくために手を尽くしているつもりだ。

 もしすぐに貧民街に戻り、生きることに必死だったらそんなことを考える余裕もなかっただろう。悪夢にうなされることもなかったかもしれない。
 それでも死者の責め苦がなくなったわけではない。どこにいたってそれはアイゼアの背中にぴったりとついてくる。

「難しく考えなくていい。思ってることを吐き出すだけでもスッキリするもんだ」

 その思いというものを素直に吐き出すこともできない。弱みを見せたら良いように利用されるかもしれない。殺されるかもしれない。だから悟られたくない。そんな猜疑心がアイゼアの中で渦巻く。

「なら……夢を見ずに眠る方法って知ってる?」

 迷いに迷って絞り出した質問だった。

「ん、怖い夢でも見るのか? そのせいで寝付けないのか?」
「別に。ただ眠りが浅いだけ。それより何かないの?」

 図星をつかれ、咄嗟とっさに誤魔化してやり過ごす。当然そう受け取られても仕方ない言い方をしたが、深く詮索されたくなかった。
 その質問にヒューゴは首を傾げながら黙り込む。夢の内容に関して深入りされなかったことに、アイゼアは静かに胸を撫で下ろし、返事を待つ。

「眠りが浅い……俺は基本寝付きは良いから悩んだことなかったな。昼間思いっきり体を動かしたらぐっすり眠れるんじゃないか?」

 疲れたら寝るというのは典型的な話だが、あながち間違いではないかもしれない。ここに来てからはずっと勉強ばかりで体を思いきり動かすようなことはなかった。

「よーし、じゃあ俺が稽古けいこをつけてやろう! 明日はちょうど非番の日だからな」
「は? 稽古?」

 返事をした記憶もないうちになぜか稽古をつけてもらうことになっている。だが騎士から直接稽古をつけてもらう機会など早々ない。自身を守るためにも戦い方を身に着けておいて損はないだろう。

「……お願いする」
「よしよし、じゃあ今からするか!」
「はぁぁ? 今から?」
「眠れないから体を動かすんだろう? 今やらなきゃ意味がないじゃないか」
「いや、そうだけどさぁ……」

 ヒューゴは満足気に何度か頷くとアイゼアへと歩み寄る。

「ほら、それはもう手放しなさい。手を切ってるじゃないか」

 指摘されるまで気づかなかったが、拾ったときに切ったのか血が僅かに滲んでいる。差し出された大きな手のひらにガラス片を乗せた。

「傷の手当もしないといけないな。ここで待っていなさい」

 ヒューゴはそう言い残して屋敷へと戻る。しばらくして小さな箱と木製の槍を二振り持って戻ってきた。
本気で今から稽古をするつもりらしい。
 しかも槍だ。あまりにも馴染みのない武器をじっと見つめる。

「さ、手当てするから手を出してごらん」

 血の滲んだ手を差し出すと、ヒューゴは手際よく手当てを始める。

「ヒューゴさんはさ、本当に俺で良かったわけ?」
「どういう意味だ?」

 何となく聞いてみたくなった。決して育ちがいいとは言えず、手癖も悪く、礼儀作法もなってない子供をなぜ引き取ろうと思ったのかと。

「こんな読み書きもろくにできないような子供じゃ恥かくだけだし、俺は貴族共みたいにはなれない。それに人殺しとよく一緒に住めるよね。俺なら絶対嫌だな。だからもっとマシなヤツを養子にすればいいのに、ホント馬鹿だなーっていつも思ってるんだけど」
「なーんだ、そのことか」

 ヒューゴはくつくつと肩を揺らしながら控えめに笑う。いつもはもっと豪快に笑うのだが、さすがに真夜中ということもあって気を使っているらしかった。

「読み書きは覚える機会がなかっただけだし、俺は別に貴族にするために引き取ったわけじゃない。まぁ、なりたきゃなりゃいいけど、元々この家も生粋の貴族ってわけじゃないし大したことはないけどな」
「貴族なのに貴族じゃない……?」
「簡単に言えば貴族になってからの歴史が短いってことだ。俺の祖父じいさんの代からだからな、うちは」

 よくわからないが、ヒューゴの祖父が訳あって貴族として位を与えられ、そこから貴族になったということだろうか。

「きみを引き取ったのはララの思いつきだけど、俺もきみが家に来てくれたらすごく楽しそうだと思ったんだ。敵意ばかりのきみをいっぱい笑わせてやりたい、もしかしたらいつか父様って呼んでくれるようになるのかなーとかさ。考え出したら止まらなくなってな!」
「初対面の他人によくそこまで入れ込めるね……血も繋がってないのに父様とか呼ばれて嬉しいの? 気持ち悪……本気で意味わかんないんだけど」
「わからなくたっていいんだよ」

 ヒューゴの手が頭上へと伸び、反射的に身を竦める。暴力を振るわれるわけではないとようやく理解してきたが、染み付いた恐怖心はなかなか拭えなかった。

「俺はとにかく、きみが自由に学び、健やかに育つ環境を作ってやりたかった。どうしても信用できないなら、一人立ちするまでは俺たちを利用してやるってつもりでいりゃいい」
「何それ、もっと意味わかんないんだけど。怖……」

見返りもなく、何かを強要するでもなく、ただ搾取されるだけでいいとヒューゴは言う。

どうして与えただけの対価を要求しない?

 息子として引き取ったのなら、俺の望む通りの理想の息子になれと命じないのか。誰のおかげでこの暮らしができると思ってる、逆らうな、と怒鳴りはしないのか。少しは何かの役に立てと罵声を浴びせないのか。ただ俺の言うことを聞き、従えと支配しないのか。

 何も強要してこない穏やかな優しさが、アイゼアにとっては未知のもの過ぎて理解できない。いつか必ず豹変するときが来るのではないかと、心の底から恐ろしかった。

「やりたいことやって、一人立ちすれば俺はそれで十分だと思ってるってことさ。それに人殺しって話なら俺もララも同じだ。もう数えきれない程の命を、この手にかけてきた」
「……ヒューゴさんとラランジャさんが人殺し?」

 ヒューゴは騎士として複数の隊を束ねる程の人で、ラランジャもアイゼアを引き取ると共に引退したとはいえ元騎士なのだ。騎士は人殺しなどの罪人とは真逆の存在のはずだ。
 勿論全てが善人でないことなど理解しているが、周囲に慕われている二人が人殺しなどと言われても俄には信じられなかった。

「人殺しだったら今頃捕まってるんじゃないの?」
「まぁそうだな。だけどこの世には許されてしまう……むしろ称賛される殺人がある。何かわかるか?」

 そう尋ねられ、アイゼアは考える。人を殺しても許されることがあることは理解している。南区での殺人はほとんど取り締まられることはない。だが称賛されることなどあるのか。

 称賛されるということは、殺すことが正しいか殺されて喜ばれる相手ということだ。自分だったら、誰を殺してくれたら喜ぶのか。
 貧民街で暮らしていた頃、盗みで得た物を奪われる度に相手を呪い殺したい気分になった。同時に、あの裏闘技場の記憶が蘇る。もしあの日ではなくもっと早く助け出されていたら、と。

 きっと自分は助けてくれたと騎士たちに感謝したことだろう。あの場で殺されたヤツらを悲しんだり哀れんだりなんかしない。心から喜び、称賛したかもしれない。

「犯罪者とか賊とかの討伐で、人を殺したことがあるってこと?」

 確認を取るように自分の意見を述べると、ヒューゴは少しだけ目を丸くし「賢い子だな」と呟きながら、またこちらの頭を撫でた。

「でもそれ、俺とは全然違うんだけど」
「違わないさ。俺たちは人々の命を守るため、きみは自分自身の命を守るため。命のために人を殺したという事象は全く同じだ。俺だってアイゼアと同じ状況なら同じ行動をする。死にたくないからな」

 ヒューゴは突然こちらを引き寄せ、抱きしめてくる。

「いきなり何するんだよ! は、離せっ」

 このまま殺されやしないかという恐怖に駆られ、強く胸を押し返そうとするが、大人の力には抗えずびくともしなかった。
 自分では到底敵わない力をヒューゴは持っている。一ヶ月何もなかったせいで油断していたが、いつでも自分を殺せる立場にあるという事実を再認識し、体が震え始める。

「嫌、だ……離し、て……」
「すまなかったな、アイゼア」
「何……が?」
「もっと早く助けてやれていれば……こんなふうに怯えさせることもなかったろうにな」

 少し震えたヒューゴの声が耳の近くで聞こえる。考えを見透かされたのかと思うほどの言葉に、なぜそうまで他人に肩入れできるのかと困惑した。あれほど疑っていたはずなのに、いつの間にか体の震えは止まっていた。

「関係ない。死ななくて済んだのはヒューゴ……さんたちのおかげだし、十分でしょ」

 なぜ自分の方がヒューゴを慰めるようなことを言っているのか。ただ背中を摩る手の優しさと人の温もりがどうしようもなく胸に沁みて痛い。

 実の母親にすらこんなふうに優しくされたことなどない。過去の嫌な思い出が蘇ってきて、胸が痛くて苦しいはずなのに、離さないでほしいと思っている自分がいた。

「人を殺すのは……自分で選んだことだよ。生きるために当たり前のように盗みもした。ずっと手を汚してきた。人を殺すのだってきっと時間の問題だっただけ」

 あのままヒューゴたちの養子にならずに貧民街で暮らしていれば、結局いつかは人を殺す日が来たのかもしれない。もしかしたら人を殺して金を得るような人になっていたかもしれない。

 遅かれ早かれその時が来る。それがあの時だったというだけの話だ。

「そうまで言い切るのに、どうしてそんな目をする?」

 そんな目とはどんな目なのか。自分の表情を確認する術はなく、ヒューゴの瞳に映っているはずの自分の姿を覗き込もうとした。

「もう自分を責めるのはやめるんだ。アイゼアは、本当は優しい心を持ってる。きみに罪はないとは言わない。けど、真に悪いのは殺すことを強要した者だ。そう言われてもきみ自身納得がいかないなら、自分は何ができるのかを考えなさい。死んでいった者たちのためにも」
「俺に、何ができるか……? そんなの……」
「きみはまだ子供だから弱いし、何もできなくて当然だ。何かができる力はこれからここで養っていけばいい」

 力がつけば、いろんなことができるようになれば、自分がクレムや殺した者たちのためにできることが増えるのだろうか。生きるべきか死ぬべきか、その答えを見出せるだろうか。
 終わりのない罪悪感の中に差した一筋の光に救いを求めてすがる。罪に塗れ、暗く薄汚いこの道を歩くための灯りとなってくれるよう願いながら。


されど夜明けを待ち焦がれている(7)  終
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