イベント
「せんぱーい!若葉の愛妻弁当ですよー」
「……常々思うが、お前はいつまで新婚気分なんだ?」
「え?いつまでって……、そんなの先輩が先輩である限りですよー」
「分かった。お前のゴーイングマイウェイさは何も変わらないことが分かった」
三十年も夫婦でいるというのに、こいつは何も変わらない。
姿形ももちろん変わらないのだが、そういうわけでもなく。
核の部分が変わらないとでもいうのだろうか?
それはなんとも不思議な気分だ。
とはいえこいつの為に人間をやめた俺が言うのもなんだろうけれども。
「――若葉」
「なんですか?」
「お前、俺に何か隠してるだろ?」
「な、なんのことです?」
「お前が俺のこと名前じゃなくて『先輩』って呼ぶときはなんかあるんだよ!」
「っく、そんなところに昔の癖が出ていたとは……」
「話せ。何があった」
俺は一応こいつの夫だ。話を聞く義務がある。
いや、そんなものなくてもこいつの話は聞いてやりたいと思うけれども。
「若葉」
「……そんな優しい声、滅多に出さないくせに」
ずるいです。と一言だけ呟いて、若葉は静かに言った。
「大和様に視て頂いたので確かなことなのですが」
そこまで言って、若葉は出し渋るように口をもごつかせる。
「なんだ?大和様に視てもらう程のことがあったんだろ。それは、俺達の叶えたい願いのひとつなのか?」
「……まあ、私は叶えたい願いのひとつなんですが」
「どういうことだ?」
「……です」
「あ?なんだ?もっと声を張れ!」
「鬼ですか!?」
「マネージャー時代はお前の方が鬼だったろーが」
昔懐かしい話を思い出して、くっと笑えば若葉も緊張が解けたのかするりとその言葉を口に出した。
「いやぁ、実は赤ちゃん出来まして」
「……は?」
「あ、涼也さんびっくりしました?私もびっくりしたんですよー。だって結婚三十年目で赤ちゃんが出来るとは……。もっと早くても良いんじゃないかなって!」
「いやいやいや?大丈夫なのか、お前」
「何がですか?」
キョトンとした顔をする若葉に俺は言う。
「お前これから厄払いの仕事だろ。腹の中の子供に何かあったらどうするんだ!?」
「私の心配はしてくれないんですか!?」
「お前も込みで心配してんだよ!」
「え、嬉しい」
「素直で宜しい……じゃなくて」
「涼也さん。めっちゃくちゃすっ飛ばしてますけど、生んでもいいんですか?まあ、拒否されても生みますけど」
「誰が拒否るか。そういうこともしてるんだから当然出来るもんは出来る」
「涼也さん男前ですねぇ。益々惚れちゃいます」
「……お前な」
若葉は幸せそうな顔をスッと変化させ、そうして真剣な顔で言う。
「この子が無事に生まれてくるまで、そのあとも、ずっと見守ってあげてください」
この子は私達の子ゆえ、普通の人生は生きられません。
だからこそ、普通に育ててあげたいんです。
「若葉……」
「涼也さん。一緒に見守って生きていきましょう」
「当たり前だ」
生きていてこんなに幸せなことがあるのか、と思った。
こんなにも幸せなことがあっても良いのか、とさえ思った。
けれども時間は紡がれ続ける。
普通ではない俺達夫婦の、きっと普通には生きられない子供。
若葉も、まだ見ぬその子も、俺は幸せにしてやりたいと思った。
幸せにするんだ、とも思った。
「涼也さん。今更ですけど、認知してくれてありがとうございます」
「当たり前だ、ばーか」
若葉を優しく小突いた。
視界に紅い葉を付けた紅葉が見えた。
そんな秋の中頃の話。
「……常々思うが、お前はいつまで新婚気分なんだ?」
「え?いつまでって……、そんなの先輩が先輩である限りですよー」
「分かった。お前のゴーイングマイウェイさは何も変わらないことが分かった」
三十年も夫婦でいるというのに、こいつは何も変わらない。
姿形ももちろん変わらないのだが、そういうわけでもなく。
核の部分が変わらないとでもいうのだろうか?
それはなんとも不思議な気分だ。
とはいえこいつの為に人間をやめた俺が言うのもなんだろうけれども。
「――若葉」
「なんですか?」
「お前、俺に何か隠してるだろ?」
「な、なんのことです?」
「お前が俺のこと名前じゃなくて『先輩』って呼ぶときはなんかあるんだよ!」
「っく、そんなところに昔の癖が出ていたとは……」
「話せ。何があった」
俺は一応こいつの夫だ。話を聞く義務がある。
いや、そんなものなくてもこいつの話は聞いてやりたいと思うけれども。
「若葉」
「……そんな優しい声、滅多に出さないくせに」
ずるいです。と一言だけ呟いて、若葉は静かに言った。
「大和様に視て頂いたので確かなことなのですが」
そこまで言って、若葉は出し渋るように口をもごつかせる。
「なんだ?大和様に視てもらう程のことがあったんだろ。それは、俺達の叶えたい願いのひとつなのか?」
「……まあ、私は叶えたい願いのひとつなんですが」
「どういうことだ?」
「……です」
「あ?なんだ?もっと声を張れ!」
「鬼ですか!?」
「マネージャー時代はお前の方が鬼だったろーが」
昔懐かしい話を思い出して、くっと笑えば若葉も緊張が解けたのかするりとその言葉を口に出した。
「いやぁ、実は赤ちゃん出来まして」
「……は?」
「あ、涼也さんびっくりしました?私もびっくりしたんですよー。だって結婚三十年目で赤ちゃんが出来るとは……。もっと早くても良いんじゃないかなって!」
「いやいやいや?大丈夫なのか、お前」
「何がですか?」
キョトンとした顔をする若葉に俺は言う。
「お前これから厄払いの仕事だろ。腹の中の子供に何かあったらどうするんだ!?」
「私の心配はしてくれないんですか!?」
「お前も込みで心配してんだよ!」
「え、嬉しい」
「素直で宜しい……じゃなくて」
「涼也さん。めっちゃくちゃすっ飛ばしてますけど、生んでもいいんですか?まあ、拒否されても生みますけど」
「誰が拒否るか。そういうこともしてるんだから当然出来るもんは出来る」
「涼也さん男前ですねぇ。益々惚れちゃいます」
「……お前な」
若葉は幸せそうな顔をスッと変化させ、そうして真剣な顔で言う。
「この子が無事に生まれてくるまで、そのあとも、ずっと見守ってあげてください」
この子は私達の子ゆえ、普通の人生は生きられません。
だからこそ、普通に育ててあげたいんです。
「若葉……」
「涼也さん。一緒に見守って生きていきましょう」
「当たり前だ」
生きていてこんなに幸せなことがあるのか、と思った。
こんなにも幸せなことがあっても良いのか、とさえ思った。
けれども時間は紡がれ続ける。
普通ではない俺達夫婦の、きっと普通には生きられない子供。
若葉も、まだ見ぬその子も、俺は幸せにしてやりたいと思った。
幸せにするんだ、とも思った。
「涼也さん。今更ですけど、認知してくれてありがとうございます」
「当たり前だ、ばーか」
若葉を優しく小突いた。
視界に紅い葉を付けた紅葉が見えた。
そんな秋の中頃の話。