心臓の上に呪いが咲いた

「かぁさま」

甘ったるく呼ばれた声。
私は微かに眉を寄せる。

「ねぇ、かぁさまったら」

私は応えない。
その子は尚も「かぁさま」と呼び続ける。
飽きることなく。私の頬を、唇を、首筋を、鎖骨を、撫でるように愛撫しながら嬉しそうに笑っていた。

(こんな筈ではなかった……)

私こそがこの『呪い』を断ち切れると思っていた。
私の夫は優しくて、ずいぶん前に亡くなった、いえ無理心中した父様と母様とは違う道を歩めていた。
可笑しいと気付いたのはいつからだったか?
息子が夫に対して酷く冷たく接していたのだ。
心の優しい夫は「反抗したくなる時期かな?」と朗らかに笑っていたけれど。
子供達が十六才になった晩。
夫は殺された。無残にナイフで刺され、ズタボロの状態を見た時。
紛れもなく自身の息子が行った犯行だ。
泣く暇すら与えられず、悲鳴すらもあげられず。
静かに食事を摂っていた娘だけが何処か浮いていた。
まるでこの日が分かっていたかのように。
思えば私は『双子』を生んでいたのだと気付いた。

『呪いの始まり』の双子を。


「かぁさま。今日はうんと優しく愛してあげるね」

だって今日は、妹の夫が決まった大切な日だものね。

「ようやくかぁさまを独り占め出来る。二人で完結した世界で居られる。かぁさま?どうして泣いているの?僕と二人で居られることがそんなに嬉しい?ふふ、僕も嬉しいよ」

私は肯定も否定もしない。
息子は勝手に解釈して、よしよし、と私の頭を撫でて私の『呪われた証』である銀の髪にキスを落とした。


「あいしてるよ、僕だけのかぁさま」


未来永劫、誰にも渡さない。
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