SS 161~

其れはきっと、神罰だったのでしょう。
わたくしにはもう其れをどうにかできる術はなかったのだから、仕方がないのかも知れないけれども。
それでも、どうか。どうか。

(この胎の子だけでも生みたかった)

人間と畜生上がりの神の子がどうなるかなど、考えなかったわけではなかった。
大きな災いを呼ぶだろうと分かっていた。
なのにわたくしは、神でありながら己の欲望を叶えようとしてしまったのだ。
この子を孕んだその時から。
この子をあの人間に――夫の腕に抱いて欲しいと。

(それも、叶いませんでしたが)

村長たる人間がわたくしを恐れていたのは分かっていた。
わたくしを疎ましく思っていたのは理解していた。
けれども、どうかこの子まではと願わないでもなかったのだけれども。
村に飢饉が襲ったのだ。
嗚呼、神罰だと思った。
これはわたくしがお仕えする神から、わたくしへ向けた神罰だと。
だから甘んじて贄になることを受け入れたのだ。


――なのに、


「蛇、へび。もうだいじょうぶだよ」

怖い思いをしたね、大丈夫。大丈夫だからね。

言い聞かせるかのような声は、あまりに震えていて。
わたくしを心配してくれているのがよく分かった。
だけれども、その身体が真っ赤に染まってしまっている夫の姿に目を見開くしかできなかったのだ。
どうして、どうしてあなたがこんな目に合わなくてはいけなかったのです。

「わたくしひとり死ねば、すべて済んだのですよ……?」

「蛇が居ないのなら、この生に意味なんてないんだよ」

嗚呼、ああ。
わたくしはあなたをそこまで狂わせてしまったのですね。
やはり畜生上がりというわけか。
人を惑わせ、人を苦しめ。
それでもわたくしはあなたの傍を離れられないのだから仕方のないものです。

(この腕は二度とあなたを抱きしめ返せないというのに)

心とは、なんとも浅ましいものなのですね。
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