心臓の上に呪いが咲いた

「お前は、いつになったら俺を見てくれる」

その言葉に、私は返す術がない。
私の喉は潰されてしまったから。

『他の奴等に声を聞かせるな。それが例え子供であろうともだ』

そう言って、私の声帯を押し潰した夫。
私は痛みよりもまず「ああ、来てしまったか」とだけ思った。

そして再び、今日の言葉で思う。
この日が来てしまったのか、と。

私の母様も、父様の手によって死んだ。
その亡骸は後を追った父様の分と二人纏めて、憎々しげに、いっそ楽しそうな顔をした『あの方』が燃やして灰にしてしまったけれども。

私にもその時がやってきたのだ。
愛しい子供達に会えなくて寂しかった。
執務以外で外にもロクに出られなかったことが悲しかった。


ああ、でも。


「俺は、お前を愛してるんだ」


――きっと、今日で私の生は終わるから。


ゆらりと近付いてくる夫は怖くなかった。
その長い綺麗な十本の指が私の首を絡めとり、ゆっくりと締め上げていく。
その間、夫は狂ったように「愛してる」と繰り返していた。

可哀想な人。
私なんかを愛したが故に、出逢ってしまったが故に、普通に愛するということが出来なくなってしまった。
本当に、憐れな人。

そんな憐れな夫に情が移ったのはいつだったか?

私はいつか殺されると知りながら、傍に居続けた。
ここしか居場所がなかったせいもあるけれど。
私はただ、この憐れな夫の傍に居たいと願った自分の心に従ったまで。


右手の小指に繋がれた運命の黒い糸はピンと張り、今にも千切れそうだ。


(あいしてたのね、きっと)


想いの度合いは違えど、私は夫を――


ボキリ


運命の黒い糸は千切れてしまった。
もう会うことはないでしょうけれど。
それでも、次はどうか私を見付けることなく幸せに。
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