SS 121~140
「……何故、手を握るんだい?」
「……悲しいからだ」
「かなしい?私が死ぬことがかい?それでなんで手を握るんだい」
「ただの気紛れだ」
「ふふ。アレだけ『クソババアはさっさと死ね!』と囀っていた小僧がねぇ?」
「うるせぇ」
悲しいもんは、悲しいんだ。
青年は私の枕元で私の手を握りながら言う。
ある日、家の前に置いて行かれた憐れな赤子。
それを気紛れで育てた、要は我が子のような存在だ。
育て方を間違えたのか、それとも『人間』とはそういうものなのか。
最近はひねくれて仕方がなかったけれども。
(なんだ……)
「私はお前に嫌われていなかったようだね」
「嫌いだよ。誰が、魔女なんて好きになるものか」
「……ああ、そうだなぁ」
お前も人の営みを知り、私が魔女だと知ってよそよそしくなったのか。
なるほど。なるほど。
「誰が、」
「何か、言ったかい?」
うとうととする。
眠たくて仕方がない。
私はゆっくりと落ちていく瞼に抗いながら、それでも抗いきれなくて。
完全に瞼を閉じた時。
ポツリと雫が頬に落ちた。
「あまもり、かい?」
「……ああ、そうだよ」
「そうかい。そりゃあ、……あとで、直さないと、ね……」
**
「何が『直さないと』だ」
クソっと悪態を吐く。
どうしてこんな事になってしまったのか。
俺の育ての親である『魔女』は今まさに居なくなった。
天に昇った。
いや、魔女だから地獄かも知れない。
何処でも良い。どんな所にも行かないで欲しかった。
「俺より先に、死ぬんじゃねぇよ。クソババア」
幸せそうな顔しやがって、とその少しずつ冷たくなっていく額にデコピンした。
「言っとくがな。俺は一度だって『母親』だなんて思ったことはねぇぞ」
俺にとってこの育ての親は、魔女は、親である前にずっと身近な『女』だった。
鈍い魔女は最期まで気付くことはなかったけれども。
ぼろぼろと零れ落ちる涙が留まることは知らない。
「泣き虫だって、笑えよ、クソババア」
名前を呼ぶ勇気すらなかった俺を、嘲笑ってくれれば幾分かマシだったのに。
鼻を啜って、涙を拭って。
そうして身を乗り出して魔女の顔に顔を近付けると、初めて口付けをした。
しょっぱくて。冷たくて。
甘さの欠片なんてひとつもなかったけれども。
魔女の手を握って、歪に引き攣る顔で微笑んだ。
俺は今日。
最愛の母親と、初恋の女性を亡くした。
「……悲しいからだ」
「かなしい?私が死ぬことがかい?それでなんで手を握るんだい」
「ただの気紛れだ」
「ふふ。アレだけ『クソババアはさっさと死ね!』と囀っていた小僧がねぇ?」
「うるせぇ」
悲しいもんは、悲しいんだ。
青年は私の枕元で私の手を握りながら言う。
ある日、家の前に置いて行かれた憐れな赤子。
それを気紛れで育てた、要は我が子のような存在だ。
育て方を間違えたのか、それとも『人間』とはそういうものなのか。
最近はひねくれて仕方がなかったけれども。
(なんだ……)
「私はお前に嫌われていなかったようだね」
「嫌いだよ。誰が、魔女なんて好きになるものか」
「……ああ、そうだなぁ」
お前も人の営みを知り、私が魔女だと知ってよそよそしくなったのか。
なるほど。なるほど。
「誰が、」
「何か、言ったかい?」
うとうととする。
眠たくて仕方がない。
私はゆっくりと落ちていく瞼に抗いながら、それでも抗いきれなくて。
完全に瞼を閉じた時。
ポツリと雫が頬に落ちた。
「あまもり、かい?」
「……ああ、そうだよ」
「そうかい。そりゃあ、……あとで、直さないと、ね……」
**
「何が『直さないと』だ」
クソっと悪態を吐く。
どうしてこんな事になってしまったのか。
俺の育ての親である『魔女』は今まさに居なくなった。
天に昇った。
いや、魔女だから地獄かも知れない。
何処でも良い。どんな所にも行かないで欲しかった。
「俺より先に、死ぬんじゃねぇよ。クソババア」
幸せそうな顔しやがって、とその少しずつ冷たくなっていく額にデコピンした。
「言っとくがな。俺は一度だって『母親』だなんて思ったことはねぇぞ」
俺にとってこの育ての親は、魔女は、親である前にずっと身近な『女』だった。
鈍い魔女は最期まで気付くことはなかったけれども。
ぼろぼろと零れ落ちる涙が留まることは知らない。
「泣き虫だって、笑えよ、クソババア」
名前を呼ぶ勇気すらなかった俺を、嘲笑ってくれれば幾分かマシだったのに。
鼻を啜って、涙を拭って。
そうして身を乗り出して魔女の顔に顔を近付けると、初めて口付けをした。
しょっぱくて。冷たくて。
甘さの欠片なんてひとつもなかったけれども。
魔女の手を握って、歪に引き攣る顔で微笑んだ。
俺は今日。
最愛の母親と、初恋の女性を亡くした。