SS 121~140

気紛れな猫みたいだ。
そう呟けば、君はきょとりとその大きな目をこちらに向けた。

「私が猫?」

「気紛れなね」

「ふぅん。アナタには私ってそう見えてるんだー」

どうでも良さそうにそう言った後に、頭を撫でろとばかりに床に座っていた君はソファに座っていた僕の手に擦り寄ってくる。
僕は苦笑しながら、その頭を撫でた。

「こういうところ、猫みたいだ」

「そんな私はお嫌いかな?」

「ううん。大好きだよ」

チリンと鈴の音がした。
君の首につけた首輪は僕が頭を撫でる度にチリン、チリンと揺れて鳴る。

「今日はハンバーグが食べたいなー」

「良いよ、何でも作ってあげる」

「ふふ。私のことを捕まえておきたいなら、胃袋を捕まえるのが手っ取り早いわよ」

「また適当なこと言ってるでしょ」

「バレたかー」

ふふ、とまた笑った君はよいしょと立ち上がる。

「何処に行くの?」

「お花を詰みに」

「いってらっしゃい」

君は足首についている重そうな鎖を慣れたものだと言うように引き摺りながら、トイレへと向かった。
僕の視界から君が消えた。
そのことを脳内が処理した瞬間、ひゅっ、と息が詰まるような感覚を覚えた。

「大丈夫、大丈夫、大丈夫」

言い聞かせるように呟いて、胸を抑える。

「何なに。まぁた、不安かね」

「も、どってきた」

「そりゃ戻るとも」

ジャラジャラ、チリンチリン。
僕のつけた重しが僕の耳に届き、君の声が鼓膜を揺らせば、僕はようやく息が自然に出来るようになった。

「お風呂は良いとして、トイレまではさすがに私も嫌だなぁ」

「分かってる。分かってるよ」

「今だってちゃんと戻ってきたでしょ?」

「うん……」

「私は気紛れな猫じゃないよ。どちらかと言うと忠実な犬だね」

「ねぇ、どうして傍に居てくれるの?」

「うん?」

「こんな、こんな愛し方しか出来ない僕の傍に」

どうして君は居てくれるの。
疑問は声になる前に君の白い指が塞いだ。

「私がアナタを愛してるからだよ」

ニヤリと笑った君に、叶わないなぁ、と眉を下げた。




「ところてハンバーグはまだかね」

「ああ、すぐに作るよ」

「楽しみに待ってる」

「うん。待ってて」


世間は僕達を歪だと罵るだろう。
けれどそれが何だ。
僕達は確かに愛し合っている。
それで充分じゃないか。


「うん、アナタの作るハンバーグは絶品だね」

「ありがとう。明日は何が食べたい?」

「んー。……オムライス!」

「分かった。卵が無いから、注文しなくちゃね」
18/20ページ