前章─復讐の先に掴む未来は(2)
やがて情報が世界へ発信されると同時に、国際世論のスピリア連合国への風当たりは強まり、今回の件を含め、各国から激しく
スピリアは各国へ賠償金を支払うことを約束すると共に、国内の腐敗を一掃すべく、違法行為を行っていなかった族長家や御三家を中心に体制や法律の見直しがされることとなった。この件においては国際調査団が発足され、協力することになっている。
その調査団の一員としてメリーと、セントゥーロ国王からの命で特別に一時帰国を認められたカーラントはスピリア連合国へ帰国しなくてはならなくなった。
セントゥーロ王国、港町エスノ。メリーとカーラントはスピリアへと渡るため、この街を訪れていた。
「わざわざここまで見送りに来てくれてありがとうございます」
メリーはサントルーサからここまで見送りに来てくれた二人に軽く頭を下げた。アイゼアとエルヴェの少しだけ寂しそうな笑みに、帰りたくない気持ちが強まる。
「いえ、私もちょうどベジェの復興のために村へ戻る予定でしたので。それに皆様との鉄道の旅はとても楽しかったです!」
「僕も。討伐任務の間の良い息抜きになったよ」
グリモワールが消滅し、同時に溢れていた魔物は消滅したものの、魔物の活性化や奇妙な魔物の報告例も来ているとアイゼアが嘆いていたことを思い出す。
「私も二人と一緒で楽し──
乗船予定の船が出発前の汽笛を鳴らす。
「メリー、そろそろ」
「わかりました」
カーラントに促され、船へと向かう。
「メリー、セントゥーロに来たときは顔見せに来てよ。カストルとポルッカも喜ぶと思うし。僕は基本的にサントルーサを拠点にしてるから」
「また一緒にお茶会をしましょう! お菓子も焼きますので、ぜひ!」
二人がこちらへと小さく手を振ってくれている。
「はい! また、いつか。二人共、無理はしないでくださいね」
「それはメリーの方だと思うけどね」
「ふふ、メリー様もご無理はなさらずに」
メリーも手を振り返した。カーラントは二人へ静かに会釈をし、船へと乗り込んでいく。
先程までの寂しさは見えず、二人は晴れやかな表情で送り出してくれている。その笑みに背を押されるようにしてメリーも船へと乗り込んだ。
間もなく出発を報せる汽笛が鳴り、ゆっくりと出航する。二人の姿が小さくなり、街が遠ざかっていく。その姿が見えなくなってもメリーはずっとエスノの方向を見つめ続けていた。
旅を始めたときは少しずつ増えた仲間が、帰路につけば一人ずつ別れていく。こんなにも別れ難く感じるほどに大切な人たちになっていたのだと実感した。
「メリー、日が暮れてきた。体を冷やす前に船室に戻った方がいいだろう」
「もう少しだけここにいます」
「わかった。日が落ちるより前には戻りなさい」
カーラントはそれだけ言い残すと、船内へと戻っていった。日の沈んでいく水平線をぼんやりと眺める。柔らかな黄昏色の空を見上げ、ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込み吐き出した。
「スイウさん。あなたも今、同じ色の空を見てるんですか?」
返ってくることのない問いかけが、潮風に乗ってほどけていく。黄昏はやがて星の輝く濃藍色の空へ、そして朝が来る。今度はその朝の澄んだ青空にフィロメナを思うのだろう。
共に旅をした仲間たちに思いを馳せ、時に勇気を貰いながら、未来を拓いていくのだ。
今はただ、目の前の成すべきことを。メリーはそう自分を鼓舞し、風に揺れる髪飾りにそっと触れた。
第75話 遥か彼方の空の色は 終