SS 141~160
世界が終わるような錯覚を受けた。
綺麗な星々が流れる川の如く煌めく空を丘の上から見上げてそう言えば、隣に座っていた彼はにこやかに頷いた。
「世界が本当に終わるなら良かったのにね」
その言葉はきっと本心ではない。けれど嘘でもなかったのだろう。明日わたし達は離れ離れになる。
二度と会うことは出来ない。そう定められた。
それこそ今わたし達が見ている『星』によって。この国の人間の人生は星によって決まる。
その定めがわたし達が離れ離れになるという運命だった。だから受け入れていた。
わたしはいつかこの愛しい男と離れることになるのが分かっていたから。
「どうして僕達は……」
「……それ以上は言わない約束よ?」
私の可愛い、可愛い片割れ。
わたし達は双子で、愛し合った男女だった。
けれども『星』は許してくれることはなかった。
だから離れ離れになるのだ。
明日、この国の王となる男と、その男を誑かした魔女として相対し、わたしは火刑に処される。なんとまあ、笑っちゃえるような人生だった。
「姉さん」
「なぁに?」
「逃げよう」
「嫌よ」
「なんで……」
「だって、負けたみたいじゃない」
「何に、」
「『星の定め』とかいう、馬鹿げた運命によ」
「……僕は、そんな運命捻じ曲げてでも姉さんを生かしたかった」
「ふふ、お馬鹿さん」
「そうかも知れないね」
「ね、わたしは明日丸焦げになっちゃうけども、」
そうね、そうよ。少しだけ我が儘くらい言わせて欲しいものね。
「わたしのこと、少しだけでも覚えていて。あなたがこれから生きていく記憶の中の欠片でいい。わたしを覚えていて」
「……姉さんは、苦しいことを言うなァ」
愛しい片割れはぎゅっと眉間に皺を寄せて、そうしてぼそりと呟いた。
「僕は永遠に姉さんを忘れないよ。いや、僕が姉さんを忘れることの方が可笑しいことだ」
愛しい片割れの長い睫毛が伏せられる。お人形さんのような顔だと良く言われていたっけ?
「姉さん」
「なぁに?」
「愛してる」
「そう、わたしもあなたを愛しているわ」
「愛して、いるのになァ……」
あーあ、と言いながら丘に腕を枕に寝そべった。
「儘ならないなァ……」
「そうねぇ、そういうのが人生なんでしょうね」
「……星なんてみんな堕ちてしまえばいいのに」
ぼそりと片割れが呟いた声は風に靡いて掻き消えた。
きっと『星』には聞こえない。わたしにしか聞こえない。だから大丈夫。――大丈夫。
「大好きよ、わたしの片割れ」
「結局最期まで、姉さんは僕の名前を呼んではくれなかったね」
星が消え、月が沈み、太陽が顔を表す。わたしの処刑の時間が来た。
『星』はきっと視ている。
この世界をずっと。
わたしの終わりを、彼のはじまりを。
『星』は視ている。
綺麗な星々が流れる川の如く煌めく空を丘の上から見上げてそう言えば、隣に座っていた彼はにこやかに頷いた。
「世界が本当に終わるなら良かったのにね」
その言葉はきっと本心ではない。けれど嘘でもなかったのだろう。明日わたし達は離れ離れになる。
二度と会うことは出来ない。そう定められた。
それこそ今わたし達が見ている『星』によって。この国の人間の人生は星によって決まる。
その定めがわたし達が離れ離れになるという運命だった。だから受け入れていた。
わたしはいつかこの愛しい男と離れることになるのが分かっていたから。
「どうして僕達は……」
「……それ以上は言わない約束よ?」
私の可愛い、可愛い片割れ。
わたし達は双子で、愛し合った男女だった。
けれども『星』は許してくれることはなかった。
だから離れ離れになるのだ。
明日、この国の王となる男と、その男を誑かした魔女として相対し、わたしは火刑に処される。なんとまあ、笑っちゃえるような人生だった。
「姉さん」
「なぁに?」
「逃げよう」
「嫌よ」
「なんで……」
「だって、負けたみたいじゃない」
「何に、」
「『星の定め』とかいう、馬鹿げた運命によ」
「……僕は、そんな運命捻じ曲げてでも姉さんを生かしたかった」
「ふふ、お馬鹿さん」
「そうかも知れないね」
「ね、わたしは明日丸焦げになっちゃうけども、」
そうね、そうよ。少しだけ我が儘くらい言わせて欲しいものね。
「わたしのこと、少しだけでも覚えていて。あなたがこれから生きていく記憶の中の欠片でいい。わたしを覚えていて」
「……姉さんは、苦しいことを言うなァ」
愛しい片割れはぎゅっと眉間に皺を寄せて、そうしてぼそりと呟いた。
「僕は永遠に姉さんを忘れないよ。いや、僕が姉さんを忘れることの方が可笑しいことだ」
愛しい片割れの長い睫毛が伏せられる。お人形さんのような顔だと良く言われていたっけ?
「姉さん」
「なぁに?」
「愛してる」
「そう、わたしもあなたを愛しているわ」
「愛して、いるのになァ……」
あーあ、と言いながら丘に腕を枕に寝そべった。
「儘ならないなァ……」
「そうねぇ、そういうのが人生なんでしょうね」
「……星なんてみんな堕ちてしまえばいいのに」
ぼそりと片割れが呟いた声は風に靡いて掻き消えた。
きっと『星』には聞こえない。わたしにしか聞こえない。だから大丈夫。――大丈夫。
「大好きよ、わたしの片割れ」
「結局最期まで、姉さんは僕の名前を呼んではくれなかったね」
星が消え、月が沈み、太陽が顔を表す。わたしの処刑の時間が来た。
『星』はきっと視ている。
この世界をずっと。
わたしの終わりを、彼のはじまりを。
『星』は視ている。